指輪・ジュエリー
2019.02.05
「人生一回だから、素直でいたい」解けない魔法を結婚指輪に込める、物造りブランド「ichi」の信念
「沢山の知恵の中から、意見、考え、言葉、感情を選択し、刺激的な一つの理想へと至る」
この言葉を掲げているのが結婚指輪を造っているブランドだと知り、驚きました。
日本の美意識を大切にしている物造りブランド、「ichi」。銀製品や革製品を、古来受け継がれてきた職人技ですべて手造りしています。
首都圏を中心に5店舗を展開するichiの始まりは、名古屋駅に程近い愛知県一宮市。ここでスタートを切った小さなブランドは、「職人が一つずつ手造りしてくれるアクセサリー」の希少さから全国に知れわたり、その手仕事に魅せられた老若男女が集うようになりました。
一点ずつ造られる、唯一無二の銀製品。一生に寄り添うアイテムを求めて、ヒアリングから制作までを一人の職人が担当する結婚指輪も人気です。
「ichi」の名前に込められた創業当初から変わらない想いが、オープンから20年、ますます多くの人を惹きつけています。
「沢山の人に教えられ、助けられ、叱られ、育まれ、一つの人格へと至る」
20年以上にわたって物造りと向き合ってきた「ichi」の代表・小池一央さんが、ずっと大切にしてきたもの。
それは、目の前にある「一」を信じること──。
数多くのカップルに唯一無二の結婚指輪を提供し続ける、
「ichi」の独特の世界観に込められた小池さんの信念をひもときます。
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▼ichi
1999年に愛知県一宮市の工房からスタート。創業以来「一心 一点 一生」をテーマに、結婚指輪やアクセサリー、革製品を一つひとつ手造りしている。ショップに専門の販売員はおらず、職人がお客さまとコミュニケーションをとり、ショップの奥に併設した工房で制作している。銀座、渋谷、横浜、名古屋、大阪の5店舗を展開(2019年1月現在)。
▼プロフィール
小池一央(こいけ・かずなか)
毛織物の町、愛知県一宮市育ち。有限会社ichi代表取締役。美術大学で金属工芸のコースを専攻し、器から指輪まで金属加工の専門知識を学ぶ。修行期間を経て、故郷・愛知県一宮市で「ichi」を創業。現在も店頭に立ち、日々金属と向き合いながら物造りに邁進している。
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これまで決めてきた選択を信じて
── 幼い頃、印象的だったことはありますか?
いつも工作したり落書きしたり、楽しんでいました。僕が描いた絵を見た母親に「すごいねえ、ピカソみたいだ」って言われたのを覚えています。それしか褒めることがなかったから(笑)。
── その後は美術や手仕事の分野に一直線だったんでしょうか。
いえ、僕はたくさん寄り道をしてきました。学校の授業以外の場で吸収したことのほうが多いんじゃないかな。そういう一つひとつの選択が、仲間と一緒に信じられる価値観と、今の僕をつくってくれた。だから、これまでの寄り道が間違っていたなんて思いません。
── どんな寄り道をされてきたのか、気になります。
大学生の頃なんて、僕は自分の教室にいなかった。他のコースの制作風景を見ていました。織物、木工、陶芸、あらゆる教室が通路沿いに並んでいて。端から端まで友だちがいたので、のぞきに行っては「何をつくっているの?」って聞いて。
ただの狭い一本の通路が、僕にとってはおもしろいストリートだった。具体的な手間や知識、知らないことだらけの世界。そうやって造りゆくさまがあるから、結果できあがる物に感動するんですよね。
今の積み重ねを信じて
── ichiをご自分で立ち上げられた理由にも、物が造られていく過程への思いがあったんでしょうか。
創業当初から、ichiは指輪屋ではなく物造り屋なんです。僕が金属をやって、妻には鞄を造ってもらっていました。その原点は、夢が詰まった学校のあのストリート。物が造られていくわくわくに満ちた場所を造りたいという思いが、ichiの出発点です。
だからこそ、僕は鍛造(たんぞう)をやりたかった。金属工芸には大きく「鍛造」と「鋳造(ちゅうぞう)」があります。僕がやりたい鍛造は、金属を叩いて一つずつ成形していくので手間がかかる。鋳造は金属を型に流し込むので、量産が可能です。ただし機械に任せきりになるので、職人が金属に触れるのは最後の仕上げだけ。
ただの数字ゲームなら、速くたくさん造れる鋳造がビジネスとして“正しい”かもしれません。でも僕としては素材を触っていたいし、一つひとつを打ちのばして造っていくプロセスに職人として誇りを持っていたかった。だからichiでは、創業から今までずっと鍛造を続けています。
── お店をオープンしてみてどうでしたか?
全て手造りしていることが珍しかったのか、クチコミでどんどん広がって。本当にありがたいことに、北海道から沖縄までの各地から老若男女が集まってくださるようになっていったんです。
しかもお店を続けていると、学生だった頃にお母さんとアクセサリーを購入されていたお客さまが、「今度は結婚指輪をお願いします」と再び来店してくれるようになった。僕の物造りで人生に関わり続けられるなんて、職人冥利に尽きるじゃないですか。それからは結婚指輪を積極的にお受けするようになりましたね。
── 小池さんのお話をうかがっていると、すごく「職人」であることを貫いていらっしゃるなと感じます。
形にするのは誰でもできます。でも毎日続けていると、だんだん「あれ?」って物足りなく思えてくる。もうちょっと上の景色が見たくなるんです。昨日と今日で同じ物を造ったとして、昨日よりも上手でありたいなって。負けたくない。人にではなく、自分にね。
だから、お客さまが喜んでいる顔を見ていると「もっと喜ばせられたらな」って思えてきちゃって。「ありがとう」って言われても、まだそこまで感謝されるほどじゃない。来月のほうが、来年のほうがきっと上手い。今はそこに至っていなくて申し訳ない、って感じる自分もいます。
── 「ベテラン」と言われても、もっと上の景色を見たいと。
今の自分がやっていることだって、成功する確率が高い技を選択しているだけ。100%正しい方法かって言われると、決してそうではない。今の自分を疑うことは蓄積してきた自分自身を否定することだから、怖いですけれどね。あまり偏っていても、それ以上伸びないから。
自分によく「一回、今の選択を嘘だってことにしない?」って語りかけるんです。そしてまた一から積み重ねていく。何回も嘘だってことにしてきたし、これからもそうしたい。もっともっと上手になりたいですね。
どんどん上手くなりたい気持ちが強くなってきちゃって。もうすぐ50歳なので体力が衰えていくだろうし、「あと何年勝負できっかな」って思うんです。残りどれくらい精進できて、それを仲間にどう伝えていこうかって考えると、歳をとればとるほど緊張しています。
これから築いていく未来を信じて
── そこまで「もっと上を」と思える理由はどこにあるのでしょうか。
追いかけてくる後輩がいるからですね。自分の持っているものを伝えたいけれど、負けたくない。まだまだ僕自身が学びうることなんていっぱいあるのに、ちょっと教えたらすごい勢いで近づいてくる。そういう手強い仲間たちに褒められると、今でも嬉しいですよ。
── 一緒に働いている仲間のことを大切にされているんですね。
美学ばかりではないから、失敗ありきです。人を傷つけて、泣かせてきてしまったから、「やっぱりあれはいかんかったな」って気づく。むしろ、痛みを知っている人のことが好きですね。
それと同じで、大切にしてきたダイヤモンドを結婚指輪に留めてもらうときにさ、ダイヤモンドを一度も割ったことがない人と、もう何回も割ってきている人がいたとして。僕だったら、何回も割ってきた人に頼みます。
だって、ダイヤモンドを落としてなくしたくないからね。割ったことがない人に留めてもらって大丈夫なんだろうか、と思ってしまう。今までずっと運よく割れていないのか、留める力が弱いだけなのかわからない。割ったことがある人ならね、限度を知っていますから。
お客さまが大切にしてきたダイヤモンドが自分のせいで割れたら、そりゃあ職人としてすごく傷つきますよ。でもその経験は、ちゃんと蓄積されて自分のものになっていくんです。
── 「失敗」をそう捉える小池さんと一緒にお仕事できることが、うらやましいです。
後輩にもどんどん挑戦してって思います。怖いからってちょこまか造ったら、失敗に気づきにくい。そうやって自分の成長が不確かなものになるんだったら、投下する時間は同じなんだから思い切ってやってみる。ダイナミックにやって失敗したら、「やりすぎたな」って気づけるからいいんです。
だって、僕自身これから先もたくさん失敗してしまうし、今でもどこかで間違えている。でも人生のマニュアルが存在するがごとく、間違えのないように生きていくつもりは全くないので。
── 失敗した事実はすでに過去であって、小池さんが向き合っているのは今なんですね。
失敗のことを後から言われると、うんざりするじゃないですか。過去は戻らない。失敗よりも、「あのときあれをやっておけばよかった」って後悔することが僕は嫌なんです。だから、失敗するかもしれなくても今やっておけ、って思うんですよね。
魔法をかけられた自分を信じて
── 「ichi」の名前に込められた思いのとおり、一つひとつの人生の選択、自分の努力、仲間、言葉、そして自分自身、すベての「一」を小池さんが強く信じているように感じました。そういった目の前にある「一」を信じられないことがあるのですが、小池さんがずっと強く信じていられる理由はどこにあるんでしょうか?
人生一回だから、素直でいたいなって思います。幼い頃に母親から言われた「ピカソみたいだ」っていう言葉は、未だに解けていない魔法。あの言葉があって、延長線上で仲間が褒めてくれているから、「俺はきっとやれるんじゃないか」ってずっと思えている。
誰もが、親や友だちから魔法をかけられているんです。その魔法を僕は自分で解かさないようにしたい。裏切っちゃいけない、期待されているんだから、なんて勝手に思う自分もいるからさ。周囲にたくさん支えられて生かされている以上は、生きなきゃって思っています。せっかくなら、自分らしくね。
あとは、みんなが好きなんでしょうね、家族も仲間も。その人の言葉を信じて、魔法として受け取ろうって思う。そういう魔法をかけてもらった自分なら、夢を叶えられるってことも信じている。実現のために動いていれば、夢が叶うんです。すごくないですか。だから楽しいですよね、人生。
(取材・文:菊池百合子 / 写真:伊藤メイ子/企画編集:ウエディングパーク)
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