指輪・ジュエリー
2018.06.14
「全てのカップルが理想の指輪に出会えるように、私たちができること」白木夏子×Ringraph大沼対談
白木夏子さんは2009年、人と社会、自然環境に配慮をした「エシカル」なものづくりがしたいとジュエリーブランド「HASUNA」を設立。
HASUNA設立から10年目に入った2018年、NEWPEACEの高木新平氏とともに「パートナーシップのあり方を問い直す」をテーマとしたプロジェクト「Re.ing(リング)」を立ち上げました。
LGBT、再婚や再々婚、事実婚、また、結婚をせずひとりで生きることを決めた人。そんな多様化する家族観や結婚観、パートナーシップを見つめ直すことができるモノをつくりたかったと白木さん。
一方、大沼は、株式会社ウエディングパークの新規事業として結婚指輪・婚約指輪に特化したクチコミサイト「Ringraph(リングラフ)」を立ち上げて、2年半ほどが経ちました。
「Re.ing(リング)」と「Ringraph(リングラフ)」を軸に指輪のことや、キャリアについて、白木さんと語り合います。
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白木夏子(しらき・なつこ)
鹿児島県生まれ。英ロンドン大学卒業後、国連人口基金ベトナム・ハノイ事務所とアジア開発銀行研究所でインターン。帰国後、投資ファンド事業会社勤務を経て、2009年4月に株式会社HASUNAを設立。
大沼夏帆(おおぬま・なつほ)
1990年、神奈川県横浜市生まれ。専修大学ネットワーク情報学部卒業後、新卒で株式会社ウエディングパーク入社。結婚指輪・婚約指輪のクチコミサイト「Ringraph(リングラフ)」事業責任者。趣味は旅行。
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留学をきっかけに、世界の実情を知った
大沼:白木さんは、途上国の貧困問題を解決したいという思いでHASUNAを始められたんですよね?
白木さん:そうなんです。もともと両親がファッション業界にいたので、小さい頃から洋服をつくったり、アクセサリーをつくることが好きでした。将来はファッションやジュエリー、アートに関わるような仕事ができたらいいなと考えていたのですが、高校生のときに両親に話したら、反対されてしまったんです。
大沼:そうだったんですね。
白木さん:業界の厳しさを知っているからこその、親心だったんだと思います。それで高校3年の頃、自分の将来の夢がわからなくなっていました。
しかしそんな中、海外経験豊富な祖父から色々な国へ行った話をよく聞いていたので、世界に出て仕事をしたいなという気持ちがあって、留学することにしました。そこで発展途上国の貧困問題について学びました。
大沼:なぜ貧困問題を学ぼうと思ったんですか?
白木さん:留学する前に、戦争経験者である祖父から戦争の話を聞いたり、飢餓や貧困をテーマに世界中で撮影されているフォトジャーナリストから聞いた話に感銘を受けたりして、世界にはこんなに傷付いた人がいて、貧困問題もいっぱいあるのに、私は何もできていないなと考えたんです。
「自分にも何かできたら」という思いを持って、貧困問題を学びに渡英。ロンドン大学へ入学しました。在学中に、貧困問題の現地調査でインドに行ったんです。そこで鉱山労働者が住んでいる貧しい村に行ったのですが、そこでは大理石や雲母(鉱物の一種)が採掘されていました。
その鉱物は、私たちの便利で豊かな美しい生活のためにあるものですが、彼らは一日一食しか食べられない日があったり、生計を立てるために働かざるを得ず、その結果学校に行けないとか、様々な問題を抱えていて。ものづくりの末端にいる人たちの貧困と、そのものを使うユーザーである私たちの世界。このギャップはなんなのだろう、解決するためにはどうしたらいいのだろう、と考えました。
問題を知るにつれて、既存のビジネスの枠組み自体を変えていかないと、いつまでも直らない仕組みになっていると気づいたんです。そこで、途上国の鉱山から適切な価格で仕入れてジュエリーをつくり、販売するお金の流れをつくることができたら、何らかの形で問題解決の糸口が見えるのではないかと思い、HASUNAを立ち上げました。
エンジニアから事業責任者に
大沼:私は、新卒でウエディングパークに入社しました。ウエディングパークは「ウエディング軸」と「インターネット軸」で入社を希望する人が多いのですが、私は後者で、インターネットでのサービスづくりに興味を持って入社したんです。
最初はエンジニアだったんですけど、社内の新規事業立案コンテスト「N1(エヌワン)」がきっかけで、リングラフを立ち上げることになり、現在はリングラフの事業責任者をしています。
白木さん:エンジニアから新規事業を立ち上げるって珍しいですよね?
大沼:一般的にはいらっしゃると思うのですが、社内だと多くはないですね。リングラフの事業責任者になるまでは、エンジニアとして、サービス開発を担当していました。今まで社内で仕事をすることが多く、外出をして打ち合わせ、という機会が全くなかったので、当初は戸惑いの連続でした。お客様であるジュエリー企業にアポイントを取り、ヒアリングをするだけでも、緊張していました。名刺交換すらしたことがない状態だったので(笑)。でも、そこからヒアリングを重ねて、やるべきことが明確になっていったんです。ユーザーにも、ヒアリングをしたのですが、「もっとリアルな情報が見たい」というニーズがあることがわかり「クチコミ」をメインにしたサイトにしようと決心がつきました。
白木さん:リングラフで、HASUNAのクチコミを拝見させて頂いたこともあります。
大沼:ありがとうございます。どんなことが書かれていたか、覚えていらっしゃったりしますか?
白木さん:HASUNAの店舗は表参道の小さな通りにあるのですが、店舗の外に出て、お買い上げいただいたお客さまのことを、角を曲がるまでお見送りするんです。
大沼:それは素敵ですね。
白木さん:このお見送りに「とても感動した!」という内容の書き込みをしてくれている方がいて、そういう小さなところも見ていただけて、嬉しいなあと思いました。
大沼:モノだけではなくて、接客側のクチコミもすごく多いんです。「いろいろ回ったけど、人で決めました」って人がすごく多いですね。
SNS時代のニーズにあった、クチコミサービス
白木:飲食店のクチコミサイトは何度も投稿する機会があるけれど、結婚指輪・婚約指輪となると、数回しか機会がないですもんね。
大沼:そうなんです。だからこそ、すごく思いの込もったクチコミが多くて。
白木さん:どんなクチコミが多いんですか?
大沼:「企業の思いに共感して購入した」という方が多いですね。それこそHASUNAさんだったら、「どうやって石を仕入れているかという思いまで共感した上で購入した」という方が多いんですよ。
指輪を選ぶにあたり、重視する点は様々です。なるべく安く抑えたいって方もいらっしゃいますし、有名なブランドがいいという方ももちろんいる。最初は有名なブランドがいい!と考えていたけど、クチコミがきっかけで別ブランドが気になりはじめる方もいらっしゃったり。
白木さん:サイトを立ち上げて、どれくらいの期間になるんですか?
大沼:立ち上げて2年半くらいです。
白木さん:すごいですね。2年半で1万何千件もクチコミがあるんですもんね。
大沼:リングラフでは、クチコミの際に必ず指輪をはめた手の写真もセットで投稿してもらっているのですが、サービススタート当初は、実はそれが懸念点でした。一般的にジュエリーブランドは、きれいな写真で広告を出されていますが、リングラフでは、スマホで撮影したリアルな写真がクチコミとして掲載されるので、よく思わない企業もいるかもしれない、と考えていたんです。実際は、そういう声はこれまでほとんどなく、「リアルでいいね」って言ってくださる方が多いのでありがたいです。
白木さん:写真があるとよりイメージが湧くし、本当のクチコミなんだというのがわかりますよね。
大沼:ジュエリーブランドの写真は、モデルの手だったりすることが多い中で、リングラフに掲載されているクチコミの写真は、実際のユーザーさんの手なのですごくイメージがしやすい。「私は指が短いのがコンプレックスだったんですけど、こういう形の指輪を買ったことで、指が綺麗に見えてすごく気に入っています」などのクチコミがあると、自分に置き換えて探しやすかったりするんです。
白木さん:そういう意味では、SNS時代らしいサイトでもありますよね。
大沼:自分の手を投稿することに抵抗ある方もいるかな、と想像していましたが、最近はインスタグラムなど、SNSで「婚約指輪をもらいました」「プロポーズされました!」ってシェアすることが当たり前になっているので、時代に合ったサイトになって良かったなと感じています。
誰かを傷つけることがなければどんな愛の形も素晴らしい
大沼:白木さんは2018年に入って、「Re.ing(リング)」を立ち上げられましたよね。「パートナーシップのあり方を問い直す」がテーマと聞いたのですが、そこにはどんな思いがあるのでしょうか?
白木さん:ウェディングビジネスの世界では、若い男女のカップルが広告イメージに出てくることがほとんどであるように、マーケティングのターゲットは若い男女のカップルが圧倒的に多いと思います。ですが、HASUNAを立ち上げて10年間、様々なお客様がいらっしゃることに気づきました。再婚、再々婚、入籍をしない事実婚、同性婚、子連れ婚など、結婚の形も人それぞれで、パートナーシップの姿が多様化しているのが今なんです。
ある時、友人のゲイカップルが「ペアリングをジュエリーショップに買いに行くと変な目で見られて恥ずかしい」ということを言っていて。古い固定観念が業界にあることから偏見に悩んでいる人がいることを知りました。誰かを傷付けることがなければどんな愛の形であっても素晴らしいと思いますし、パートナーシップの形や、家族観も今の時代に合わせてアップデートすることが必要なのではないかと思い、「Re.ing(リング)」を始めるに至りました。
大沼:確かに、指輪に関しては男女ペアのデザインや商品が一般的ですもんね。今はまだ具体的には動けていませんが、リングラフでも、何かしらそういったパートナーシップに関して取り組んでいきたいという気持ちはありますね。
指輪は、関係性の象徴
大沼:「Re.ing(リング)」立ち上げにあたって、別のプロダクトや指輪以外のジュエリーを選ぶこともできたかと思うのですが、指輪を選んだのはなぜだったんでしょうか。
白木さん:指輪は、関係性の象徴だと考えたからです。「パートナーシップのあり方を見直す」という「Re.ing(リング)」のコンセプトにぴったりだと思いました。
大沼:「パートナーシップのあり方を問い直す」というのは、すごく本質的なメッセージだと感じました。
白木さん:多様性を受け入れる文化が日本にはまだまだ足りないと実感しています。「Re.ing(リング)」では、様々なパートナーシップや家族観、関係性を多くの人に考えてもらうプロジェクトにしたいと思ったんです。
多様なパートナーシップを肯定できる風潮になって欲しい
大沼:リングラフは立ち上げから2年半ですが、今後より「クチコミを見て、結婚指輪や婚約指輪を選ぶことが当たり前」になるような文化づくりをしていきたいと考えています。白木さんは、「Re.ing(リング)」を今後どのようにしていきたいですか?
白木さん:「Re.ing(リング)」を通じて、多様なパートナーシップや家族観を肯定できる世の中になったらいいなと思います。多様性を配慮することが、ウェディング業界をはじめ社会のインフラの中で当たり前になったら素晴らしいと思います。
HASUNAでは創業当初「エシカルファッション」や「エシカルジュエリー」を広める啓蒙活動も積極的に行っていましたが、今やエシカルジュエリーのブランドも年々増え、エシカルを啓蒙する団体も増えました。エシカルであること、つまりサプライチェーンにおける労働問題に配慮したり、地球環境的にサステナブルであることがファッションの業界では当たり前になりつつあります。もちろんこうした変化はHASUNAだけの力ではありませんが、ムーブメントを起こす一端になっていたのは確かです。
ビジネスは社会を変える、世界を変化させる可能性をこれからも様々な分野で追求していきたいです。
大沼:リングラフも、結婚指輪・婚約指輪のクチコミを通じて、すべてのカップルが幸せな指輪選びをできて、理想的なリングに出会えるお手伝いをしたいといつも考えています。「Re.ing(リング)」に対する思いは、娘さんが生まれたことも関係しているとお聞きしました。
白木さん:そうですね。これまでは自分の中の想像で考えていたことが、娘が生まれて「彼女が20歳になったときにどんな社会になっているんだろう」と考えるようになりました。
彼女が大きくなったときに、自分が選んだパートナーシップのあり方が肯定される、認められる社会であって欲しい。もっと自由に生き方を選べて、それを応援する風潮が日本にも広まっていって欲しいと願っています。(取材・文:くいしん/撮影:竹中)