妊娠・子育て
2019.02.04
「産まない」選択も妊活の一つ。『妊活たまごクラブ』編集長が考える妊活の本質
「妊活」
子どもを持つイメージがあまり描けていない、子どもを欲しいと思ったことがない人にとって、他人ごとのように感じられるこの言葉。
そんな妊活を、「生まれてきた誰もに関係すること」「結婚をする前にも妊活と向き合う意味がある」と教えてくれた方がいます。
「産まないことも、妊活の一つ」
そう断言されたのは、子どもを持つことを考えたい人のための雑誌『妊活たまごクラブ』編集長を務める米谷明子さん。
当時妊娠を公表したばかりのりゅうちぇるさん・ぺこさん夫妻を、「新しい育児のリーダーになる」といち早く見抜いて『たまごクラブ』2018年5月号の表紙に抜擢するなど、妊娠・育児の未来を考え続けてきたエキスパートです。
この分野一筋で30年近く雑誌編集に携わってきた米谷さんに、「妊活とは何か」をうかがいました。
————————————-
▼プロフィール
米谷明子(よねや・あきこ)
出版社に新卒入社し、妊娠・育児雑誌の編集部に配属。結婚を機に退職し、一児の出産を経て雑誌編集に復帰。同じく妊娠・出産系の出版社勤務を経て、株式会社ベネッセコーポレーションへ。たまひよ事業部で『たまごクラブ』『初めてのたまごクラブ』ディレクター、『妊活たまごクラブ』編集長を務めている。
————————————-
妊活とは、一緒に歩んでいく将来を考えること
── そもそも、米谷さんの考える妊活とはどのようなものなのでしょうか?
どうしても「妊活」=不妊治療のイメージが先行しがちで、大変なことのように思われる方もいらっしゃるかもしれません。でも不妊治療はあくまで妊活の一つの選択肢であって、どの段階まで治療するのか、どういう治療法を選ぶのかは、その人の選択次第。私は「産まない」と決めることも妊活の一つだと思っているんです。
最愛の人と出会ったとき、将来どういう暮らしをしていきたいか、いずれ子どもを持つのか、いつ持とうか。子どもを持たない生活はどうだろう。そもそも赤ちゃんを持つってどういうことだろう、私たち二人の生活は変わるんだろうか、とパートナーと二人で考える。
一緒に生きていくことを決断した二人が、「二人でどうやって生きていこう」って将来のことを考える。それも妊活なんじゃないかなと。そういう広義の「妊活」をもっとお伝えしていきたいですね。
── 妊活を広める手段の一つとして、『妊活たまごクラブ』を立ち上げられたんですね。
ベネッセに入社して、妊娠したカップルをサポートする『たまごクラブ』と育児を応援する『ひよこクラブ』を発行している「たまひよ」事業部に入りました。そこで『たまごクラブ』の編集に関わる中で、たまひよが妊活に取り組むべきだと思った理由が二つあって。
一つが、たまひよの読者の方の悩みを聞いていたこと。一人で育児を頑張っているお母さんを見て、広義の妊活の必要性を感じたんです。赤ちゃんがほしいと思った段階から夫婦で妊活と向き合えたら、そのあとの育児もよりよくなるはず。辛いことがあっても喧嘩しても、「二人の子どもだもんね」と原点に戻れますから。
もう一つが、生まれる赤ちゃんの数が減っている一方で、「本当は赤ちゃんが欲しかった」という声が絶えないこと。不妊治療の件数も増えていますし、実際に「不妊治療を経てやっと『たまごクラブ』を買えた」「どうすれば妊娠できるのか、もっと早く知りたかった」と読者さんから聞かせてもらっていたんです。
子育てのことも妊娠のことも事前に情報をお伝えできたら、未来の自分たちを想像するきっかけになるじゃないですか。赤ちゃんと夫婦をたくさん見てきた「たまひよ」だからこそ、妊活に取り組むべきなんじゃないか。そう考えたことが、2014年の『妊活たまごクラブ』創刊号につながりました。
パートナーがいない段階から妊活と向き合う意味
── 『妊活たまごクラブ』がスタートした頃と6年経った今とでは、妊活への認識がどう変化してきたのでしょうか。
創刊号を出した2014年は、ちょうど「妊活」という言葉が一般化し始めた頃。森三中の大島美幸さんが「妊活休業宣言」をされたのが2014年。その前にはNHKの『クローズアップ現代』で卵子の老化が取り上げられて、「年齢とともに卵子も老化して妊娠しにくくなる」ことが広く知られた頃でもあります。
それまでは年齢を重ねた著名な方の不妊治療がニュースで取り上げられる程度だったので、自分ごとになっていない方が多かったんでしょうね。これまで認識されていなかった妊活が一気に広まって、「妊活したほうがいいんだ」と考える若い方が増えたタイミングでした。
そこから6年経った今、創刊の頃より読者さんの年齢が若くなっているんですよ。情報にアクセスしやすくなったから、「早めに妊活を始めたほうがいい」と認知されてきたのかもしれませんね。私たちとしても早い段階で広義の妊活を知っていただきたくて、表紙をカジュアルなビジュアルにして手に取りやすいように心がけています。
── 一方で「妊活」が自分ごとになっていない若い世代もまだまだいると思うのですが、どうして若いうちに妊活を知ったほうがいいのでしょうか?
結婚して何年も経った夫婦ほど、「子どもが欲しいんだけれど……」とパートナーに言いにくいようです。妊活も育児も、相手がいること。自分の中で抱えていても、相手にはわからないですよね。早い段階で「私はこうしたい、こうしたくない」ってお互いに伝えられたほうがいい。例えば将来子どもが欲しいなら、結婚前の愛情が高まっているタイミングで「あなたとの子どもが欲しい」と伝えることも育児のスタート地点になるので、すごく大切です。
若いうちにこれから一緒に歩んでいく将来を二人で考えることが、お互いの今後に大きな影響をもたらします。どんな性生活を営んでいきたいのか、子どもを持ちたいのか、子どもを持った後に仕事はどうしたいのか。どんなに素敵な人でも、そこの価値観が合わなかったら選ぶ相手が変わるかもしれないですよね。
今はパートナーがいなくても、将来のことを考えていれば相手ができたときに自分の言葉で話しやすいはず。だからこそ、若い方やパートナーを決める前の方にも妊活を知っていただきたいなと思っていて。自分の人生の延長線上にあるものなので、「生活の一部」として捉えてもらえたらいいですね。
妊娠・育児の分野を30年続けてきた原動力
── 『妊活たまごクラブ』を制作する上で大切にされてきたことはありますか?
最初から掲げてきたコンセプトは、「二人で読む妊活のスタートブック」。少しずつ認知されてきていますが、不妊の原因のうち半分は男性にあります。妊活って女性が一人で頑張るものではなくて、二人で向き合うもの。だから男性にとっても自分ごとになるように、創刊当初から男性の妊活についても紹介しています。
あとは避妊の方法を学校で習っても、妊娠するための知識を学ぶ場面がないみたいで。知っているようで知らない。だから妊娠の仕組みやホルモンバランスなど、「そもそもどうやって妊娠するんだろう」という疑問を解決できる基礎情報を大切にしています。実際に読者さんにうかがってみると、知識のページが人気なんですよ。
── たくさん読者の方の声をたくさん聞いていらっしゃるんですね。
はい、イベントやアンケートを通してたくさんお会いしてきました。『たまごクラブ』には出産ドキュメントの特集があり、編集部はお産に立ち会わせていただくこともあります。出産しているときの女性って、ものすごく生命力がみなぎっているんですよ。新卒入社した会社で初めてお産の立会い撮影をしたとき、「こんな思いで赤ちゃんを産むんだ……」って自然と涙が出たことを覚えています。
── さまざまな悩みを抱えていたり苦しかったりする読者の方もいらっしゃると思うのですが、米谷さんはどう向き合っていらっしゃるんでしょうか。
読者さんとお会いして、その方がキラキラしているところを見られる。その姿が素敵だなって思うんです。仕事に打ち込んでいるときもそうですが、生命力が出ている瞬間ってすごく人間らしくていいなって。そういう場面をたくさん見たいから、日々仕事しているのかもしれません。
悩んでいる姿も、私には素敵に見えます。私自身バリバリ仕事をした20代を終えるタイミングで結婚できるのか不安になったり、結婚してすぐには子どもができなかったり。だから「妊娠した人が読む『たまごクラブ』がまぶしくて手に取れない」「お母さんたちが集まっている場所に近寄れない」って辛くなる気持ちもわかるんですよ。あとは、残念ながら赤ちゃんが生まれてこないことや悲しい場面もあります。
でも、悲しいと感じるのも悩みを持つのも、心からの願いを持っているからですよね。その願いも含めてみんな素敵だと思うんです。目の前の人の人生が変わる瞬間に立ち会って、たくさん「おめでとうございます」とお伝えできて、毎日感動したり素敵だなと思ったりする。だからこの仕事を続けているんだろうなと思っています。
将来だけでなく、人生の原点を見つめ直す機会に
── 30年近くにわたって妊娠・育児の分野と向き合ってきた米谷さんが、『妊活たまごクラブ』に込めている願いを教えてください。
大げさかもしれませんが、『妊活たまごクラブ』は人生を考える雑誌だと思っているんです。だって、みんな昔は赤ちゃんだったわけじゃないですか。かつて自分が赤ちゃんであったことを、もう一度見つめなおす。自分がベビーカーの中に座っていたりたくさんの人にかわいがってもらったりしたことを、振り返って想像してみるチャンスだと思っていて。
それだけでも、自分がこれからどう生きていくのか、自分が生まれてきたことにどういう意味があったのかな、と振り返る材料になるはずなんです。結果的に自分が赤ちゃんを持つことを選ばなくても、これからの生き方を考える上で必要な機会じゃないかな。全ての人の原点である「生まれてくること」の素晴らしさを見つめ直すきっかけ、これが妊活のもう一つの役割だと思っています。
(取材・文:菊池百合子 / 写真:土田凌/企画編集:ウエディングパーク)
「たまひよ妊活」編集長米谷さんもゲスト出演する、たまひよ妊活×ウエディングパークの特別イベントに【20組40名のカップル】をご招待します!
イベントの詳細は特設ページでCHECK!
https://www.weddingpark.net/magazine/8356/
※応募は~2月17日(日) 23:59まで