Wedding-UP DAY
2023.01.26
期待を超える姿勢と情熱が欠かせない。事例から見る“ニューノーマル”なサービス開発で大切なこと|「Wedding-UP DAY 2022」session4
2022年12月1日、ハイブリッド型のオンラインカンファレンス「Wedding-UP DAY 2022」を開催しました。テーマごと7つのセッションに分けられ、業界の枠を超えた計23名の登壇者がこれからのウエディングビジネスについて考え、ともに語り合いました。
「サービス開発」がテーマのsession 4では、クラウド人事労務ソフト「SmartHR」を開発する株式会社SmartHRと、人生を祝う場所「IWAI OMOTESANDO」を運営する株式会社CRAZYとともに、組織体制や社会視点を育むための社内施策を語りました。
ウエディングパークがユーザー起点のサービス開発の過程で気づいたこと
>写真左から大谷氏、佐々木氏、山田
株式会社SmartHRと株式会社ウエディングパークの開発したサービスを解説しながら、日々、結婚式の本質を追求している株式会社CRAZYの事例とともにこれからのサービス開発に必要となる「ニューノーマル」について語ります。
はじめに、ウエディングパークが2022年9月にリリースした自分に合う結婚式に出会える動画レポート「ムビレポ」について、山田 綾子が解説しました。
「ムビレポは、結婚式当日の動画をアプリのような感覚でサクサクと見られるのが特徴です。結婚式の多様化が広がっているなか、自分らしい結婚式を探す難易度が上がっているのではないかと考え、開発しました」(山田)
実際に「こういう結婚式をしたい」という想いがユーザーの頭のなかにはあるけれど、「それを言語化できなかったり、パートナーやプランナーに伝える材料がなかったりしてはがゆい思いをしたという声をいただいたこともあった」と、山田。
ただ、ユーザーの声をもとに開発をすすめていたものの、一方で「ユーザーの声起点でプロダクトを作っても、ユーザーが答えを持っているわけではない」ことに気づいたとも語りました。
「ユーザーが言語化できている課題は一部であり、表面的なものであることが多い傾向にあります。本質的な課題や理想、インサイトを探してプロダクトづくりをしていくのは難しいからこそ、そのなかで会社が“人として欲しいものを作る”ことを大切にしているSmartHRさん、結婚するおふたりに向き合っているCRAZYさんに顧客視点について聞きたいと考えました」とこのセッションの意図を話しました。
SmartHRがプロダクトづくりで大切にしている考え方
人事労務に関する手続き、年末調整の効率化から働く生産性の向上といった実現に向けたプロダクトを提供している、SmartHR社。ソフトウェアとしてサブスクリプションの形式をとることで、月額利用料を継続的にもらう仕組みになっています。
だからこそ「ソフトウェアとして満足して使い続けてもらう、フィードバックをいただきながら進化していくことが大切」だと、佐々木 昂太氏は話します。
「プロダクトづくりで大切な考え方は?」という問いに対して、SmartHRが掲げるバリューについて佐々木氏が語りました。
「当社では7つのバリューを掲げていますが、一番大事にしているのが『人が欲しいと思うものをつくろう』というものです。当社の創業者は実はサービスを12回失敗していて、最後に思いついたのがSmartHRでした。それまで失敗したサービスは『こういうのがあったら便利』というアイデアから生まれたものでしたが、SmartHRは『人が持つ本質的な課題を解決するものは何か』を考えて生まれたそうです」(佐々木氏)
佐々木氏は「人がほしいものは声ではなかなか見えないこともある」と山田の意見に同意しつつ、「今はあらゆるデジタル化が進み環境も整っているので、プロダクトもサービスもスモールスタートしてブラッシュアップしていくというアプローチが可能な環境になってきています。フィードバックループを回しながら本当に人が求めているものを形作って磨き続けることが大事かなと思います」と語りました。
そのためには「Why(なぜ)それがプロダクトとして重要なのかということに腹落ちしつつ、それを文化として全社に浸透させていくことが欠かせない」と佐々木氏は言います。
また、同社はオープンでフラットで遊び心があるカルチャーも大事にしているので、情報をオープンにしていると言います。特に営業職に比べるとエンジニアやデザイナーといったクリエイター職はモチベーション管理がしにくいという課題に対しては、「当社はユーザーの声や要望、厳しいフィードバックといった情報をオープンにしていますし、それらを共有するためのツールも持っています。クリエイター職とともに課題の本質やプロダクトについて議論をする際にはお客様からいただいた声を見ながら対話しています」と工夫点を話しました。
「また、毎週水曜日に『今週のアップデート』と称して、いいニュースをまとめた“グッドニュース”、あまりよくない“バッドニュース”を経営会議の内容とともに全社へ発信しています。これは量だけでなく質も担保することを意識しながらそれぞれの部署のやり方を発信しています」(佐々木)
「あえてバッドニュースを流しているんですか?」と驚く山田に、佐々木氏は「チャレンジ精神や、失敗から学んでいく姿勢を大事にしているんです」と理由を説明。
「早いうちに言おう、それを学びに繋げよう。そうしてより良いサービスにブラッシュアップしていこうとしています」と佐々木氏。「一人ひとりがチャレンジを大切にし、たとえ失敗しても会社としての学びに繋げようとするカルチャーが浸透しているからこそ、バッドニュースファーストを大事にしている」と話しました。
挑戦と失敗を繰り返しつつ、徹底的に“人”に向き合う。CRAZYの歩み
続いては、株式会社CRAZYのIWAI OMOTESANDOの歩みについて、大谷 亜沙美氏が解説。2012年創業以来、数多くのオリジナルウエディングを手がけてきたCRAZY は「結婚式の本当の価値を考えて、IWAI OMOTESANDOの建物からコンセプトをデザインしてきた」と話しました。
山田の「新しい取り組みをやられているイメージが強いですが、直近の挑戦した事例はありますか?」という問いには、「パーラーイワイ」と「ふうふ始季」、「おかえり酒場IWAI」を挙げました。
>CRAZYの取り組み事例はこちらからご覧いただけます
さまざまな挑戦には失敗が付きものである一方で、ふたりにとって一生に一度の場となる結婚式では失敗が許されない環境になります。そのなかで、どのように実践してきたのでしょうか。
「『CRAZYさんって失敗してなさそうですよね』とよく言っていただけるんですけど、実はいっぱい重ねておりまして……(笑)。もちろん結婚式当日は失敗しないようにしているんですけれど、IWAI OMOTESANDOについては高砂がない、派手な演出がないことなど、新しい概念が多くて世の中に受け入れられないこともありました。
たとえば、挙式会場も式場というよりは美術館のような空間になっているので、開業当初は『お葬式会場みたいですね』と真面目に言われたり、カップルの親御様から『ここは結婚式場っぽくない』と言われキャンセルになりそうだったりとか……。そんなことは、幾度となくございました」(大谷氏)
「2018年11月22日(いい夫婦の日)に『#結婚式に自由を』というハッシュタグをつけて、社員みんなでトレーナーを着て表参道を歩き回ったことがあって。当時はYahoo!トピックスにも載って話題にもなりました。取り組みをきっかけに、できればIWAI OMOTESANDOに来ていただきたかったけれど、実際の来館はほとんどなくて……。とはいえその挑戦があったからこそ知っていただくきっかけにもなったので、やってよかったと思います」(大谷氏)
数々の挑戦と失敗を繰り返してきたと、笑顔を交えながら話した大谷氏。それでも続けられているのは「私は社会にとって、このIWAIの結婚式が絶対あったほうがいいという想いがあったから」だと振り返りました。
結婚式をするにあたって、カップルの過去や考え方についてヒアリングする機会も多い、CRAZY社。ふたりの目線に立つために必要なこととしては、「どんなことがあってもその人の人生なんだとフラットに受け止めること」と語りました。
「ヒアリングの仕方や差し支えない範囲でおふたりに踏み込んでいくのもスキルだと考えています。ヒアリングのなかで、他人には言いづらい自分の人生について打ち明けてくれる方がほとんどなのですが、これをどう受け止めるかもスキル。受け止めるときに特別扱いせず『それがその人の人生なんだ』といかにフラットに受け止められるかが大切かなと考えています」(大谷氏)
結婚式をよりよくするために社内で取り組んでいることとして「結婚式が終わったお客様へのアンケート」を挙げた大谷氏。「あえて“改善した方がいいというポイント”についてお客様に聞くんです。そして、アンケートの回答は全社員に送付されます。回答内容によっては担当したプロデューサーはグサッとくるものがあるのですが、そういった要望や改善すべきポイントをちゃんとテーブルにあげて全社員で真摯に向き合う仕組みをつくっています」と話しました。
2社が語るプロダクト作りに大切なこととは
それぞれのサービスや失敗、対策についてたっぷり話したセッションもいよいよ終盤。
山田の「プロダクト作りに大切なこととは?」という切り込んだ質問に、佐々木氏は「期待を知り、超え続ける!」と、大谷氏は「情熱ととことん行動」と回答しました。
「実際に作ってみたり、フィードバックを受けて行動したりするなかで、顧客が何を求めているのか、どのような“期待”をしているかを知り、プロフェッショナルとして期待を超え続けるサービスを作っていくのが大事なのかなと思います」(佐々木氏)
「私は情熱と“とことん”行動と書きました。まずは、自分のサービスを心から好きであること、情熱が灯っていることが大事ですし、それがお客様にも伝わると思います。あとは、その情熱を抱いてとことん行動できるか、信じる気持ちを行動で表せるかで、結果も変わってくると思います」(大谷氏)
それぞれの熱い想いが語られたsession4。2社それぞれに共通していたのは、自社のサービスを信じる気持ちと、トライアンドエラーを繰り返しながらも行動し続ける姿勢でした。この2社を参考に、新たなサービス開発に一歩踏み出してみてはいかがでしょうか。