連載【#結婚はこのままでいいのか】「パートナーシップ制度」と「同性婚」の違いって?誰もが幸せになれる結婚を考える

連載【#結婚はこのままでいいのか】「パートナーシップ制度」と「同性婚」の違いって?誰もが幸せになれる結婚を考える

2015年の渋谷区を皮切りに「(同性)パートナーシップ証明書」を発行する自治体が増えています。そんなニュースの記憶はあるものの、この証明書発行の制度導入によってどんなことが起きるのか、なかなか考える機会がないかもしれません。

しかし自分なりに学んで考えてみると、「誰かと一緒に生きること」を見つめ直すきっかけをもらえるはずです。

今回はそんな同性カップルに関する法律的、社会的な議論について、株式会社LGBT総合研究所の代表・森永貴彦さんにうかがいました。森永さんは自身も性的マイノリティの当事者であり、LGBTに関する調査を続けています。

現状の法律では、国内で認められていない「同性婚」。なぜ同性婚が認められていないのか、認められたらどうなるのか。これらの問いから、誰もが幸せになれるパートナーシップのあり方を考えてみましょう。

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■ プロフィール
森永 貴彦(もりなが たかひこ)

1984年生まれ。株式会社LGBT総合研究所代表。2011年に株式会社大広に入社し、マーケティングプランナーとして企業のリサーチや事業開発などを担当。2016年、博報堂DYグループ内に株式会社LGBT総合研究所を設立。LGBTに関する調査・研究や企業研修、セミナーでの登壇などを行う。
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性的マイノリティの持つ可能性に、光を当てたかった

── 森永さんの立ち上げた「LGBT総合研究所」では、どんな事業を手がけていらっしゃるのでしょうか。

LGBTに関する研修、調査、マーケティングの3事業です。まだ国内では、日本のLGBTの人たちの意識行動に関する調査が十分にありません。正しく知るために30万人以上の方を対象とした大規模な調査をしています。

その調査データを活用し、LGBTの人々がどんな人たちなのかを企業研修でお伝えしたり、どのような広告表現であれば人を傷つけずに届けられるのかを検証したり。あとはLGBTの感性を引き出してこれまでにない発想のものを生み出せないか、他社と一緒に商品開発もしています。

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── どんなきっかけで会社を立ち上げられたんですか?

新卒入社した頃からこの事業をやりたいと考えていて、博報堂DYグループ内の事業化制度に毎年応募を続けていたんです。何度もビジネスモデルをつくり直して、2016年にようやく創業に至りました。僕が社内プロジェクトではなく事業化にこだわった理由は、LGBTの世界から発信する可能性は無限大だと信じているからです。

── それはなぜでしょうか。

ダイバーシティ推進のトピックは、企業においてCSRの位置付けで捉えられるケースが多く見られます。重要だけれど、コストと思われてしまいがち。でも実際は、LGBTについて知ることが企業の収益につながる可能性も十分にあるんです。経営視点で取り組むべき課題として認識してもらいたかったので、リサーチからマーケティング、広告まで一貫して担えるビジネスにしました。

LGBTに関しては、例えば人権の分野ならすでに活動されているNPO法人があるので、僕は僕なりのアプローチで「LGBTってかっこいいね」と言ってもらえるアクションをしていきたいです。ネガティブをゼロにするよりも、LGBTがすでに持っているものを100にするのが僕の役割だと考えています。


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── この事業をやりたいと考えた原体験はありますか。

僕自身がゲイの当事者としてLGBTのコミュニティで生活していて、そこで出会った魅力的な人たちの活躍に大きな可能性を感じたことが原体験です。

僕は18歳のときに自分がゲイであると認識し、LGBTのコミュニティに出ていくようになりました。そこで出会ったのは、豊かな感性でどんどん新しいものを創造できる、才能あふれる人たち。でもそのほとんどが、セクシュアリティがネックになってLGBTコミュニティの外では才能を隠して生活しているのです。

多彩な感性を持っているのに、LGBTコミュニティの内と外に壁があると感じてしまう。もし、性的マイノリティが「壁」を超えて才能を発揮できたら、解決できる課題や新しく生み出せるものがもっとあるはずです。

彼らならではの視点や感性を抽出し、既存のさまざまな事業と掛け合わせれば、彼らの可能性を広げられる。そう考え、多様な性のあり方から発想し、新たな価値を創造する事業をはじめました。

既存の結婚観を壊すのではなく、価値観の幅を拡げる

── 事業のベースとしてLGBTのリサーチをしているとのことですが、同性同士のパートナーシップについてはどんな現状があるのでしょうか。

まず制度として、国内では同性婚が認められていません。2015年から渋谷区で、同性カップルがパートナーの関係であることを証明する「パートナーシップ証明書」の発行が始まり、話題になりました。しかしあくまでパートナーとして社会的に認知するための仕組みで、法律上の婚姻とは異なるものです。

制度上の結婚と「パートナーシップ」は、社会的な保証や配偶者に対するサポートが大きく異なります。議会の承認を得た「条例」ではなく、首長の専決事項として定めている「要綱」がほとんどである点も、保証や制度に不安が残ります。

そこで、異性夫婦と同等の結婚制度を同性同士のカップルも選択できるようにしよう、と当事者から声があがってきているのが「同性婚」。しかし現行の結婚制度は異性夫婦を前提にされているので、そのまま同性同士に当てはめられるのか議論が必要です。

── 国内では同性婚の賛成・反対について、現状どのような意見が多いのでしょうか。

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「異性間と等しく、同性同士が婚姻関係を結べる制度が必要だと思う」との設問に対して賛成と答えたのはあ、性的マイノリティの当事者で45〜60%程度、マジョリティは半数以下でした。現状だと、異性間に適用できる「結婚」の仕組みと「同性婚」は別のものとして扱ってほしい、という声が多いです。

── この現状に対して、森永さん個人の意見としてはどう考えていますか?

前提として、私がゲイの当事者として発言すると「ゲイ全体の意見」と解釈されるケースが多いのですが、調査したデータを元にあくまで個人の意見としてお話ししますね。

調査で「同性婚でなくても、LGBTの配偶関係に関する制度が必要だと思う」と回答した人は、同性婚賛成者数よりもう少し多くいましたが、それでも日本ではまだ同性婚の議論が深まっていません。そもそも、ゲイであると伝えると「女装するんですよね?」と言われたり、時に「治るんですか?」と聞かれたりするので、LGBTに対する理解が不足していると強く感じています。

このような現状で急いで同性婚の仕組みをつくっても、周囲に祝福されながら結婚できるのか疑問です。例えば台湾では、最高裁判所で同性婚を選べないことは違憲状態であると判決が出た後も、同性婚に関する国民投票をしたら反対票が賛成を上回りました。結局、同性婚を導入できたのは2年後の2019年です。

同性婚が選べる国でも、未だに差別はあります。ですから、早急に同性婚の仕組みを整えるべきだとは思いません。まずは正しい理解を広げていき、パートナーシップ制度が社会に受け入れられ、ようやく初めて議論の土台ができる。このステップが重要なのではないでしょうか。

── 森永さんは、どのような方法であれば議論を進めていけると思いますか?

同性婚に関する調査の結果からも、結婚や家族への理想像を持っている異性愛者が多いと感じます。同性婚の議論は、その人たちの理想を侵害したいわけではありません。これまでの結婚に対する価値観を尊重した上で新たな価値観を加えていけたら、議論の進み方も変わっていくと思います。

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理解のステップを踏んで、議論の準備を整えるところから

── 今後どのように同性婚の議論を進めていけば、誰もが幸せになれるパートナーシップ制度を考えられると思いますか?

「理解」だと思います。私自身、この事業の立ち上げに当たってゲイであると公表する覚悟は決めていましたが、それでも母親にカミングアウトできずにいました。結局インターネット経由でバレてしまい、関係修復のために8ヶ月を要した苦い記憶があります。身近な人に理解してもらえない、身近な人を理解できないことは、お互い辛いんですよね。

だから、一に理解、二に理解、三に理解。「LGBTの人と接するのが怖い」と思う人もいるかもしれませんが、これまで接する機会がなかったからではないでしょうか。知らないことが悪いわけでは全くないので、当事者も含めて正しい知識を一緒に学んでいきたいですね。

最近では、性的マイノリティの存在が教科書に記載されるようになりました。これまで教育において「男女」以外は存在しないものとして扱われてきたので、これは大きな一歩だと思います。子どもたちが学ぶチャンスは増えているので、学んでこなかった大人たちがどう理解を深めるかが重要です。

正しく知識を学べば少しずつ誤解や偏見が解消されていき、ようやく議論の準備が整うと考えています。そのためには、同性婚をしたい人たちの情報発信も重要ですし、学ぼうとする意欲を広げられる環境も欠かせません。一つずつステップを踏んでいけば、誰もがベストな結婚の形を考えられる日も遠くないと信じています。


連載【#結婚はこのままでいいのか】
「結婚を、もっと幸せにしよう。」という経営理念のもと、今の結婚に関する課題や問題を取り上げて考え、解決への糸口を探っていく「#結婚はこのままでいいのか」プロジェクト。本企画は、業界そして有識者の方々に「#結婚はこのままでいいのか」をテーマにインタビューしたものです一緒に「結婚の現状」について考えてみませんか?

<note>ここに宣言します。「結婚を、もっと幸せにしよう。」



(取材・文:菊池百合子 / 写真:土田凌 / 企画編集:ウエディングパーク

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