ミライケッコンシキ
2020.06.24
10年間ウエディングの変化を追ってきた業界誌『The Professional Wedding』が考える、結婚式の新たな選択肢とプランナーの役割【 #ミライケッコンシキ Vol.2】
新型コロナウイルス感染拡大により、世の中が大きく変わろうとしています。個人の価値観が変化し、それに伴ってさまざまなサービスがアップデートされるなか、これからウエディング業界にも変化が生まれていくことは想像に難くありません。
では、未来の結婚式はどうなっていくのでしょうか。今回新たに始めたシリーズ「#ミライケッコンシキ」では、「ミライの結婚式のために、イマ私たちができること」をテーマに、ウエディング業界に携わる方々にオンラインで取材していきます。ミライの結婚式、一緒に考えてみませんか?
今回取材したのは、業界誌『The Professional Wedding(ザ・プロフェッショナルウエディング)』です。新型コロナウイルス感染症の影響がウエディング業界を直撃し始めていたさなか、The Professional Weddingは2020年4月22日発売号で「各社が磨くプランナー評価制度」を特集しています。
読者として特にウエディングプランナーが多いThe Professional Weddingが、今この特集を世に出した理由、今こそプランナーに伝えたいこととは? 編集長の石渡雅浩さん、ディレクターの桑田和代さんにお話をうかがいました。
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■ プロフィール
株式会社ウエディングジョブ
2010年に創刊した業界誌『The Professional Wedding(ザ・プロフェッショナルウエディング)』の出版を軸に、イベント開催や就職応援など、ウエディング業界関係者のキャリアに光を当てた取り組みを続ける。
編集長の石渡さんはホテル宿泊部勤務、桑田さんはウエディングプランナーの経験があり、業界経験者の視点での発信が支持されている。
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現場経験者がつくる、現場目線のウエディング業界誌
── 『The Professional Wedding』(以下、TPW)とは、どのような特徴があるのでしょうか。
(向かって左側がディレクター桑田さん、右側が編集長石渡さん)
石渡:TPWの一番大きな特徴は、業界誌であっても経営者の視点だけに寄せるのではなく、ウエディングの現場を支える方々の目線で発信している点です。The Professional Weddingという名前も、現場にいるプロフェッショナルたちに光を当てたくて名づけました。
業界誌のなかでも最後発となった私たちの特徴は、私もディレクターの桑田もホテルやウエディングの現場出身者であること。ですから、業界で働く方々のキャリアに関する記事を多く掲載しています。
例えば「両立 WOMAN」と題して、ウエディング業界で仕事と子育てを両立されている女性を取材してきました。というのも数年前までは、女性の場合は妊娠したら退職される方がほとんどだったんです。そのような状況だからこそ、キャリアについて考えるきっかけを届けられたらと思っています。
── 表紙の花嫁姿も印象的です。
石渡:表紙には、ウエディングプランナーご自身の結婚式で撮影させていただいた写真を使っています。当誌では2010年の創刊以来、プロのモデルが表紙に登場したことは一度もありません。ここにも、プランナーに光を当てたい意思を込めています。
プランナーは結婚式に詳しいからこそ、知っている選択肢が多すぎてご自身の結婚式で悩む話をよく聞くんです。「プランナーがどういう役割を担っているのかを改めて知った」と体験談を話してくださる方が多いので、表紙と連動した企画「ウエディングプランナーが花嫁になる日」も掲載しています。
── 読者もプランナーの方が多いのでしょうか?
石渡:そうですね。法人が6割程度、個人が4割程度で、個人契約の多さが当誌の特徴だと思います。個人だと、プランナーやドレススタイリストなどの現場の方が圧倒的に多いです。プランナーが30〜40人もいる式場だと、自分のもとに回ってくる頃には次号が出ているので、早く読みたくて個人契約される方もいらっしゃいます。
プランナーのモチベーションが上がる雑誌をつくりたい
── 新型コロナウイルス感染症の影響により、雑誌の発行を継続されるかどうか、悩まれましたか?
石渡:特に悩まなかったです。コンテンツの内容をどうするかは迷いましたね。
桑田:私は発行そのものを少し迷いました。経費削減として法人契約の解約もあり、このタイミングで雑誌を出す難しさを感じました。
でもこの数ヶ月で、当誌では個人の購読が増えたんです。式場が休業になって時間を確保できたため、勉強しようと思った方がお申し込みくださったようで。ウエディング業界でレベルアップしたいと考えている皆さんに何をお届けしようと考えながら、制作に当たっています。
── コンテンツについては、どのような方針で4月号の特集を検討されたのでしょうか。
石渡:経営者の目線だと、新型コロナウイルス感染症に対してそれぞれの式場がどう対応しているのかを気にされています。一方でプランナーの目線で考えると、今回の感染拡大に関連した倒産や売上減少のニュースばかりでは、気持ちが下がりますよね。
TPWとしてどうすべきかを考えたときに、新型コロナウイルス感染症への対策も重要ですが、現場の方々が前向きになれる雑誌であることを優先しようと考えました。そこであえて感染症の話一色にせず、メイン特集でプランナーの評価制度を取り上げたんです。
桑田:今回の感染症によって、数ヶ月間はプランナーにとって精神的にかなり辛い時期だったと思います。会社の発信や今後の方針を受けて、自分の考え方との違いが浮き彫りになった部分もあるのではないでしょうか。
それでも会社の指示でお客様に対応しなければいけないのは、最前線で働くプランナーです。結婚式を挙げるお客様、参列者の方々からの不安を受け止める場面もあったかもしれません。常に人と会える仕事だったのに人と会えなくなって、ウエディングの現場から気持ちが少し離れた人もいるでしょう。
それでも「これからもこの業界で頑張りたい」と当誌の購読を申し込んでいただけたり、定期購読を続けている方に「TPWを手にすると、モチベーションを取り戻せる効果もあるのですね」と言っていただけたりして、うれしかったですね。
結婚式の選択肢が増え、更に高まるプランナーの重要性
── ウエディングの業界誌を10年間続けてこられて、業界の変化をどのような点に感じていらっしゃいますか。
石渡:私は式場の意識が変わったように思います。創刊当初の10年前といえば、新郎新婦という限られたお客様を式場どうしが奪い合う雰囲気があったんです。隣の式場はライバルですから、取材を申し込んでも「自社の取り組みが他社に真似されてしまう」と断られるケースも少なくありませんでした。
しかし次第に、「本当に戦うべき相手は隣の式場ではない」と業界全体が気づいていったように思います。それぞれの式場が点で集客するよりも、エリアとして知ってもらうために、式場どうしが手を取り合って面で発信しようとする動きが出てきました。
その理由として、挙式せずに結婚する、いわゆる「ナシ婚」が増えていることが一番大きいでしょう。限られた新郎新婦を隣の式場と奪い合うよりも、業界全体で結婚式の魅力を伝えようと連携が生まれていることは、大きな変化だと思います。
── 「ナシ婚」が増えてきている今、今回の新型コロナウイルス感染症は、今後の結婚式にどのように影響してくると思われますか?
石渡:オンライン結婚式も登場していますが、同じ場を共有する意味が浮き彫りになった面もありますから、全ての結婚式がオンラインに切り替わるわけではないと考えています。むしろ「ナシ婚」でいいと思っていた人が、オンラインの挙式に興味を持つ可能性もあるでしょう。
プランナーにとっては「本当にいい結婚式とは何か」を考えるチャンスです。これまでは料理のコースや演出のプランなど、ある程度フォーマットがありました。しかしこれだけ世の中が変わると、新郎新婦にもゲストにもさまざまな考えの方がいらっしゃいますから、パッケージが意味をなさなくなります。
固定観念にとらわれずに、サービスをゼロから組み直す必要がある。このようなときにこそ、新郎新婦と一緒にベストな結婚式のあり方を考える、プランナーの仕事の真価が問われると思います。
桑田:私も同じように、「自由じゃないから結婚式をやりたくない」と思っていた人に、これまでになかったスタイルを提案するチャンスだと考えています。
人と人とがつながる意味をあらためて気づかされた今、一人ひとりに合った結婚の証を残す時代に向けて結婚式の価値をどのように伝えていくのか、プランナーの仕事がますます重要になると思います。ですから当誌としても、現場の皆さんがご自分の仕事の価値を信じられるような発信を続けていきたいですね。
(取材・文:菊池百合子 / 写真:土田凌 / 企画編集:ウエディングパーク)