【前編】デジタルの可能性を探る Wedding-UP DX|テイクアンドギヴ・ニーズ、CRAZYのDX戦略に迫る

【前編】デジタルの可能性を探る Wedding-UP DX|テイクアンドギヴ・ニーズ、CRAZYのDX戦略に迫る

新型コロナウイルス感染拡大をきっかけに社会全体のDXが急速に進む中、結婚式を取り巻く環境やニーズの変化に応えるために、ウエディング業界も変革を迫られるようになりました。

ウエディングパークでは、2016年より業界のDXにいち早く取り組み、サービスやセミナーを通し、業界のDXをサポートしております。

オンラインセミナー「デジタルの可能性を探る Wedding-UP DX」では、ウエディング業界内でも早い段階からDX領域を積極的に推進している株式会社テイクアンドギヴ・ニーズ(以下、T&G)の金香氏と、株式会社CRAZY(以下、CRAZY)の吉田氏をお招きし、ウエディングパークの小笠が司会を務め、各社のDXにおける最新事例、取り組みや課題、今後の展望について伺いました。セミナーレポートを前編と後編に分けてお伝えします。


小笠:みなさん、こんにちは。本日ファシリテーターを務めます、株式会社ウエディングパークの小笠と申します。金香さん、吉田さん、よろしくお願いします。では、早速ですが自己紹介からお願いします。 

金香氏:はじめまして。株式会社テイクアンドギヴ・ニーズの金香と申します。T&Gではいくつかの事業をおこなっており、主に国内ウエディング事業の、いわゆる現場に関わる部署の集まりを運営統括本部と呼んでいるのですが、現在リーダーを務めております。弊社のDXの申し子、ではないですが、今日はできる限り社内の考え方をオープンにお話しし、少しでも参考にしていただける話ができればと思っています。よろしくお願いします。

吉田氏:はじめまして、吉田と申します。株式会社CRAZYの執行役員、CRAZY WEDDINGというウェディングブランドの事業責任者を務めています。自身のキャリアの特徴としては、CRAZYに入社する前がIT企業で、ウエディングパークと同じグループ会社におりました。CRAZYで結婚式を挙げ、人事として同社に入社しました。その後、「IWAI OMOTESANDO(以下、IWAI)」の支配人を経て現在の役割を担っています。また、「祝人の集い」という婚礼業界の若手のコミュニティも運営していて、現場責任者やチーフプランナーの方等が参加しています。よろしくお願いします。

小笠:ご紹介が遅れましたが、ウエディングパークの小笠と申します。現在DX本部という2020年5月に立ち上げた部署の責任者をしております。よろしくお願いします。では、まず初めに各社様がどんな事に取り組んでいらっしゃるのか、事例をご紹介していただければと思います。またあわせてDX実施の背景についてもお伝えいただけると嬉しいです。では、テイクアンドギヴ・ニーズ金香さん、よろしくお願いします。

非付加価値業務を徹底的にIT化、T&GDX戦略

金香氏:はい、よろしくお願いします。当社のDX推進はいわゆる対面接客の付加価値業務を最大化するために、非付加価値業務を徹底的にIT化する、というのが取り組みの中心になっています。今日はその中でもウエディングプランナーの主業務のひとつである「打ち合わせ」、「準備」で使用している電子版「Wedding Note」についてご紹介いたします。

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導入に至った背景、そして結果が一番大事ですので、丁寧にお伝えできればと思っています。背景はずばり「経営課題認識」です。大きく二つあり、ひとつは「生産性」、もうひとつは「顧客体験価値」を挙げています。ひとつ目の「生産性」に関してですが、ウエディング事業の未来を想像したときに、労働力確保はまず捉えなければいけない点だと思っています。コロナ禍に入ってからより人手不足というのを課題認識している企業様が多くいらっしゃるのではと思います。2030年の日本の労働市場ギャップというのがあり、人材ニーズに対して生産年齢人口は下がっていくので、人手不足になることはわかっています。そして2030年は日本全体で644万人、人手が足りなくなるというデータがあり、その中でも我々が身を置いているサービス業は400万人足りなくなると言われています。ですから、生産性を上げないといけないということに非常に危機感を持っているのが1点です。

また「顧客体験価値」にも危機感を持っています。弊社ではカスタマーセンター(現在はCX推進室)があり、施行済のお客様の声を実際にヒアリングし、CS(Customer Satisfaction=顧客満足)の改善に活かすという専門の部署なのですが、ここ数年、CSだけではなく、CX(Customer Experience=顧客体験)やNPS(Net Promoter Score=顧客ロイヤルティを測る指標)をKPIにして、顧客の満足度を計測しています。なぜCSだけではダメかというと、ウエディングサービスの特異性として、あえて言うと「放っておいてもご満足いただける側面」があります。事業者として、自分たちの介在価値にコミットしきれずに少し盲目になり「自分たちのサービスは十分だ」と、気を付けなければ勘違いしてしまう側面があるのではないでしょうか。今のお客様が置かれている環境を想像してみると、常日頃から触れているサービスはデジタルで、非常にパーソナライズされたものを体験していますよね。私たちのウエディングにおけるサービスも、ウエディング以外のサービスと比較して、良いサービスを届けていかなくてはいけない、でなければ、中長期的には結婚式そのものが淘汰されていくのではという危機感があります。この2つですね。「生産性」を上げていかないと、事業継続ができない、「顧客体験価値」を真剣に上げていかないと顧客から支持を受けられずに事業が継続できない。経営としての課題認識から導入に踏み切りました。

目的の2つ目ですが、サービス品質の標準化、デジタルを活用する利点は「仕事に抜け漏れが発生しない」ということです。プランナーの仕事のあるべき姿はふたりの想いを反映する、クリエイティブに集中するということですが、実際は抜け漏れによってお客様からご意見をいただくこともある。これをデジタルの力で解決するというのが大きな目的です。それに対しての結果ですが、これまで開発から改修まで数千万円使用していますが、投資回収自体は3年ほどで終えています。最もわかりやすい成果は、ウエディングプランナーの人員数に表れていると思っています。4月に新卒が入ってきて1年間で徐々に減っていき、次の春にまた人が増えてというのが平時だと思うのですが、コロナ禍においての当社は、新卒採用数を半分におさえ、中途も採用をストップしていました。去年の11月時点でのプランナーの人数が475人、コロナ前が550人だったので、75人少ない状況でした。そんな中、去年の11月は緊急事態宣言明けだったので、施工数はコロナ前とほぼ同じ数でした。結果、コロナ前と同じ施工数をコロナ前よりも15%少ない人員でやり切れたのがわかりやすい成果だと思っています。次は、具体的にどんなUI(ユーザーインターフェース)で進めていったのかについてお話しします。

(Wedding Noteの一部を表示し)こちらはプランナーサイドのログイン画面で、お客様を時系列で見られるようになっています。宿題の期日が迫っているようなアラートも確認でき、プランナーとしてはトレースしやすいUIになっています。

(Wedding Noteの一部を表示し)こちらのページは機能の概要です。大きく6つの機能に分かれていて「宿題管理」「参列者一覧・席次表」「注文確認表」「進行表」「イメージコラージュ」「知識・手順案内」という機能をプランナー、お客様の双方で操作をしていきます。

(Wedding Noteの一部を表示し)こちらは宿題管理のページで「Step card」という結婚式の準備を約70の工程に切り分けています。お客様には「何をいつまでに考えなきゃいけないか」「自分の準備がどこまで進んでいるのか」など、進捗の全体像を掴んでもらうことをポイントにしています。このStep cardを消化していくことでどんどん100%に近づいていくので、いうなればロールプレイングゲームのようにお客様に達成感を味わっていただきながら準備を進めてもらう、楽しんでいただきたいという想いを込めて、このUIにしています。

(Wedding Noteの一部を表示し)ここのページは割と大事なポイントです。ステータス管理で「転記漏れ」や「お客様との誤認識」、そして「修正反映漏れ」は結婚式準備で起こるミスの典型ですが、Wedding Noteではステータスごとにアクセス、編集権限をプランナーそしてお客様とそれぞれ設けることでミスを起こすリスクを排除しています。

またWedding Note以外のDXの取り組みとしては、動画活用によるプランナーの打ち合わせ工数を減らす取り組みとして「PIP-maker」や「YouTube動画」を打ち合わせの際に積極的に取り入れています。説明動画を活用し、打ち合わせの段階で知ってほしい情報をYouTubeで一般公開するとともに、CRMの仕組みを使って段階的にお客様に自動的に配信されるようになっており、お客様のインプットをサポートしています。「人でなくてはならない領域とは何か」をしっかりと見極め、人でなくてもいい領域に関しては、デジタル化していく。ここをひとつひとつ判断していっているのが当社のDX推進ですね。

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小笠:金香さん、ありがとうございました。

吉田氏:ありがとうございます。私から質問よろしいでしょうか。ファクトとなる社会課題や事業状況を知ることができたのがとても価値があったなと思いました。また、2018年という早い段階でDXを強化されている印象を受けました。こういった取り組みのスタートは、経営者の方々の決断なのか、それとも現場の方々の声なのか、教えてください。

金香氏:何かを推進する上で最も大事なのは、経営陣の意志だと思っています。各社様一緒だと思いますが、当社は「一番大切なのはお客様の満足度」だと考え、そこに誠実に向き合ってきたと自負していますが、言い換えるとお客様のためにならないと現場は賛同してくれない。こういったDXや他の推進に関してもですが、お客様のためになるよとお客様の絵を見せることで、現場のメンバーも巻き込みながら進めていく、経営陣としてのあるべき姿の提示が最初は大切だと思います。

吉田氏:ありがとうございます。もう一つ、先ほどのリスクやコンプレ(苦情)を減らすというところで、プランナーにとっても安心感がありますし、経営にとっても大きな効果だと思っているのですが、全体の人員が15%下がった中で、コンプレの発生数、満足度の変化があれば教えていただきたいです。

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金香氏:人員数で成果をお話ししたのですが、人員数以外では一組当たりのお打ち合わせにかける時間というのを切り分けて見ております。例えば、1回の見積作成に5分として、6回打ち合わせがあれば、5(分)×6(回)=30(分)、それが1万1,000組で…何万時間という、ものすごい時間がかかっているんです。細分化するとそういう計測の仕方をしていますが、一組当たり8時間、全体の打ち合わせ時間の圧縮ができる、それに近づいてきているという実感があります。もう一つ、お客様からのお声で申し上げると打ち合わせごとにアンケートを取らせていただいていて、各段階で満足度のフィードバックをいただいています。1回目の打ち合わせでは満足度が高かったのに、2回目の打ち合わせで満足度が下がってしまっている。それって何が良くなかったんだっけ?ということを、問題を見極めてアプローチして、CS改善に活かしていっているというのは、実感としてあります。

吉田氏:なるほど。全体だけではなく、プロセス中の満足度を見て、プランナーの育成の仕組みだけでなく、システムそのものもアップデートしていっているんですね。

金香氏:そうですね。やっぱり運用していくと改善点が見つかってくるので、1次開発だけではなく、3年から5年かけてどんどんアップデートを行っていきました。

小笠:ありがとうございます。それでは、続いて吉田さんお願いします。

「引き算の発想」「本質だけを残す」に拘る、CRAZYDX戦略

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吉田氏:よろしくお願いします。金香さんのお話は、日本一施工数を多くやられている中でのダイナミックな取り組みだと思いますので、弊社としては小さく始めていく、だったり、まずできることをテーマとしてお話しできればと思います。こちらは弊社の結婚式ビジュアルの変化なのですが、弊社は2012年創業で最初は箱も持たず、野外ウエディング等も含めてコンセプトのある結婚式として山川咲筆頭に認知を拡大していきました。その後、施工をやらせてもらえる会場が増えていく中で、装飾面を強みに展開を更に広げていきました。実は2019年から装飾をかなりシンプルなものに変えているのですが、オーダーメイドでやっていたときより、IWAI(現在)の方が施工数はかなり多く、シンプルの中にソフトな体験ができるようにサービスを見直したのがIWAIのモデルになっています。

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IWAIは2018年から事業化の動きがあり2019年に開業しているのですが、実はその段階でオーダーメイドをやろうという発想はありませんでした。令和の時代に移っていく中で「次にどんな結婚式が求められるのだろう」と考えた時に、私たちが注目したのがカップルの声はもちろん「ゲストの満足度を追求すること」でした。そこで、SNSを含めて1万件ほどのアンケートをとり、ゲストが何を求めていて、どこを改善してほしいのか、本音を回収してサービスを開発していきました。このバナーは弊社が回しているクリエイティブの一部です。なかなか見たことがないクリエイティブかと思いますが、IWAIは引き算の発想でつくっており、「本質だけを残す」という風に振り切っています。ここがシステム面だけではない、DXの本質だと僕自身は思っています。「そぎ落とせるものをそぎ落としていく」「価値があるものだけ残していく」と考えた時に、現在なし婚が増えていく中で「立派な高砂」「派手な演出」をやりたくない、そんな方々にフォーカスしたサービスとして作りました。そう言った意味で、オーダーメイドウエディングとはまた違った顧客向けのサービスアプローチになっています。

IWAIの会場は、ゲスト満足のひとつである結婚されたおふたりとのコミュニケーションや、参加者の皆さんが楽しんでいただける会場設計の仕掛けを様々に施しながら、ひとりひとりのコンセプトは作らずに一定のフォーマットの中で二人らしさを演出して、運営しているのが特徴です。

(スプレッドシートを表示し)これは先ほどのT&GさんのWedding Noteの簡易版のようなイメージで、Googleが提供しているスプレッドシートを使い、お客様とのやり取りを可視化しています。弊社は紙でのやり取りは一切していなくて、このスプレッドをお客様と弊社で共有させてもらいながら、全体の情報や下のタブの情報などを管理しています。紙やエクセルでやり取りせずに、随時更新をしながら情報共有しています。プロセスもシンプルでお客様もプランナーも利用しやすいものにしました。

その分、お客様とのソフトな部分にプロデューサーの時間を投資しています。

IWAIではお客様がひとりひとりのゲストに必ず400字程度のお手紙を書いてもらうのですが、そこに至るには「どんなお客様がどんな想いでいらっしゃるのか」をしっかりヒアリングし、想いを一緒に深めてもらいながら書いていただいています。また本番前に親御様やゲストの一部の方とプロデューサーがやり取りをし「どんな気持ちで参加するのか」「どんな時間にするか」というところに時間を投資しています。無駄な作業を減らしたことによりできた時間を、ソフトのところに投資し、ゲスト満足にフォーカスしています。

また、オンライン会議はもちろんなのですがSlackなど、社内ツールにも積極的にITを入れ、取り組みを強化しています。その分、週に1度は全社員でリアルで集まり、人間関係を深める時間をとっています。顧客サービスもそうですが、社内体験もメリハリを意識しながら運営しています。

オーダーメイドの時代から比べるとIWAIの生産性は5~6倍に上がっていて、収益も上がっており、非常に順調です。更なる拡張のため、今後は本腰を入れてふうふのパートナーシップが良くなるアプリを夏頃リリースの予定です。また、T&Gさんのように本格的に店舗展開していくのであれば、新しいITの取り組みも進めていきたいと思っています。そういったことに興味がある方々ともディスカッションしながら進めていきたいです。

小笠:ありがとうございます。CRAZYさんらしい、ツールを活用した取り組みでしたね。金香さんいかがでしたか、御社とはまた違ったアプローチだったかと思います。

金香氏:「引き算の法則」や「シンプル」などの言葉が印象的でした。お手紙の話がありましたが、デジタル化や効率化をしていく上で、残していかねばいけない結婚式の本質的な価値の部分に非常にコミットされていることが、思想として素敵だなと感じました。スプレッドシートやSlackなど、いくつかツールを導入されている中で、CRAZYさんで新しいツールを導入する際の判断軸や導入プロセスがあれば教えていただけないでしょうか。

吉田氏:ありがとうございます。例えば、Googleのスプレッドシートの導入背景は、まず社内で「使うことが便利である」という前提認識がありました。経営陣だけではなくスタッフ全体が思っていることなので、社内で馴染みがあるものはお客様にとっても便利なのでは、という理由がひとつ。また、Slackはマーケティング責任者のひとりが、経営陣に「非常に便利だ」ということをプレゼンしてくれたことが背景としてあります。個人的な感覚だと、社内でリスクがないことはできる範囲でチャレンジしてみるのがいいのでは、と思っています。

金香氏:やっぱり提案する側がサービスを使い倒したり、導入した後のいい世界をどれだけプレゼンできるかは大事ですね。

小笠:チャレンジを沢山重ねられていると思いますが、失敗などはありましたか。

吉田氏:使っていないツールややり方はまだありまして、オーダーメイドの結婚式は非常に複雑なプロセスなので、発注管理、プロセス管理、お客様とのやり取りなどができるシステムを8年前に使っていました。サービス自体が変化しているので、サービス自体が完成していないと投資をしてもシステムが追い付いていかないんですね。弊社としては、パーパス実現のために必要なものはもちろん導入していきますが、個人的には、小さくトライして形ができたらアップデートすることが大事だと思っています。


続きは、【後編】デジタルの可能性を探る Wedding-UP DX|DX推進において人材及び組織のあり方とは でご紹介します。

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