企業の競争力を高めていくために。事例とともに語る「デザイン経営」の在り方|「Wedding-UP DAY 2022」session1

企業の競争力を高めていくために。事例とともに語る「デザイン経営」の在り方|「Wedding-UP DAY 2022」session1

2022年12月1日、ハイブリッド型のオンラインカンファレンス「Wedding-UP DAY 2022」を開催しました。テーマごと7つのセッションに分けられ、業界の枠を超えた計23名の登壇者がこれからのウエディングビジネスについて考え、ともに語り合いました。

『社会視点で考えるウエディングビジネスの可能性』と題したsession1では、ウエディングパークで行ったデザイン経営の事例を取り上げつつ、多様化が加速していくこれからの企業のあり方について語りました。

デザイン経営は「情熱」と「知性」

2018年、経済産業省と特許庁が“ブランド力”と“イノベーション力”の向上を目標にとりまとめた「デザイン経営」宣言をきっかけに、新たな経営方法として広まりつつあるデザイン経営。

グローバル化、デジタル化を通して世の中の価値観が変わっていくなか、コロナ禍によって多様化はより加速していくと考えられます。そんな時代の変化のなかで注目を集めているのが、デザイナーの思考を経営に落とし込む「デザイン経営」なのです。

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>写真左から、武藤氏、日紫喜、野口氏

session1の冒頭、武藤事務所株式会社 クリエイティブディレクターの武藤 雄一氏は、そんなデザイン経営を「情熱」と熱く語り、株式会社読売広告社 コミュニケーションデザイナーの野口 卓矢氏は「知性」と表現しました。

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「デザイン経営は、企業の競争力を強化するための経営手法であり、デザインの思考方法をビジネスへ活かしていくというもの。そもそもなぜ国がデザイン経営を宣言したかというと、『日本企業の国際競争力の低下』がひとつの理由として挙げられます。

海外ではAppleをはじめ、成長している企業を分析すると、デザイン経営が行われていることがわかりました。『日本企業もデザイン経営を導入することで強くなれるのでは』との考えからまとめられたのが、このデザイン経営宣言だったのです」(野口氏)

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そして「日本企業が強くなるためにはイノベーションが必要!とよく言われますが、ではどうやったらいいのかと言われると、とても難しい。デザイン経営は、このイノベーションを起こすために有効とされる「デザイン思考」を経営に取り入れていく手法なんですね。」と野口氏。

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さらに、デザイン思考とは、デザイナーがデザインを作るときの考え方、思考プロセスのことで、「送り手の気持ちと受け手の気持ち、その両者を想像して、もっとも伝わるカタチ、最適解を見つけていく過程こそがデザインの仕事」といい、最適解は送り手と受け手、2者の視点を何度も往復することから生まれると、図表を示しながら解説。その上で、あらゆる商品やサービスを作っていくときに、こうしたデザイナーの思考方法を取り入れながらビジネスを進化させていくのが「デザイン経営」の考え方であると説明しました。

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「デザイン思考を実践するには、インサイト、プロトタイピング、社会の視点、この3つがポイントです。インサイトとは「受け手の本音」のこと。プロトタイピングは、送り手の想いを早めに形にし、受け手の反応や感想を聞きながらブラッシュアップし、最適解を見つけていくプロセスのこと。社会の視点は、受け手の先にある社会の視点のことをいいます」(野口氏)

インサイト、プロトタイピングは、これまでマーケティング業界においても使われている用語ですが、「社会の視点」とはいったいどういうものなのでしょうか。ここからは野口氏に代わって武藤氏が解説しました。

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「例えばウエディングパークがデザイン経営をしようと考えた場合、まずは、クライアントにあたる結婚式場さんを見ますよね。そして、式場さんはカップルを見る。これが通常の構造です。ところが視点を社会に変えると、カップルの先には社会があり、お客様もウエディングパークも社会の一部であることがわかると思います。だからこそ、目先のターゲットからではなく、社会から順番に見ていこうよ、というのが社会視点の考え方です」(武藤氏)

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「社会の視点を持つと、まず社会課題があって、そこからお客様のニーズが見えてきて、式場はニーズに合わせて新しいサービスをはじめて…と、ウエディングパークは新しい視点を得られるようになります。新しい視点を踏まえることで『こういう式場のあり方はどうか』と提案していくことができますよね。だからこそ、社会の視点から見ていくことが大事だと思います。社会的視点は、友人や家族のなかにも、そして、自分のなかにもある。それを意識することが大切です」(武藤氏)

ウエディングパークが取り組んだ「デザイン経営」とは

ウエディングパークは、コロナ禍を機にデザイン経営に取り組みました。デザイン経営に大切な3つのポイントを踏まえ、なぜウエディングパークがデザイン経営を導入したのか、日紫喜が振り返りました。

■デザイン経営を導入した背景

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ウエディングパークがデザイン経営に乗り出した背景として、日紫喜は「2020年、新型コロナウイルスのまん延によりテレワークを推進していった中で、会社としては変わらずビジョンの実現を目指すために、何か新しい手を打たなければならないと悩んでいました。そんな中でデザイン経営という考え方と出会ったのです」と語ります。

「ウエディングパークの現在地が左下だとすると、目指したいビジョンは右上にあります。不透明不確実なこの世の中で、今まで通りではいけないと感じました。そこで、ビジョン実現を目指す新しい仕掛けとして、社員一人ひとりが社会的視点を取り入れていく『デザイン経営』を進めていこうと決めました」(日紫喜)

武藤氏の「よく決断しましたね」という言葉に、日紫喜は「クチコミサイトを始めた2004年の時と近い感覚でした。当時も前例はありませんでしたが、自分自身を心から信じられていたし、時間は掛かっても結果を出していける確信があったので、今回もそれに近かったです。創業のタイミングと似ている直感というか、ワクワクというか」と笑顔で回答。第二創業期となった2020年を振り返りました。

■デザイン経営導入後の変化は

では、「デザイン経営」導入後にはどのような変化が起き、実績につながったのでしょうか。

「『デザイン経営を始める』と全社員に共有したのが2021年10月。全社浸透を目指すために実行した施策一覧は下記の通りです」(日紫喜)

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「はじめの半年はデザイン経営とは何かを社内に浸透させるフェーズ、そして後半は、デザイン経営の成功体験を積んでもらう取り組みを進めた」と、年表を通して語りました。

「デザイン経営に取り組むにあたって、まず社長がちゃんと本気でやって、先頭に立つ形で進めました。最初の半年は、私の直下に新設したデザインチームと一体となり、全社浸透のための仕組みや仕掛け作りを考えて実行していきました。多くの社員がついてきてくれたおかげで一定の浸透ができたと判断した後半は、デザイン経営の成功実感をもってもらえることをゴールにしようと、表彰制度やプロセスを評価していく取り組みなどを進めていきました。

通常業務内でやってもらったので、社員には大変な思いをさせてしまい申し訳ない気持ちもありますが、そのおかげでデザイン経営が浸透できたのだと思います」(日紫喜)

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ともにウエディングパークのデザイン経営に伴走してきた野口氏・武藤氏も、このように振り返りました。

「一つひとつの取り組みもとても素晴らしいですが、通常業務をやりながら、同時にこれだけの時間をかけて取り組んだのが凄い。かなり勇気のいる判断だったと想像します。強い覚悟がないとこれだけの時間を割くことはできないし、日紫喜さんを信じてついていった現場の皆さんもすごいなと思いました」(野口氏)

「デザイン経営を信じられる社員がいて、経営陣もみんな参加して、通常業務がありながらも未来が大事という考え方が素晴らしいなと思いました。野口さんはデザイン思考、僕は社会的視点について伝えながら、社員の皆さんはそれを学びながら実行していって、実感していくプロセスをともに過ごしました」(武藤氏)

デザイン経営の先に、見えたもの

「社員のモチベーションはどうやって上げていったのか」という武藤氏の問いかけに対し、日紫喜は「もともと会社のカルチャーを大事にして、同じビジョンに向かって一枚岩で進むような姿勢やスタンスを大事にしていました」と回答。

野口氏も大きくうなずき、「(社員の)皆さんが前のめりで、もっと学ぼう、実践していこうという想いが伝わってきました。とあるワークショップの質疑応答が終わらなくて、質疑応答に応えるための時間を別で設けたことも。カルチャーとしてデザイン経営をやっていく覚悟があるのが伝わった」と武藤氏が続けました。

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「それだけ、現場にいる社員の皆さん一人ひとりが、『ウエディング業界の危機に、自分たちが何かやらないといけない』という強い当事者意識を持っているんだなと感じました」(野口氏)

「式場やフォトスタジオ、ジュエリー・ドレス企業の皆さんと向き合う社員の方も多いからこそ、現場が困っていることを肌で感じていたでしょうし、そこに向き合おうとしているところが素晴らしい。応援していきたいと思いました」(武藤氏)

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ウエディングパークの「デザイン経営」は、社内だけの活動を飛び越え、3日で1,500人を動員した「100色の結婚式−2100年までにカタチにしたい100のこと−」展(Wedding Park 2100プロジェクト)などの活動や、「survox(サーヴォックス)」といった新たなサービス開発にもつながっていきました。

野口氏は「デザイン経営で社会的視点を培ったウエディングパークが、自社だけでなくブライダル業界の未来を語り、具体的にアクションしていこうとされているのがウエディングパークらしいと思ったし、素敵でした」と当時を振り返ります。

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「デザイン経営とは何か」からはじまり、デザイン経営を浸透させるための具体的な取り組みや施策の紹介などの話題が繰り広げられた贅沢な45分間。

最後に、視聴者へのメッセージとして、武藤氏は「ウエディングパークは、我々からするとクライアントだけれど仲間でもあります。仲間意識がデザイン経営にも大事だからこそ、そんな関係性を作っていただけて素晴らしいと思いました」と満面の笑みで話しました。

また、野口氏は「伝えきれなかったところもありますが……」と前置きした上で、「これをご覧になっている方の中には、会社をどう変えていけばいいんだろう、ビジネスチャンスをどう広げていけばいいんだろう、と悩んでいる方もいらっしゃると思います。実はそのヒントとなるのが、デザイン経営です。社員一人ひとりが自分ごと化して意識を変え、全社の運動体として活動していくことができるようになれば、結果、大きな変化につながり、社会に影響を与えるような未来につながっていくと思います」とコメント。

最後に、日紫喜が「共創が大事な時代にもなっていますし、デザイン経営にも大事な考え方だと思います。これからも引き続き、我々の成功事例を出していけたらと思いますので、ぜひ応援、そして一緒に共創いただけたら嬉しいです」と締めくくり、session1は幕を閉じました。

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