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「小さな後悔や迷い、悩む気持ちを大切に」小児科医・高橋孝雄が見つめる結婚と子育て

結婚したら子どもがほしい。逆に、結婚したい気持ちはあるけれど、子育ては不安。「結婚」と「子どもを持つこと」は近いタイミングで考えられることの多いテーマです。

大なり小なり、多くの人が悩みを抱える親子関係。そして、結婚する前から漠然とした不安を感じてしまい、その後の人生で向き合い続けることになる「子育て」。

「お腹にいる赤ちゃんに胎教としてクラシックを聴かせるべき」「グローバルに活躍するためには、幼少期から英語のネイティブスピーカーと話せる環境を」「将来のために学校だけじゃなく早期教育が必須」

まことしやかにささやかれる多様な情報がお父さんお母さんの心を揺さぶる理由は、「子どもに後悔させたくない」「親として後悔したくない」という気持ち。

その不安に対してやさしく語りかけるのが、『小児科医のぼくが伝えたい最高の子育て』を世に出された高橋孝雄さんです。

 「持って生まれた才能はいつか必ず花開く」

「親がすべきことは、子どもを温かく見守ることだけ」

36年間にわたり小児科医として何万人もの親子に出会う中で高橋さんが見出した、子育てにおける本当に大切なものとは──。

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▼プロフィール
高橋孝雄(たかはし・たかお)

1957年生まれ。慶應義塾大学医学部小児科教授。日本小児科学会会長。専門は小児科一般と小児神経。1982年慶應義塾大学医学部を卒業して小児科を専門に選び、小児神経学を研究するために6年後に渡米。マサチューセッツ総合病院小児神経科などの勤務を経て、1994年に帰国。小児科医として36年間診察を続ける中で、何万人もの親子に出会ってきた。長女、次女、長男の3児の父。趣味はランニング。
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小児科医としての36年間の歩みのはじまり

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── 36年間小児科医を続けていらっしゃるとのことですが、高橋さんはなんで小児科を選ばれたんですか?

学生の頃に産婦人科の臨床実習があったのですが、僕の受け持ちのお母さんが妊娠28週で破水して子どもが生まれることになって。28週だと赤ちゃんは生まれてきても息をしないんですよ。心臓がゆっくり脈打つ程度で、見た目には生きているかわからない状態なんです。

でも、そこに待機していた3人の新生児科のドクターがすぐさま赤ちゃんの肺に管を入れて、自分の口でリズムと量をコントロールしながら直接酸素を送り込んだんです。すると赤ちゃんがふわーって全身ピンク色になっていって。驚きました。すばやく無駄のない動きで赤ちゃんを救っている姿を目の当たりにして「命を吹き込んでる。かっこいい!」と思ったのがきっかけでした。

── 小児科の中でもご専門である小児神経は、どんな分野なんでしょうか。

小児科が扱う分野には「成長」と「発達」があります。「成長」とは身体が大きくなって形づくられていくこと。一方、歩けるようになる、話せるようになるといった「発達」とその病気を扱うのが小児神経学の主な仕事です。

僕が小児科医になった頃は、大人の神経の病気についてはとても多くのことが分かっていたのに、子どもの神経、つまり神経の発達についてはわからないことばかりでした。そこで僕は小児神経の最先端の医療と研究に触れたいと思い、小児科医になって6年目でアメリカに留学する道を選びました。

子どもの人生に親が落書きするべからず

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── 「発達」といえば、「早期教育にはほとんど意味がない」とご著書に書かれていましたね。

お父さん、お母さんが教育に情熱をかけることは素晴らしいと思います。また、“天才”と呼ばれる一握りの人々だけが生まれつき特別な遺伝子を持ち合わせていて、それ以外の人にとっては教育や努力は無意味であると言っているわけでもありません。

何かに長けていて、その能力に自ら気づき、周囲も能力を伸ばす環境づくりに協力して、本人もくじけず努力を続け、おまけに生まれてきた時代がその能力を発揮できるようなステージ(場面)を用意していた。そんなたくさんの条件が重なった時に、結果として人並外れたことをなし遂げることができるのです。フィギュアスケートというステージが無かった時代にフィギュアスケートの天才は生まれませんでしたよね。

何か際立ったことを成し遂げた人も、後から振り返って「自分はついに孤高のステージに上ったのかもしれない」と感じるのであって、最初から類まれなる成果を目指していたわけじゃない。子どもは、自分から見えている範囲でできるだけ遠くに飛ぼうとします。ところが、もっと遠くのもの、もっと高いものを、親が勝手に目標と決めてしまう。子どもにとって見えない、実感の持てない目標に向かって、子どもの大切な時間を使って、ただただ努力させるのはやりすぎだと感じます。

── 「たまたま上手にできた」「たまたま教えてくれる人に恵まれた」「たまたま好きなことを続けられる環境にいた」といった「たまたま」が重なった時、そこに用意されていたステージに上ることができる、と聞くと、親御さんは「その『たまたま』を与えたい」と必死になりそうですね。

遺伝子の働きは、画一的で個性を許さないものでは決してありません。常に揺らいだり点滅したりしているのです。ですから、遺伝子が描いたシナリオには素敵な余白があるのです。そんな余白にぴったりの素晴らしい出会い、出来事が、何か予想外の驚きをもたらしてくれるかもしれません。ひとつ申し上げておきたいんですが、「遺伝子のシナリオにある余白」は、子ども自身のために用意されたものです。そこの利用方法はお子さんに任せましょうよ、と僕は思います。親が整えるまでもなく、生まれてきた段階で子どものシナリオは整っているんですから。

遺伝子から受け取ったシナリオを子どもがたとえ読んでみることができたとしても、自分がどういうシナリオをもらったのか、何が余白なのかはよくわからない。それでも、余白は子ども自身のためにある。そこに何を書き込むかは、本人のみに許された仕事です。書き込みを自分で決めていく力は、生まれたときから子どもに備わっています。その権利を奪って、親御さんが大切なシナリオを無理やり上書きしたり余白に落書きしたりしてはいけません。親であるあなた自身の遺伝子のシナリオにも素晴らしい余白がある。そっちをお使いなさい。

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── では、お父さんお母さんが子どもにできることはあるのでしょうか?

親ができることは、安心感を得られる環境を準備することです。そのためには子どもが持っている3つの力、「共感力」「意思決定力」「自己肯定感」を伸ばせるように、そっとフォローしてあげてください。これらの力の礎はすでにシナリオに書き込まれているのだから、そこに少しだけ風をとおすイメージです。

シナリオの余白に何を書き込むのかを決めるのは自分だ、と信じられる。自分が言うことは違っているかもしれないけれど、それでも親に話を聞いてもらえるし、違っていても「挑戦してよかった」と思える。そんなふうに感じられるようにしてあげられたらいいですね。

例えば、子どもが「共感されると心地いいんだ」って思える機会を用意する。「大変だったねえ」「でもやってみたんだね」って子どもに共感する。ささやかな選択でいいので、「自分で決めてごらん」って子どもに決定を委ねる。あとから「だからあっちのほうがいいって言ったじゃない」なんて決して言わないこと。教育は曲げるものではなく、伸ばすものですから。

── 3つ目の「自己肯定感」を邪魔しないことが、実は一番難しいのかもしれませんね。

自分が「自己肯定感」を持てているかなんて誰にもわかりません。数値化もできない。「共感力」や「意思決定力」は結果として表れますが、「自己肯定感」は最も主観的なもの。だから子どもが「自己肯定感」を持てているのか、親御さんが気にしすぎる必要もないかなと思うんですよね。

ただ、子どもにとって一番身近な存在であるお父さんお母さんの自己肯定感が低ければ、それはそのまま子どもに伝わります。両親の自己肯定感が高くて悪いことはないんです。子どもがいつか「この家族に生まれてきてよかった」って思えるように、ぜひ「あなたを産んでよかった!」とたくさん伝えてあげてください。

積み重なった後悔よりも「ありがとう」を伝える

── 現実としては、「あなたを産んでよかった」と伝えるよりも「子どもが後悔しないように」の気持ちが先走ってしまうお父さんお母さんが少なくないように感じます。なぜそこまで子育てにおいて「後悔」を恐れるのでしょうか。

自分が後悔したくないからです。「子どもに後悔させないように」は、「自分が後悔しないように」と同じこと。でも、子どもの人生は子どもに任せるしかない。親が後悔すべきは自分の人生であって、子どもの人生じゃないんです。自分が親として後悔したくないがゆえに子どもにやらせていることがあるのなら、それはおやめなさい。

幼いうちから子どもに英語を習わせるのは、「英語をしゃべれるようになりたかった」という自分の夢を子どもに託しているからではありませんか。後悔をやわらげるためには自分の自己肯定感を磨くしかないんだから、今からでも「挑戦してできるようになる」経験を積み重ねていけばいいんです。自分の人生の後悔は、自分で晴らすしかないです。

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── 高橋さんご自身もお子さんが3人いらっしゃるそうですが、ご自身の子育てに後悔はありますか?

ほとんどが後悔です。僕は後悔ばかり。子どもに何もしてこなかった。妻に対してはもっと何もしていない。小さいころの思い出を大きくなってから聞いて「それいい話だね」と子どもに伝えたら、「あのとき何度も話したよ」と言われました。朝、家を出る時、次女に「また来てね」と言われたこともあります。切ないですね。

長男に「決めつけないでよ」って泣かれたこともあった。「嘘をついている」って僕が決めつけてしまったんです。僕も忘れられないけれど、おそらく本人もずっと覚えているんでしょうね。そうやってあとから「ああ、しまった」って思うことばかり。もっと子どものことを見ておけばよかったって何度も思います。

── 高橋さんと同じように子育てに後悔を感じているお父さんお母さんは、どうすればいいんでしょうか。

お父さんお母さんは幸せなんだな、って感じてもらうことは大切だと思っています。親が幸せそうなら、子どもたちも「自分だって幸せになれる」と思えるかもしれない。

お父さんお母さんは子育てにおいて、きっと何かしら後悔しているし、これからもすると思います。でも子どもに申し訳ないと思うのは心の中だけにしておいて、子どもには「後悔していないよ」「私たちは幸せだよ」って伝えてあげたらいいんじゃないかな。親が幸せそうだったら、子どもは「自分は生まれてきてよかったんだ」って自己肯定感を持てるはずです。

親が子どもに「あのときはごめんね」と思う出来事の一つ一つは、多くの場合、子どもにとっては小さな出来事にすぎないんです。後悔している時点で愛情を持っているということじゃないですか。でも親にとっては小さな後悔が積み重なっていった結果、自分の子育て全部がよくなかったんじゃないかと思ってしまう。それは本当は、後悔じゃなくて子どもへの感謝の気持ちでしょう。それなら「ありがとう」と伝えればいい。「生まれてきてくれてありがとう」「あなたと一緒に生きてこられてうれしい」って。

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── 一方で子どもの立場になって考えた時、いつまでたっても親から「あなたに後悔してもらいたくないのよ」、「ごめんね、育て方が悪かったのかしら」と言われることに対して、どうすればいいと思いますか?

もう年齢を重ねているなら、自分の人生は自分で決めるよって思っていれば大丈夫。自分で決める力を信じてほしい。お父さんお母さんの気持ちに共感できたら、それも素晴らしいことです。「そう言う親の気持ちもわかるな。でも私は自分で決めるよ」って。

子どもも育っていつかは親になっていくわけですが、親子の関係をお互い見つめてやり直すチャンスは何度でも訪れます。だから親御さんに何か言われたら、反発するよりも「余計なお世話だけれど、ありがとう」って受けとめて、あとは聞き流して自分の道を進んでいけばいいんです。

見えない将来の段取りを考えるよりも大切なこと

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── 結婚したい気持ちはあるけれど、子育てに対して不安を抱いている若い世代が周りに多くいます。

何歳からパートナーを探して、何年付き合ったら結婚して、何歳で子どもを産んで、って段取りをしている若い方が増えている気がする。そこには後悔したくない気持ちがあるんですよね。パートナーにも生まれてくる子どもにも、後悔させたくない。つまり、自分が後悔したくない。子どもを産むどころかパートナーと出会う前の段階で、すでに後悔への恐れが始まっているんです。

そこには今の世代の育てられ方や晩婚化の影響もあるのかもしれないけれど、それでも僕は強く「後悔することを恐れるのはおやめなさい」と言いたい。そのとき、その年齢でしかできないこと、やりたいこと、楽しいことがたくさんあるでしょう。友だちを大切にするのもいいですね。今の仕事は一生ものかも。たとえ仕事を続けられなくても、今が一生懸命なら、その経験を子どもに話せるじゃないですか。

結婚は人生の大きな大きな約束だから。今、付き合っている人がいてもいなくても、結婚を前提に付き合う年齢だからとか、条件だとか、そういう目で相手を見ないでほしい。それが何歳であろうと、そのときそのときにあなたにとっていいステージが、素敵な才能を活かして舞台に立つチャンスが、人生にはいくつも用意されています。一方、100%後悔しない選択なんてありません。後悔しないことを目的にしていたら、いつかは行き詰まってしまいます。

だからむしろ、小さな後悔や迷い、悩む気持ちを大切にしてほしい。段取りどおりにいかなくても恐れる必要は何もないんです。うまくいかないことだってあるし、うまくいかないから人生おもしろいんですよ。だから自分の人生、後悔を恐れるよりも今に力をぶつけてステージに立とうよ!とお伝えしたいです。


(文:菊池百合子 / 写真:小松崎拓郎/企画編集:ウエディングパーク

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これまで出会ってきたたくさんの親子への思いを胸に、高橋さんが初めて綴った子育て書。親として子育てを考えるだけでなく、子どもとして自身の両親とのわだかまりをほどくヒントにも。親子、そして人生と向き合うきっかけをくれる1冊を、大切な人と一緒にどうぞ。

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○書籍『小児科医のぼくが伝えたい 最高の子育て

高橋孝雄(著)
定価:1,404円
発行:マガジンハウス

持って生まれた才能は、いつか必ず花開く。どの子どもも、親から受け継いだ、素晴らしい素質を持っています。親はあたたかく見守ればいいだけ! 小児科医36年間の経験に基づく納得の子育て論、ついに登場。「もっと早く読みたかった」という声が続出、子育て中の人はもちろん、祖父母世代にも熱く支持され、早くも増刷を重ねています。

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