「お客様の生の声がより良い結婚式をつくる」徹底した顧客視点で価値を生み出すディライトのCX【Wedding-UP DX ~デジタルの可能性を探る~ #007】

「お客様の生の声がより良い結婚式をつくる」徹底した顧客視点で価値を生み出すディライトのCX【Wedding-UP DX ~デジタルの可能性を探る~ #007】

昨今、日常的にも耳にする機会が増えている「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉。経済産業省によると「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義されています。

新型コロナがきっかけで社会全体のDXが急速に進む中、ウエディング業界も変革を迫られています。結婚式を取り巻く環境やニーズの変化に応えるためには、DXが必要不可欠だと言われるようになったのです。

しかし、結婚式という「リアルであること」を前提とするサービスを提供してきたウエディング業界はデジタル化が進みにくく、現状、DXが推進されているとは言い難い状況です。

そこで結婚あした研究所では、業界のDXを推進すべく、早くからDXに注力している企業を取材し、なぜDXが必要なのか、注力するに至った背景を発信する企画「Wedding-UP DX ~デジタルの可能性を探る~」をスタートしました。

第7回目となる今回は、奈良県奈良市を拠点に、全国でブライダル事業を中心として、飲食業、ホテル、フォトスタジオなどの運営を全国で展開する、ディライト株式会社の事業開発本部 クオリティーコントロール室 部長 古川奈央様、ブライダル事業部 副部長 提坂紅緒様に、同社が力を入れて取り組んでいるCX(カスタマーエクスペリエンス)をテーマに、お話をうかがいました。


■プロフィール
ディライト株式会社
1953年(昭和28年)創業以来、ホテル・結婚式場・飲食店舗・フォトスタジオの運営を手がける。「喜び上手、喜ばせ上手」を企業アイデンティティとし、地域コミュニティを通した革新的なライフスタイルの提供に挑戦し続けている。コーポレートサイト


お客様からのマイナス意見こそ積極的に取るべき。アンケートを元にCXに取り組む

――御社が大事にしている思いやミッションをお聞かせください。

提坂:社員ひとりひとりが、企業理念である「喜び上手、喜ばせ上手」をとても大切にしています。人の幸せに向き合える場所を提供できる人でありたい、という思いを込めて、当社では社員のことを「バリューイノベーター」と位置付けています。お客様を喜ばせることが何よりも重要で、そのためにどんなプロセスを踏むかに決まりはなく、社員それぞれに委ねられています。

今後の社会情勢を考えたときに、「結婚式」というものに対して、多種多様な価値観を持つ方が増えていくと考えています。たとえば、しっかりと予算をかけて規模の大きい結婚式をしたい方もいれば、あまりお金をかけられないけれど、なるべく希望に合う式を模索したい、という方もいらっしゃいます。

私たちはお客様1組1組に対してしっかりとコンセプトメイクをしていく「コンセプトプロデューサー」として、“結婚式をする理由を深く引き出し、お客様の価値観と各店舗のブランド特性とを掛け合わせたコンセプトをご提案し、一人ひとりの理想を叶える結婚式を作っていきたいと考えています。

dlight_3.jpg「コンセプトプロデューサー」として1組1組のカップルの結婚式に向き合う(提供:ディライト株式会社)

――御社がCXに取り組むようになった理由を教えてください。

古川:ウエディングプランナーが本来やるべき仕事は、お客様としっかり向き合い、お客様が理想とする結婚式を作り上げることです。当社のプランナーたちも、この思いをもって向き合ってきました。

しかし、店舗数が増え始めた5〜6年前ごろから、「きちんとお客様に向き合い、結婚式をつくれているのだろうか?」と疑問を感じるようになっていったのです。プランナーが本来やるべき仕事ができず、単なる打ち合わせの調整役のようになってしまったり、結婚式の内容がどれも似通ったものになってしまったりしているのではないか、と。

もともと当社では、お客様に満足いただける結婚式を目指すため、10年以上前から結婚式をするおふたりや参列する皆様にアンケートを実施していたのです。いま一度お客様のためになることとは何かを考えたいと思い、アンケートを活用したCXに力を入れることにしたのです。

――アンケートを活用したCXとは具体的にどのようなことをされているのでしょうか。

古川:アンケートは回収して終わりではなく、具体的な業務の改善につなげています。たとえば、「打ち合わせの内容がわかりにくかった」という意見があれば、打ち合わせの内容を見直しますし、「衣装の点数が十分ではなかった」という意見があれば、衣装の数を増やしていただけるようパートナー企業さんにお願いをしています。

始めた当時は、社内でも賛否両論ありました。「おめでたい席でアンケートをお願いするのは失礼なのでは」、「アンケート結果を見てプランナーのモチベーションが下がるんじゃないか」といった反対意見もあったんです。しかし、声を積極的に拾いにいき、それを元にもっと喜んでいただける結婚式をつくるんだ、という思いがあったので、アンケートを取ることを決めました。特に直接不満を伝えてくださるお客様は少ないので、マイナス意見こそ積極的に取りに行くべきだと思っています。

――CXに取り組むことでどういったメリットを感じていますか。

古川:一番のメリットは、自分たちのやっていることを感覚ではなく数値として判断でき、お客様に喜んでいただけるサービスを提供できる点です。社員やパートナー企業の皆様のスキルアップにもつながります。

また、提供しているサービスが、私たちが大切にしているコアバリューからそれていないかどうかの確認にもなっています。アンケートを元に、サービス・商品の見直しや改善を進めていくことで、満足度が上がっているのを実感しています。

さらに、それはプランナーのモチベーションアップにもつながっています。アンケート結果は半期ごとに集計し、点数化してプランナー個人にフィードバックしたり、部門ごとに表彰をしたり、人事評価に組み入れたりもしています。「次の半期は何点を目指します!」と、より自身のスキルアップを見据えて頑張ろうとする姿勢につながっています。

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ディライト社のコアバリュー(提供:ディライト株式会社)

「より良い結婚式をつくるために」
お客様の声を徹底的に集めていくことを目指し、「survox」を導入

――御社がCXを取り組む中で「survox」を導入されましたが、その理由を教えてください。

古川:ふたつあり、ひとつは集計作業を効率化したかったから。そしてもうひとつは、これまでよりもリアルタイムに、もっと細かい粒度でカップルの声(満足度)を把握したいと思ったのが理由です。

自社でアンケートを取得していた時は、結婚式後のアンケートだったため、1回の打ち合わせごとに「今回の打ち合わせがどうだったのか」というところまで、細かく取ることができていませんでした。でも、プランナーもパートナー企業様も「今回の提案内容や用意した資料はどうだったか」、「説明はわかりやすかったのか」など、もっと詳細を知りたいんです。そこを知ることで、「このままでいい」という思い込みがなくなり、より良いサービス提供に向けた努力がしやすくなるのではないかと思っていました。ただ、従来のアンケートは紙で取っていたため、何百、何千ものアンケートの集計作業はすごく大変で……。そのため、打ち合わせごとに細かくアンケートを実施するのが難しかったのです。

それでも、より良い結婚式をつくるために、お客様の声を徹底的に集めていきたい。この思いから、打ち合わせごとにアンケートが取れ、自動で集計ができるsurvoxの導入を決めました。

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ウエディング業界に特化したカップル向け満足度サーベイツール「survox

――具体的にはどのようにsurvoxを活用されていますか。

提坂:私たち「コンセプトプロデューサー」は、お客様1組ずつにコンセプトを作成しているのですが、そのタイミングでsurvoxのアンケートに回答いただくようにしています。

自身が作成したコンセプトに対して、生の声でフィードバックをいただくことは今までありませんでした。お客様の意見の中により良い結婚式をつくるヒントがあると考え、お客様からアンケートにご回答いただくことにやりがいを感じているスタッフも多いですね。

毎回アンケートを見て、考えさせられることはすごく多いんです。事業を今後拡大していく上でも、お客様の生の声に向き合い続けるのは大切なことだと思います。

古川:survoxは、2022年10月に全店舗同時に導入しました。もともとアンケートを実施していたこともあって、導入に際して社内で反対の声はありませんでした。ただ、新しい取り組みなのでまだ習慣になっておらず、ご案内を忘れてしまうケースもあります。これからしっかりと全社に浸透を促し、もっとsurvoxを活用していきたいと考えています。

――今後、survoxをどのように活かしていきたいと考えていますか。

古川:survoxで集まったお客様の声を、商品企画につなげていけたらと考えています。また従来のアンケートと同様に、プランナーの評価にもつなげていきたいです。より詳細なアンケートを取得できることで、プランナーのお客様への向き合い方や、会社としての教育の仕方もよりいい方向に変えていけるのではないかと期待しています。

――CXを進める上で、デジタルツールを使用することのメリットを教えてください。

提坂:プランナーがお客様に向き合う時間をより多く取れるようになるのが最大のメリットです。「私たちが介在する意味」を考え、オペレーションを改善してきた結果、お客様とより深く向き合うことができるようになった実感があります。

お客様との向き合い方を改めて考えなければと思ったきっかけは、新型コロナウイルスの流行です。コロナ禍に結婚式にマイナスのイメージを抱く方が増えたことは、私にとって衝撃でした。ここ数年の結婚式離れの大きな要因はコロナ禍でしたが、一方で「業界として、何十年も結婚式のあり方を変えてこなかったことにも問題はあるのでは」と、新たな視点を得ることもできました。デジタルをうまく活用しながら、今の時代の価値観に合った結婚式をご提案していきたいです。

ただ、いくら効率化につながるといっても、お客様の満足度が下がる可能性がある部分については、デジタル化はしません。今後の社会において「人」はすごく価値のあるものになっていくと思うんです。とくにサービス産業においては、人的資本をどれだけ活かせるかが、大きな鍵になっていくと思います。メンバーの強みや個性を最大限活かし、お客様に価値を提供する。そこが一番重要なポイントです。
お客様に使う時間の長さは変わらなくても、作業ではなく、向き合ったり考えたり、つくり上げたりする時間に使うことが大事だと感じます。

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The Hilltop Terrace Nara チャペル(提供:ディライト株式会社)

CXに取り組まなければ結婚式はなくなる。事業成長の鍵は顧客満足度の向上

ーーウエディング業界において、CXに注力することにはどういった意味があると思いますか。

古川:CXに取り組まなかったら、この先結婚式はなくなってしまうのではないかと考えています。結婚式をする人がどんどん少なくなっている理由のひとつは、結婚式に価値を感じる方が少なくなったからだと思うんです。何百万もかけて結婚式をやるよりも、その分をハネムーンにかけたい、と考える方もいらっしゃいますしね。

価値観は人それぞれですが、ウエディング業界全体として、お客様の声をあまり聞かずに自分たちがやりたいと思う結婚式を自分たちのやり方でやってきた結果、今の状況を生んでいるのではないか、とも思うのです。

私たちはブライダル事業を始めた当初から、徹底的にお客様の声を聞いて、その上でお客様にとって理想の結婚式をつくっていこうと決めていました。どんな結婚式をつくっていけばいいのかを考えるうえで、いい声も悪い声も、どちらの意見もしっかりと拾って次につなげていくのが大切だと思います。

ーーアンケートを導入したいが結果を社内に公表するのにためらいがある、という企業も中にはいらっしゃいます。この点についてはどうお考えですか。
提坂:当社の場合、お客様の生の声をいただくことは自分をより成長させられる機会だとポジティブに捉えているメンバーが多いです。会社として、数字よりも「人としてどうありたいか」といった人間性を大切にする文化が根付いているので、社員たちも人間的な部分を高めたいと考えるメンバーが多いのかもしれません。「良い結婚式をつくるために、私たちも素敵な人でいよう」という気持ちは、みんな共通して持っていますね。

古川:お客様から厳しい意見をいただいたとしても、それを乗り越えられるようサポートするのが管理職の仕事だと思っています。

――御社としてCXに注力しながらどのように事業を成長させていきたいですか。

提坂: これからも「バリューイノベーター」や「コンセプトプロデューサー」として、お客様の声を大切にしながら価値を生み出せる人々の集まりでありたいです。

古川:顧客満足度が上がれば売り上げも上がる、と考えています。逆に、例えば顧客満足度の低い結婚式場がいくら広告を出稿しても成約率はきっと上がりませんよね。最終的な利益につながるのは何かと考えた時、当社として優先度が高いのは顧客満足度です。

実際にプランナーたちに伝える時も、「単価をいくら取ってきてね」と言うよりも、「今できる範囲で思いっきり、お客様が喜ぶことを考えてみて」と言った時のほうが、スタッフはいきいきとしますしCSも高いんです。お客様に喜んでいただくために必要なものはこれです、と自信をもってご提案できるからだと思います。

お客様の満足を追求する、という当社のコアバリューを大切にしていくことこそが、事業の成長に必要なことだと考えています。

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Things Aoyama Organic Garden.dth(提供:ディライト株式会社)


取材:大井あゆみ 文:中村英里
企画編集:ウエディングパーク

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