<後編>ベストセラーの生みの親・動物学者の今泉忠明さんが語る、動物から学ぶべき「恋愛」と「結婚」の哲学【パートナーとの関係維持のコツ】

<後編>ベストセラーの生みの親・動物学者の今泉忠明さんが語る、動物から学ぶべき「恋愛」と「結婚」の哲学【パートナーとの関係維持のコツ】

動物に関する数々の書籍の執筆や監修に携わりながら、現役の研究者として奥多摩や富士山の自然調査に取り組みつづけている今泉忠明さん。

児童書としては異例のミリオンセラーとなった2016年発売の『おもしろい!進化のふしぎ ざんねんないきもの事典』をはじめ、進化のしくみを知ってもらいたいという思いから既存の図鑑と異なる切り口で動物の生態を紹介し、子どもから大人まで多くの読者を惹きつけてきました。

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最新作『いきもの人生相談室 動物たちに学ぶ47の生き方哲学』では、「恋愛」や「家族」などをテーマに、幅広い人生のお悩みに対して動物たちの生き方から答えをひもといています。そう、じつは恋愛においても、パートナーの選び方から良い関係を続ける秘訣まで、人間が動物に学べることはたくさんあるんです。

今回はそんな「動物から学ぶ恋愛・結婚」について、今泉さんにうかがってきました。

後編では、パートナーとの関係維持のコツを動物たちに学びます。

前編はこちら>><前編>ベストセラー作家・動物学者の今泉忠明さんが語る、動物から学ぶべき「恋愛」と「結婚」の哲学【パートナー選びの秘訣】

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▼プロフィール
今泉忠明(いまいずみ・ただあき)

東京水産大学(現・東京海洋大学)を卒業後、文部省(現・文部科学省)の国際生物学事業計画(IBP)調査、環境庁(現・環境省)のイリオモテヤマネコの生態調査などに参加する。上野動物園の第一号の動物解説員、「ねこの博物館」館長などを経て、現在も在野の研究者として活動を続ける。著作として『ざんねんないきもの図鑑』(高橋書店)、『恋するいきもの図鑑』(カンゼン)など多数。2018年3月に新著『いきもの人生相談室 動物たちに学ぶ47の生き方哲学』(山と渓谷社)を出版。
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動物は喧嘩しない!?

──動物って、パートナーどうしで喧嘩するんでしょうか。

ないね。動物はパートナー間で喧嘩しません。

──しないんですか!?食べ物を取り合ったり、別れてしまったり……。

別れることはありますよ。オス・メスどちらからも別れを切り出す(?)ケースがありますが、相性が合わずに次のパートナーを求めて別れてしまうケースが見られますね。でも、パートナーがいる間は基本的にオスがメスに人間で言う「ベタ惚れ」状態だから、喧嘩しないんです。

たとえばオオサイチョウという鳥がいるんですけど、彼らは子育てのために木に穴を開けて巣をつくり、メスを巣穴に入れてオスが出入り口をふたしちゃうんです。もちろん、身ごもったメスと生まれくるヒナを外敵から守るために。そうしてオスは毎日何百個もの木の実を集め、ふたにあるほんの少しのすきまからくちばしでコロコロ転がして、えさとしてメスに与え続けます。

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(書籍『いきもの人生相談室 動物たちに学ぶ47の生き方哲学』 絵=小幡彩貴)

長続きのコツ①役割分担を見直してみよう

──動物が喧嘩をしない秘訣ってなんでしょう。

明確に役割分担していることですね。例えば、オスがエサをとってきて天敵と戦い、メスが子育てをする。この分担の内容が異なる動物もいますが、基本的にオスとメスではっきりと役割を分けています。

たとえば、コウテイペンギンの役割分担は特徴的。メスは産卵を終えると空腹を満たすために海に出るんです。そのメス不在の間、マイナス60度の強風が吹きつける中で卵を守るのがオスの役目。メスが2ヶ月間不在にしている間に卵がかえってひなが生まれ、一方でオスは飲まず食わずでみるみる痩せていきます。

メスの戻りが遅れてヒナがお腹を空かせると、オスの消化器官の粘膜がはがれてできる「ペンギンミルク」を緊急食としてヒナに与えるんです。そしてメスが帰ってくると、次はオスが海に出る。こうやって、一年でひとつの卵をペアで上手に分担しながら守って育てています。つねに命がけだから、喧嘩してる場合じゃないですよね。

760_4.jpg(書籍『いきもの人生相談室 動物たちに学ぶ47の生き方哲学』 絵=小幡彩貴)

──人間も役割分担を見直したほうが良いのでしょうか。

そもそも陸上でペアで生活している動物って、類人猿だと珍しいんです。基本的には一夫多妻制が多いですね。それでも人間が進化の過程でペア型を選んだのは、ペアがそれぞれ違う食べ物をとってくるほうが効率がいいから。男は肉を探し、女は木の実や植物を採るっていうように分業して違うものを探すことで、喧嘩になりません。しかもエネルギーのロスが少なく、効率が良い。結果、人間が生き残る確率がかなり高まったと考えられます。

だからパートナーとの喧嘩が多いときは、自分たちの価値観と照らし合わせながら、パートナーと分担の内容を見直してみるのはどうでしょう。「役割分担」はペア型の原点なので、なにかヒントがあるかもしれません。

そして人間の場合は、男性が構ってもらいたいって思うから喧嘩になるんですよね(笑)。そうじゃなくて動物のオスのように自分が構ってあげる、守ってあげる立場になれば、喧嘩になんてならないはずです。自然と「今日も疲れた」じゃなくて「今日も頑張るぞ」って本能で頑張れるようになると思います。

長続きのコツ②尻に敷かれたほうがうまくいく!?

──役割分担した上で、動物に学ぶべきことはあるでしょうか。

人間の場合、男性が尻に敷かれたほうがいいですね(笑)。パートナーと二人になった途端、恩着せがましく「俺が稼いでやっているんだよ」とか「養ってもらって感謝しろ」とか大きな態度をとってしまう男性がいますが、そんなことを言われたら女性はそりゃムカつきますよね。養ってくれなんて頼んでない!って。

動物にはさまざまな群れとパートナーの形がありますが、長い歴史で見ると、オスが食べ物をとってきてメスと子どもを外敵から守る、という役割分担のスタイルが多いんです。だからたとえ男性がお金を稼いでいても、それくらいで威張るべきじゃない。女性は「そんなの動物たちはみんなやっている、当たり前のことなんだ!」って言ってあげましょう(笑)。

男性は「俺に任せとけ!」なんて言わずに、あくまで「なんでも言うこと聞きます」って表面的には尻に敷かれる。それでいて心の中では一人「任せとけ!」って思っているのがいいと思います。でも、心まで尻に敷かれちゃダメですよ。自分の「任せとけ!」っていう心はちゃんと守ってあげなきゃいけない。

──パートナーとの関わり方で、見習うべき動物はいますか?

私、生まれ変われるならネコ科の動物になりたいと思っているんですよ。たとえばトラ。動物として強いし、群れをつくらずに単独で生きているからコミュニケーションが楽っていう理由もあるんですが、一番惹かれるのはパートナーとの関わり方。

ライオンの例が有名ですが、群れはメスだけで形成されていてオスは群れから離れていくので、子育ても群れのメスで担い、オスは何もしないって思われていたんです。でも最近ヒョウの撮影に成功してわかったのが、じつはオスはパートナーのメスと自分の子どもを遠くでそっと見守っている、ということ。あまり接近しないんだけど、母子の周りをぐるぐるまわって天敵や他のオスから守っているんです。たまに子どもに近づいていって子どもと一緒に遊ぶんですが、すぐにプイって行っちゃってまた周囲を静かに守りはじめる。

家庭で飼われているイエネコでも、子どものところに父親であるオスがたまにやってきて他のオスが来ないよう警戒する様子が観察されているので、ネコ科のオスはみんなそうなのかもしれません。

こうやって、「俺が守ってやっているんだ!」ってアピールするんじゃなくて、内緒で黙って守ってあげているところが美しいなって思うんです。男の鏡ですよね(笑)。

パートナーと円満に過ごすためのヒント

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──恋愛や結婚について悩んだとき、どこにヒントを求めるといいでしょうか。

動物って種類ごとにルールが決まっていて、違反すると遺伝子を残せないんです。だから動物たちはみんな忠実にルールを守っています。

そう考えてみると、基本的には人間も人間のルールを守ったほうがうまくいくと思いますよ。じゃあ人間のルールはどうやって学べばいいの?っていうと、昔の古典や小説を読むのがいいんじゃないかな。

私が若い頃は大人がそういったルールを教えてくれましたが、やっぱり自分で勉強するのが一番大事だと思います。そのために文学って残っているわけだから。だから人間のルールは古典や文学作品から学びつつ、人間にも共通する動物全体のルールは動物のやり方を見習うのがいいんじゃないでしょうか。

(文:菊池百合子 / 編集・写真:小松崎拓郎 )

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○書籍『いきもの人生相談室 動物たちに学ぶ47の生き方哲学』

小林 百合子 (著)、 今泉 忠明 (監修)、小幡 彩貴 (イラスト)
定価:1,296円(本体1,200円+税)
発行:山と溪谷社

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