わたしたちのデザイン経営STORY
2023.09.29
ウエディングパーク的デザイン経営宣言からの2年間を振り返る。コロナ禍での決断から、成功事例を生み出すまで【わたしたちの「デザイン経営STORY」 #1】
2018年に経済産業省・特許庁から発表された「『デザイン経営』宣言」によると、デザイン経営とは、デザインの力をブランドの構築やイノベーションの創出に活用する経営手法のこと。企業の競争力を強化する経営手法として注目される一方で、デザイン経営への切り替えは簡単でないこともまた事実です。
ウエディングパークは経営理念に「結婚を、もっと幸せにしよう。」、ビジョンとして「21世紀を代表するブライダル会社を創る」を掲げ、創業から20年以上、ウエディングシーンでのインターネットやデジタル技術活用領域で様々な事業を展開してきました。
コロナ禍を経て、社会の変化が急速に早まり、未来の予測が困難な状況になった今。一人ひとりの幸せの価値観を尊重し、多様化する価値観に寄り添ったサービス、事業を展開できる会社であり続けるためにはどうすべきなのか、わたしたちは考えました。
創業以来、大切に育ててきた高い「技術力」に加え、デザイン力も高めていくことで、業界にイノベーションを起こしていきたい。全社員が、結婚するおふたり、ウエディング業界、そのすべてを取り巻く”社会の視点”から、常に問い続けて、デザインの発想を取り入れて仕事を生み出せるようになることで、経営理念を実現していきたい。そんな思いで、 2021年10月に「ウエディングパーク的『デザイン経営』宣言」を発表し、今まさにデザイン経営を推進しています。
世の中に多種多様な人が存在するように、デザイン経営のカタチもひとつではありません。まだ最適解を見出している企業もそう多くはないかもしれません。
わたしたちの「デザイン経営STORY」ではデザイン経営について、悩みながらも、挑戦し続けるひとりひとりの「デザイン経営」の物語を取材していきます。 今回はウエディングパークです。ウエディングパークは2021年10月、デザイン経営の導入を社内外に発表し、現在までの2年間、デザイン経営への切り替えを進めてきました。なぜデザイン経営の導入を決めたのか。物事の進め方を変える大きな改革を、どのように進めていったのか。
ウエディングパークがデザイン経営の実践に挑んできた過程を、ブランドクリエイティブ本部 本部長の菊地亜希の案内で振り返ります。
■ プロフィール
株式会社ウエディングパーク 菊地 亜希
ブランドクリエイティブ本部 本部長。2014年ブランドマネージャーに就任。現在は全社のブランディング全般を統括するブランドクリエイティブ本部にて、戦略設計やチームマネジメントに従事。「Wedding Park 2100 ミライケッコンシキ構想」プロジェクト責任者。
コロナ禍における危機感から踏み出した、デザイン経営の一歩目
2020.04 1回目の緊急事態宣言が発令される。全社員テレワークに切り替え。
2020.05 結婚あした研究所にて、新企画「#ミライケッコンシキ -ミライの結婚式のためにイマ私たちができること-」がスタート。
2020.10 新しい中期ビジョン「結婚の幸せへ、まっすぐに進めるデジタルを。」を発表。
2020.12 「10X会議」にて“クリエイティブを会社の競争力にする提案”が採択される。
コロナ禍に突入した2020年春、人が集まって飲食することが制限されて大きな影響を受けた業界の一つが、ウエディング業界でした。予定されていた結婚式が次々に延期になり、業界にとって厳しい時期が続きます。
当メディアでは、コロナ禍での式場の取り組みを紹介するシリーズ「#ミライケッコンシキ」を始めました。
新企画「#ミライケッコンシキ-ミライの結婚式のためにイマ私たちができること-」をスタートします。
2020年6月からスタートした取材を通じて浮かび上がったのは、「このままではお客様をお迎えできない」と強い危機感を覚え、「結婚式の本質とは何なのか」を考え抜く業界のみなさんの姿です。
ウエディングパークも同じように、自分たちの役割と向き合う時期が続きました。業界が苦しい状況に立たされている今、ウエディングパークがするべきことは何なのか──。経営陣も社員もそれぞれが「変わらなければいけない」と次の一歩を模索します。
その模索を通じて、会社を10倍に成長させることを目指す「10X会議」で新たな提案が飛び出しました。「クリエイティブを、競争力に」。ブランドクリエイティブ本部の菊地も、この提案をしたチームの一人です。
▲ブランドクリエイティブ本部 本部長 菊地(写真:伊藤メイ子)
菊地「ウエディングパークはこれまで、クチコミサイトを訪れたカップルにマッチする式場を提案するための技術を強化してきました。しかしこれから会社をもっと成長させるためには、技術に加えてクリエイティブの力が必要だ、と提案したんです」
折しも、経営陣も次の打ち手を模索するなかで、デザインを経営に取り入れることを考えていたタイミングでした。代表取締役社長の日紫喜はこのように振り返ります。
「不透明で不確実な世の中で、今までどおりではいけないと感じました。そこで、ビジョン実現を目指す新しい仕掛けとして、社員一人ひとりが社会的視点を取り入れていく『デザイン経営』を進めていこうと決めました」(「Wedding-UP DAY 2022」より)
こうして、デザイン経営への切り替えが決定されます。業界も結婚式も、そしてウエディングパークも、変化していかなければいけない。そんな危機感が、「デザイン経営」へと踏み出す原動力になったのです。
デザイナーとつくりあげたリアルイベントでの手応え
2021.01 「Wedding Park 2100 ミライケッコンシキ構想」プロジェクト始動。
2021.03 初めての「Wedding Park 2100」の特別イベントを「MuSuBu」にて3日間開催。
デザイン経営を導入する準備が進む一方で、別のプロジェクトが新たに動き出します。コロナ禍で結婚式のあり方が変化する今こそ、「未来」に思いを馳せることで結婚・結婚式の価値を捉え直そうとスタートしたプロジェクト「Wedding Park 2100」です。
2021年1月28日、新プロジェクトをスタートします。「祝う、分かち合う、感動する」結婚式の未来を体験する。
菊地「式を挙げたいおふたりにとって、結婚式があることで、人生がもっと豊かになる。そしてコロナ禍でも結婚式を挙げるさまざまな方法があって、工夫すれば人と集まれる。こういったメッセージをカップルに届けるにはリアルイベントの形がベストだと考えて、イベント開催を決めました」
とはいえ業界を見渡しても、結婚式に関連するイベントといえば挙式することが決まったカップル向けのウエディングフェアのみで、挙式検討中の方以外の方とウエディングの接点がありません。
そこで一般の来場者とウエディングとの新たな接点をつくるために、クリエイティブディレクター・武藤雄一さん、読売広告社の皆さんとタッグを組み、「どんなメッセージを伝えられるか」を重視しながらイベントを設計。結婚式の未来を展示するパートは、日本出版販売株式会社の染谷拓郎さんにプランニングしていただきました。
菊地「やりたいことが固まってからデザインだけを依頼するのではなく、どうやって課題を解決するのかを考えるプロセスからデザイナーの方々と一緒に進めると、『メッセージの伝わり方がこんなにも違ってくるんだ!』と体感する機会になりました」
15名のクリエイターによる表現が次々と目に飛び込んでくる展示はまさに、結婚式のミュージアム。リアル会場・オンライン会場合わせて数百名の来場者とともに結婚式の未来を体感した初めてのイベントは、「Wedding Park 2100」の原点になっています。
▲ 「2100年の結婚式」をテーマにした展示会場の中央には、白い布で仕上げたチャペルを設置。(作:髙橋昌之建築設計事務所・ハラヒロカズアトリエ、写真:土田凌)
そしてイベントを通じて、ウエディング業界からも思わぬ反応がありました。
菊地「業界の方々にも『こういうことをやってほしかった』と喜んでいただけたんです。ウエディングパークだからできることがあって、共感してくださる方がたくさんいらっしゃる。その方々と一緒に、結婚式の核になる部分と、その核を大切にしながらも業界が変わっていける可能性を感じられる時間になりました」
デザイン思考でつくりあげた「Wedding Park 2100」は、デザインがメッセージを伝える力を実感する機会となったのです。
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▼ 初めての「Wedding Park 2100」を振り返る
▼ 「Wedding Park 2100」のコンセプト誕生の背景
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「デザイン経営とは何か」を知ることから始まった全社導入
2021.10 「ウエディングパーク的デザイン経営宣言」として、「技術とデザイン」を会社の競争力にしていくことを発表。
2021.11〜2022.03 デザイン経営を社内に浸透させる社内イベントを実施。
2021年10月の社員総会でデザイン経営の導入を発表することが決まり、社内のデザイナーと菊地を中心に準備を進めていきました。
菊地「最も注力したのは『組織をどうつくるか』を考えることです。これまでWebデザインを担当してきたデザイナーたちが各部門とどう関わると、新しい化学反応が起こるのか。模索する日々が続きました」
そして2021年10月の社員総会にて、新しい経営方針として「ウエディングパーク的『デザイン経営』宣言」が発表されます。
ウエディングパーク的『デザイン経営』宣言~結婚が多様な幸せを叶えていく時代へ~
デザイン経営の導入を宣言してから最初の半年は、デザイン経営を社内に浸透させる期間に設定。デザイン思考を取り入れたものづくりについて、全社員で学ぶ機会を地道に重ねていきました。
菊地「創業から20年以上続けていたやり方を変えることは簡単なことではありませんし、社内のメンバーは負担を感じる場面も多くあったかと思います。それでも、『21世紀を代表するブライダル会社を創る』ビジョンを実現するためには今こそデザイン経営を定着させることが必要だ、と考えて進めてきました」
▲ 経営方針の発表から1年間、デザイン経営を浸透させるための施策を地道に重ねた。
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▼ 代表取締役社長 日紫喜の視点から、デザイン経営の導入について振り返る
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カルチャーをつくり、デザイン経営の成功事例を生み出す
2022.02 カルチャー推進室を立ち上げ。
2022.03 2回目の「Wedding Park 2100」特別イベントを東京・表参道の「スパイラル」で3日間開催。
2022.09 動画で結婚式を探せる「ムビレポ」リリース。
2022.10 カップル向け満足度調査サーベイ「survox」リリース。
2023.03 3回目の「Wedding Park 2100」特別イベント「Parkになろう」展を渋谷区立宮下公園とグランフロント大阪の2会場で開催。
デザイン経営を社内に浸透させた半年間を経て、次に取り組んだのは、デザイン経営を導入した事例をつくることです。2022年4月の社員総会にて「半年以内に事業・サービスの成功事例を出す」と宣言。デザイン思考を取り入れながら手探りで進めてきた各プロジェクトに力が入ります。
菊地「デザイン経営って、導入には大きな変化が必要とされるにもかかわらず、すぐに売上が上がったりユーザー数が増えたりと目に見える変化があるわけではないんですよね。今でも道半ばです。
だからこそ、『変えてみてよかったね』と社内で実感できるトピックを早くつくろうと、それぞれのチームが奮闘。プロトタイプを早めに出してみる動きが活発になって、チャレンジの量が圧倒的に増えたと思います」
並行して、ウエディングパークが大切にしてきたカルチャーをより浸透させるために、「カルチャー推進室」を立ち上げ。新たなポジションとして「カルチャーデザイナー」を設置し、企業文化をデザインすることで社員を幸せにできる組織づくりを強化していきました。
例えば、半年ごとに社内で掲げるスローガン。それまでは、代表が考えた言葉をデザイナーがビジュアル化して発表していましたが、つくり方を変更。カルチャーデザイナーが代表にヒアリングを重ねて代表の考え自体をデザインし、言語化するところから伴走するようになりました。
菊地「経営陣から社員へのコミュニケーションにおけるデザイナーのかかわり方がかわったことで、経営陣の『考え』と、それを表現する『かたち(言葉・ビジュアル)』のつながりが強くなりました。経営陣の思いが伝わりやすくなり社内への浸透速度も上がったと感じます」
▲ 2023年度下半期のスローガン「BEYON-ND!」。
2022年秋には、社内におけるデザイン経営実践の代表例となる新しいサービスが2つ誕生しています。
1つ目は、結婚式当日の様子を音楽付きのショート動画で見られるサービス「ムビレポ」。ユーザーの「自分たちらしい結婚式にしたいけれど、具体的なイメージを持ちづらい」との声から誕生しました。
2つ目は、カップルの満足度を調査する「survox(サーヴォックス)」です。ユーザーインタビューや挙式見学を通じてインサイトを見つけ、ベータ版を式場に使っていただきながら改善を重ねました。
2021年に初開催した「Wedding Park 2100」の特別イベントも、デザイン思考を取り入れながら毎年スケールアップしています。1回目は数百名だった来場者は2回目には1500名近くまで増え、3回目は初めての2会場開催で合計2000名以上が来場。400を超える企業が賛同してくださるイベントになりました。
▲ 2022年は「100色の結婚式−2100年までにカタチにしたい100のこと−」をテーマに、スパイラルで開催。 (写真:関口佳代)
デザイン経営について学ぶところからスタートして2年、社内で「やり方を変えてみてよかった」と共有できる事例が芽吹いてきたウエディングパーク。
これからも「21世紀を代表するブライダル会社を創る」ビジョンに向かって、手段である「デザイン経営」を味方にしながら、人を中心に据えた根本的な課題解決を地道に実現していきます。
菊地「大切なことは、思いを形にして、社会に届けていくことだと考えています。ウエディングパークは社会をより良くしたいから、この事業、このサービスを手がけている。そんな思いを社会に届けていきたいです」
▲ 2000名以上が来場した2023年の「Wedding Park 2100」の特別イベント。東京では渋谷区立宮下公園で開催。テーマは「Parkになろう −結婚式は未来の新しいパブリックに−」。(写真:関口佳代)
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▼ デザイン経営を取り入れたプロダクト開発の舞台裏
▼ 3回目の「Wedding Park 2100」を写真で体験
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(取材・文:菊池百合子 / 企画編集:ウエディングパーク)
ウエディングパークは、日本最大級のデザインカンファレンス「Designship 2023」にDIAMONDスポンサーとして協賛しています。
デザイン経営を取り入れたウエディングパークとして、ウエディング業界をはじめとする社会の発展に貢献すること、そして一般社団法人Designshipのミッションである「次世代の産業に貢献するデザイン人材の輩出」を応援するために、協賛を決定しました。
2023年はカンファレンスにて、本記事でデザイン経営についてご紹介してきた菊地亜希が、「想いを可視化するデザインの力」をテーマに登壇します。ウエディングパークのブースでは「Wedding Park 2100」での展示を一部体験していただけるので、ぜひご参加ください。
(写真:伊藤メイ子)
結婚を、もっと幸せにするために。
結婚式がなぜあるのか?結婚式はいつからどのようなかたちで存在しているのか?ミライはどう変わっていくべきなのか?そんなことを社会と一緒に考えて新しい道をひらいていくために、私たちが「デザインの力」をどうやって活用してきたのか、ご紹介させていただきます。Designshipの会場で、たくさんの方々とお会いできますことを楽しみにしております!
■ウエディングパーク登壇概要
テーマ:想いを可視化するデザインの力
日時:2023年10月1日(日)14:50〜15:00
URL: https://design-ship.jp/2023/timetable