Your SUSTAINABILITY
2023.09.20
すべての人に等しくお祝いを。CRAZYが26組のLGBTQ+カップルの結婚式から学び、変えてきたこと【Your SUSTAINABILITY #5】
新型コロナウイルスの流行は、日常に「問い」をもたらしました。例えば購買行動。購買前にしっかり検討する傾向が強まるなか、重視されてきているのが「サステナビリティ」(持続可能性)です。
何を大切にしたいのか。未来に向けて、今踏み出せる一歩とは何なのか。この問いが、人々を変えつつあります。
当メディアを運営するウエディングパークは、「結婚を、もっと幸せにしよう。」を経営理念に掲げてきました。この理念を体現するために、誰もが自分の望む道を選び、幸せを目指せる世界を創っていくことが、私たちの使命です。そして、そのために今選びたい道こそが「サステナビリティ」だと考えました。
ウエディング業界から、未来につなげる幸せの選択肢を増やしたい。そんな思いで、サステナビリティに取り組む業界の方々を取材する連載「Your SUSTAINABILITY 未来につなげる、はじめの一歩」を始めます。一歩目の踏み出し方を、共に学びませんか。
今回取材したのは、結婚式に新たな選択肢をつくり続けてきた株式会社CRAZYです。
完全オーダーメイドのウエディングプロデュース事業「CRAZY WEDDING ordermade」から始まり、2019年には自社ブランド施設「IWAI OMOTESANDO」をオープン。2023年6月までに、通算26組(2023年9月現在)のLGBTQ+カップルがお祝いのセレモニーを実施してきました。
カップルと関わりながら、自分たちのやり方を変更してきたCRAZY。LGBTQ+カップルとどう向き合い、学んできたのかを、株式会社CRAZY 渡部恵理さんに伺いました。
■ プロフィール
株式会社CRAZY
「愛はみえる。」をブランドメッセージに掲げ、「IWAI OMOTESANDO」を中心にウエディングプロデュース事業を展開。LGBTQ+カップルのお祝いの機会創出やジェンダーに関する社内勉強会実施などが評価され、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)に取り組む企業を認定・表彰する「D&I Award 2021」において「D&I Award賞」を受賞した。 公式サイト
渡部 恵理(わたなべ えり)
200組の結婚式をプロデュースしてきた中で、2019年から26組のLGBTQ+カップルのセレモニーのプロデュースを担当。現在D&I推進リーダーに着任し、社内外に向けたLGBTQ+に関する勉強会なども手がけている。プロフィール
挙式に対するハードルを取り払うために
── LGBTQ+のセレモニーは、どのような経緯でプロデュースを始められたのでしょうか?
「始めよう」と決めたわけではなく、CRAZYにお問い合わせをくださったお客様のなかにLGBTQ+の方もいらしたので、他のお客様と同じようにプロデュースさせていただいたことが始まりですね。
▲ 株式会社CRAZY プロデューサー 渡部恵理さん
── LGBTQ+カップルからの問い合わせが増えるきっかけはあったのでしょうか。
2019年に「東京レインボープライド」に出展したことが、私たちの姿勢を知っていただくきっかけになったと思います。セクシャリティに関わらずカップルがお互いへの思いを伝え合う「誓い」のブースを用意したところ、誓いを立ててくれた半数の方がLGBTQ+の当事者だったんです。
この出展を機に「LGBTQ+フレンドリーな会社」とイメージを持っていただけて、ブランドとして強みが増えたように思います。実際に、この時「誓い」をしたカップルや、見守っていたカップルのセレモニーもプロデュースさせていただきました。
▲ 誓いを立てるカップルの姿はシルエットしか見えない。
── 同じ2019年には「CELEBRATION WEEK for all」をスタートされています。こちらはどのような取り組みなのでしょうか?
結婚式をしたくてもできない方たちに「IWAI OMOTESANDO」のチャペルを開放し、LGBTQ+カップルのセレモニーを無料でプロデュースしました。
── 実施を決めた背景を教えてください。
LGBTQ+のカップルのみなさんにヒアリングしていたところ、「本当は結婚式をしたいけれど、式場に受け入れてもらえるか不安」とおっしゃる方が多かったんです。他にも、挙式することをご家族に言いづらかったり、金銭面の問題があったりと、挙式に対するハードルをたくさん聞きました。
一方で、誓いを終えると感動して涙を流し、「はじめてふたりで生きていくことを、心から認められた感覚。」と喜びに満ちている姿を目の当たりにして、すべての方にお祝いを届けることは間違っていなかったんだ、と確信できたんです。それなら、望む方に愛を誓える場をお届けできるよう、無料での挙式を企画しました。
── 実現に際して大変なことはありましたか?
初めての試みなので、試行錯誤したことは、たくさんあったと思います。でも「LGBTQ+カップルだから、特別な結婚式を実現しなきゃ!」と思っていたわけではなく、他のカップルのセレモニーと同じように、おふたりの願いを叶える式をつくることだけを考えていました。社内の仲間たちも、その思いを共有した上で、一緒につくりあげてくれたんです。
結果は素晴らしいセレモニーになり、愛し合いながら生きることを誓うおふたりに大きな拍手が起きていました。このセレモニーを経てから今まで、「CELEBRATION for All」プロジェクトとしてすべての人に等しくお祝いの機会を届ける活動を続けています。
カップルとの関わりを通じて、CRAZYが変えてきたこと
── LGBTQ+カップルとの関わりを通じて、CRAZYでどのような変化があったのでしょうか。
セクシャリティに関係なくお祝いできる体制にするための気づきをたくさんもらいました。ドレスはどうするのか、おふたりのどちらが右に立つのか、「結婚式」と呼ぶのかどうか。カップルの方々が勇気を出して「式を挙げたい」と言ってくださったからこそ、私たちも少しずつ学び、変化していけたのだと思います。
── これまでにどのような気づきがありましたか?
さまざまな学びがありましたが、その根底にあるのは、お客様からいただいた「怖がらないでほしい」という言葉です。LGBTQ+カップルに対して「傷つけないようにしなくては」とおそるおそる質問していたときに、教えていただいたことでした。
「怖がられるのが一番悲しい。間違ってもいいから聞いてほしい」と声をかけていただけたことで、私も一人の人間としておふたりに向き合うことが、何よりも重要だと気づかされたんです。「お伺いを立てる」感覚ではなく、おふたりと一緒に式をつくっていけばいいんだ、と思えるようになりましたね。
── これまでにプロデュースを担当されてきたなかで、印象に残っているお客様の反応はありますか?
どの式も心に残っているので選びがたいのですが、男性として生きている女性(トランジェンダー)の方と、女性のカップルの挙式で、印象に残った場面があります。
このカップルの場合、お母様がおふたりの結婚に同意されていなかったんですよね。挙式当日も、始まる前は曇ったお顔をされていて。でもセレモニーで誓いの言葉を読み上げるおふたりの姿を目の当たりにして、涙を流していらしたんです。
終わった後にお母様にお声がけしたら、「セクシャリティについて受け入れられたかわからないけれど、あんなに幸せそうな姿を見られて、あの子は幸せ者だなと嬉しく思いました」とおっしゃっていました。お子さんへの思いがぎゅっと凝縮された言葉のように感じて、心に残っています。
── 「幸せになってほしい」という願いを感じますね。
お祝いの場が持つパワーって、ジャッジメントを超えられるんですよね。そういう場だからこそ、セレモニーがおふたりの人生における新たなスタートになります。
ご家族やゲストを呼ばないおふたりだけの式もありましたが、式を経たことでご家族にカミングアウトできた方もいらっしゃいました。そんな人生の背中を押せるセレモニーの機会を、これからも増やしていきたいです。
勉強会を通じて「他人ごと」から「自分ごと」へ
── カップルとの関わりを通じて学んだことを、社内ではどのように共有しているのでしょうか?
ジェンダーに関する勉強会を全社員で実施しています。LGBTQ+カップルと関わりながら学んだことがたくさんあったので、セクシャリティに関係なくカップルをお祝いするために、知っていたほうがお客様をより大切にできる知識を学んできました。
例えばお客様にお渡しする資料に「新郎新婦」ではなく、どう書くのか。問い合わせてくださった方にどういうお答えをするほうがいいのか。このあたりは全社員の知っていることを少しアップデートするだけで、心配りができるようになるんです。
── 勉強会では具体的にどのようなことをしているのでしょうか。
基礎知識のインプットから入り、ワークショップを取り入れながら一緒に考える場をつくっています。体験談を読んで登場人物がどんな気持ちになるのかを想像してみたり、自分のセクシャリティを見つめ直してシェアしたりしてきました。
自分の常識だけでは、知らないことがあるかもしれない。そこに思いを馳せて、自分なりに考えてみる機会をつくることを大切にしています。
▲ 社内勉強会の様子。
── 勉強会を続けてきて、社内の変化をどのように感じていますか。
勉強会を始めたころは「LGBTQ+が周囲にいないから想像できない部分もある」「学ばなくてはいけないと思う」といった感想を聞いていました。でも会を重ねていくうちに、「自分のアイデンティティを知った」というような、自分のことも含めた感想に変化していったんです。
きっと当初は「自分とは違う世界のことを学ぼう」と意気込んでいたら、自分もLGBTQ+の人も同じようにグラデーションの一部なんだ、と気づいたのだと思います。この変化を感じて、勉強会を開催してきてよかったなと感じました。
── 自分の思いをシェアして自分を変えていく社内勉強会は、どんな環境でも実現できるわけではなさそうです。どのような仕組みがこの勉強会を可能にしていると思いますか?
CRAZYのカルチャーにつながる取り組みは多様ですが、日ごろの積み重ねで言うと、全社会議に「シェアタイム」を取り入れています。その人が今何を感じているのかを、全社員の前でそのまま話してもらう時間です。
家族と喧嘩しちゃって、だとか、仕事がうまく進んでいなくて、といった本音を吐露して、他のメンバーに受け入れてもらう体験を通じて、「意見が違ってもいいんだ」「弱い人間でもいいんだ」と安心してその場にいられるようになります。
こういった「ジャッジしないでシェアする」場を普段からつくっていることが、勉強会を実施しやすい土壌につながるのかなと思いました。
学びを分かち合い、お祝いしたい気持ちを広げていく
── 学びを社外へと広げるように、LGBTQ+カップルの挙式を通じてCRAZYが教わったことを公開していましたね。
ウエディングのお仕事をしている方々は、カップルが目の前にいらしたら、その方たちをお祝いするために一生懸命になりますよね。その思いが原点として最も大切で、そこにプラスアルファで、私たちが学んできたこともヒントになればいいなと考えました。
▲ 25組のLGBTQ+カップルの挙式を通じて、得た気づきやCRAZYとして変化したことの一部を公開した。
── 併せて「CELEBRATION For All」のステートメントも掲げられていました。この活動を続けようと決めた背景を教えてください。
セレモニーをしたくてもできないと思っている方に対して「ぜひ私たちに声をかけてください」とお伝えすることで、挙式できる選択肢があるんだ、と安心してもらえたらと考えています。
私個人としてはLGBTQ+カップルを異性カップルと同じようにお祝いしてきたので、「CELEBRATION For All」とわざわざ掲げる必要がないのでは、と考えたこともありました。それでもこの活動を続けることにしたのは、やっぱり現状の制度ではLGBTQ+の方々に平等ではないからです。
── 今はまだ、このメッセージの発信が必要な段階なのですね。
当事者の方からも「発信を続けてほしい」と言われたことがあります。「私たちにはまだ結婚する権利がないけれど、権利があるなしに関わらずお祝いしてくれる人がいるんだよ、と伝わってほしい」とお声がけいただいて、本当にそのとおりだなと思いました。
だから今はアイコンとして「CELEBRATION For All」を掲げて、結婚式にハードルを感じる方や、一歩踏み出す勇気が欲しい方にも、お祝いを届けられたらと思っています。でもいずれは、ステートメントを掲げなくても済むくらい、すべての人が等しくお祝いされることが当たり前の社会にしていきたいです。
── その未来に向かって、ウエディング業界で何をしていきたいですか?
少し先の未来には、法律で同性婚が認められるタイミングがきっと来ると思います。そのときにまず変化を求められるのが、ウエディング業界です。
海外の例でも、同性婚の法制化を皮切りにLGBTQ+カップルが多く入籍した、と聞きます。お客様のなかにも「法律で『結婚』が認められたらもう一度セレモニーをしたい」とおっしゃる方がいました。
そう考えると私たちって、LGBTQ+の方々が結婚できるようになったら最初にお祝いできる、幸せな業界だと思うんです。カップルを心からお祝いしたい気持ちを業界の方々と共有しながら、いずれ訪れる未来ですべての人に等しくお祝いできる機会を届けられるように、一緒に準備を進めていけたらいいなと思っています。
▲ CRAZYが掲げる「CELEBRATION For All」のステートメント。
※ セレモニー画像はCRAZY提供。掲載している画像は該当エピソードと一致しない場合があります。
( 取材・文:菊池百合子 / 写真:伊藤メイ子 / 企画編集:ウエディングパーク)
「Your SUSTAINABILITY企画担当のひとこと」
インタビュー中にも紹介されている「CELEBRATION For All」プロジェクト。2023年6月に「すべての愛が祝福される世界へ。 25組のLGBTQ+カップルと向き合い、 教わったことを公開します。」と題したプレスリリースが目に留まり、今回取材をお願いしました。実はCRAZYは立ち上げ当初から気になる存在であったものの、私自身はなかなか直接取材できる機会がなく、とても楽しみにしていました。
渡部さんの話を伺う中で「ただただ幸せなふたりをお祝いしたい」というシンプルでまっすぐな想いを語っていただき、そのひとつひとつの想いが「CELEBRATION For All」に繋がっているのだと気づかされました。でもなぜ、ここまで気持ちを乗せて実行できているのか。文中で詳しく触れられなかったのですが、CRAZYは社内のDE&Iも進んでいる企業です。
ライフプレゼンテーションや、お昼ごはん、握手など、日頃からその人が大切にしている価値観を知ったり人生と向き合ったりする時間を企業としてとても大切にしていています。「人生においてもっとも大切なものは何か」、そんなシンプルなことを日頃から意識しているCRAZYだからこそ、「事業」も「サステナビリティ」も両方自然体で実現できるのだと感じた取材でした。
(文:瀬川)