結婚指輪は「二人の人生に寄り添うパートナー」ブライダルジュエリーブランド・ith(イズ)【#ミライケッコンシキ2021 Vol.6】

結婚指輪は「二人の人生に寄り添うパートナー」ブライダルジュエリーブランド・ith(イズ)【#ミライケッコンシキ2021 Vol.6】

新型コロナウイルス流行をきっかけに、世の中は大きく変わりつつあります。ウエディング業界にも、今後ますます変化が生まれていくことは想像に難くありません。

2020年からスタートしたシリーズ「#ミライケッコンシキ」では、「ミライの結婚式のために、イマ私たちができること」をテーマに、ウエディング業界に携わる方々に取材を重ねてきました。継続的な取材を通して、2020年と2021年では業界の雰囲気が少し変わってきたと感じます。明日を暗中模索する段階を経て、未来へと力強く歩み始めたような印象を受けるようになりました。

そんな今だからこそ、「#ミライケッコンシキ2021」をスタートします。結婚式はこれからどうなっていくのか。まだまだ先行きが読みにくい今だからこそ、ミライの結婚式について、一緒に考えてみませんか?

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コロナ禍では結婚式だけでなく、ジュエリー市場にも変化がもたらされました。結婚式が中止・延期になった分、婚約指輪や結婚指輪にお金をかける人が増えたと見られています。そして、店舗での接客を重視してきたジュエリーブランドにも、次々にオンラインでの接客や販売が導入されました。

今回インタビューしたのは、D2Cのオーダーメイドブライダルジュエリーブランド・ith(イズ)です。ithでは創業からエンジニアが携わり、積極的にデジタル活用を進めてきました。そしてコロナ禍では2020年4月にオンラインアトリエを、6月にはオンラインストアを開設しています。

このようなスピーディーなデジタル化の背景には、どのような考えがあるのでしょうか。ithのブランド事業部長を務める吉田貞信さんと、ブランド事業部でアトリエマネージャーを務める大橋萌さんにお話をうかがいました。


■ プロフィール

ith(イズ)

アーツアンドクラフツ株式会社が展開する、オーダーメイドのブライダルジュエリーブランド。女性職人が生み出す繊細なデザインと、アットホームな雰囲気でつくられた店舗(アトリエ)が特徴。社内でデジタルツールを積極的に活用してきた知見を活かし、コロナ禍でもスピーディーにオンライン化を進めている。 公式サイト

吉田 貞信

アーツアンドクラフツ株式会社 取締役・ブランド事業部長
一橋大学社会学部卒業。NTTデータ、フロンティアインターナショナルにて、IT、広告・マーケティング領域を中心に、B2B/B2Cを問わず新市場の開拓、新規事業の立ち上げなど多数のプロジェクトに従事。2010年会社の立ち上げに参画。2016年からはジュエリー事業部長として事業の全体戦略設計からオペレーション運営まで全体に携わる。豊富な事業経験を活かし、幅広い業務分野を理解しながら、それぞれの役割や価値をつなげる包括的な仕組みづくりを担う。近著に、独自のブランド開発メソッドをまとめた『ふるくてあたらしいものづくりの未来』がある。 

大橋 萌

アトリエマネージャー
多摩美術大学美術学部卒業。百貨店、専門店にて販売職を経て、2016年にアーツアンドクラフツ入社。つくり手としての接客経験を経て、2018年にマネージャー就任。自らの現場経験を活かし、スタッフ・業務管理ならびに顧客体験のクオリティ向上を担う。


お客様との接点をつくるために、オンラインツールを導入

── ithではデザインの相談から納品の手配までを一貫してオンラインでカバーするオンラインアトリエを2020年4月に開設し、6月にはオンラインストアをオープンされています。スピーディーに対応されている印象ですが、どのように意思決定をされたのでしょうか?

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ブランド事業部長・吉田貞信さん

吉田:2020年4月に緊急事態宣言が発令されて、そもそもアトリエを営業するのかしないのか、スタッフと議論することから始めました。結果、いったんアトリエを閉めて次に向かう準備をすることを決め、そのひとつとしてオンラインでの取り組みに着手したんです。そして5月から本格的にオンラインアトリエをスタートしました。

私たちは、お客様との接点がなくなれば売り上げもゼロになってしまいます。当時はコロナ禍の先行きが全く見えなかったこともあり、経営メンバーだけでなくアトリエスタッフも含めて全社的に危機感を共有できていたので、社内で協力して短期間で新しい取り組みを実施できました。

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ithのオンラインストアでの「お約束」。自宅で指輪を試着できる点が特に好評だという

── オンライン化を進める上で難しかった部分はありますか?

吉田:アトリエではヒアリングの内容を踏まえお客様にリングを試着していただくので、それらの流れをどうすれば画面越しでも体験していただけるのか、工夫を重ねながら試行錯誤してきました。

現在は、拡大して見えるカメラを使用してリングを写して、指輪のデザインやアレンジを決めた後、試着していただくリングをご自宅にお送りしています。アトリエではリングを自由に手に取ってその場で試着していただけますが、オンラインの場合は日常生活のなかでリングを試着していただけるので、アトリエとは違う満足感があるようです。

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オンラインアトリエから生まれた実際の結婚指輪。ithのWebサイトでは、オンラインアトリエの体験談を数多く掲載している

── 大橋さんは、お客様と接しながらどのように感じていますか?

大橋:オンライン接客で方法が変化した部分もあるのですが、ithが大切にしている「たくさんよりも、ひとつをたいせつに」という価値観は、オンラインでも保ちながら進められました。方法が変わっても、オーダーメイドでお届けする一つひとつの指輪に対して真摯に寄り添うことは変わりません。その点を全社で共有できていたので、特に困ることはありませんでしたね。

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左が、アトリエマネージャーを務める大橋さん

スピーディーなデジタル活用を支える、現場との信頼関係

── オンラインツールが導入された一方で、アトリエでの接客には変化はありましたか?

吉田:アトリエにお越しいただく前の、デジタルカウンセリングを導入しました。それまでアトリエで2〜3時間かけて接客していたのですが、コロナ禍でアトリエに長時間滞在していただくことが難しくなった時期がありました。ですから接客時間を縮めるために、ご来店前にお客様にさまざまな情報を入力していただくようにしたんです。

このデジタルカウンセリングを導入したことで、スタッフは事前にご提案の用意ができるようになりました。お客様としても話が早いですし、結果的に顧客満足度も成約率も高まったんです。

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デジタルカウンセリングの画面

── 時間短縮のために取り入れたツールが、顧客満足度の向上にもつながったのですね。

大橋:ithはオーダーメイドなので選択肢がすごく多いのですが、選択肢を絞ってお伝えできるので、お客様にもより満足していただけるようになりました。事前にどんなものをお求めなのか把握できていると、他のスタッフからアドバイスをもらう時間も確保できます。

吉田:以前はジュエリーショップを複数巡ってからどこで購入するかを決めるお客様が多かったのですが、コロナ禍でアトリエを回りにくくなったことで、来てくださったお客様にどれだけ満足していただけるかが決め手になりました。ithでは一貫して顧客満足度の向上に力を入れてきましたが、コロナ禍でさらに力を入れています。

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── 顧客満足度の向上を目指す上で、ithはデジタルカウンセリングのようにシステムを活用していますが、システム開発においてアトリエとはどのような連携を図っているのでしょうか?

吉田:ithの運営会社であるアーツアンドクラフツ株式会社には、創業メンバーの1人にプログラマーがいまして、ithも彼を中心にデジタル活用を進めてきました。

進め方としては、「やってみよう」という話になったらプロトタイプをつくって先ずはリリースしてしまい、それから意見をもらってどんどん直していく方法です。丁寧に準備を重ねた上でリリースするというよりも、現場のスタッフに試してもらいながらシステムを磨いていきます。「こんな状態で使うの?」と思うような段階でいきなりリリースすることもあるので、現場はびっくりしているかもしれません(笑)。

大橋:確かに驚くこともありますが(笑)、「もっとこうしたほうがいいのでは」と伝えたらすぐに反映してもらえるので、安心して意見を言えますね。新しく店長になったスタッフたちも臆することなくどんどん提案できているのは、本部とアトリエとの信頼関係があるからだと思います。

吉田:新型コロナの影響が出る前はもう少し慎重に準備を重ねていて、スピード感は今ほどありませんでしたが、コロナ禍で「変わらなければいけない」という意識を全社で共有できたことに支えられています。

── 他にも、コロナ禍でシステム活用が進んだ部分はありますか?

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ithの大切にしている「たくさんよりも、ひとつをたいせつに」の言葉をはじめ、ithらしさが書かれたペーパーがアトリエに置かれている

吉田:指輪をつくってくださっている外部の会社との連携も、デジタル活用を進めたことでスムーズになりました。これまでは山梨や新潟の工房に私たちが足を運べる日まで、職人さんは聞きたいことを溜めている状態だったんです。しかしオンラインミーティングを導入してから話せる頻度が格段に増えたので、こまめに修正できて作業効率が上がりました。

というのも、オーダーメイドの難しさは情報伝達にあるんです。アトリエでお客様とスタッフが話した内容を、どれだけ忠実に職人に引き継げるかが重要で、伝言ゲームをしていくとやはり情報がずれていくことがあります。そういう部分でオンラインミーティングを活用したら、かなりスムーズにやりとりできるようになりましたね。

人生のパートナーである結婚指輪の価値を伝えたい

── カップルの指輪選びは、コロナ禍で変化がありましたか?

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大橋:指輪をこだわってつくりたい方が増えたように感じます。事前に下調べをして、自分たちのイメージを持って来店される方が増えました。好きなものがはっきりしていて目的意識が強く、「この要素は必ず入れたい」「みんなと同じにしたくない」というご要望が多いですね。

吉田:結婚準備のなかで最も工数がかかる式が中止や延期になるケースが増えたので、指輪にかけられる気持ちの余裕が増えたのだと思います。それから、カップルで一緒にお出かけする機会も減っていたので、指輪選びも受け取りも思い出づくりという捉え方をする方が増えました。

── 印象に残っているお客様のエピソードがあれば聞かせてください。

大橋:式ができなくなってしまったお客様に、納品のときに指輪をつけていただいたら「やっと結婚したんだという実感が湧きました」とおっしゃって、印象に残っています。これまでは、指輪をお渡しする段階ですでに結婚式に気持ちが向いている方がほとんどだったので、指輪の重要度が増したんだなと思いましたね。

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吉田:弊社ではお客様のマイページをつくっていて、指輪の完成を待っている間に制作風景の動画を見られたり、お渡し時の写真を撮って掲載したりしています。そのマイページに書いてくださるお客様のメッセージからも、指輪の在り方が変化したことが伝わってきますね。

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お客様専用のマイページ

── コロナ禍で、あらためて指輪の価値が見直されているのかもしれませんね。

吉田:指輪が徐々に日常に馴染んでいく過程で、ずっと肌に触れているからこそ思い入れが増しますよね。例えば喧嘩をしても、指輪を見たら謝ろうと思える場面もあるでしょう。だから指輪って、結婚したお二人の歩みに生涯寄り添ってくれる人生のパートナーだと思います。そういう価値をあらためてお届けしていきたいですね。

大橋:お客様にはよく「50年先も身につけるものですからね」とお伝えしています。メンテナンスしたり、子どもが生まれたら誕生石を後から入れたりして長く使っていただけるよう、サポートしていきたいです。指輪と一緒に思い出を増やしていっていただけたら嬉しいですね。

吉田:自由な結婚式ができない状況が続いていますが、カップルのみなさんが足を止めずに前に進んでいけるように、僕たちのできることを全力でサポートしていきたいです。

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