本質的な価値を最大化するデジタル技術の活用法【Wedding-UP DX ~デジタルの可能性を探る~ #003】

本質的な価値を最大化するデジタル技術の活用法【Wedding-UP DX ~デジタルの可能性を探る~ #003】

昨今、日常的にも耳にする機会が増えている「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉。経済産業省によると「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義されています。

新型コロナがきっかけで社会全体のDXが急速に進む中、ウエディング業界も変革を迫られています。結婚式を取り巻く環境やニーズの変化に応えるためには、DXが必要不可欠だと言われるようになったのです。

しかし、結婚式という「リアルであること」を前提とするサービスを提供してきたウエディング業界はデジタル化が進みにくく、現状、DXが推進されているとは言い難い状況です。

そこで結婚あした研究所では、業界のDXを推進すべく、早くからDXに注力している企業を取材し、なぜDXが必要なのか、注力するに至った背景を発信する「Wedding-UP DX ~デジタルの可能性を探る~ 」という新企画をスタートします。

第3回目となる今回は、創業期から積極的なデジタル技術活用に取り組み、業界の常識を覆す結婚式の提案を行なってきた株式会社CRAZYの執行役員でCRAZY WEDDING事業責任者でもある吉田勇佑さんにお話をうかがいました。


■プロフィール
株式会社CRAZY
「私たちは、人々が愛し合うための、機会と勇気を提供し、パートナーシップの分断を解消します」というパーパスの下、ウエディング事業CRAZY WEDDINGを運営。「IWAI OMOTESANDO」を拠点に結婚を広く発表する「おふたり中心」の披露宴スタイルではなく、共に時間を楽しむ「ゲスト中心」の新しいスタイルで行う結婚式をプロデュースする。公式サイト


叶えたい未来のために、デジタル技術を活用する

――御社の中でデジタル化やDXの意識が生まれた背景をお聞かせください。

前提として、私たちは、デジタル化・DXを目的とはしていません。
当社は「愛は見える」というブランドメッセージを掲げ、パートナーをはじめ、大切な人との関係性をより豊かにする結婚式を目指しています。これを実現するという意味では、お客様にとって負荷が高いにもかかわらずゲスト満足に繋がらないタスクを引き算したり、日々のコミュニケーションをスムーズにしたりする必要があると感じ、業務のデジタル化やDXが手段のひとつであると考えていました。

もともと、創業メンバーにIT業界出身者がいたこともあり、創業期からデジタル化やDXへの意識はあったと思います。当社は創業時、オーダーメイドのウエディングサービスの提供に注力していたため、一般的なウエディングよりもプロデューサーの業務量が多く、生産性の向上は常に模索していました。

例えば、FAXのやりとり。「オーダーメイドウエディング」という特性上、1件の施工にかかる取引先とのやりとりも膨大になります。それを一つひとつFAXでやりとりしている時間を計算したら、膨大な時間を費やす計算になるのです。それをメールやシステムを活用したでのやりとりに変えるだけで、時間短縮につながり、さらにはデータの検索性やセキュリティ面も向上させられます。単純ですが、そのようなところから着手していきました。

デジタル化の大きな転換期となったのは、2018年にオープンしたゲストファーストな結婚式場「IWAI OMOTESANDO(以下、IWAI)」の構想が出てきた頃です。ビジネスモデルを変革しながら、生産性を上げていきたいと考えたのです。これまでのオーダーメイドウエディングで培った経験をIWAIに詰め込もうという思想を持っていたので、お客様に喜んでいただきながら、社員も働きやすく、よりクリエイティブな仕事を生産性高くこなすためのデジタル技術活用を検討することにしました。

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「IWAI OMOTESANDO」公式サイトより

――具体的にどのような部分にデジタル技術を活用されたのでしょうか。

結婚式準備でお客様が使用する「ウエディングシート」をGoogleスプレッドシート上にまとめることにしました。シートには結婚式に関する基本情報はもちろん、親御様の情報、ヘアメイクや着付けの有無、ゲストの情報や二次会幹事の情報まで記録し、お客様と共有をしています。また、結婚式本番までの打ち合わせ回数も5〜7回が一般的なところ、当社ではあえて3回に絞ることにしました。あらかじめ、ウエディングシート上に各打ち合わせで具体的に何を進めていくのかをオープンにすることで、双方にとって効率的な準備フローを実現しています。

また、日々情報がアップデートされていくFAQもスプレッドシートで管理することで、常に更新可能な状態にしました。お客様もスタッフも常に最新の情報が手元にある状態を作り出すことができています。

そして、当社ではお客様や関係各社とのメールは、各スタッフのアドレスではなく共通アドレスを利用しています。常に全員が進捗状況を把握できる状態にすることで属人化を解消し、担当スタッフ不在時にも柔軟な対応が可能となっています。

ウエディングの全プロセスを俯瞰し、本質的に残すべきものをデジタルで強化

――数多くのデジタル化を実践されていますが、実際にどのようなプロセスでデジタル化を進めていったのでしょうか。

もともと受発注管理システムを内製化したり、無料のオンラインツールなどを駆使したりして努力はしていましたが、まだまだデジタル化できる可能性は常に考えていました。そこで、来館から結婚式本番までの全プロセスを書き出して可視化し、タスクを洗い出すことにしたのです。プロセスの中で、残すべきものと削ぎ落とすべきものを明確にして、残すべきものを強化するために積極的にデジタルサービスを活用していきました。

例えば、当社ではゲストに装花を選んでもらうプロセスはありません。装花選びが一つの思い出になることもありますが、お客様が本当に望んでいるのは「ゲストに喜んでもらいたい」「素敵な結婚式にしたい」という思いを叶えること。お客様が望む結婚式に対してベストなお花を当社が用意することを前提に、装花を選ぶプロセスをなくしました。

逆に十分な時間をお客様に投資してもらおうと考えたのは、おふたりと親御様を中心とした“人間関係に向き合う”というエモーショナルな部分です。親御様やゲストの皆様へ、おふたりから感謝の手紙を用意する演出を大切にしていますが、その準備はスタッフも一緒に、しっかり時間をかけて文章の一言一句まで添削しプロデュースしています。デジタル化で業務効率があがった分、そういった結婚式の価値を高めるためのプロセスに時間を充てることができるようになったのです。

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結婚するおふたりからゲスト全員にお手紙を用意し、デジタルサイネージを活用したポストへ投函するシーン(「IWAI OMOTESANDO」公式サイトより)

――デジタル化の施策を推進する中で障壁は感じられましたか?

パソコンを所有していないお客様や使い慣れていない方がいるケースはありますが、そのようなお客様は100組中5組いるかいないか…という感覚です。一般的に結婚式を検討されることの多い30代前後の方は、仕事などでパソコンを日常的に利用していますし、結婚式準備をWeb上で進めることはむしろ喜んでいただけることがほとんどです。

ただ、ウエディング業界で働く人にとって、これまでの業務をいきなりデジタル化することに抵抗を感じる方もいると思います。例えば顧客とのコミュニケーションツールをアップデートしたいのであれば、まずは社内のコミュニケーションツールを変革するなど順を追って対応していくことがポイントだと思います。社内で浸透していない手法をお客様相手に提供することに抵抗を感じるのは当然です。だからこそ、まずは社内で使ってみる。その利便性が自ら実感できたら、お客様にも自信をもって進められるはずです。

それでもお客様とのやりとりにデジタルツールを取り入れることに抵抗感があるのであれば、例えば年間10組だけトライアルでデジタルツールを活用したウエディングをやってみるのもいいかもしれません。デジタル化することのメリットだけでなく、逆にデジタル化しないほうがいい部分も見えてくるはずです。何事も試さないのが一番もったいないこと。変化を恐れず、小さなことからでも検証していくことが建設的だと思います。

――デジタル化を推進したことで得られた効果をお聞かせください。

お客様からのポジティブな反応が得られたことは大きかったですね。例えば結婚式に対して、おふたりそれぞれでモチベーションに差があるというのはよくあることでしょう。そういった場合、結婚式そのものに否定的というよりは、結婚式までの準備の煩雑さにいまいち乗り気になれないというケースが多いように思います。しかし、デジタル化を通じてタスクを削減していることを伝えると、結婚式への気持ちが前向きになってご成約につながるケースもあります。

また、デジタル化を推進したことで当社スタッフの働き方も大きく変わりました。業務の属人化から脱却できたことも大きいですが、多様な働き方の実現にもつながっています。デジタル化の基礎ができていたので、コロナ禍でもリモートワークへのスムーズな移行ができました。柔軟な働き方を提供することができ、社員の働きやすい環境づくりにつながっています。地方で暮らしながら働きたい社員や、子育てしながら活躍したい社員が増えていることも背景にありますが、お客様の人生を扱う私たちだからこそ、自身の人生や大切な人との時間に向き合えるように、多様な働き方に寛容な企業でありたいですね。

ウエディング企業に留まらず、アプリを活用したパートナーシップ企業へ

――御社は2020年パーパスを「私たちは、人々が愛し合うための、機会と勇気を提供し、パートナーシップの分断を解消します。」に変更し、2021年7月にはサービスリニューアルされました。パーパスの実現に向けて、御社が考えるDXや未来像について教えてください。

当社は、人の力、場所の力、テクノロジーの力を活かして今後もさまざまな展開を計画しておりますが、パーパスとDXは密接に関連していると感じています。直近では新規事業として、パートナーシップに貢献できるアプリケーションのリリースを予定しています。わたしたちの目的は、より良い結婚式を創っていくことに留まらず、「パートナーシップをより良くしていくこと」なので、今後も注力したい領域です。DXと事業戦略は紐付けて検討を進めています。

また、当社は来年の7月で創業10周年を迎えます。第二創業期に入り、これまで培った土台をもとに、婚礼事業とアプリケーション事業を本当の意味で社会に広げていくタイミングだと感じています。我々がチャレンジを続けることはもちろん、同じウエディング業界でDXを推進したい企業やサービスを良くしたいと考えている方と手を取り合い、新しい結婚式のプロセスや感動体験の作り方を追求し、業界を共に盛り上げていきたいです。

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「株式会社CRAZY」公式サイトより

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