デジタルリテラシーの向上がウエディング業界に好循環を生む【Wedding-UP DX ~デジタルの可能性を探る~ #004】

デジタルリテラシーの向上がウエディング業界に好循環を生む【Wedding-UP DX ~デジタルの可能性を探る~ #004】

昨今、日常的にも耳にする機会が増えている「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉。経済産業省によると「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義されています。

新型コロナがきっかけで社会全体のDXが急速に進む中、ウエディング業界も変革を迫られています。結婚式を取り巻く環境やニーズの変化に応えるためには、DXが必要不可欠だと言われるようになったのです。

しかし、結婚式という「リアルであること」を前提とするサービスを提供してきたウエディング業界はデジタル化が進みにくく、現状、DXが推進されているとは言い難い状況です。

そこで結婚あした研究所では、業界のDXを推進すべく、早くからDXに注力している企業を取材し、なぜDXが必要なのか、注力するに至った背景を発信する「Wedding-UP DX ~デジタルの可能性を探る~」という新企画をスタートします。

第4回目となる今回は、静岡県浜松市を拠点に150年以上にわたり飲食事業・ウエディング事業を展開しながら「変わり続けること」を大切にしているという、株式会社鳥善の代表取締役社長、伊達善隆さんにお話をうかがいました。

■プロフィール
株式会社鳥善
1868年(明治元年)創業以来、地域に根付き、飲食事業・ウエディング事業を展開。150周年を迎えるにあたり、訪れる人、携わる人が誇りを持てる最高のお店づくりを通じて街の価値を上げ続ける」というミッションを掲げ、街の発展と一体化した商品・事業展開を行う。公式サイト

プランナーの本質的価値を最大化するために「デジタル化」を選択

――御社の中でデジタル化やDXの意識が生まれた背景をお聞かせください。

きっかけは、当社が手掛ける挙式数がこれまでの2倍に増えたことでした。嬉しい悲鳴ではあるのですが、対応が追いつかなくなるくらいプランナーの業務量が増えたんです。プランナーの労働時間やストレスが増えてしまうと、結果としてお客様に提供するサービスの質にも影響が出てしまう、そう考えたとき業務のデジタル化は急務だと感じました。

それまで、お客様の情報は全て担当プランナーの頭の中に入っていて、スタッフ間で情報の共有がほぼできていませんでした。当然ですが、お客様の数が増えるほど情報量も増えるので、各プランナーの頭の中だけでデータを蓄積するのは難しくなってきます。逆に、そういったデータの蓄積はデジタルが得意とするところです。まずはそういった部分をデジタルに置き換えようと考えました。

――業務負担の軽減を目指す場合、“人員を増やす”という方法もあります。そうではなく、デジタル化を選択した理由はあったのでしょうか。

ただ人員を増やしたとしても、本来プランナーがすべき仕事に集中できる環境が整っていないと良い人材が辞めてしまうと考えていました。一組あたりの担当者を増やして生産性を上げれば良いという考え方もありますが、「自分のお客様は自分で対応したい」と感じるプランナーも多いはず。であれば、プランナー本来のパワーが最大化できるように、お客様に対応できる時間を増やすほうが本質的だと思いました。

また、デジタル化を推進することでプランナーの意識改革も目指しました。「限られた時間の中でお客様にとってより良い挙式を作るためにはどうすれば良いか」、これまで当たり前だった働き方や考え方を見直す必要がありました。新しいシステムを導入することをきっかけに、プランナーのマインドセットも見直すことにしたのです。

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株式会社鳥善で働くスタッフの皆さま

プランナーが新しいデジタルツールの採用を決定。導入時は「現在の業務フローを見直すタイミング」

――御社はどのようなステップでデジタル化を進めたのでしょうか?

さまざまなデジタルツールを活用していますが、中でも「Googleドライブ」を活用することでペーパーレス化を実現できているのは大きいですね。他にも、新世代婚礼宴会業務システム「phorbs」結婚式・披露宴をサポートする「ウエディングパートナーシステム」を活用することで業務効率化を図っています。全ての情報がひとつに集約されているので、情報を探しにいく必要もなく、属人化防止にもつながっていると思います。

まずはアナログな作業をデジタル化する段階からスタートしましたが、徐々にデジタル化を通じた新たな価値創造を目指し、現在は、オンラインイベントプラットフォーム「WE ROOM」も活用しています。

――こういったデジタルツールの選択はプランナーさんがされているとうかがいました。

基幹システムの導入は経営陣で意思決定をしていますが、現場で使用するツールやシステムの導入を決めるのはほとんどプランナーです。プランナーの中から導入担当を決め、社内での導入促進を図る旗振り役も含め、任せています。

やはり、現場の効率化に関わるものは、プランナー自身がお客様にとって価値のあるものだと感じないと浸透しないと思うんです。お客様のことを一番知っているプランナーが良い反応じゃなかったら、きっと使われない。なので、新しいツールやシステムを導入する際はプランナーの意見をしっかり取り入れるようにしています。

――現場の意見を取り入れるスタイルは、御社が長年培ってきた企業風土なども関係しているのでしょうか?

お客様にとって本当に良いことを最優先するという「ゲストファースト」の考え方はもちろんですが、おそらく創業当時から新しい価値を追求し続ける組織風土が根づいているんだと思いますね。

当社は150年続く歴史ある会社ですが、「同じやり方をつづける」という考えを嫌う社風なんです。歴史を重んじるだけでなく、常に「お客様のためにもっと良い方法がないか」を模索しています。

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「THE ORIENTAL TERRACE HIDEAWAY(ジオリエンタルテラス ハイダウェイ)」公式サイトより

――新たなデジタルツールを現場導入する際のコツなどはありますか?

2つあると思っています。まずは徹底的に「導入することにコミットする」ということ。新しく導入したものは使っていくうちにさまざまな意見が出てきますが、私は「他の企業事例があってうまくいっているならできるはず」と思うので、ネガティブな意見にとらわれず、とにかくやり切ることが大切だと思っています。

ふたつめは、「現場の業務を新しいツールに合わせて変化させていくこと」です。大抵、既存の業務フローにそのツールを当てはめていこうとしがちですが、それだとうまくいかないことも多いと思います。例えば、「このツールひとつでは補えないから人の手でやったほうが早い」「この部分だけデジタル化してもあまり意味がない」という意見が飛び交ってしまうなど。
ただ、私たちのような中小企業は、自分たちに合わせてカスタマイズされたデジタルツールを作れるほどの資金力や体制も整っていないことがほとんどです。であれば、既にあるツールの中から最も良いと思うものを選び、先行事例にならって自分たちの業務を見直すことが大切なのではないでしょうか。

現状の業務フローの一部をピンポイントでデジタル化できるツールを導入できれば、それに越したことはないと思いますが、そんなに都合よくできないことも多いはずです。だからこそ、新たにツールやシステムを導入するときは、「そもそも自分たちの業務フローや今のやり方は本当にこれで良いのか?」と見直すきっかけだと捉えたほうがいいと思っています。

経営陣のデジタル化に対する意識が変われば、ウエディング業界にも好循環が生まれる

――ウエディング業界に限らず、中小企業や地方ではデジタル化やDXが自分ごと化できていないケースも少なくありません。そんな中でも御社がデジタル化やDXの必要性を感じられ、取り組まれている理由にはどういった背景があるのでしょうか?

規模に関わらず、「本質的なウエディングの価値をつくる会社」でありたいからです。確かにリソースに限りはありますが、やれることは全力でやりたい。中小企業である私たちは、すでに世の中にあるツールやシステムを組み合わせて活用し、大手企業と同等もしくはそれ以上のウエディングの価値を提供していかなければならない。そのためには、自社にとって最適なデジタルツールの選択を間違えないようにしようと思っています。

当社もまだデジタル化を進めている段階ですが、デジタル化することはお客様のためでもあり、プランナーのためでもあります。そう考えるとデジタル化を進めることは自然なことだと思っています。

――御社ではデジタルツールを活用してママ社員が在宅でバックオフィス業務をおこなったり、SNSを通じた採用活動を実施されているということもうかがいました。

在宅勤務の取り組み自体はコロナ禍以前からスタートしていました。プランナー経験のある方が、出産や子育てを機にキャリアが途絶えてしまうのはすごくもったいないと感じ、働き方の多様化を検討するようになったんです。

また、SNSが広く普及したことで、求人媒体でなくても会社の存在意義や価値を届けられる可能性が広がったので、採用活動としてのSNS活用も積極的におこなっています。SNSは自社の情報や想いを発信しやすいという利点に加え、コストもあまりかからずに運用できるのが魅力ですね。中小企業にもチャンスが生まれやすいプラットフォームだと思います。

――デジタル化やDXに取り組むにあたって、中小企業だからこその強みはありますか?

やはり意思決定が早いからこそ、素早くPDCAを回すことができる点ですね。経営陣が時代の変化に対する感度を高くして、トライアンドエラーを繰り返すことができる環境を作り出すことは大切です。

デジタルツールの活用もお客様の方が手慣れていることも多いですし、積極的に情報収集されているお客様の方がプランナーよりも結婚式に詳しいということも少なくありません。だからこそ、常に経営陣の思考がアップデートされていないとプランナーの負担にもなってしまいます。デジタル化を推進するにはお金がかかることもすごく理解できますが、だからこそデジタルツールを単なる導入だけで終わらせずに、それ以上の費用対効果を発揮できるようにしていきたいと思っています。

私は、ウエディング業界の未来を見据えて、経営者やマネージャーが率先して意識を変えていくことが大切だと考えています。それがプランナーに伝播していくと、お客様に対してより良い提案をしようという気持ちが醸成されるはず。そして、結婚式を挙げたおふたりの体験価値がますます高まっていくと、自社だけでなくひいては業界全体にも好循環が生まれるのではないでしょうか。

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「THE ORIENTAL TERRACE HIDEAWAY(ジオリエンタルテラス ハイダウェイ)」公式サイトより

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