本質を追求したら、紙と声を折り重ねる「iwaigami」になった。二人の人生を支え続ける結婚式のあり方とは?

本質を追求したら、紙と声を折り重ねる「iwaigami」になった。二人の人生を支え続ける結婚式のあり方とは?

結婚式を「もっともシンプル」にするなら、何を残すだろうか。

30cm四方の桐箱を開けると、小冊子、詩人・吉野弘氏の『祝婚歌』、指輪が入っている。二人で声を合わせて言葉を読み、紙を折り重ね、名前を記す。指輪を交換する。これが2019年4月に誕生したもっともシンプルな結婚式、「iwaigami(いわいがみ)」だ。

結婚式を挙げない人も増えている今、「結婚式を挙げる意味」を追求した先に完成した、「小冊と、誓いの言葉と、指輪でつくりあげるシンプルな結婚式」。既存の枠組みでは自分たちらしい結婚式を挙げられない、と感じていた20代や30代を中心に、じわじわと支持が広がっている。

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iwaigamiは、「Soup Stock Tokyo」で知られるスマイルズ、植原亮輔と渡邉良重によるクリエイティブユニット KIGI(キギ)、企業のデジタル&ブランディングをサポートするTO NINE、結婚指輪を製造・販売するディアマンの四社が手を取り合って実現した。

iwaigamiが見出した「いちばん大切なものを大切にする」結婚式、その「いちばん大切なもの」とは──。スマイルズ代表取締役社長の遠山正道氏と、TO NINE共同代表の吉岡芳明氏に話を聞いた。

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■ iwaigami(いわいがみ)
「もっともシンプルな結婚式」をテーマに掲げ、大切なことを大切にする結婚式をしたい人のためのブランド。2019年4月リリース。「iwaigami」をつくるために、株式会社スマイルズ、株式会社キギ、株式会社TO NINE、株式会社ディアマンの4社が集まり、株式会社二重を立ち上げた。公式サイト

■ プロフィール
遠山 正道(とおやま まさみち)
二重 取締役/スマイルズ 代表取締役社長。「生活価値の拡充」を掲げ、食べるスープのスープ専門店「Soup Stock Tokyo」、セレクトリサイクルショップ「PASS THE BATON」などを展開する。

吉岡 芳明(よしおか よしあき)
二重 代表取締役/TO NINE共同代表。 2014年創業。デジタルネイティブ・ブランドの立ち上げ・運営。オーダーシャツのKEIなどの自社ブランドを展開しつつ、大手アパレル、商社、出版社などのデジタルブランド戦略を多数サポートしている。

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二人にとって必然性のある場所で結婚式を挙げられる

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(左が吉岡芳明さん、右が遠山正道さん)

── iwaigamiはどのような使われ方をされているのでしょうか。

遠山:古くからの友人と久しぶりに会ったときに、「結婚します」と報告してもらいました。聞いてみたら、指輪は買わないし挙式もしないと。じゃあiwaigamiはどうだろうと思って一度見せたら、「こういうものが欲しかった」と言ってくれたんです。

彼女とパートナーは、山の頂上でiwaigamiを使いたいと提案してくれました。二人は石川県に住んでいて、結婚の節目に白山に登りたいと思っていたそうで。古くから信仰が受け継がれてきた場所ですし、二人にとって特別な山です。二人だから選んだ場所での結婚式って、iwaigamiらしいなと思いましたね。

吉岡:登山に同行して撮らせてもらった映像を観ていると、iwaigamiを使う瞬間にたどりつくまでの道のりも含めて、お二人の儀式に思えてきます。他の場所でも別の山でもなく、お二人が選んだ「白山」で挙式する必然性を感じました。

もちろん結婚式のためにつくられた式場も素晴らしいのですが、式場は二人の人生にこれまで登場しなかった場所ですよね。例えば実家のように大切な場所や、人生の一部を形づくっている思い出の地で結婚式をしたいと思う方がいらしたら、iwaigamiが役に立てるんだなと感じました。

白山を登って頂上でiwaigamiを使っている様子を撮影。二人の新たな始まりの日になった

日本で残されてきた「折る」行為が、結婚につながった

── どのような経緯でiwaigamiがつくられたのでしょうか。

遠山:iwaigamiを一緒に手がけたディアマンは、友人が始めた会社です。彼の仕事を見ていると、「結婚」といえば豪華できらびやかなイメージが強い。一方でスマイルズの社内を見渡すと、「結婚」からイメージされるラグジュアリーさとはテイストの異なるものを好きな印象を受ける。

これまでの結婚指輪とは異なるものを求めている人がいるのではないか、と考えたのが始まりです。その段階で、吉岡くんにも声をかけました。

吉岡:結婚指輪をつくるために、遠山さんの元にKIGIさん、ディアマンさん、そして僕らが集まりました。この4社が揃った当初からずっと、HowよりもWhyを突き詰めていったんです。「なんで結婚式をしているのだろう」「なぜウエディングドレスが必要なのだろう」と深めていきました。

── そのような本質的な問いの追求に至った背景をうかがいたいです。

遠山:調べていくうちに、今では結婚するカップルのうち半数以上が結婚式を挙げないと知りました。お金がない、式の準備が大変といった理由の他に、今の結婚式と自分たちがやりたい式にギャップを感じる人もいるようで。そういう理由で挙式しない人に、新たな提案をできるものをつくろうと思いました。

もう一つ、「なんで?」を突き詰める過程で学んだ結婚式の歴史もiwaigamiに反映されています。日本で最初に神社での結婚式をした東京大神宮に足を運んだら、神式の結婚式は明治維新以降に生まれたものだと知りました。それまでは、実家の大広間で親戚を集める形式が多かったようなんです。今の結婚式が「当たり前」ではないと考えるきっかけになりました。

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── 結婚式の歴史から、どのようにiwaigamiにたどりついたのでしょうか?

遠山:今の結婚式かそうでないかの二択ではなく、別の選択肢をつくりたいと思うようになりました。新たな選択肢を考える上で、「なぜ結婚式を挙げるのか」に対する我々のアンサーとして、「二人が契りを結ぶこと」に行き着いたんです。

本来これが目的なのに、今の手段が合わなくて自分たちらしい結婚式をあきらめている人がいる。その人たちが目的を達成できるように、我々の思う一番大切な契りを形に落とし込みました。

吉岡:「なんで?」を深めたら必然的に歴史をひもとくことになり、当初考えていた指輪だけでなく結婚式そのものと向き合っていましたね。自然と「モノ」ではなく「コト」を売る形になりました。

── iwaigamiでは「紙」のモチーフが印象的に使われていますね。

吉岡:iwaigamiの根底には、「折る」という行為があります。ここに「なぜ結婚するのか」の問いに対する答えを込めました。

「折る」に行き着いたきっかけは、武家の礼儀である「折形礼法」。物を贈る際に折り目正しく和紙を折って包む方法です。この「折る」行為は、大切な想いを形にする表現だと感じました。折形礼法からみんなで話をしていたら、結婚とは人生における一つの「折り目」だ、というアンサーに行き着いたんです。

二人のこれまでに区切りをつけ、新たな人生へと踏み出す一歩目。これまでとこれからが「折り重なる」、二人の気持ちが「折り合う」、二人で時間を「折り重ね」ていく。結婚には「折る」行為がふさわしいと考えて、iwaigamiのベースに取り入れました。

iwaigamiがくれた体験に、100万円分の価値があった

── iwaigamiのローンチパーティーで、遠山さんがご夫婦でデモンストレーションをされたそうですね。

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遠山:ええ。妻とは25年以上前に結婚したのですが、iwaigamiの体験は感動的でした。あらたまって伝える機会のない感謝の言葉を伝えて、一緒に声を出して。声を合わせると、背筋が伸びる独特の緊張感があるんです。これは二人の新たな節目にぴったりだなと思いましたね。

吉岡:小冊子を読んだお二人が、アドリブで抱き合うシーンがありました。会場には涙を流している方もいて、重ねられた声に響くものがあるのでしょうね。iwaigamiが生み出す体験の価値を見せてもらいました。

遠山:デモンストレーションを終えて、妻に「iwaigamiの値段、いくらだと思う?」と聞いてみたんです。「100万?」と聞かれて「もっと安いよ」と答えたら、次は「50万?」と言われて。実際の値段は18万円なので、それ以上の価値を感じたのでしょうね。

── 吉岡さんもiwaigamiを使われたんですか?

吉岡:はい、僕も妻と家でiwaigamiを使いました。僕ら夫婦が結婚するとき、妻のお父さんが「二人がつながることは運命だから、言葉や理屈でどうにもならない事態になったとき、もう一度その運命を感じなさい」と僕に言ってくれたんです。その話を思い出して、iwaigamiの「折り目」が運命を感じる原点になると感じました。

── 運命を感じる原点、とはどういうことでしょうか

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吉岡:他人どうしが結婚して一緒に人生を歩んでいく以上、乗り越えるのが大変な瞬間がたくさんあります。僕ら夫婦も何度か存続の危機がありました。一人のほうが楽なんじゃないか、なんで結婚したのだろうと思う瞬間もたくさんあるなかで、それでも二人をつなぎとめてくれたのがお父さんの言葉だったんです。

「運命」という言葉に込めた力を借りて、一緒にい続ける意味を信じる。その意味を信じられなくなりかけたとき、二人で人生を折り重ねる決意に立ち返るきっかけを「折り目」がくれるのではないか、と思います。

── iwaigamiの力を借りて、お二人の原点に立ち返る感覚だったのですね。

吉岡:そうですね。だからこそ、結婚をしなくても後ろめたくない時代に結婚を選択するなら、なんとなく結婚するよりも一度折り目をつけたほうがいいと思います。願いや祈りを込めた「折り目」が、二人の未来を支えてくれるのではないでしょうか。

二人だけの折り目から、また歩き始めればいい

── 今後はiwaigamiをどう広げていきたいと考えていますか?

遠山:iwaigamiを「コト」としてご提案しているので、未だにどんなお店に置いてもらうべきなのかわからないんです(笑)。白山で使ってくれた夫婦のように、iwaigamiが合うお客さんと一緒に育てていきたいですね。

吉岡:セールスするよりも、「なんで?」を問いかけたりそもそもの原点を見つめ直すきっかけにしてもらったり、iwaigamiに合うお客さんたちとコミュニケーションする感覚でつくってきました。これからもこだわりながら体験の価値を高めていきたいですね。

── iwaigamiに込めた願いを教えてください。

遠山:人生100年時代と言われている今、70年以上も結婚生活を続けるって簡単ではありません。再婚が増えるでしょうし、「契約結婚」のように二人の関係を定期的に変化させていく結婚生活もありですよね。

結婚生活の周年記念に二人で新たに折り目をつけたり、再婚を二人だけでお祝いしたりするにも、iwaigamiはぴったりだと思います。僕もそうですが、結婚指輪が複数あっていいわけですから。

迷ったときは大切な原点に立ち返ればいい。原点があるから、いつだって二人でまた歩き出せる。iwaigamiが、そのよすがになったらうれしいですね。

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(取材・文:菊池百合子 / 写真:伊藤メイ子 / 企画編集:ウエディングパーク

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