良い関係性を築き、広げる「エシカル」を。THINKSTHINKSのウエディングが描き出す可能性【Your SUSTAINABILITY #4】

良い関係性を築き、広げる「エシカル」を。THINKSTHINKSのウエディングが描き出す可能性【Your SUSTAINABILITY #4】

新型コロナウイルスの流行は、日常に「問い」をもたらしました。例えば購買行動。購買前にしっかり検討する傾向が強まるなか、重視されてきているのが「サステナビリティ」(持続可能性)です。

何を大切にしたいのか。未来に向けて、今踏み出せる一歩とは何なのか。この問いが、人々を変えつつあります。

当メディアを運営するウエディングパークは、「結婚を、もっと幸せにしよう。」を経営理念に掲げてきました。この理念を体現するために、誰もが自分の望む道を選び、幸せを目指せる世界を創っていくことが、私たちの使命です。そして、そのために今選びたい道こそが「サステナビリティ」だと考えました。

ウエディング業界から、未来につなげる幸せの選択肢を増やしたい。そんな思いで、サステナビリティに取り組む業界の方々を取材する連載「Your SUSTAINABILITY 未来につなげる、はじめの一歩」を始めます。一歩目の踏み出し方を、共に学びませんか。

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今回取材したのは、株式会社THINKSTHINKS(シンクスシンクス)です。スタイリストの石井なお子さんとプロジェクトマネジャーの島野麻里さんが2022年に設立した会社で、理念として「エシカル・クリエイティブ」を掲げています。 

お二人ともウエディングに関わる仕事のご経験があったことから、THINKSTHINKSでもテーマの一つとして取り組んできたウエディング。2023年7月からは、山梨県小菅村にあるホテル「NIPPONIA 小菅源流の村」の運営会社と共同で、村を舞台にした婚礼事業をスタートしました。

村をまるごと式の舞台にし、村で暮らす方々とともにつくった小菅村での結婚式から、エシカルウエディングに注力する理由について伺いました。


■ プロフィール
株式会社THINKSTHINKS(シンクスシンクス)

エシカル・クリエイティブの理念に基づいたコンサルタントやクリエイティブ、小売などを手がける。パーパスとして掲げるのは「ひとによいこと、環境によいこと、社会によいこと、をデザインコンシャスに」。 公式サイト

石井 なお子
THINKSファウンダー・取締役、クリエイティブディレクター・スタイリスト。2016年に、社会貢献をファッションやデザインとリンクさせて発信する取り組み「THINKS」をスタート。スタイリストの仕事でウエディングの案件への参加が増えたことで、興味を持つように。エシカルウエディングについてウェブや雑誌で連載を続けている。

島野 麻里
代表取締役/CEO、プロジェクトマネジャー。ウエディング業界でプランニングやブランディングを経験後、コスメやファッションブランドのプロジェクトマネジメントの経験を重ねる。フリーランスとして独立後、仕事をきっかけに石井に出会い、2022年に石井と共同で株式会社THINKSTHINKSを設立。


【エシカルとは?】
英語を直訳すると「倫理的な」の意味を持つ。「人や地球環境、社会、地域に配慮した考え方や行動」のことを指す(一般社団法人エシカル協会より引用)。

モヤモヤを解消するキーワードが「エシカル」だった

── THINKSTHINKSの活動の柱として「エシカル」を掲げた背景には、どのような経緯があったのでしょうか。

石井:私は以前、セレクトショップを自分で運営していたときに、お店における物の流れを目の当たりにしたことが背景にあります。売れ残ったらセールして、それでも売れ残ったら捨てられてしまう様子を見て、心に引っかかっていたんです。

THINKSTHINKSの前身である「THINKS」を始めたきっかけは、2011年の東日本大震災でした。震災を機に、エシカルについて一緒に話せる方が周囲に増えたんです。今なら、一人で感じていたモヤモヤを解消できるような活動を、仕事と掛け合わせられるかもしれないと思って、THINKSを立ち上げました。

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▲THINKSファウンダー・取締役であり、クリエイティブディレクター・スタイリストの石井なお子さん

── 島野さんは「エシカル」への興味はもともとお持ちだったんですか?

島野:私の場合、「エシカル」の言葉にすごく馴染みがあったわけではありません。ただ、ウエディングの会社に在籍していたときにたくさんの素晴らしい式に立ち会えた一方で、心に引っかかっている部分もありました。

まず、とにかく物が捨てられていました。たくさん使い、たくさん捨てる行為が好きになれなくて。それに、スタッフが疲弊してしまう状況にもモヤモヤしていました。式場の売り上げを最大化しようとすると、1日当たりの挙式件数を増やす必要がある。そうなると、現場のスタッフが疲弊していく。それによって新郎新婦様に十分なサービスをご提供できない悪循環が発生していたんです。

見た目の美しさや売上アップだけを刹那的に追求する場面を見かけては、「もう少し違うやり方はないのかな」と感じていました。

── 島野さんが石井さんの活動に惹かれたのは、なぜだったのでしょうか。

島野:石井の話を聞いて、今まで私が仕事で大切にしてきたことに、エシカルとの共通点があると思ったからです。私は、関わる人たちみんなが自分の強みを存分に発揮しながら仕事ができて、いきいきと過ごせることを大切にしたいと考えてきました。そのような状態をつくることもまた、エシカルなのではないかと気づいたんです。

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▲代表取締役であり、プロジェクトマネージャーの島野麻里さん

── モヤモヤを抱えていたお二人が出会い、THINKSTHINKSの指針として掲げている「エシカル・クリエイティブ」の言葉にまとまっていったんですね。

石井:そうですね。おのずと出てきたキーワードでした。

島野:例えば広告撮影の現場って、撮影のためだけに物をつくって捨てることがよくあると思います。でも「そういうことはしたくないよね」と二人で話していて。私たちが携わるクリエイティブの活動は、人と社会と環境に対して優しくありたいと考えて、活動を発信するキーワードとして掲げました。

ウエディングを通じて、より良い関係性を増やし、広げる

── 2023年7月から受付をスタートされた、山梨県小菅村の古民家ホテル「NIPPONIA 小菅 源流の村」(以下「NIPPONIA」)でのエシカルウエディングについて伺います。どのような取り組みなのでしょうか。

島野:人口700人ほどの山梨県小菅村を舞台にした婚礼事業です。古民家を再生した分散型ホテルを運営されている株式会社EDGEと共同で実現しました。

コンセプトは「村まるごと、ふたりの舞台に。」。村の方々の全面的な協力により、村民が運営されている施設や神社なども含めた、村をまるごと舞台にしたウエディングです。

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▲式を挙げる二人の家族だけでなく、村民にも祝福されるウエディング

島野:私たちの提案したい「エシカルウエディング」は、「良い関係性を構築するウエディング」のこと。挙式したお二人にとって、ご家族との絆を深められるだけでなく、小菅村がふるさとのような場所になる。小菅村にとっても、関係人口の創出を強化できる。それぞれの関係性構築を意識したウエディングにしています。

── この取り組みはどのような経緯で始まったのでしょうか。

島野:私がたまたまこちらのホテルに宿泊したことがきっかけでした。宿泊後に代表の方とお話する機会があって、エシカルウエディングのアイデアをお伝えしたら、「もう一度泊まりに来てください」と言っていただけて。2回目に石井と泊まりに行ったその日の晩には「やりましょう」と決まりました。

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▲古民家ホテル「NIPPONIA小菅 源流の村」は、築150年以上経つ村のシンボルを改装して、関係人口創出のために運営を開始

── 偶然の出会いから始まったんですね!

石井:ホテルでは村の方々との関係性をさらにブーストできる取り組みを考えていたので、エシカルウエディングの考え方が合うのではないかと提案できたんです。地域を大切にするホテルの思いが私たちと近いところにあったから、ご一緒できました。

── エシカルウエディングを実現する上で、古民家ホテルの存在は大きかったんですね。

島野:すごく大きかったですね。ホテルのスタッフとの関わりがあったから、村の方々が私たちのことも受け入れてくださったんだと思います。撮影とプレウエディングのタイミングで2回、村の方々にご協力いただかなければならない機会があったのですが、みなさん一緒に楽しんでくださいましたYS_THINKSTHINKS5.jpg

▲村民の立ち会いのもと、結婚式が進行される。プレウエディングでは小菅村の村長が立ち会いを担当 

── プレウエディングを実施して、式を挙げられた新郎新婦の反応はいかがでしたか。

島野:村の方々がお祝いに駆けつけてくださり、温かく迎えてくださったことが特に感動した、とおっしゃっていました。それから、小菅村の植物を使ったグリーンシャワーやテーブルコーディネートと、小菅村の食材を活かしたお料理が印象的だったそうです。

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▲プレウエディングで振舞われた「祝い膳」。ホテルのヘッドシェフが、小菅村に伝わる結婚式の食文化について取材し、その食文化を継承したメニューを現代風にアレンジしている

── お二人はどのような感想をお持ちになりましたか?

島野:式を挙げたお二人だけでなく、式のスタッフも、迎えてくださる村の方々も、関わった誰もが「とても楽しかった!」と言える時間になりました。

初めてなので準備は大変でしたが、スタッフが疲弊せず、楽しんで仕事しているから、そのスタッフに対応される新郎新婦もさらに幸せを感じられますよね。そんな好循環が生まれていたように思います。ホテルスタッフも「小菅村をエシカルウエディングの聖地にしたい」と言ってくれました。

石井:村の方々がすごく喜んでくれていたことが嬉しかったですね。花嫁姿を見て村のお母さんたちが「かわいい」と喜んでくれたり、2回目におじゃましたときには私たちに手を振ってくれたり。式を挙げたお二人も、スタッフも、小菅村といい関係を築ける時間になりました。

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▲村民と結婚式のスタッフが一緒になって新郎新婦をお祝いした 

── THINKSTHINKSが手がけるさまざまなクリエイティブのなかでも、ウエディングだからこそ実現できたことはありますか?

島野:小菅村の婚礼って、今回で約60年ぶりの開催なんです。式を挙げるお二人の人生における節目で、村の文化をつなぐ営みに参加できるなんて、ここまで重みのある機会に関われるのは婚礼ならではだと考えています。

石井:ウエディングだと、お二人やホテル、小菅村との間に、その後も続いていく関係が築きやすいと思います。お子さんが生まれたり、ご両親を招待したりと、「小菅村にまた行きたいな」と思えるタイミングがきっと訪れる。外から一度遊びに来たケースとは違った関係性になっていくのではないでしょうか。

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▲誓いの言葉に「毎年小菅村を訪れます!」と宣言した新郎新婦

ウエディング業界からエシカルに取り組む意義 

── お二人のお話を伺っていると、キーワードとして「関係」がたくさん出てきますね。

島野:まさに、私たちが考える「エシカル・クリエイティブ」とは「良い関係性を構築する」ことです。私たちがご一緒する企業と、その先にいるお客様の間で良い関係性を築けるだけでなく、企業やお客様がさらに社会や自然環境とも良い関係性を構築できるクリエイティブを提供したいと考えています。

私たちがやりたいことをあらためて整理しているときに、全てを集約するのは「関係性」なのかもしれない、とたどりつきました。

── 今後ウエディングのテーマで取り組んでみたいことはありますか?

石井:東京のような都会でエシカルウエディングを成功させてみたいです。「エシカル」と聞くと、自然に囲まれているナチュラルな印象があると思うのですが、「エシカル」イコール「ナチュラル」ではないですよね。ですから都会でエシカルウエディングを実施することに、すごく意味があるんじゃないかなと思っています。

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▲小菅村とは違った形の、土地に合わせたエシカルウエディングが広がっていきそうだ 

── 実際にエシカルウエディングを手がけて、ウエディング業界でエシカルな取り組みをする意義をどのように感じられていますか?

石井:お客様である新郎新婦さんの世代って、エシカルがもう当たり前のことなんですよね。小学生のころから学んでいるので、そんなお客様が選べるウエディングの選択肢を用意したいなと思いながら取り組んでいます。

島野:そうしないと、「結婚式って無駄だよね」と思って挙式しない人がますます増えていくと思うんです。エシカルを学んできた世代にとって、結婚式を無駄なものではなく意味があるものにする一歩として、「なんでこんな無駄なことをしているの?」と思われない式をつくることが重要なのではないでしょうか。

── 次の世代の意識がすでに変化していることに気づく必要がありますね。

島野:お客様の話だけではありません。新しく入社してくる若い従業員も同様に、エシカルが当たり前になってきています。誰かが疲弊していく仕事ではなく、楽しくてやりがいがあって、意味のある仕事に関わりたいと考える人は、エシカルやサステナブルな取り組みをしているチームを選ぶでしょう。

人手不足の今、式場がエシカルな取り組みを始めて発信することは、採用やブランディングにつながります。エシカルがすぐに消費者を増やすことにつながらない、と感じることがあるかもしれませんが、採用には想像よりも早く反応が来るはずです。

石井:そしてすでに、エシカルな取り組みをご一緒できる企業が増えてきています。「何かしたいけれどどうすればわからない」と思ったら私たちにご相談してくだされば、必要とされているパーツを担える企業をご紹介したり、方法をご提案できたりします。ぜひご一緒に、エシカルなウエディングを増やしていけたら嬉しいです。

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(取材・文:菊池百合子 / 写真:伊藤メイ子 / 企画編集:ウエディングパーク


「Your SUSTAINABILITY企画担当のひとこと」

THINKSTHIKNSを知ったのは今年4月に開催された「エシカルウェディングフェス”Joy!” feat.THINKS」がきっかけ。エシカルと聞くと環境に優しい、でもシンプルでなんだか物足りないのでは?と勝手に思い込んでいたのですが、イベントに参加し価値観が覆りました。

「世界観が素敵すぎる!これからウエディング業界でサステナブルが広がっていくには、クリエイティブの力も絶対に必要」と直感的に感じ、すぐ島野さんに取材依頼させていただきました。

サステナブルはキレイごとだけでは実現不可能です。でも、「素敵だな」「美しい」と感じてもらうことは共感を増やし、継続していくプロセスでとても大切。

エシカルクリエイティブを体現し、(THINKSTHINKSの)パーパス「ひとによいこと、環境によいこと、社会によいこと、をデザインコンシャスに。」を熱意をもって体現し続けている石井さんと島野さん。

エシカルクリエイティブ×ウエディングの可能性はまだまだ広がりそうです。

(文:瀬川)

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