デジタル化で得られた3つの成果。結婚式の本質は変えずに“表現”をアップデートしていく【Wedding-UP DX ~デジタルの可能性を探る~ #002】

デジタル化で得られた3つの成果。結婚式の本質は変えずに“表現”をアップデートしていく【Wedding-UP DX ~デジタルの可能性を探る~ #002】

昨今、日常的にも耳にする機会が増えている「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉。経済産業省によると「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義されています。

新型コロナがきっかけで社会全体のDXが急速に進む中、ウエディング業界も変革を迫られています。結婚式を取り巻く環境やニーズの変化に応えるためには、DXが必要不可欠だと言われるようになったのです。

しかし、結婚式という「リアルであること」を前提とするサービスを提供してきたウエディング業界はデジタル化が進みにくく、現状、DXが推進されているとは言い難い状況です。

そこで結婚あした研究所では、業界のDXを推進すべく、早くからDXに注力している企業を取材し、なぜDXが必要なのか、注力するに至った背景を発信する「Wedding-UP DX ~デジタルの可能性を探る~ 」という新企画をスタートします。

第2回となる今回は、関西を中心に神社や迎賓館といった歴史的建造物でのウエディング事業を展開するバリューマネジメント株式会社を取材。同社は、2010年から様々なデジタルツールを利用して基幹業務をシステム化するなど、業界でもいち早くデジタル化に着手してきた企業です。これまでのデジタル化の取り組みや成果、ウエディング業界におけるDXの在り方について、マーケティング部ゼネラルマネージャーの笠正太郎さんにお話をうかがいました。


■プロフィール
バリューマネジメント株式会社
2005年創業。国内の歴史的資源を日本の財産であるととらえ、それらを活用した「観光まちづくり」をミッションに掲げ、歴史的建造物の再生事業とともに神社仏閣やレトロ建築を活用したブライダル事業を展開。さらに地元での結婚式を叶える「ジモコン」や、グループ内の屋号が一堂に会しての「フェス」事業など、新たな集客ルートを確立している。公式サイト


2010年からデジタル化に着手。得られたのは3つの大きな成果

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バリューマネジメントは、歴史的建造物でのウエディング事業を展開している(写真は「NIPPONIA HOTEL 八女福島 商家町」)

――御社は2010年からデジタル化への取り組みとして基幹システムの導入を開始されています。導入のきっかけ、目的をお聞かせください。

目的は大きく2つありました。ひとつめはウエディングプランナーの属人化からの脱却です。ウエディングプランナーという職種はお客様との結びつきが強いが故に“個人商店”になりやすい。そのため、第三者から打ち合わせ状況や取引状況が見えにくいという課題がありました。そこに対し基幹システムを導入することで、社内全員ですべてのお客様の状況を把握できるようにしたいという思いがあったんです。

ふたつめの目的は、シンプルに業務の効率化です。これまでのアナログ業務をデジタル化することで効率化が図れることは目に見えてわかっていたので、基幹システムの導入に至りました。

――基幹システム導入後、どのような成果がありましたか?

業務のデジタル化を進めたことで、主に3つ大きな成果がありました。ひとつめは、ウエディングプランナーの脱属人化を目指してMAツールやCRMツールを導入したことで、お客様の情報を一元管理できるようになったことです。具体的な事例も後ほどお話しますが、これまでプランナー単位で行っていた接客やプランニングに関する情報が集約され、会社全体で共有・管理できるようになったことは大きかったです。

ふたつめは、働き方の多様化が実現したことです。当社は事業所が関西に点在しているのですが、デジタル化の推進により本社にいながら各事業所の業務ができるようになりました。これにより、営業と営業事務の業務を分離できたので、勤務時間の都合でなかなかお客様に対面できないママ社員にも存分に活躍してもらえるように。業界が抱える課題の一つとして「プランナーの寿命」が挙げられますが、子育てをしながら働くことができる環境を整えられたこともシステム導入後の大きな成果です。

最後は、人材育成手法の多様化です。過去の接客事例や実際のトークがストックされているので、社員が能動的に学ぶ環境ができました。教育担当が時間を割かなくても、自らが学びたい情報を検索できる環境は各自のレベルアップにつながっています。これも大きな成果ですね。

――新しいシステムを導入するときに苦労されたことはありますか。

これは今でも苦労することですが、すでに当社で確立している基本的な業務オペレーションがあるなかで、既存オペレーションのパワーアップのためにシステムを導入するのか、それともシステムによって新しいオペレーションを構築するのかの判断が難しいと感じています。特に後者は複雑性が上がるため、想定外のトラブルが付きものです。慎重に検討しています。

――アナログ中心だった業務をデジタルに変遷していくとき、社内の反応はいかがでしたか。

特にキャリアが長い人は、アナログでの業務が習慣化しているため不安や不満はゼロではなかったと思います。あと、システム導入時がちょうど繁忙期と重なってしまって、かえって業務効率を下げてしまったこともありました。

そんな中気を付けていたのは、はじめのうちにデジタル化で目指している姿を全社員に伝えること。デジタル化を推進することで、事務業務の手間が削減され、その分お客様に向き合う時間が増える、これが理想の姿であるということを伝えていたんです。

社内的成果を軸に先ほど紹介した3つの成果も、どれも最終的にはお客様へ還元できるものだと思っています。情報管理・共有が徹底されればお客様に無駄なストレスを与えずに済みますし、業務分担を進めることで現場プランナーはお客様と向き合う時間を多く確保できます。そのようにして、お客様が感じる結婚式の体験価値向上に寄与していくことがとても重要だと社員に伝えていきました。

プランナーは人の役に立ちたい人が多いですから、できるだけお客様との時間を作りたいという気持ちが強い。それが叶えられるということを理解できると、デジタル化に対してのモチベーションにつながります。社風的に何でもゲームのように楽しんでくれる社員も多いので、面白がって取り組んでくれるところも助かっているかもしれません。「全社員が一体となって」というのがデジタル化を進められた大きな要因だと思いますね。

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バリューマネジメント株式会社 公式サイトより

また、導入時は社員にただマニュアルを渡すのではなく、実際に操作しているところをデモンストレーションしています。お客様との打ち合わせ現場にも参加して、打ち合わせの流れの中で実際にどう操作しているのかを見てもらったりも。単に効率だけを考えるとマニュアルを渡したほうが早いのかもしれませんが、新しいものを導入するときはそのくらい丁寧に伝えたほうが理解してもらいやすいと思っています。

それでも、やはりデジタル化によって不安や不満が生じることはあります。そこで、システム導入後から月に一度、ミスやトラブルを撲滅するための会議「ミストラ」を実施し、直接社員とコミュニケーションを取りながら改善していっています。あとは、導入初期の段階で小さな成功体験を重ねて、苦手意識を抱かせないようにケアをすることがとても大事だと考えています。

デジタル化、例えるならば「足軽VS騎馬」の戦い?

――2018年に御社の代表からはじめて「DX」に関する話題が出たそうですね。どんな経緯があったのでしょうか。

きっかけは、2018年に経済産業省が発表した『DXレポート』です。国内企業のDXを推進しなければ競争力が低下し、最大年間12兆円の経済損失が生じる可能性があることを表現した「2025年の崖」を踏まえて、自分たちはどうすべきかを考え始めました。デジタル化は2010年から着手していたので、大きな国策でもあるDXの風を最初に受けようという考えのもと、話し合いが始まりました。

――アナログを「足軽」、デジタル化を「騎馬」と例えられているとうかがいました。

個人的に使っている比喩ですが(笑)。
例えば、当社では、2016年頃にお客様一人ひとりに合わせた接客の実現に向けてMAツールを導入しました。それまではお客様と電話が繋がらなかったり、メールの返信がなかったりしたら、それ以上対応ができない状況でしたが、MAツールを使うことでメールを開封しているか、URLをクリックしているかを見ることができます。その結果から電話が繋がりやすい時間を見極めたり、お客様の行動が予測できたりするようになりました。

つまり、アナログでは感情を見ることができ、デジタルではデータを見ることが可能です。そうなると、アナログの会社とデジタルの会社では情報量が圧倒的に異なります。要するに、アナログとデジタルではそもそも戦う土俵が違うということ。そういう意味で「足軽」VS「騎馬」の戦いというと、イメージしやすいかなと。

――2010年頃からデジタル化を進めるために挑戦を繰り返す中で、失敗したことはありますか?

そうですね、割合でいうと失敗7:成功3くらいでしょうか。今日も明日も失敗をしています(笑)。挑戦をするときに大事にしているのは「小さく始めて大きくしていく」こと。小さな挑戦をたくさんして、失敗しまくっているという感じですね。

さらに業務効率が上がるツールやシステムがないか、ITやデジタルに関する情報には常にアンテナを張っていて、情報誌や専門誌にも目を通しますし、展示会にも足を運んでいます。選定基準としてはやはり社員みんなが使いやすいかどうか。コミュニケーションツール、セールステック、CRM、どのジャンルでも良さそうだと思うものがあれば、無料のお試し期間などをうまく活用してまずは一度チャレンジするようにしています。

時代を見据えて、ウエディングの「本質」はそのままに「表現」をアップデート

――ウエディング業界におけるデジタル化やDXの必要性について、笠さんご自身はどのようにお考えでしょうか。

我々が注目しておかなければならないのは、お客様のデジタルリテラシーが上がっているということです。これから先、お客様のリテラシーはさらに上がるので、業界側が追いついていかないと取り残されてしまいます。

例えば、10年後のことを考えると、インターネットやスマホを使わないという選択肢はほぼないでしょう。

一方で、お客様の中にもアナログに強い人とデジタルに強い人が分かれています。ですから、アナログとデジタルどちらか一方を捨てるのではなく、ハイブリッドに対応できる体制を用意しておくことが必要です。

――ウエディング業界でデジタル化を進めると、これまでの文化や伝統が失われるという話も出たりしますが、これについてはどうお考えでしょうか。

それはないと思っています。当社の場合、デジタルによって全く新しいことをしているのではなく、「日本文化を紡ぐ」という企業理念に基づいて、古き良きものの本質は変えずに表現をアップデートしていくことを意識しています。例えば、キャッシュレス時代に突入しつつある中で、結婚式でのご祝儀はどうあるべきか、など、我々としても答えや見解を持っておかなければなりません。

これまでと同じ表現では時代に取り残されてしまう。本質を忘れずに現代の表現に合わせていくことが理想だと考えています。

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バリューマネジメント株式会社 公式サイトより

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