
Wedding-UP DAY
2025.07.18
結婚式の「四方良し」を叶えるために。業界変革に向けて必要なこととは|Wedding-UP DAY 2025【近畿・中四国編】
2025年1〜2月に全国5エリアを対象にオンラインで開催した「Wedding-UP DAY 2025」。時代と共に移りゆくカップルのニーズとウエディングの本質的価値を捉え、社会が必要としているウエディングのあり方を式場各社と共創していきたいという想いのもとに開催されました。
第1部ではマーケティングトレンド勉強会を、第2部では各地の事業者様と共に特別クロストークセッションを実施し、業界全体が社会視点で課題を捉え、カップルだけでなく働き手も幸せになる「四方良し」の未来を考え、共に語り合いました。
今回は、2月6日に開催された近畿・中四国編の第2部でバリューマネジメント株式会社 マーケティング部長兼婚礼事業部長 兼 ザ・ヒルサイド神戸 施設GMの笠 正太郎氏を迎えた、特別クロストークセッションの模様をお届けします。
■登壇者プロフィール
スピーカー:
バリューマネジメント株式会社 マーケティング部長兼婚礼事業部長 兼 ザ・ヒルサイド神戸 施設GM 笠 正太郎氏
株式会社ウエディングパーク 松尾 美緒
ファシリテーター:
株式会社ウエディングパーク 小笠 真也
転換期を迎える結婚式業界
笠氏は「ウエディング業界が過渡期を迎えている」と指摘します。「結婚式だけでなく、結婚にまつわる全ての領域が社会的な課題になりつつあります」と述べ、人口減少、結婚する人の減少、「ナシ婚」の増加など、マクロ的な視点からの課題を挙げました。
さらに「今後、結婚式を実施する層がZ世代になっていく中で、ニーズの多様化に対して時代錯誤、時代遅れなどで業界が追いついていません」という現状を指摘。これらの課題に対して、「業界の今までの常識を認めつつ、疑いつつアップデートする必要がある」と提言しました。
笠氏は結婚式の本質的な変化について、次のように分析します。
「かつての結婚式では、カップルの自己表現が強すぎてゲストが置いてきぼりになることが課題でした。しかし現在は、ゲストをもてなすスタイルが主流です。おふたりに代わり、式場側がゲストへのおもてなしを重視し、感謝を伝える場として機能しています」(笠氏)
しかし、さらなる進化の必要性も説きます。「今後は、カップルだけでなく、ゲスト自身も結婚式の物語の一部として参加できるスタイルが求められるかもしれません。例えば、ゲストが場の中で承認され、別のコミュニティからも評価されるような結婚式の形が新しいトレンドになったり…。結婚式の形は時代とともに変化し続けており、今後もカップルそれぞれの価値観に合わせたスタイルが求められていくはずです」と、笠氏。
最も深刻な課題として、笠氏はカップルとスタッフ間の情報格差を挙げました。その理由として「結婚式は初めて行う方が多いので、場合によってはカップル側が全く情報を持たないこともあるため」と指摘。 また、「これまでは、一定結婚式への参列経験があったので、参列した場で感じ取ることや友達に聞くことなどができましたが、コロナ禍で参列等の経験を積めなかったことで、いざ自分が結婚式をするときに、何もかもが分からない。分からないことが分からないという状態になっています」と説明します。
この状況について、ウエディングパークの松尾は若い世代の抱える不安に言及します。「ウエディング業界に限らず、若い世代のお金の不安が強まっています」と指摘。 具体的には「そもそも結婚式を挙げる資金がない」「結婚式の費用が分かりにくいという漠然とした不安」「準備の進行に伴う金額上昇への不安」といった声が、ユーザーインタビューを通して多く寄せられていると説明します。
ユーザーインタビューについては、笠氏、松尾共に大切にしている姿勢を示しました。
「アンケート結果をただ数字として捉えて終わるのではなく、忙しくても時間を作ってお客様の考えを直接聞くことを大切にしています」(笠氏)
「ユーザーの声をいかにフラットに聞けるかが大事だと思っています。そうしないと『結婚式の今』は見えてきません。結婚式を挙げると選択した方だけではなく、結婚検討段階の方々に、ウエディング業界がどう映っているのかという調査にも注力していました」(松尾)
業界を変える取り組みに着手する両社
「業界変革チーム」が存在し、「業界変革を掲げて入社している人が多い」というバリューマネジメント社。結婚式の費用や契約条件の透明化に取り組んだのは2012年だそうです。
「『we promise』という初期見積=最終見積、という画期的な試みを始めましたが、『早すぎた透明化』は大失敗に終わりました。ただ、お客様に真摯に対応するという意味で、透明化はとても大事であると認識しています」(笠氏)
しかし、この失敗を糧に同社は2018年からは新たなアプローチを開始。予約済の来館前のお客様に対して見積もりシミュレーションができるという自社開発のシステムを導入し、日程や具体的な変動要因も来館前に確認できるようにしたといいます。

左からバリューマネジメント株式会社 笠 正太郎氏、ウエディングパーク 小笠、松尾
一方、ウエディングパークは透明化に向け、2024年11月から「mieruupark」という新サービスを展開。事前に式場の支払いの総額の分布を見ること、事前に見積もりのシミュレーションをすることができるサービスの展開を開始しました。「1社だけではなく、業界全体として透明化していくことが必要という考えのもとで立ち上げたサービス」と松尾。「まさに今回のテーマ『四方良し』の観点で企画から開発まで進めました」と説明します。
サービスをリリースした後の効果について、松尾は「予想外の反応があった」と語ります。「費用のことが事前に知れて嬉しいという声以上に、大切なところまでオープンにしてくれる式場である、という評価が会場への信頼度アップに寄与しています」という声が多く寄せられているそうです。
mieruuparkに対し、透明化以外のメリットを笠氏が質問。それに対して、松尾は「働き手の働きやすさ」を挙げ、「接客がしやすくなった」「若手のプランナーがより費用のことをお客様に納得して伝えられるようになった」という具体的な成果を紹介しました。
「mieruuparkの導入により透明化が進むことが、『四方良し』の観点では改めて大事だと思っているのですがいかがでしょうか?」との松尾からの質問に対し笠氏は、「透明化の取り組みが現場のスタッフにも大きな影響を与えている」と話しました。
「『分からないことが分からない』方へのセールス活動が、だまし討ちのような感覚に陥ることもあり得る」という従来の課題を笠氏は指摘。しかし透明化により、スタッフが介在価値や自分の役割、使命感を持てるような状態になりポジティブな変化が生まれていると説明します。
また、契約条件やキャンセル料についても重要なポイントを指摘。「『結婚式は7ヶ月も先なのに、なぜキャンセル代がかかるのでしょうか?』と話すお客様も、例えば若いうちに結婚して、100万円以上の買い物が初めてなんです、という状態では理解するのも難しいのではないでしょうか」(笠氏)
また、松尾は、ブライダルフェアの現状についても次のような課題を指摘しました。「ブライダルフェアへの参加のハードルが上がってきているという印象を持っています。土日に時間を作ってフェアに足を運んでも、長時間かかってしまうようだと足が遠のきます。よりカップルが身近に足を運べる方法やオンライン接客の導入など、できることはまだあるんだろうなと感じています」と話しました。
マーケットの二つの方向性。「守る」と「作る」の戦略
笠氏は、ウエディング業界の今後の展望として「マーケットを守る」と「マーケットを作る」という二つの軸があると考えています。

『マーケットを守る』は、縮小化しているマーケットを業界全体で守っていこうというものです。ウエディング業界は本当に限られたマーケットになっているので、その意味では、あるべき自分たちのポジションをベースにして事業を展開しよう」と提案。一方、『マーケットを作る』については、笠氏はインバウンド対策、「ナシ婚」へのアプローチなど具体例を挙げました。
また、笠氏は結婚式の“ぜいたく品化”への懸念も表します。
「物価上昇は今後も続いていくと思われるが、祝儀の3万円は今後も変わらないのではないかと考えると、おふたりも補填は増える事になる。といった事が起こり得ます。業界全体で解決策を検討していかないと、結婚式がぜいたく品化してしまう懸念があります」と笠氏。
そういった状況において、松尾は、「結婚式をいかに身近に感じられるかということが大事な観点」だと指摘。 「正直、結婚式は金銭的に余裕のある人だけが挙げるもの、という考えがあると思っています。ただ、いろんなお客様がいる中で、予算に応じてさまざまな対応ができるのが結婚式、ということを発信していくことがマーケットを伸ばす上ですごく大事だと思います」と述べました。
また、笠氏は、関西エリアを例に「関西でいうと、京都・大阪・神戸という人口が集まっている地域に対し、滋賀や奈良、和歌山などはより厳しくなっているのではないでしょうか」と地域のマーケットを分析。その上で、「もう、1つの式場だけでは絶対に対抗できないような流れになっています。業界全体、エリア全体という大きな枠組で戦わないといけません」と笠氏。結婚式の文脈だけではなく、一般の文脈で話題に挙がるような手を打つ必要性に言及しました。
「四方良し」実現への道筋。優先順位をつけることの重要性
笠氏は「四方良し」の実現について、優先順位の重要性を説きます。「四方良しを一気にやろうとすると間違いなく分散します。最優先はカップル(顧客)だと思うので、お客様のニーズに応えるプロダクトのアップデートが絶対に必要です」と述べました。
一方で、笠氏は業界の課題として社会との接続の弱さを指摘します。 その解決策として、「行政の考える国策、地方行政が目指す社会の行き先と、ウエディングを繋いでいけばいいのではないでしょうか」と提案。 「人口問題、空き家問題などの世の中の問題点と業界をつなぐ、所得や雇用問題の解決策にウエディングの場が存在する、となればそこで初めて『四方良し』が実現できるのではないでしょうか」と具体例を挙げて説明します。
松尾も「社会から応援してもらえる業界になることが大切」とした上で、ウエディングを用いて社会課題を解決できるかどうかが大事なポイントになってくる、と強調しました。
さらに笠氏は、業界の現状を踏まえた段階的なアプローチの必要性を説きました。「今の業界は、世の中の一般的な消費者の、一般的な生活に対して遅れをとっています。まずは、マイナスをゼロにするところから始めないといけません」と提言しました。
松尾は「『四方良し』の実現は簡単ではないからこそ価値がある」と述べます。「カップルの不安に寄り添い、スタッフが誇りを持って働ける環境を作り、業界全体で知恵を出し合い、社会から応援される存在となる。それは一朝一夕にはいきませんが、だからこそ共に創っていく価値があるのです」と述べました。

続けて「弊社は今、共創という言葉をすごく大事にしています。弊社だけでは『四方良し』の取り組みはかなえられないので、業界の皆様と一緒にかなえられるかが大切だと考えています」と、業界全体での取り組みの重要性を強調しました。
笠氏も「共創」の大切さに同意します。「この業界は隣との繋がりが薄い業界だと感じています。これからは『競争』ではなく『共創』を意識し、ともにマーケットを作っていく必要があります」と、笠氏。
そして最後に「業界のひずみはチャンスでもある」と指摘。 「ニーズとマーケットは対極のようであっても、そこにこそビジネスチャンスがある。各社の強みを活かし、得意とする領域でギャップを解消していくことで、業界の発展、そして社会への貢献につながっていくのではないでしょうか」と締めました。