Wedding-UP DX
2026.03.24
「自分の評価が怖い」から「フィードバックが楽しみ」へ。成約率を5pt向上させた若手が旗を振る「顧客の声」活用術
DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉が一般的になる中で、多くの企業が「ツールの導入による業務効率化」に終始してしまうという課題を抱えています。しかし、DXの本質的な成功は、その先にある「組織文化の醸成」や「現場の風土変革」にこそ宿ります。
今回お話を伺ったグランドプリンスホテル高輪 貴賓館の平原氏が率いるチームでは、survoxを活用して接客を定量的に可視化しました。導入当初は「自分の評価が直に返ってくるのが怖い」と抵抗感を示していたプランナーたちが、今や「お客様の声を早く確認したい」と声があがるほど組織風土が変化しています。
その結果、サーベイ回収率は目標の50%を大きく上回る約70%を記録し 、新規セールスにおける成約率は約5ポイント向上しました。成績が振るわなかったメンバーにいたっては、約10ポイントもの改善が見られたと言います。
「おもてなし」と「データ」を融合させ、成約率向上と組織活性化を同時に成し遂げた変革のプロセスに迫ります。
■プロフィール
グランドプリンスホテル高輪 貴賓館
約2万m²の広大な日本庭園を有する、歴史と伝統が息づくホテル。旧宮家の邸宅「貴賓館」を舞台に、家族の愛を未来へと継承するウエディングを提案。四季折々の自然と歴史が調和する上質な空間で、洗練されたホスピタリティと共に、訪れるすべての人々の心に刻まれる特別なひとときを届けている。公式サイト

導入当初の壁――「評価される怖さ」を仕組みで解消
―― まず、今回の取り組みを始めたきっかけと、直面した課題について教えてください。
平原氏: 背景として、スタッフがスキルの習得やナレッジの継承にかけられる時間が限られている中で、接客の進め方が属人化してしまい、良くも悪くも「プランナー任せ」になっていたことが大きな課題でした。個々の経験値に依存するため、チーム全体としてサービスの質をどう底上げしていくべきか、その具体的な指針が見えにくい状態だったのです。
また、サーベイを通じて「全国平均」などの客観的なデータに触れ、自社の接客水準が他社と比較してどの位置にあるのかを知ることができるのは、非常に大きなメリットだと感じました。自分たちの立ち位置を正しく把握することで、より戦略的な改善に繋げられると考えたのが導入のきっかけです。
しかし、いざ導入を検討すると「プランナーの心理的な抵抗」という壁にぶつかりました。自身の接客評価がダイレクトに返ってくることに対し、どうしても「怖い」という感情が先行してしまい、当初はサーベイの回答がなかなか集まらない状況がありました。
―― その状況を、どのように解消していったのでしょうか?
平原氏: 「仕組み」と「責任者の姿勢」の両面からアプローチしました。まず仕組みとしては、後日回答ではなく「その場でQRコードを読み込んで回答してもらう」スタイルを徹底しました。
そして私自身が、ブライダルフェアに来館された全組のカップルのもとへご挨拶に伺い、最後にお礼と共に直接サーベイの依頼を行うようにしたのです。マネージャーである私が率先し、「責任を持って声を拾いに行く」という姿勢を見せ、この運用を徹底したことで、回収率は当初目標の50%を大きく超える約70%にまで達しています。その習慣が徐々に組織の当たり前に変わっていきました。
若手が「旗振り役」となり、個人の成長と自信を加速させる
―― 意識が変わるまでには、どのくらいの期間がかかりましたか?
平原氏: チーム全体でお客様の声を集めることが良い影響を与えるという認識が定着するまでには、約半年かかりました。この変革を支え、推進力となったのは20代を中心とした若手メンバーの存在です。
―― 若手メンバーが「旗振り役」になったのですね。
平原氏: はい。若手メンバーたちは、自分の接客評価が即座に返ってくることを非常にポジティブに捉えてくれました。特に、導入当初から積極的に回答を得ていた若手2名は、お客様からの良いフィードバックを直接受け取ったことで、モチベーションが飛躍的に向上しました。
自分たちの接客がどのようにお客様に響いているかが可視化されることで、仕事への自信に繋がり、たとえ厳しい意見であっても「翌日から改善しよう」と前向きに動く姿が見られるようになったのです。今では若手メンバーがチームを活性化させる「旗振り役」となり、ベテラン層も含めた組織全体の空気感をポジティブに変えてくれています。

自律的な振り返り――プランナー自身の喜びが「自走」を生む
―― チームとしての共有だけでなく、プランナー個人でもデータを活用されているのでしょうか。
平原氏: そこが今回、大きな変化を感じている部分です。以前は月次で集計された結果を共有する形がメインでしたが、現在はプランナー自身が分析レポートを確認し、自発的に振り返りを行っています。
―― プランナーが自発的にデータを見に行くようになったのですね。
平原氏: そうです。「今日の接客に対して、お客様はどう感じたのか」が即座に返ってくるため、データを確認することがプランナーにとっての楽しみになっています。中には「見てください、今日こんなに良いコメントをいただきました!」と報告に来てくれるメンバーもいるほどです。
自身でレポートを見ることで、「自分のどの行動が満足度に繋がったのか」「成約に至る成功パターンはどこにあるのか」を分析できるようになりました 。
「待機時間」の短縮に活路。データが示した課題へ、チームの連携で挑む
―― 集まったデータを、具体的にどのように接客現場に落とし込んでいるのでしょうか。
平原氏: 特に注力したのは「時間の使い方の改善」です。サーベイの結果、お客様が接客中の「待機時間」を長く感じており、それが満足度に直結していることが定量的なデータとして明確になったのです。
―― 具体的な対策について教えてください。
平原氏: まず前提として、私たちのブライダルフェアは3.5時間と設定されていますが、これを大幅に超過しないようチーム全体でフォローを徹底しています。ただ、お客様が「長い」と感じてしまうのは、実際の拘束時間よりも「体感時間」に原因があることが多いのです。
そこで、「15分以上のふたりきりの時間を作らない」という目安を現場のオペレーションに落とし込みました。具体的には、見積もり作成時間を短縮するためにシステムをブラッシュアップするのはもちろん、私自身も手分けして見積もりを作成するなど、チームで時間を削る工夫をしています。また、どうしても作成に時間がかかる場合は、私が途中で接客に入り、会話を繋ぎ、おふたりだけの時間を長くしすぎないようにしています。こうしたチーム連携によって、お客様に接客時間が長いと感じさせないよう、「体感時間の短縮」を実現しています。

協力会社との改善――即時のアクションと中長期の戦略
―― この取り組みは、パートナー企業(協力会社)との連携にも広がっているのでしょうか。
平原氏: はい。プランナー個人の成長だけでなく、協力企業のサービス評価にも、サーベイで得たお客様からの声は非常に大きな役割を果たしています。
―― 具体的にどのように改善を進めているのですか?
平原氏: まず、接客時の説明の仕方やツールの見せ方など、現場ですぐに変更できる点については、即座にフィードバックを行い改善を実行しています。例えば「説明が分かりにくい」という声があれば、お客様が完成イメージを具体的に想起できるようなツールへの差し替えを検討するといった具合です。
一方で、単なる接客手法の改善に留まらず、商品そのもののラインナップやサービス内容の見直しといった、商品開発に関わる中長期的な改善にも着手し始めています。月次のミーティングで協力企業と良い点・注意点を共有しながら、現場で即座に直せる「短期の改善」と、腰を据えて取り組む「中長期のアップデート」の二段構えで、サービス品質の向上を追求しています。

約5ポイントの成約率向上。チーム全体のボトムアップを支えるデータの力
―― 最終的に、どのような定量的な成果が現れましたか?
平原氏: 新規セールスにおける成約率は、導入前と比較して約5ポイント向上しました。個人の数字が伸びただけではなく、チーム全体が協力し合える環境をつくることができました。
これまで成績にばらつきがあったメンバーも、成約率が約10ポイント向上するという結果も出ています。顧客満足度を高める要因が具体的なデータで示され、メンバー内でナレッジ共有ができたことが、この底上げに繋がったと感じています。
―― 今後の展望についてお聞かせください。
平原氏: この取り組みはブライダルに限らず、ホテルやレストランなどのサービス業においても、リアルタイムでお客様の声を集めることで問題点を早期に発見し、改善に繋げる仕組みになると考えています。データと向き合うことで、お客様の想いを正しく受け止めていきたいと思います。

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【後編】デジタルの可能性を探る Wedding-UP DX|DX推進において人材及び組織のあり方とは