地域との共創プロジェクトを通して語る、これからの結婚写真|「Wedding-UP DAY 2022」session5

地域との共創プロジェクトを通して語る、これからの結婚写真|「Wedding-UP DAY 2022」session5

2022年12月1日、ハイブリッド型のオンラインカンファレンス「Wedding-UP DAY 2022」を開催しました。テーマごと7つのセッションに分けられ、業界の枠を超えた計23名の登壇者がこれからのウエディングビジネスについて考え、ともに語り合いました。

コロナ禍を経て、より需要が高まっている結婚写真は今後、どうあるべきなのか。session5では、ウエディングフォト事業などを展開している株式会社レックと熊本県人吉市、そしてウエディングパークとの共創で生まれた「人吉観光復興プロジェクト」の事例を通して、結婚写真の“三方良し”について語りました。

コロナ禍を経て高まるフォトウエディングの需要

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本題に入る前に、フォトウエディングの現状について、小林 司忠が解説しました。

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コロナ禍を経て、フォトウエディングの実施率は年々高まっており、市場規模はおよそ800億円。コロナ禍の影響により、結婚式をしないことを選んだカップルのなかでも「思い出を残したい」とフォトウエディングや前撮りを行う人たちが増えたことがきっかけではないかと述べました。

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また、ウエディングパークで行った「フォトウエディング動向調査 2022」によると、実際にフォトウエディングをされた方の約30%が居住地とは別のエリアで撮影しており、その半分はリゾート地以外の場所でされていることが分かりました。

session5では、こうしたデータを踏まえた上で、地域活性化とフォトウエディングを掛け合わせることでマーケットが拡大し、それがお客様の満足度向上にもつながるのではないかという仮説のもと、フォトウエディングのこれからの可能性を考えていきます。

レックが語る「地域×結婚写真」

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まずは、神戸に本社を置きながら、少人数の結婚式ができる「小さな結婚式」やウエディングフォト事業「ラヴィ・ファクトリー」を全国展開している株式会社レックより勝田 誠之氏が登場。ロケーションフォトの事例を紹介しました。

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リゾート地や海外だけでなく、石川県、島根県、愛媛県など、フォトウエディングの実績もさまざま。なかには「地域おこし協力隊や地域の方のご厚意のもと、衣装着替えやメイクを行うホテルやカフェの活用やロケーションの開拓に関して協力を受けた事例もある」と話しました。

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とくにNHK朝ドラ『ちむどんどん』(2022年)で注目を集めている沖縄県のやんばる地域大宜味村は、地元としては観光につなげたい気持ちもありながら、世界遺産でもあるため開発が難しいといった課題があるという現状がありました。「フォトウエディングを活用することで、自然を汚すことなく、地域を活用し、観光にもつなげることができた」と振り返りました。

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「コロナ禍でなかなか移動できない・集まれないなか、我々も打撃を受けましたし、地方観光地からすると観光需要が減少したり、もともと課題だった人口減少に拍車がかかったりして、その結果、観光地資源の維持管理が困難になるという事態に陥りました。そのなかで、フォトウエディングの実施率は増えましたが、そのぶん参入企業が増えたのがここ数年の流れです。これから成熟のステージに入ってくるとは思いますが、だからこそ、新たな価値観を創出しないといけないと考えています」(勝田氏)

フォトウエディングの需要は増えており、「婚姻カップル・地方観光地・フォトウエディング業界において三方良しの関係を築ける可能性がある」と勝田氏は指摘しました。

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「カップルからすると地元に帰省するきっかけや結婚式に来られない親族や友人に披露できますし、日本にももっと素敵な場所があることを発見する機会にもなります。地方の観光地からすれば観光客を誘致する一つの手法ですし、実は現在ある資源を活かすため投資負担が比較的少なくすむというメリットもあります。フォトウエディング業界にとっては新たな価値を提供できるし、地域活性化に貢献することもできるのです」(勝田氏)

しかし同時に、課題も残ります。具体的には、カップル目線で見たときには、フォトウエディングの撮影場所としていわゆる人気スポットのみが選ばれてしまったり、メディア目線でも観光地の情報が偏ってしまいユーザーを誘導してしまったりする可能性があることが挙げられます。

では、どう打開するのか。ウエディングパークとレック社、そして熊本県人吉市が取り組んだ事例を挙げて解説しました。

人吉観光復興プロジェクトから考える、フォトウエディングのあり方

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人吉観光復興プロジェクトは、「関係人口を増やしたい」という人吉市からPhotoraitに、新しい変化を起こすことができないかという相談を持ちかけられたことがきっかけでスタートしました。

「人吉市の名前は知っていたけれど行ったことはないし、人を呼べるか不安なところも正直ありました。ですが、実際打ち合わせとロケハンに行ってみて、川が流れて、山に囲まれていて、すごく懐かしさを感じたんです。昔は、祖父母の家に行ったときのような感覚を味わえる場所は各地にあったはずなのに、今は少ない。そんな世の中で、懐かしさが残っているところが魅力だと思ったんです」(勝田氏)

熊本県議会議長である溝口幸治氏は、2020年7月の豪雨災害によってほとんどの老舗旅館が被災したことをきっかけに、官公庁の予算を使って観光地の再生などを試みたことを説明しました。

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「地元の目線では復旧・復興やコロナの対応に意識が向きがちでしたが、復興の先にある未来や街のあり方をどうするのか考えたときに、提案していただいたのがフォトウエディングでした。司馬遼太郎が『日本でもっとも豊かな隠れ里』と評した人吉で、外の人と地元で手を取り合って新しいビジネスモデルを立ち上げようという思いではじめました」(溝口氏)

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>人吉観光復興プロジェクトでは上記のような座組みでプロジェクトを実施

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>写真左から勝田氏、溝口氏、小林

人吉市と組んだウエディングフォト企画では、Instagramで広告配信を行い、モニターカップルへ取材をした記事を配信した上で、撮影プランの商品化・集客につなげたと説明しました。

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人吉観光復興プロジェクトについて、小林は「社会的意義を感じるプロジェクトだと思っています」と語りました。

「SNSで3週間限定で行ったモニター募集に関しても、200組以上のカップルから応募がありました。応募理由の内訳を見ると『地方の可能性を感じる』といった回答がおよそ44%と、多くの方々が共感していることもわかりました。居住エリアは県内のカップルが2割の一方で、県外のカップルが8割近くもいましたし、ユーザーのインサイトにリーチできた結果で、関係人口を増やすきっかけにもなったのかなと思います」(小林)

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人吉市内で行ったフォトウエディング当日には、婚姻カップルが街中を移動する際に地元の人たちから「おめでとう」と声をかけられる場面もあったと振り返り、「かつては家と家が結婚をするという意識が強かったからこそ、近所の人たちが『おめでとう』と言い合うシーンもあったでしょうし、それが再現できたのも良かったです」と勝田氏は語りました。

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しかし、可能性を感じる取り組みだからこそ、これから地域と多様に関わる「関係人口」を増やしていかなければならない点は課題であると溝口氏は話しました。

「この結果をもとに、看板商品から関係人口をどう増やすかはもちろん、その前に興味を持ってもらう『興味人口』にどうつなげていくかがポイントだと思います。フォトウエディングをきっかけに多くの方々に来てもらって、美味しいご飯を食べて、自然を体感してもらって、『じゃあ泊まってみよう』『今度は家族を連れてきてみよう』といった行動につながってくると思うので、ありがたい取り組みでした。私たちが毎日見ている景色でも、目線が違うと見える風景が違うことも体感しましたし、地域の方々が忘れている、見落としているものを外部の方の目線で発見して一緒に磨いていくような取り組みを続けていきたいです」(溝口氏)

フォトウエディングは自然や歴史文化を受け継ぐきっかけになる

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小林の「関係人口減少や被災地、結婚写真によって地域の方々に与える影響はあったのでしょうか?」という問いに対しては、「若い人が入ってくると田舎は喜びます。全国展開できると思います」と溝口氏。

人吉市はコミュニティがしっかりしており、お祝いごとはみんなで喜ぶ文化が浸透していると話した上で、「フォトウエディングはパッと見てすぐに(婚姻カップルだと)わかるので、みんなが『良かったね』『おめでとう』と声をかけるんです。だから、すれ違った人たちにも喜びを与えられますし、一緒に喜ぶ雰囲気があります。お祝いごとはどの地域でも同じような効果があるのではないのでしょうか」と語りました。

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最後に、視聴者に向けたメッセージが送られ、session5は幕を閉じました。

「自然や歴史文化は受け継いでいくべきだと思っていますし、フォトウエディングはそのひとつのきっかけになると考えています。そしてそれは国内だけでなく、インバウンドから見てもニーズがあると思います。レックとしてはより多くの地域の皆様と共創したいと考えてますので、よろしくお願いします」(勝田氏)

「大事なものを守るためには、新しいものを取り入れなければいけないと考えています。この波に乗って、新しいフォトウエディングを取り入れながら守るべき文化を守っていき、地域活性化につなげていきたいです」(溝口氏)

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