ウエディング業界が向き合うべきZ世代のインサイトとは?恋愛・結婚・人生を導くカードゲームから見えたもの

ウエディング業界が向き合うべきZ世代のインサイトとは?恋愛・結婚・人生を導くカードゲームから見えたもの

結婚に対する考え方が多様化し、結婚や挙式を選択しない人が増えています。ウエディング業界がこのような変化に対応するには、結婚・結婚式のあり方をアップデートしながら、新しい価値をつくっていく必要があるのではないでしょうか。

次世代の思考や価値観を知り、ウエディングにおける新しい選択肢を増やしたい。そのためのヒントとして、Z世代を中心にした「次世代」に着目し、連載をスタートしました。

今回は、2024年1月から3月に実施した「楽しく人生設計ができる仕掛けづくり」プロジェクトの続編をお届けします。

このプロジェクトでは、結婚を含めたさまざまな人生の選択を後押しする2種類のカードゲームを千葉工業大学 デザイン科学科の学生が作成しました。

このゲームを通じて、ターゲットとなるZ世代にどのような心の変化をもたらすのか、清泉女子大学 安斎ゼミの学生の皆さんにゲームをプレイいただき検証します。

言葉に出来ない不安や焦りを目標へ

「霧晴れ川柳」は見えにくいもの、見落としがちな事柄に光を当てる川柳をテーマにしたゲーム。相談者(霧モヤさん)が共有した悩みに対して、他のプレイヤーが川柳で応援のメッセージを贈ります。ゲームが進むにつれ不安や悩みが解像度の高い目標へと変わっていく仕掛けになっています。

▲ この場合、霧モヤカードに「〇〇したいとって思っているけど」と書かれていて、相談者は「バンジージャンプがしたいが勇気が出ない」と相談した

▲相談を受けたプレイヤーは 「霧モヤさん」が「霧晴れさん」になるよう、他のプレイヤーが背中を押す川柳をプレゼントする

本音を引き出す「問い」から人生設計のヒントを得る

「めっちゃそう思う」ゲームはカードに書かれたお題に対して、プレイヤーは「めっちゃそう思う」から「そう思わない」の5段階の感情カードを使って自分の意見を表明します。他のプレイヤーの価値観に振れ、他の意見から新たな視点を見つけたり、選択肢を増やしながら、自分の行動を明確にできるよう工夫しました。

▲感情カードは5秒以内に出すルールになっている。直観で選んだからこそ引き出せた本音で会話も弾むという時間もデザインされている。

▲ゲームの最後には会話から見つかった自分の目標や将来やりたいことをカードに書く。心の目を開眼させる、入魂するという意味を持つだるまの目入れからヒントを得た。

ゲームに込めた想いは「誰もが人生に後悔しない世界」

本プロジェクトはデザイン思考を用いて「楽しく人生設計ができる仕掛けづくり」を提案したものです。抽象的で大きなテーマに向き合うことの難しさを感じていた学生でしたが、このゲームの目指す姿を「誰もが人生に後悔しない世界」とし、人生設計は考える機会が与えられないのではなく、「目標を否定されるのが恐い」というインサイトにたどり着きました。これらはバックキャスティング(未来創造型)で考えるデザイン思考のプロセスより導き出されたものです。

「間違った選択をしたくない」という一方で自分の価値観を人に話す不安があるため、選択肢が限られるというコミュニケーション課題があることに着眼し、悩みを打ち明けやすくすること、価値観を交換し、他者の考えに触れて、選択肢を増やすという体験をデザインしました。

参加した学生からも「本音が伝えやすかった」「悩みがある時にプレイしたら心が軽くなりそう」など、様々な声が上がりました。

参加した学生のコメント(一部)

・自分の悩みや価値観を「本音で」共有することは難しいと思います。しかし今回のカードゲームでは色々考えすぎずに自分の心の声をしっかりと周りに伝えることが出来ました。このようなカードゲームをもっと広めていって欲しいです!
・人生における不安や焦りというポイントは、就職・結婚・出世など様々な場面に出てくるものだと思うので、非常に馴染みがあって面白かった。
・例えばカップルで今回のゲームをやっていけば、深刻になりすぎず、楽しみながら相手の考え方や価値観を知ることが出来ると思います。
・カップルが結婚式を挙げるとなったとき、ゲームで得た学びをすぐに反映して、話し合いがスムーズに進むのかな?と考えました。また、今回みたいに友だち同士でやるのもとても面白いと思います!いつか結婚式を挙げるカップルがやっているのを見てみたいし、自分もその立場にたってみたいです。
・自分の意見を認めてもらっているという安心感があった。また、自分の価値観を深く知りアウトプットする機会になった。もっと立場や年齢が違う人とやると新しい価値観を発見できそう!

進路・対人関係・恋愛・結婚…Z世代が直面する不安や悩みからインサイトを紐解き、ウエディングの未来を切り拓くヒントへ

今回のように、言葉にはしづらい不安や悩みを引き出し、本音を話しやすくするという体験を通じて、Z世代の自然の対話からヒントを読み取るということは、顧客理解、マーケティングにおいても大きな可能性を秘めていると考えています。

昨今では、恋愛や結婚に関心が薄れている若者が増えていると言われますが、今回のプロジェクトで見つけた「他者に将来を語ることが恐い」というインサイトも、この風潮の根底にあるのかも知れません。ウエディング業界では、カップルを結婚前後の消費者として捉えるのではなく、様々な側面を持った生活者として長期的に捉え、多様な志向性、人生を見つめるようなリサーチ、マーケティングを行う必要があるのではないでしょうか。
カップルの実態と潮流を掴み、未来を考えるということは、そのアプローチの1つとなる可能性があります。

次世代マーケティング研究室では、今後も次世代のインサイトを探求し、ウエディングの新たな価値を創造する研究を続けて参ります。

共同研究を行った研究室のご紹介

千葉工業大学 西田 絢子(にしだ あやこ)

千葉工業大学 創造工学部 准教授。デザイン科学科にて、プロジェクトデザインを中心にさまざまな社会課題の解決および研究に従事。プロジェクトを設計し、その過程をもデザインできるリーダーの育成を目的に活動している。 公式サイト


清泉女子大学 安斎 徹(あんざい とおる)

清泉女子大学・文学部地球市民学科教授。日本で唯一の地球市民学科にある安斎ゼミでは「日本一ワクワクドキドキするゼミ」を目標に掲げ、企業や地域とのプロジェクトを推進している。著書『企業人の社会貢献意識はどう変わったのか』(ミネルヴァ書房)、『女性の未来に大学ができること』(樹村房)など。 公式サイト

(取材・文:松浦歩美 / 写真:関口佳代/ 企画編集:ウエディングパーク

関連記事