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連載【#結婚はこのままでいいのか】結婚したら、夫婦は同じ名字にしなくてはいけないの?「選択的夫婦別姓」について、専門家に聞いてみた

「結婚するときに、姓を変える手続きが面倒」。

そんな声をよく耳にする一方で、それなら夫婦が違う姓を名乗れるのか、名乗る場合にどんなデメリットがあるのか、現行の制度を知る機会は意外に少ないかもしれません。

何を選べて、何を選べないのか。そもそも選択肢を知らないと、自分に合う「結婚」の形も考えられないはず。今回は知っているようで知らない夫婦の姓に関する現状と「選択的夫婦別姓」の議論について、ブライダル法務の専門家・夏目哲宏さんに聞いてみました。

これからの人生で自分にぴったりの選択をするために、「誰かと生きること」について考えてみませんか?

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■ プロフィール
夏目 哲宏(なつめ てつひろ)

行政書士。日本初のブライダル事業専門の総合法務サービス「BRIGHT」を運営する株式会社ブライトの代表取締役。大学で法律を専攻した後、不動産会社へ。ブライダル事業会社の法務部に転職したことをきっかけに、ブライダル業界における法律面での整備の必要性を痛感し、2015年に株式会社ブライトを設立。一児の父。
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統一する姓は夫婦どちらのものでもいい

── そもそも「夫婦別姓」は、今の日本で選べるんでしょうか?

実は、選べません。憲法では第24条に「両性の合意のみに基づいて成立する」と書かれているのみで姓については触れられていないのですが、民法の第750条で「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」と記されています。この条文によって、どちらかの姓への統一が決められているのです。

── 妻が夫の姓を名乗ることが義務付けられているのではなく、どちらの姓でもいいんですね。

そうなんです。明治民法では妻が夫の姓を名乗る必要があったのですが、現在は形式的に平等だと言えます。ただ、95〜96%が夫の姓への統一を選んでいるのが実情です。

── では、最近たまに耳にするようになった「選択的夫婦別姓」とは何でしょうか?

正式には「選択的夫婦別氏(べつうじ)制度」で、法務省は「夫婦が望む場合、結婚後も夫婦がそれぞれ結婚前の氏を称することを認める」仕組みとして、そのように呼んでいます。現行の制度に加えて、希望する夫婦には結婚した後も結婚前の姓を名乗ることを認める制度です。

── 日本以外だと、どんな制度の国が多いんですか?

国際的に見ると、夫婦同姓を法律で強制する国は珍しいです。国によって制度や文化の背景が異なるので、全て海外に合わせる必要はないのですが、国際的な流れは「姓について選択肢を広げてもいいのではないか」という方向に進んでいます。法律は時代や社会に合わせて変えていくべきものですから、日本でもフラットに議論していけるといいですね。

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夫婦別姓の賛成派も反対派も、分かり合える家族観がある

── 実際に選択的夫婦別姓を実現する場合、どんな障壁があるのでしょうか?

制度導入には大きく3種類の反対意見があると考えています。「夫婦同姓は日本の伝統だ」、「生まれてきた子どもの姓をどう決めるのか」、「家族内で姓が違うと、家族の絆が失われるのではないか」に分類して考えてみましょう。

まず1つ目の「伝統」については、夫婦同姓の歴史は120年ほどです。江戸時代まではそもそも姓を持てる人が少なく、明治に入って姓が義務付けられた当初は、夫婦でも「別姓」が前提でした。そして明治31年に、妻が夫の姓を名乗るルールになったんです。「明治時代に入ってから決められた制度なんですね」と意外がられることもあります。

2つ目と3つ目については、夫婦同姓となった場合に兄弟姉妹の姓が異なるケースも発生するかもしれませんし、生まれてきた子どもの姓について慎重に考える必要があると思います。もし国民の多くが制度を理解していない状態で選択的夫婦別姓を導入すると、子どもに何かしらの負担がかかる可能性があるからです。

── 夏目さんご自身の視点で、もっとこのように議論できればいいのではないか、と思う部分はありますか?

現状だと別姓の賛成派から挙がるのは、「別姓を選ぶのも権利だ」「姓を変更する手続きが面倒」といった意見。対して反対派は伝統的な家族観を大切にしていて、昨今の家族のあり方に問題意識を持っている人が多いです。

このまま賛成派と反対派が議論しようとしても、論点がずれていて噛み合わないんですよね。たとえば、家族の課題について本気で考えている反対派の人に「手続きが面倒だ」と感情論をぶつけても、より反対の気持ちが強まってしまうのではないでしょうか。

DSC_28.jpg── これからどのように議論を進めていけると思いますか?

私であれば、賛成派と反対派が共通して大切にしているものをもとに議論します。たとえば一人息子と一人娘が結婚したい場合、現状だとどちらかの姓しか残せません。どちらも自分の家の姓を受け継ぎたい場合、同姓制度が結婚の障壁になるケースが発生しうるんです。

これを踏まえ、私であれば反対派が大切にしている伝統的な家族観を守る一つの手段として、別姓を選択できる必要性をお伝えします。「受け継いできた姓を大切にしたい新郎新婦にとって、夫婦同姓が結婚の障壁になっているのであれば、家族を大切にする選択肢として夫婦別姓を認めたほうがいいのではないか」と。

あとは子どもの姓についてのケアを議論できたら、別姓を選択できる道を例外として付け加えてもいいのではないか、と反対派も納得しやすいと思うんです。

── 夫婦別姓が強制なのではなく「例外的に選べる」のであれば、議論の進み方も変わっていきそうですね。

実際に、法務省も「選択的夫婦別氏制度」以外にも「例外的夫婦別氏制度」を提唱しています。明治からの伝統である同姓と、新しい選択肢である別姓がフラットに選べる状態に抵抗がある人もいるので、前提は崩さずに同姓を原則とし、例外的に夫婦別姓を選択できる道筋も残す制度です。

どんな制度を導入するにしても、誰にどのようなメリットがあり、デメリットをどうカバーできるのか、感情を抜きにした意見を交わせるといいですね。そのためには、いつから夫婦同姓の制度が始まったのか、別姓反対派は何を懸念しているのか、そして賛成派はなぜ導入を求めているのかを「知ること」が重要だと思います。

法律面からブライダル業界を支えるためには、発信が必要

── 夏目さんは「ブライダル事業専門の法務」をお仕事にされていますが、なぜブライダルを専門領域に選ばれたのでしょうか。

大学で法律を学んだ後、不動産会社を経て法務としてブライダルの会社に入社したら、2点気づきがあって。1点目は、ブライダルの仕事に従事している人たちの価値観に感銘を受けました。結婚するお二人のために尽力していて、素敵だなと思ったんです。

もう1点、ブライダル業界の事業者を法律面で守ってくれる人がいないことに気付きました。ブライダルの事業は、お客様から大きな金額をお預りするサービスでありながら規制法がないため、事業者はさまざまな法律を把握しないといけません。

それなのに法律の専門家に相談しに行っても、ブライダルに詳しい人はおろか、この領域に関心を持つ人自体がかなり少なくて。もっと法律面からブライダル業界をサポートできるだろうと考えて、自分で資格を取り、2015年に日本初のブライダル事業専門の総合法務サービス「BRIGHT」を設立したんです。

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── 普段はどのようなお仕事をされているのでしょうか?

ブライダル事業者から依頼されて契約書をチェックしたり規約の見直しをしたりと、「ブライダル業界で働く人の力になる」ために法律に関する課題を解決することが、私たちの役割です。

── 今回お話しいただいた選択的夫婦別姓の議論のように、法律に関わる知識をブライダル業界でお仕事される方々に説明される機会もあるんですか?

それが、あまりしてこなかったんです。というのも法律の専門家からすると、選択的夫婦別姓の議論に関する知識は誰もが知っている前提と認識してしまっていて。結婚そのものにまつわる法律の話を自分たちから発信してこなかったな、と気づかされました。

でも本来は、プランナーさんも指輪やドレスに関する歴史的背景だけでなく、結婚の制度や法律で認められていることとそうでないことも知っておくべきですよね。今後は業界内への発信に力を入れていこう、と考えています。

国が用意してくれた婚姻制度のメリットを考える

── 夏目さんは結婚されているとのことですが、ご家族はどんな存在ですか?

何があっても自分を一番理解してくれる人と一緒にいられることに、すごく助けられています。特に起業してブライダル法務の仕事を始めてからの5年間は、自分で事業をつくっていく過程でハードなこともありましたが、ずっと味方でいてくれる人が隣にいて心強いです。

仕事はいつか辞めるかもしれません。でも家族は、願わくば人生の最期まで一緒にいたい存在です。僕にとっては家族が柱なので、仕事も家族を基本に考えています。

── ご自身の結婚生活を経て、「結婚」の仕組みについてはどう考えていらっしゃいますか。

結婚は、自分の人生に素敵な時間をたくさんもたらしてくれました。ですので、望む人が広く結婚できる世の中になってほしいですね。

現状の婚姻制度に関しても、良い点があると思います。たとえば僕が突然事故で死んでしまったときに、遺言を残していなくても妻や子どもへの相続が国によって保証されている。このようなメリットも踏まえた上で、それぞれの夫婦にぴったりの形を選べるように議論を進めていけるといいのではないでしょうか。


連載【#結婚はこのままでいいのか】

「結婚を、もっと幸せにしよう。」という経営理念のもと、今の結婚に関する課題や問題を取り上げて考え、解決への糸口を探っていく「#結婚はこのままでいいのか」プロジェクト。本企画は、業界そして有識者の方々に「#結婚はこのままでいいのか」をテーマにインタビューしたものです。一緒に「結婚の現状」について考えてみませんか?

<note>ここに宣言します。「結婚を、もっと幸せにしよう。」


(取材・文:菊池百合子 / 写真:土田凌 / 企画編集:ウエディングパーク

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