DX事業の開発に、デザイン経営を取り入れたら?ウエディングパーク、変化への挑戦【Wedding-UP DX ~デジタルの可能性を探る~ #社外留職制度編】

DX事業の開発に、デザイン経営を取り入れたら?ウエディングパーク、変化への挑戦【Wedding-UP DX ~デジタルの可能性を探る~ #社外留職制度編】

昨今、耳にする機会が増えているキーワード「DX(デジタルトランスフォーメーション)」。経済産業省は「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義しています。

新型コロナがきっかけで社会のDXが急速に進み、ウエディング業界も変革を迫られている今。結婚式を取り巻く環境やニーズの変化に応えるためには、DXが必要不可欠だと言われています。しかし、結婚式が「リアル」の場であることを前提としてきたウエディング業界は、デジタル化が進みにくい現実もあるのです。

そこで結婚あした研究所では業界のDXを推進すべく、DXに注力している企業を取材し、なぜDXが必要なのかを考える企画「Wedding-UP DX ~デジタルの可能性を探る~」を始めました。

今回は、株式会社ウエディングパークでの動きに着目します。業界のDXを目指してきたウエディングパークは、強みであるデジタル技術をさらに発揮するために、2021年10月から「デザイン経営」を取り入れています。

「デザイン経営」とは、「デザインの力をブランドの構築やイノベーションの創出に活用する経営手法」のこと(特許庁より)。その本質は、人(ユーザー)を中心に考えて根本的な課題を発見することだと定義されています。

このデザイン経営を積極的に取り入れながら、業界のDXを実現する新規事業の立ち上げに取り組んでいるのが、2016年より業界のDXにいち早く取り組み、サービスやセミナーを通し、業界のDXをサポートしているDX本部です。ディレクター、エンジニア、デザイナー、広報などの多様な職種のメンバーで構成され、2022年秋に新規サービスのリリースを予定しています。

どのようにデザイン経営を取り入れ、なぜDXを実現しようとしているのか。DX本部 本部長の小笠真也さんと、株式会社テイクアンドギヴ・ニーズの「社外留職制度」を活用してDX本部に出向している髙橋邦臣さんに伺います。


■ プロフィール

株式会社ウエディングパーク 小笠 真也(おがさ しんや)

2013年、ウエディングパークに新卒入社。入社後、アカウントプランナーとしてクライアントのインターネット集客を支援。2016年7月より新設されたアドテク本部(現 デジタルマーケティング本部)の営業責任者に着任。2021年よりDX本部 本部長に。公式サイト

株式会社テイクアンドギヴ・ニーズ 髙橋 邦臣(たかはし くにおみ)

2010年、テイクアンドギヴ・ニーズに新卒入社。入社後、ウエディングプランナーや支配人として複数の式場で勤務。2021年10月より1年間、社内で導入された新たな人事制度「社外留職制度」を活用し、株式会社ウエディングパーク DX本部にディレクターとして出向中。公式サイト

目の前の顧客だけでなく、顧客のその先に目を向ける

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── 小笠さんはDX本部に着任する以前は営業職を続けていますが、営業の視点と比べて、デザイン経営にはどのような変化を感じましたか?

小笠:営業は、目の前のお客様である式場の方々の声をキャッチします。一方でデザイン経営では、サービスを提供するお客様は同じく式場の方々であっても、その先にいる顧客の顧客、つまり結婚式を挙げるカップルの声に耳を傾ける手法です。目の前のお客さまだけでなく、その先にいるお客様のニーズや社会の問題を見つけて、どのように事業開発につなげていくのかを考えています。

社内では、「三方よし」から学んで「四方よし」を掲げました。カップル、式場、社会、そしてウエディングパークの全てにとって良いサービスとは何なのかを考えるようになった点が、デザイン経営の導入による変化だと感じています。

── 一気に「四方」を考えるようになったことで、戸惑いはなかったのでしょうか。

小笠:当初「デザイン経営を取り入れます」と聞いたときは、正直イメージが湧きませんでした。その頃は営業責任者とDX本部の兼務だったので、営業の観点だと、デザイン経営の発想がすごく遠く感じられて。DX本部でデザイン経営を取り入れようと試行錯誤するうちに、これまで本当の意味でお客様目線を考えられていなかったのかもしれない、と後から気づきました。

── 実際にデザイン経営を導入してみて、いかがでしたか?

小笠:導入してすぐに、DX本部のゼロイチで作り上げる事業フェーズとデザイン経営の相性がすごく良いと感じました。すでに動き出していたサービス開発において「インサイトとは何か?」を考えながら、髙橋さんと一緒に弊社の社長とミーティングを重ねました。

── 留職してきたばかりの髙橋さんも議論に加わったんですね。髙橋さんはデザイン経営を実践してみて、いかがでしたか?

髙橋:私は留職してくるまでウエディングプランナーや支配人として仕事してきたので、式場についてもカップルについても、自分は解像度高く理解できているはずだ、と自負していました。

しかし実際に話し出してみると、デザイン経営の上段である社会や市場について考える視点が抜けていたんです。これまでは現場の目線でしか考えていませんでしたが、上段からも考えないと本当の意味でお客様のことはわからないんだな、と痛感したことが印象に残っています。

デザイン経営は「手法」。良いサービスをつくるために実践した方法

── 具体的には、サービス開発においてどのような方法を取り入れたのでしょうか。

小笠:デザイン経営の大きな方向性は、私たちが変化すべき方向を示す羅針盤が、お客様や社会のニーズであると理解しました。ただ、お客様や社会のインサイトを私たちが言語化できていないので、まずはユーザーインタビューを実施したり街中でカップルのリアルな声を聞いたりと、社会との接点を増やしています。

例えば髙橋さんのおかげで、テイクアンドギヴ・ニーズの式場で働くスタッフさんの1日を見学できました。平日のバックヤードだけでなく土日にパーティーを見学させていただき、カップルとスタッフ両方の1日に触れたんです。これまで全く接点がなかった世界だったので、すごく新鮮でしたね。

── 式の現場を見て、どのような気づきがありましたか?

小笠:最も大きな気づきとしては、スタッフさんが本当に忙しいことでした。私たちが想像している以上にスケジュールがパンパンで、業務が本当に多いんだなと。これまで式場に対して「媒体のコンテンツを更新お願いします」と気軽にお伝えしていましたが、どこにもそんな時間がない実態をようやく把握できました。

一方でより良い業界にしていくために、もっと効率化できるのではないか、と感じる部分もあったんです。スタッフさんが割いているその時間が全てカップルにとって重要かというと、そこにはギャップがあるように感じて。効率化はカップルの体験価値を高める上でも必要だと感じられる、貴重な学びの機会でした。

髙橋:私としては、外から見る機会をつくることが重要だと気づきました。数ヶ月前に自分も式場にいたのに、少し離れたら全く違う世界に見えて、当たり前にやってきたことが疑問に思えたんです。さらに、DX本部のさまざまな職種の方々と一緒に見学したことで多様な感想を聞けて、ずっと中にいたら気づけないことが多々ありました。

── デザイン経営を実践されてみて、デザイン経営への考え方は変わりましたか?

小笠:変わったというよりも、目的として良いサービスを世の中に届けたい思いは変わらないことを再確認しました。その過程でデザイン経営を取り入れることを会社が示してくれたので、最大限に活用していきたいなと。あくまでデザイン経営は手法なのだと理解できましたね。

社外留職制度を通じて得られた、デザイン経営の視点

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── お話を伺っていて、髙橋さんもメンバーとして一緒に動いていることが伝わってきましたが、そもそも髙橋さんがDX本部に入ることになった経緯を教えていただけますか?

髙橋:会社が新たな人事制度としてスタートさせた「社外留職制度」に立候補したからです。入社から11年経ってある程度の成果が見えてきたタイミングだった一方で、自分の成長スピードが鈍化した感覚があったので、ゼロイチの経験ができるウエディングパークのDX本部に惹かれました。ウエディングパークへはテイクアンドギヴ・ニーズ側からオファーさせていただきました。

── ウエディングパークに飛び込んでみて、どんな印象を持ちましたか?

髙橋:ウエディングパークはビジョンを重視した経営をされていて、一つの方向に向かっていることが伝わってきました。それぞれが誰と一緒に走り抜いた先の景色を見たいかを考えた先に、「チームウエディングパーク」としてこのメンバーで取り組むことを大切にしていて、その思いがモチベーションの高さにつながっていると感じます。

ですからセクションの垣根もないんですよね。テイクアンドギヴ・ニーズでは店舗ごとの結束感がすごく強い一方で、会社の結束感についてはもっと伸び代があるかもしれない、と気づかされました。

── 髙橋さんの受け入れについて、小笠さんはどのようなことを大切にしていたのでしょうか。

小笠:出向ではありますが、特別扱いはしていないんです。髙橋さんも含めて、部署のメンバー全員の発言機会を均等につくっていました。そして他のメンバーと同じように髙橋さんに「こういう活躍をしてほしい」とリクエストしましたし、フィードバックもしています。

一つだけあるとすれば、髙橋さんのことを社内で知ってもらったことでしょうか。留職してきた最初の2ヶ月は毎日オンラインでランチ会を開催して、社員のほぼ全員と話してもらえるようにしました(笑)。

髙橋:本当に毎日続けていましたね(笑)。でもそのおかげで、当初は自己成長のためにウエディングパークに来ましたが、今ではウエディングパークに貢献したい気持ちが強くなりました。

ウエディングパークのために頑張ることが業界のためになりますし、社会のためにもなる。その中にはテイクアンドギヴ・ニーズも、そのお客様も、働いているスタッフも含まれる。そうやってつなげる考えを持てたことが良かったなと思います。

── すごくデザイン経営らしい考え方ですね。

顧客の体験価値を高めることが、業界の発展につながる

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── 先ほど新規サービスの開発のお話もありましたが、今後DX本部はどのような挑戦をされていきますか?

小笠:髙橋さんとディスカッションを重ねるなかで一つポイントとして、「顧客満足度を高める体験をつくることが、ウエディング業界の発展につながるのではないか」と考えるようになりました。これまでウエディング業界では結婚式が全てのような位置付けで、私も式が良ければ全て良しだと思っていました。でも自分の挙式をしたら、準備期間のほうが長くて大変で、印象に残るんですよね。

この期間の満足度を高められたら、ウエディング業界はより良くなるのではと考えたので、デジタルを掛け合わせて体験価値を高めるプロダクトを準備しています。DX本部にはエンジニアもデザイナーもいるので、技術とデザインで業界にイノベーションをおこせるサービスを届けたいです。

── なぜ顧客の「体験」に着目されたのでしょうか?

小笠:ユーザーインタビューで、結婚式へのネガティブなイメージを聞いたことがきっかけです。「結婚式ってダサい」「準備が大変だから億劫」といった声を聞いて、この印象を変えるためには体験価値を高める必要があるのではないか、と考えました。結婚式をするもしないも自由ですが、結婚式にポジティブなイメージを持っている状態で選んでいただけたらと思っています。

髙橋:付け加えると、お客様の体験価値を高めることが、スタッフがウエディング業界で働くことを誇りに思えるようになり、ひいてはウエディング業界で仕事している人の市場価値をも高めることにつながるのではないか、と考えるようになりました。

その体験価値を高める上で、根底にはスタッフが介在している価値も重要だと思います。ですので、スタッフがお客様に向き合って発想するクリエイティブな時間を確保するために、効率化できる部分は効率化する。これによってお客様に「よかったよ」とお声をいただけるようになり、スタッフの働く環境も整って、スタッフが「この仕事をやっていてよかった」と思える自信につながっていくのではないかな、と考えています。

── DX本部として、今後社会に対してどんな提案をしていきたいと考えていますか?

小笠:結婚や結婚式を広くとらえた「お祝い」に対して、業界ができることはなんだろう?と考えています。先日DX本部のオンライン飲み会で、「結婚式って何なんだろう?」「食事だけでも結婚式として機能するか?」とディスカッションしていました。私たちが式をつくっているわけではないからこそ持てる視点を忘れずに、これからもDX本部ならではの視点でDXを届けていきたいです。

髙橋:私はコロナ禍で東京に異動になり、毎週当たり前のようにあった結婚式がぴたりとなくなる経験をしました。これは過去10年間働いてきて初めての出来事で、結婚式って当たり前の存在ではなかったことを実感したんです。ですのであらためて結婚式の持つ意味を考えて、カップルだけでなく家族やゲストも活力を得られるような結婚式の価値を広げていきたいと思っています。

そして留職が10月までで終わってしまうので、ウエディングパークで走り切った上で、テイクアンドギヴ・ニーズに戻ったら業界や市場のことを知る視点を伝えていきたいです。業界や市場のことを知らないと「自分たちらしさ」を語れないことを実感したので、その考え方を浸透させて、テイクアンドギヴ・ニーズとしてどうやって社会貢献できるのかを考えていきます。

( 文:菊池百合子 / 写真:土田凌  / 取材・企画編集:ウエディングパーク

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