妊娠・子育て
2019.11.27
【連載 vol.4】ふたりで話そう「将来の子どもの話」 Dr.齊藤と妊活たまごクラブ編集長に聞く!結婚準備中にできる「プレ妊活」のススメ
【Dr.齊藤と妊活たまごクラブ編集長に聞く!結婚準備中にできる「プレ妊活」のススメ】は、産婦人科医で不妊治療専門医の齊藤英和先生と『妊活たまごクラブ』編集長の米谷明子さんが、結婚準備中からできる「プレ妊活」についてお話するスペシャル対談です。
<過去記事>
第1回:【Dr.齊藤と妊活たまごクラブ編集長に聞く!結婚準備中にできる「プレ妊活」のススメ】妊活スタート前に知っておきたい!妊娠しやすい体づくり~女性編~
第2回:【Dr.齊藤と妊活たまごクラブ編集長に聞く!結婚準備中にできる「プレ妊活」のススメ】妊活スタート前に知っておきたい!妊娠しやすい体づくり~男性編~
第3回:【Dr.齊藤と妊活たまごクラブ編集長に聞く!結婚準備中にできる「プレ妊活」のススメ】いくらかかる?知っておきたい「妊娠出産と妊活にかかるお金の話」
最終回となる今回は、ふたりで話そう「将来の子どもの話」 。仕事に結婚準備にと忙しい毎日を送っていると、なかなか「将来の子どもの話」ができていない人も多いのでは。「子どもが欲しいか、欲しくないか」「何才までに何人欲しいのか」など、子どもについて話すことは、ふたりの大切な将来を考える上で非常に大切。ぜひパートナーと一緒に読んでみてくださいね。
—————————
■ プロフィール
齊藤英和(さいとう・ひでかず)
元国立成育医療研究センター 周産期・母性診療センター 副センター長。現在梅が丘産婦人科ARTセンター長。
米谷明子(よねや・あきこ)
ベネッセコーポレーション『妊活たまごクラブ』編集長。『妊活たまごクラブ』誌面で斎藤先生に妊活特集の監修をいただく。https://st.benesse.ne.jp/ninkatsu/
————————–
自然妊娠で3人子どもが欲しいなら、妊活スタート年齢は23才!?
米】結婚準備中の方は、今は新しい生活のことでいっぱいで、「子どものことなんてまだ先」と思われるかもしれませんね。
齊】今は「まだ先」と思うかもしれませんが、不妊治療専門医の立場で言いますと、いざ子どもが欲しいとなったときに「もっと情報を早く知りたかった」と言われることがよくあるんです。そんな方をたくさん見てきましたから、実際に子どもを持つ、持たないにかかわらず、子どもを持つための情報は、結婚したときに知っておいたほうが良いと思います。
米】私もそう感じています。『妊活たまごクラブ』という雑誌を作っていますが、必ず妊娠しなくてはいけないとお伝えしているのではなく、「妊活」を通して、自分や相手の体を見直して、長く健康でいる人生とはどういうことかを考えてほしいのです。子どもが授かることだけがゴールではないと思っているんですね。
齊】子どもをきっかけに、自分たちの体のことを知っていてほしいですね。
米】先生からご紹介いただいた「妊娠達成確率別に見た『妊活を開始すべき』上限年齢」というグラフがあります。これをご説明いただけますか?
出典/Habbeman et al. Hum Reprod.30;2215-21 2015
齊】これは、子どもが1人欲しい場合に、女性が何才までに妊活をスタートしたら実現するかの確率を統計で示したグラフなんです。「自然妊娠」というのは自然に妊娠した場合、「体外受精(IVF)」は体外受精をして妊娠が成功した場合。例えば「絶対欲しい」を90%くらいの確率と考えると、自然妊娠の場合は32才くらいまでには妊活をトライしたい。でも体外受精という方法を選択するなら36才くらいでも90%の確率で子どもはできる。
米】子どもが1人、絶対に欲しい場合ですね?
齊】でも、35才くらいからはそもそも妊娠成功確率は下がるので、絶対欲しいという確率を達成するのは厳しい。でも、できれば欲しいという確率でよければ、37才くらいまででも自然妊娠することはできる。
米】これは考え方によりますね。何が何でも絶対子どもが欲しい! という気持ちなのか、授かったらうれしいよね、くらいなのかにもよりますよね。75%、50%の確率の場合は、できないことも覚悟しておく必要がありますね。
齊】これは開始すべき「上限年齢」ですからね。そこからスタートではないです。それと、これは子ども1人の場合の確率ですが、子どもを複数持つことを希望する場合、妊娠適齢期を考えるともっと早く妊活をする必要があります。
米】それをまとめた表がこちらですね。
出典/Habbeman et al. Hum Reprod.30;2215-21 2015
米】絶対に自然妊娠で3人欲しいとなると、23才でもう妊娠準備を始めなくちゃならないんですね。体外受精を選択しても28才となると、ずいぶん早くからスタートしないといけないんだなぁと感じました。
齊】でも、将来子どもは3人欲しいけど「できれば欲しい」程度であれば、自然妊娠なら31才でも可能となりますし、50%の確率でOKならば35才でも可能となります。考え方によりますね。
米】このグラフは現実を突きつけられたようで、考えさせられますね。カップルになった男性と女性が、将来の子どものことをどう考えているかによります。将来子どもを持ちたいかどうか、もそうですが、何人欲しいかお互いがどう思っているか…。
齊】具体的な年齢をこういうグラフで示しておけば、それなりにふたりで話し合って計画できるのではないかと思います。
米】40才を過ぎても自然妊娠する可能性はもちろんある。でも50%という確率をどう考えるか…。
齊】40才から45才の間でまた妊娠達成率はかなり急激に下がります。
米】これだけリアルな数字を見ると、みなさんご自身の年齢に照らし合わせて、ドキッとするかもしれませんね。逆を言えば、これを読んでいる結婚準備中の人には「今知ることができてラッキー」なのかもしれません。
齊】自然妊娠が難しそうとなった場合、自分たちで貯めたお金を不妊治療に投じてもいいと思うなら、それでもいいと思います。でもお金をかけたくないと思うなら、早めに自然妊娠を狙う必要がある。
妊娠率だけじゃない、さまざまなリスクが年齢とともに上がる
米】このグラフの妊娠率というのは、あくまで妊娠する確率ということで、その先赤ちゃんが無事生まれるかというのは別ですね。流産率が年齢によって高くなったり、出産で死亡したり、染色体異常のリスクもあったりします。
齊】その通りです。妊娠・出産のリスクのほかに、年齢が高くなると、母体そのものの病気も増えるということもあります。がんで言うと、20代後半から急に増え始めるのは乳がんと子宮がん。
米】それ以外の大腸がんなどは45才過ぎると、またさらにリスクが上がりますよね。
齊】やはり健康なうちに、リスクが少ないうちに妊娠・出産したほうがいいんです。
米】病気以外のリスクというと、年齢が高くなると親の介護のタイミングと重なることもあるかもしれない。そうすると、いつ産むのかを考えるって大事ですよね。
齊】それぞれの選択ですね。仕事によっても、家族の関係によっても違うでしょう。ただ、大切なことは自分自身が納得して人生設計をすること。突然何か起こったときに行き当たりばったりの対応になってしまうと、いちばんいい選択にたどり着けないこともありますから。
米】将来を考えて納得したうえで「私は人生の後半で忙しくていいんです」という選択なら、それでいいんですよね?
齊】もちろん、それはそう。どれがよくてどれが悪い、じゃないですから。
米】結婚準備中の方には、シビアな話だと思うんですけれど、幸せだからこそ、ぜひ今こそ知ってもらいたいと思いますね。
妊娠は奇跡的なこと。基礎知識は男女とも持ってほしい
齊】特に若い人たちに気づいてもらいたいのは、健康に対する意識。若いころは、今の健康や体力が何年後も変わらないと思いがちです。
米】たしかに、そうですね。
齊】年寄りが説教してると思わないで聞いてほしいのだけれども(笑)、健康のありがたさは、若いころには自分ではわからないものなんですよ。僕だって、20代なんてお産が何件あっても徹夜が続いても平気でしたよ。それが30代、40代とだんだん苦しくなってくる。10年後20年後も健康で体力で物事をこなせると考えがちだけど、なかなかそうはいかないということを覚えてほしいです。
米】はい、私もそこはわかります。
齊】すべてが体力や健康で補えたことが、だんだんそうじゃなくなるということ。昔は大家族だから、おじいちゃんおばあちゃんがいて言ってくれたりしたものですが、今はいないでしょう? 同世代同士だけで付き合っていると見えないこともあるんです。
米】連載第1回でお話した「年齢とともに卵子の数がどんどん減っていく」ということも、若い人は案外知らないでしょうね。
齊】こういうことって、学校の授業の中でみんなが一斉に知るシステムにしてほしいですね。これまでの性教育で教えているのは、生理の仕組みと、あとは避妊と性感染症くらいでしょう。それで避妊をやめたら簡単に妊娠するものと、みなさん思っているんです。でも妊娠するタイミングって、月1回の月経周期にたったの6時間くらいしかチャンスがないわけです(第1回参照)。妊娠とはこんなに奇跡的なことなんです。
米】「早く知っておけばよかった」という人はたくさんいますね。
齊】妊娠の基礎知識は男女とも持ってないと。長い人生の中で大切なことです。そして、男性も女性も、結婚をきっかけに自分の健康を見直してもらいたいです。
米】これを読んでくださった方はきっともう大丈夫ですね。これからふたりで、将来どんな家族でいたいかをたくさん話し合ってほしいと思います。齊藤先生、ありがとうございました。
(撮影/古谷利幸 文/関川香織 企画編集/たまひよ、ウエディングパーク)