変化を迫られている業界の「覚悟」を後押ししたい。業界誌「ウェディングジャーナル」が目指す、情報発信のその先【#ミライケッコンシキ Vol.9】

変化を迫られている業界の「覚悟」を後押ししたい。業界誌「ウェディングジャーナル」が目指す、情報発信のその先【#ミライケッコンシキ Vol.9】

新型コロナウイルス感染拡大により、世の中が大きく変わりつつあります。個人の価値観が変化し、それに伴ってさまざまなサービスがアップデートされるなか、これからウエディング業界にも変化が生まれていくことは想像に難くありません。

では、未来の結婚式はどうなっていくのでしょうか。シリーズ「#ミライケッコンシキ」では、「ミライの結婚式のために、イマ私たちができること」をテーマに、ウエディング業界に携わる方々にオンラインで取材しています。ミライの結婚式、一緒に考えてみませんか?

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今回取り上げるのは、業界向けの経営情報誌「Wedding Journal(ウェディングジャーナル)」です。「ウェディング業界に“いい風”を吹かせます」と掲げた2009年の創刊号以来、経営者から現場スタッフまで幅広い読者に役立つ情報を提供してきました。

ウェディングジャーナルの特徴は、一つのテーマを深掘りすること。2020年2月25日号からは新型コロナウイルス感染症による業界への影響の特集を開始し、その後も連続して新型コロナウイルスの影響と今後の結婚式のあり方を取り上げています。

刻々と情勢が変化するなか、ウェディングジャーナルでは何を目指して情報発信を続けているのでしょうか。前職の頃からウェディング業界で18年にわたって記者を続け、ウェディングジャーナルに創刊から携わっている後藤祐一さんにお話をうかがいました。

(※ このインタビューは、2020年6月29日にオンラインにて実施しています)

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■ プロフィール
Wedding Journal(ウェディングジャーナル)

2009年に創刊された、株式会社リフレクションが運営する業界誌。同社はウェディングジャーナル発行の他、「ブライダル経営者サミット」をはじめとする経営者向けイベントの開催や、書籍出版などを手がける。
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ウイルスの影響と情報発信は、切っても切り離せなかった

── ウェディングジャーナルとは、どのような媒体なのでしょうか。

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2009年に創刊された業界誌で、月に2回発行しています。企業の取り組みや経営者インタビューだけでなく、現場のスタッフにもフォーカスしてきました。私はウェディングジャーナルの記者として誌面を制作しています。

── 制作において、新型コロナウイルス感染症による変更が必要になった部分はありますか?

取材ですね。3月から対面での取材をオンラインに切り替えていきました。地方にいらっしゃる方にはもともと電話取材をしていたのですが、春からは首都圏の方にもZoomを使った取材をご提案しています。Zoomだとここだけの話や雑談もしにくいなと感じるので、6月に入ってから状況に応じて少しずつ対面での取材も戻し始めました。

それから、ウェディングジャーナルは月に2回発行しているのですが、4・5月は月1回の合併号に変更しました。緊急事態宣言が発表されてから印刷工場の稼働が少なくなったため、通常の発行体制を保つのが難しくなったんです。

── 取り上げる内容についても、2020年2月25日号以降、新型コロナウイルス感染症関連の特集に注力されていましたね。

そうなんです。新型コロナウイルスによる影響がどんどん大きくなっていったので、春以降しばらくはコロナに関する話題だけに集中しようと判断しました。

業界が少しでも前に進める後押しをしたいので、これから結婚式をどう実現していくのか、そのために具体的にどのようなアクションをおこせるのか、行動に結びつくヒントになる発信を心がけています。たとえば4・5月の合併号は、それぞれ「withコロナの婚礼集客」と「『オンライン新規』の成功マニュアル」を特集しました。

── 日々状況が変わるなか、情報発信者として留意されている点はありますか?

紙媒体だと取材から発行までにタイムラグが発生してしまうので、情報の見せ方に気をつけています。それでも制作に最低一週間はかかりますから、取材時点と状況が明らかに変わってしまい、掲載できなくなった調査データや記事もありました。

新型コロナウイルスに関する情報発信の難しさを初めて感じたのは、2020年2月上旬に、式場および結婚式への出席を予定しているゲスト向けのアンケートを実施したときです。

この回答を2月25日号に掲載予定だったのですが、たった二週間で、式場による式のキャンセルや延期の判断も、ゲストの参列への不安も、大きく変わりました。短期間でアンケートの内容に影響があるほど状況が変わる事態は、創刊してから初めてでしたね。どう掲載するか迷った結果、どの時点での情報なのか明記しました。

その後も、掲載することで企業の対策が遅れていると見られる可能性がある場合、取材をしたものの掲載できなかった記事もあります。紙媒体のタイムラグと、業界を応援したい意志の間で判断を悩むこともありました。いつの時点の情報なのか、読者の方に正確にお伝えする必要性をいつも以上に痛感しています。

変化が求められる今、式場の対応を分けたのは「覚悟」

── コロナ禍で取材を続けられるなか、業界のどのような変化を感じていますか?

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やはり「オンライン化」ですね。社内の打ち合わせや新規のお客様への対応など、それぞれの式場が可能な範囲でオンラインツールの導入を進めています。一部の式場からは「オンライン結婚式」がリリースされて話題になりました。緊急事態宣言中でも今できることに注力した結果だと思います。

ただしオンライン化といえど、完全移行ではなく補足として活用している印象です。予約までの一部のプロセスをオンラインで対応し、リアルでのご見学に誘導している会社がほとんどだと思います。特に首都圏の式場では、オンラインで予約の意思をほとんど固めていただき、見学で確かめ算をするスタイルがよく見られました。

── オンライン化が加速した要因は、新型コロナウイルスの感染拡大だけなのでしょうか。

いえ、新型コロナウイルスに関係なく、多くの式場がすでにオンライン化は考えていたんです。IT化があまり進んでいない業界だったのですが、感染拡大を受けて予定を前倒しし、一気にリリースまで進めた会場が多かったと思います。

というのも以前から、列席者の高齢化が進み、潜在的に「オンライン化しなければいけない」と考えていた式場が多かったはずです。加えて緊急事態宣言による移動の問題が発生したため、遠方にいる親戚に晴れ姿を見てもらいたい需要が顕在化し、オンライン化に踏み切ったのだと思います。ですから新型コロナウイルスがなくても、遅かれ早かれ生じていた変化だと言えるでしょう。

── 以前から時代に合わせて変化すべきだと認識されていた点が、新型コロナウイルス感染症による影響で前に進んだ部分もあるのですね。

そうなんです。既存の仕組みにおいて時代に合わせるのが難しくなっていた部分に変化を加え、新しい方法に踏み出すきっかけになっています。

これはオンライン化に限った話ではなく、集客の方法でも同じことが言えるでしょう。最近ではクチコミサイトやInstagramが台頭してきたものの、依然として紙媒体の影響力が最も強いと考えられてきました。しかし緊急事態宣言を境にして、式場から紙媒体への広告出稿が格段に減少した今、「自社を知っていただくために、これまでの広告とは違う形でできることはなんだろう?」と新しい方法を試すきっかけになっています。

── 他にも、式場によるキャンセル料と延期料の問題が報道されて話題になりました。

方向性としては、大手が動き出した3月以降、延期料をいただかない式場が増えていきました。むしろそれより前の2月、新型コロナウイルスの動向がまだ読めなかった段階で対応を迷っていた式場が多かった印象です。約款どおりなら延期料をいただくべきだけれど、それでは新郎新婦が納得できない。どうすべきかと迷っているうちに対応が遅れた式場で、お客様とのトラブルが発生していました。

── 対応のスピードを分けたものは、何だったと思われますか?

「覚悟」だと思います。そもそも結婚式は新郎新婦が主催者であり、幅広い年齢層のゲストが参列する以上、安心・安全を担保しないと実施できないものです。新型コロナウイルスの影響が出始めてから、参列予定のゲストから挙がる懸念や不安の声を受け止めていたのは、主催者である新郎新婦でした。そのような状況では、すでに無理して開催できるものではなかったはずです。

このような原点に立ち返って冷静に判断できたかどうか、先がどうなるかわからなくても決断すべきタイミングで覚悟を決められたかどうか。ここが対応のスピードを分けたと考えています。

式場の挑戦を後押しできる情報発信を続けたい

── 業界がこれまで続いてきた慣習を見直すべきときが来ている今、業界誌としてどのように情報を取り上げていきたいですか?

これまでと同じように、業界の方が求めている情報を積極的に出していきたいです。一つはノウハウ。経営者が何を考え決断してきたのか、プランナーさんがどう接客しているか、どうやって新しい取り組みを現場に導入したのか、といった具体的な情報をお届けしていきたいと思います。

今まで続けてきた慣習をいきなり変えるのは大変なことですし、「覚悟」を決めるにしても情報がなければ決断できません。理想の状態としては、マニュアルのように「ウェディングジャーナルを読めば、やったことのないことにチャレンジできた」と思っていただける状態を目指したいです。

もう一つ、経営層の方だけでなく現場で頑張っている方にもフォーカスしたいと思っています。普段なかなか取材されないプランナーさんも、私たちの取材を通じて自分のなかにある情報を整理できたとお話いただけますし、また客観性のある気づきを得られたりする機会になるはずです。

今回の新型コロナウイルスによって、私たちは業界誌の存在意義を考えさせられました。ウェディングジャーナルが大切にしてきた「業界が前に進むための情報発信」が、これからどう求められていくのか。業界誌はどのように結婚式の可能性を広げていけるのか。私たちももう一度「覚悟」を決めて、発信の意義と向き合っていきたいです。


(取材・文:菊池百合子 / 写真:土田凌 / 企画編集:ウエディングパーク)

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