尊敬しあえる夫婦の関係が、仕事の原動力。ブライダルの伝道師・桂由美を支えてきた信念【結婚編】

尊敬しあえる夫婦の関係が、仕事の原動力。ブライダルの伝道師・桂由美を支えてきた信念【結婚編】

「結婚」

この言葉を語るとき、気づいたら「自分」だったはずの主語がすり替わっていることはないでしょうか。

仕事では自分の信念を貫いていても、結婚の話になると「世間体」や「周囲の考え」に影響される場面が少なからずあると感じます。主語が混ざっていくうちに、自分の本当の気持ちを見失ってしまうことも。

現代でさえ自分の思うような「結婚」を考えることが難しいのに、25歳の未婚女性が「クリスマスケーキ」と言われた時代にありながら、結婚と仕事の両方に自分の信念を貫いた女性がいました。世界的なブライダルデザイナー・桂由美さんです。

国内でのウエディングドレス普及率が3%だった時代、なおかつ、国外に出るには制約が多かった冷戦期。それでもブライダルを学ぶために一人で海外を飛び回り、「日本の和装文化を破壊している」と非難されようともウエディングドレスを広めるために尽力してきた桂さんは、まるでキャリアウーマンの先駆けのよう。

そんな桂さんは一人で道を切り拓いてきたタフな方なのだ、とイメージしていたら、意外にも「うちの夫がね」と何度もお話をされながら顔をほころばせる一面がありました。

ずっとお仕事に打ち込まれてきた桂さんにとって、パートナーはどんな存在なのか。そして、パートナーが亡くなるまでの18年間の結婚生活は、人生にどんな影響を与えたのでしょうか。

仕事編」に続き、後編では桂さんのお仕事を支えた結婚生活のお話を聞きました。

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▼プロフィール
桂由美(かつら・ゆみ)

ブライダルファッションデザイナー。東京生まれ。共立女子大学被服科卒業後、ファッションを学ぶためにパリへ留学。帰国後、1965年に日本初のブライダル専門店を赤坂にオープン。1975年「桂由美ブライダルハウス」を乃木坂に設立。ブライダルショーの開催にも注力し、海外でも「ユミカツラ」の名が知られている。常に新しいブライダルファッションを提案しながら、ブライダルにとどまらない創作を続ける。
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結婚相手に求めた条件は「尊敬できる人」

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42歳で結婚しました。相手は53歳で、初婚同士。本当によく出会えたなあ、と自分でも驚きます。だって、私が学生だった頃は「クリスマスケーキ」という言葉が使われていましたから。12月25日になったら全て売れ残りとして扱われるケーキと同じように、25歳になった女性はお嫁に行き遅れている、って言われていた時代。だから大学を卒業するタイミングでたくさんの縁談が女性に持ち込まれる時代でした。

── でも桂さんは、その時点では結婚を選ばなかったんですよね。

そうです。母の洋裁学校を私が継ぐことになっていたので、「経営できる人と結婚して、学校の理事長になってもらえばいいじゃない?」と周囲に勧められました。そして私が園長になれば、二人三脚で学校が大きくしていけると言われて。つまり、私にもちかけられるのは「仕事」と「家庭」がセットになったお見合いの話ばかり。

でも、私は夫と一緒に仕事をしたいとは思いませんでした。結婚相手に求めたのは「尊敬できる人」。夫婦で学校を経営したら、園長を担う私のほうが立場が上になってしまいます。どうしても自分の学校のために夫を使っている感覚があって、それは嫌だなと。

それよりも、お互いに対等でいられる人がいい。昼間はそれぞれ違う仕事をして、家に帰ったら穏やかな時間を一緒に過ごせる。そういう関係を求めていたんです。これだけは妥協しないと心に誓っていましたね。 

── 別々のお仕事をできる方とのお見合い話はなかったのでしょうか?

「尊敬できる人と結婚したい」と仲人に伝えたら、今度は大学教授や外交官とのお話があって。そういう方々が異口同音におっしゃったのが、「仕事を辞めてくれますね?」と。「素敵だな」と思う方からも、専業主婦になることを要求されました。時には「ワシントンまで一緒に来てくれますよね」って。

正直びっくりしましたね。人生と同じように結婚も多様でいいはずなのに、私の求めるものと相手や周囲の理解が噛み合わなくて。母が始めた学校にも思い入れがありますし、「ブライダルの仕事に挑戦しよう」と意気込んでいたタイミングですから、専業主婦を選ぼうとは夢にも思っていなかった。それで結果「クリスマスケーキ」になったのですが、「変わっている人だから」と言われようと仕事に打ち込もう、と決意しました。

自分のさびしさに目を向けた最初の一歩

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── その後、十数年を経て結婚しようと決意されたのですね。

20代から30代までは仕事一筋でした。日本初のブライダルショップを立ち上げたものの、最初の10年は私のお給料をゼロにして、店舗の2階に寝泊まりして。そういう日々を乗り越えてなんとか経営の目処がついたタイミングで、ふと「残りの生涯を一人で過ごすのはさびしいな」と思うようになったんです。それが40歳頃のこと。

二人三脚で仕事をしようとは思わないけれど、一緒に映画や芝居を観たり旅行をしたり。「ふとしたときに、隣にいてくれる人がいたらいいんだけどな」と考えるようになりました。仕事に打ち込んでいた頃は見過ごしていた、自分の心にあるすき間の存在に気づいたのでしょうね。そういうさびしさともう少し早く向き合えていればな、と思うこともありました。

── 結婚を考え始めて、最初にどう動かれたのでしょうか?

結婚を本気で考えてからは、周囲に「結婚したいと思っています」と自分の意思を積極的に伝えるようにしたんです。「適齢期」はとうに過ぎていたので、本心を伝えることにためらいもありました。この一歩には勇気が必要でしたね。

でもそうやって公言したら、一番身近にいた母が動きまわってくれて。結果、一人の男性とお見合いで意気投合し、5ヶ月で結婚に至りました。結婚できる相手がいないんじゃないか、と心が折れそうな時期もあったので、今までで一番幸せな瞬間は自分の結婚式。今でもよく思い出しますよ。

── 本当は結婚したいと思っていても、自分の心の声を見失うことがあるのですね。

もしも心のどこかに結婚への思いがあるなら、仕事に打ち込んでいてもその願望を打ち消す必要はないですよね。その時々の気持ちとまっすぐに向き合って、願望があるなら「私は幸せな結婚をしたいんだ」と思うことから始めてみたらどうでしょう。

そして、自分から一歩踏み出してみる。私もドラマや小説のように運命的に出会ったのではなく、自分の思いを伝えて人に協力してもらったから結婚できました。行動していれば、きっと自分にとって大切な人と出会える。何歳になろうと、恋も結婚もできる。自分自身の経験から、私はそう信じています。

結婚後も相手への敬意を持ち続ける

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── 結婚後も仕事に打ち込んでいらした桂さんにとって、結婚生活はどのようなものだったのでしょう。

一番の支えです。苦しいときや悲しいときに、自分の大切な人が隣にいてくれる。声をかけてくれる。それだけで元気が出ますし、また明日から頑張ろうと自分を奮い立たせることができました。「結婚して本当によかった」と心から思いましたね。

私のためにアドバイスを伝えてくれることもありがたかったです。いいか悪いか、やるかやらないか、経営は日々判断の連続です。もちろん、迷う場面もある。そんなときに一番身近にいて、利害をとっぱらって心から私を思った上で「やったほうがいいんじゃないの」と伝えてくれる。夫は判断力があって嘘をつかない人なので、彼の言葉を信頼していました。

── 違うお仕事をされている方と結婚してみて、いかがでしたか?

官僚から弁護士になった夫は、私と全く違う仕事をしてきた人。異分野の話を聞けるので、毎日わくわくしていましたね。夫婦の仕事が畑違いだからこそ日々発見がありますし、その気づきが仕事に活かせることも。互いの違いを尊重しあえる人とともに人生を歩めることは喜びでした。

夫は私の仕事をセーブすることは一切言わずに、むしろ「どんどんやれ」って応援してくれて。尊重してもらえて、すごく嬉しかったですね。そう言ってくれるわりには家事ができない人だったから、私は家事と仕事を両立するのが大変でしたけれど(笑)。

── お互いにお忙しい毎日でも円満な関係であるために、何を大切にされていたのでしょう。

一緒に仕事をしている社員にも私に結婚相談を持ちかける方にも、いつも伝えることがあります。それが「恕(じょ)」の考え方。儒教の教えで、「相手の立場を想像してものを考えること」です。学生の頃に教えてもらってから、事あるごとに「恕」の精神を大切にしてきました。

相手に理想を求めてばかりでは、バランスの良い関係を築けません。仕事でお会いしてきた何万組のカップルを思い返してみても、より良い関係を築く上で「お互いが相手の立場で思いやることができるかどうか」が最も大切なことだと思っています。

パートナーの存在が、仕事への原動力につながった

── 桂さんの人生にとって、結婚生活はどんな意味を持っていますか?

毎日仕事に明け暮れている分、私にとってプライベートはほとんどなくて。それでも数少ない休みを夫と過ごせて安らぎを得ました。夫が明るくておしゃべりな人だったから、毎日すごく楽しかった。結果的に、夫との時間が次の仕事に向ける原動力になっていたと思うんです

自分の気持ちに嘘をつかずに行動していれば、最高の人と最高のタイミングで出会えるんだな、と実感する理想的な毎日でした。二人で過ごした時間が、今でも私の支えになっています。

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参照:『新 結婚論』(桂由美・著、主婦と生活社)、『桂由美MAGIC』(桂由美・著、集英社)


(取材・文:菊池百合子 / 写真:土田凌/企画編集:ウエディングパーク

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https://www.weddingpark.net/magazine/8408/
※応募は~4月24日(水) 23:59まで



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