ミライケッコンシキ
2020.08.06
「一刻も早く、事業を再開できるように」。日本ブライダル文化振興協会(BIA)、ガイドライン策定の舞台裏【#ミライケッコンシキ Vol.8】
新型コロナウイルス感染拡大により、世の中が大きく変わりつつあります。個人の価値観が変化し、それに伴ってさまざまなサービスがアップデートされるなか、これからウエディング業界にも変化が生まれていくことは想像に難くありません。
では、未来の結婚式はどうなっていくのでしょうか。シリーズ「#ミライケッコンシキ」では、「ミライの結婚式のために、イマ私たちができること」をテーマに、ウエディング業界に携わる方々にオンラインで取材しています。ミライの結婚式、一緒に考えてみませんか?
今回取り上げるのは、公益社団法人 日本ブライダル文化振興協会(以下、BIA)です。ブライダル業界に新型コロナウイルス感染症の影響が生じると、BIAは2月後半から行政機関とのやりとりを続け、5月14日には結婚式場業「新型コロナウイルス感染拡大防止ガイドライン」を発表しました。このように行政と業界、業界と消費者の間に入れるBIAは、ブライダル業界で唯一無二の存在です。
「新しい生活様式」が発表されてから10日間で実現したガイドライン策定の舞台裏、BIAが今後担いたい役割について、BIAの事務局長を務める佐々木貴夫さんにお話をうかがいました。
(※ このインタビューは、2020年6月19日にオンラインにて実施しています)
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■ プロフィール
公益社団法人 日本ブライダル文化振興協会(BIA)
1995年設立。婚礼に関する調査や研究、業界の人材を育成するための研修会やセミナーの実施などを通じて、ブライダルの文化と産業の振興を図る公益社団法人。
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未来の新郎新婦に信頼されるブライダル業界を
── BIA(日本ブライダル文化振興協会)とは、どのような活動をしているのでしょうか。
私たち日本ブライダル文化振興協会は、ブライダル業界に関わる企業が集まって1995年に設立されました。主な活動内容は、ブライダルに関する調査研究、ブライダルコーディネート技能検定の試験、人材育成の研修会、コンテスト開催です。
他にも今回の新型コロナウイルス感染症のように、業界に大きな影響のある出来事が発生した場合は、業界を代表して行政機関とやりとりをする窓口になります。このように会社の枠組みを越えて活動している団体は、ブライダル業界のなかではBIAが唯一です。
── 活動を通じてどのような業界にしていきたいと考えていらっしゃいますか?
これから結婚される方々に、信頼してもらえる業界づくりをしていきたいと考えています。たとえば2019年4月に、「ブライダルサービス宣言」を発表しました。結婚式場が消費者の信頼を得るために、BIAがガイドラインと認証制度をつくり、これを遵守して営業活動をしましょう、と呼びかけています。業界内での横の連携が求められるため、BIAが担うべき役割の一つです。
── 今回のコロナ禍を受け、佐々木さんはどのような点に業界の課題を感じましたか?
キャンセル料に関する報道が多く出ていたように、式場の契約がこのような緊急事態を想定できていなかった点です。それぞれの式場が新郎新婦への思いを持ちながら約款を超える柔軟な対応を進めていますが、新郎新婦の想いとギャップが生じた結果、ブライダル業界への厳しい報道が続いたのだと考えています。
── 新型コロナウイルス感染症の影響が出始めてから、BIAではどう動いていたのでしょうか。
2月の後半から、すでに経済産業省とのやりとりを始めていました。支援策が出されたら業界向けにお知らせしたり、どのような支援が必要なのかを経産省に連絡したり。この頃から、BIAのホームページで新型コロナウイルス感染症関連のお知らせをこまめに出すようにしています。
3月以降は新郎新婦からのお問い合わせが増えたので、その対応に重点を置くようになりました。式場の対応に納得できなかったり、式場に提示された内容を確認されたりするお電話が多かった印象ですね。
「新しい生活様式」に明記された「冠婚葬祭」を続けるために
── BIAはブライダル業界向けの「新型コロナウイルス感染拡大防止ガイドライン」を策定し、5月14日に発表されました。どのように準備を進められたのでしょうか。
(結婚式場業「新型コロナウイルス感染拡大防止ガイドライン」、5月21日に改訂)
政府による専門家会議で「新しい生活様式」が発表されたのが、5月4日です。その提言と同時に、業種ごとにガイドラインを策定して事業の再開を目指すように通達がありました。
とはいえゴールデンウィーク中だったので、連休が明けた5月7日にあらためて、経済産業省からBIAにガイドライン策定のお話をいただいたんです。設定された締め切りが翌日で、一日半しか時間がありませんでしたが、国が用意したフレームをベースに、現場の実態を加味しながら策定を進めました。
なんとか期限どおりにたたき台を作成し、業界関係者に見ていただいた後、11日に行政機関と会議をして修正。12日に専門家委員会にレビューしていただき、14日に発表しました。怒涛の一週間でしたね。
── ブライダル業界としてガイドラインを策定する際に、難しかった点はありますか?
「新しい生活様式」は、これまでの結婚式の形式と相反する内容が含まれています。しかも、大きな式場からホテルやレストランまで、全ての式場が同じガイドラインを使わなくてはいけない。どこでも活用できるものに落とし込むにはどうすればいいか、考えるのに苦労しました。
── 具体的にどのような項目が含まれているのでしょうか?
たとえば会場のレイアウトを考えるときに、飛沫感染が防げる十分な席の間隔を開ける必要があります。1メートル以上、可能なら2メートル以上と、具体的な距離の記載が入っています。集合写真を撮影する際も、撮影するタイミング以外はマスクの着用が求められています。
── 一週間でガイドラインを発表された背景には、どんな思いをお持ちだったのでしょうか。
5月4日に発表された新しい生活様式で、「冠婚葬祭などの大人数の集まりは控えること」と明確に記載されました(※)。あれは業界にとって衝撃的な出来事で。これからどうしようか、と多くの関係者が不安になっていたんです。
いわば業界の危機に対して、BIAが何の役に立てるのかを考えたときに、ガイドラインを策定できるのは私たちしかいません。各社が一刻も早く事業を再開できるよう、やるなら早くやろう、と心を決めて動きました。
その後BIAから婚活・ブライダル振興議員連盟への申し入れを行い、6月19日に改訂版の新しい生活様式が公表され、「冠婚葬祭などの親族行事」の文言は削除されています。
(5月4日に発表された新しい生活様式の実践例。現在は「冠婚葬祭などの親族行事」の文言が削除されるなど、内容が異なる)
これからも、時代に合わせた結婚式を実現できる
── ようやく式場が新しいやり方で営業を再開し始めています。佐々木さんはBIAとして今後どのように動いていきたいですか?
今回のコロナ禍を経て、式場単位でお客様に安心して結婚式を楽しんでいただけるよう、業界内での横の連携が進んでいます。ひらまつや八芳園では、BIAのガイドラインをベースに自社のガイドラインを策定し、ピクトグラムを業界向けに共有されていましたね。
このように、それぞれの式場が横の連携を強化したり工夫して新たな取り組みをしたりと、業界がよりよくなる動きがたくさん生まれています。これらを式場とは異なる立場で発信したり、行政機関への働きかけによって促進したりして、時代に合わせた形式でこれからも結婚式を挙げられるんだと伝えていきたいです。
(取材・文:菊池百合子 / 写真:土田凌 / 企画編集:ウエディングパーク)