指輪・ジュエリー
2018.08.10
予約3ヶ月待ちの人気店、鎌倉に佇む「鎌倉彫金工房」の秘密
海と山に囲まれ、歴史を感じられるお寺と個性的なカフェが点在している趣深い街、鎌倉。
都心から1時間程度とアクセスが良いため、デートスポットとしても足を運ぶ人が多い土地に、予約3ヶ月待ち(2018年6月時点)の人気店があります。
工房らしさを感じる、木を使った一軒家。ジュエリーショップらしからぬ雰囲気は、男性がサプライズの婚約指輪をつくるときも一人で入りやすいように考え尽くされたもの。
“誰でも3時間で、世界に一つだけの指輪を手づくりできる”。
ここ「鎌倉彫金工房」には、大事な指輪と思い出をつくりに訪れる人が今日も絶えません。
指輪をつくる過程や完成品をSNSに投稿する人も多く、最近のカップルに支持されている様子。
その人気の秘密は、「鎌倉」「手づくり」「デザイン」…?
「鎌倉彫金工房」代表の嶋﨑さんにお話をうかがってきました。
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▼鎌倉彫金工房(https://www.kamakura-chokin.com/)
2012年に代表の嶋﨑さんが鎌倉の地で開業した、指輪を手づくりできる体験型の工房。鎌倉駅から徒歩5分の御成店に加え、2018年6月に2号店となる大町店を同じ鎌倉市内にオープン。コンセプトは「シンプルで永く愛せるデザイン」。婚約指輪や結婚指輪を中心に展開し、カップルに人気を博している。インスタグラムはこちら(https://www.instagram.com/kamakura_chokin/)
▼プロフィール
嶋﨑真也(しまざき・しんや)
京都府京都市出身。株式会社鎌倉彫金工房・代表取締役。ジュエリー職人。幼い頃から手を動かすことが好きで、美術が得意だった。技術の授業をきっかけに中学生で金属加工のおもしろさに目覚め、指輪職人の道に進むことを決意。ジュエリーの専門学校を卒業後、体験型店舗の立ち上げ、メーカーでの指輪職人を経て独立。
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指輪づくりを思い出の1ピースに
── 「鎌倉彫金工房」ってどんなお店なんですか?
カップルやご夫婦が世界に一つだけの指輪をつくれる体験型のお店です。棒状の金属を叩くところからはじめて、どなたでも3時間で完成できるようにスタッフがサポートしています。結婚指輪、婚約指輪以外にもペアリングをつくったり、ご自分の指輪を手づくりされたりする方もいらっしゃいますね。
── どんなお客さまがいらっしゃるんでしょうか。
ハイブランドの指輪を買うよりも、思い出を大切にしたい。「もの」より「こと」志向の方が多いですね。定番のデザインは、ピカピカに磨いたプラチナの甲丸。でも最近は、ゴールドやマットな仕上がりを選ばれる方も増えてきています。
── 鎌倉だから、カップルや夫婦がデートの一環でいらっしゃるケースも多そうですね。
そうですね、デートのイベントの一つとして観光がてら来てくださる方が多いですね。遠方から泊まりでいらっしゃることもあります。
鎌倉に出店した理由の一つに、鎌倉の土地の力を借りたいと思ったんです。カップルが二人でデートして指輪をつくると、すごく記憶に残るじゃないですか。だから、思い出づくりにぴったりの場所に工房をつくりたいなと思って。実際に私も鎌倉を好きでよく訪れていましたし、僕たち夫婦にとっても思い出の場所です。
夢中になれた唯一のことが、仕事になった
── 指輪のお仕事をはじめられたのは、どんな理由だったんでしょう?
最初のきっかけは、中学の技術の授業で文鎮をつくったこと。真鍮の角棒をヤスリで削って形をつくっていくんですけど、それがすごく楽しくて。高校生で進路を考えるときにその体験を思い出して、「金属を削ったり磨いたりできるらしい。ジュエリーの学校に行ってみよう!」って決めましたね。あとは、指輪をつくれたらモテそうだなと思って(笑)。
木材の加工も好きですけど、金属が一番好き。削って形を整えてピカピカにする行程ってすごく気持ちがいいんですよ。もう無心で、時間を忘れて夢中になれる。ジュエリーの学校に入ってからもずっと好きなことをやっていられるので、学校に行くのが楽しみでしょうがない毎日でしたね。
── その後、鎌倉彫金工房を立ち上げられるまでにどんな経緯があったんでしょうか。
高校生の頃に通っていた京都の老舗の彫金教室から、専門学校を卒業する前に声をかけていただいて。原宿に工房を出すことになったので来ないかと。だから、社会人スタートは先輩と原宿での体験型工房の立ち上げです。そこで4年ほど勤めてから、もう少しつくる技術を深めたくなってメーカーへ。つくる専門の職人を4年続けて、鎌倉彫金工房を始めました。
独立のときに職人の道を選ばなかったのは、メーカーでの気づきが大きかったですね。自分ではそこそこできると思っていたので、
あとは、展示会で自分がつくったものを販売したときに、お客さまのリアクションをじかに感じられるのがすごく楽しくて。職人だけやっていると、お客さまの顔を見られないんですよね。僕としてはやっぱり、喜んでいただけた反応を見られるほうがモチベーションにつながります。
じゃあ一人で何をしようと思ったときに、一社目の会社で体験型工房の立ち上げを経験させてもらったし、自分でも体験型の店舗をやってみようと考えたんです。工房なら接客できるし、なんとかできるんじゃないかって思って鎌倉彫金工房を立ち上げました。
「お客様が全然こない…」開業当初の大きな壁
── 立ち上げ当初から、今のようにお客さまが毎日いらしていたんでしょうか?
それがですね、全くいらっしゃらなかったんですよ。4年前の原宿での工房立ち上げ当時は反応があった方法が、通用しなくなっていた。これじゃまずいと思って、最初は夜間にアルバイトしながら、日中は必死でお客様に来ていただく方法を勉強していましたね。それでもオープンして3ヶ月くらいはお客さまが全然いらっしゃらなくて、地獄のような毎日でした。
当時の僕はネットで買い物できないくらい、インターネットのことを全然知りませんでした。サイトをつくっただけじゃ人が来ないこともわからなくて。最初は集客できているお店のサイトを参考にしながら、改善していきました。そうこうしているうちに少しずつ、じわじわとお客さまに来ていただけるようになりましたね。
実は、お客さまが来てくださるようになる前も後も、開業当初からサービスを特に変えていないんです。コンセプトも同じ。どんなにサービスがいいと思っていても、宣伝しないから誰も知らない。知られていないと、無人島でお店を開いているのと変わらないんだな、って実感しました。
── その気づきがあったから、現在SNSにも力を入れられているんでしょうか?
そうですね。最近ではInstagramをご覧になって来店される方も増えました。ここで指輪をつくったお客さまの投稿だとよりリアルな声を知れるので、みなさんじっくりお調べになっていますね。
お金をかけて盛大に宣伝できるかどうか、でなく、純粋にサービスやものの良し悪しで判断してもらえるようになった。小さな企業が大企業とも勝負できる、いい時代になったなと感じています。
鎌倉彫金工房の一番の魅力は「ひと」にあり
── 完成した指輪だけでなく、スタッフさんと撮った写真をSNSにアップされている方も多いですよね。
これが私たちにとって最高のモチベーションですね。結婚指輪って他のジュエリーよりも絆とか繋がりを重視するアイテ
そのために、3時間でスタッフがお客さまとの間にどれだけ信頼関係をつくれるかを一番大切にしていますね。まずは大事な指輪を任せる担当スタッフを信頼していただけるように、指輪をつくりながらお二人の想いやストーリーを聞いたり、雑談したり。指輪づくりに関係なくていいんです。いかに楽しい時間を過ごしていただけるか、を考えています。
── ここまでお話をうかがってきて、もちろん立地やデザイン、空間も「鎌倉彫金工房」の人気の要素ではあると思うんですが、なによりも「ひと」なんだなと感じています。
サービスがよくないと、人に紹介したりSNSに投稿したりしたくならないですよね。だから接客にはやっぱり力を入れています。だって、同じスタッフと3時間ずっと一緒に過ごすことなんてあまりないですから。
鎌倉彫金工房では、指輪づくり未経験でもスタッフとして採用しているんです。指輪をつくれることよりも、サービスの仕事にやりがいを感じることを最優先していて。接客が好きって気持ちからスタートしている人のほうが、いいサービスをできるから。
僕自身もやっぱり接客が好きなので、お客さまのリアクションに触れられるように少しでも店頭に入るようにしています。接客の仕事をしなくなると、大切なことを忘れてしまいます。
ここは指輪を手づくりするための場所なので、それ以外のことをやらないと決めました。物販はやらない。なにか新しいことに手を出すよりも、もっと「体験」の提供のレベルを高めていきたいです。そして、指輪を手づくりする選択肢をもっと知ってもらえたらいいなと思っています。
(文:菊池百合子 / 編集・写真:小松崎拓郎/企画:ウエディングパーク )