大学生が考えた「ジェンダーフリー」な結婚式の提案を、八芳園が採用するまで。産学連携から踏み出した一歩目【Your SUSTAINABILITY #2】

大学生が考えた「ジェンダーフリー」な結婚式の提案を、八芳園が採用するまで。産学連携から踏み出した一歩目【Your SUSTAINABILITY #2】

新型コロナウイルスの影響は、日常に「問い」をもたらしました。例えば購買行動。購買前にしっかり検討する傾向が強まるなか、重視されてきているのが「サステナビリティ」(持続可能性)です。

何を大切にしたいのか。未来に向けて、今踏み出せる一歩とは何なのか。この問いが、人々を変えつつあります。

当メディアを運営するウエディングパークは、「結婚を、もっと幸せにしよう。」を経営理念に掲げてきました。この理念を体現するために、誰もが自分の望む道を選び、幸せを目指せる世界を創っていくことが、私たちの使命です。そして、そのために今選びたい道こそが「サステナビリティ」だと考えました。

ウエディング業界から、未来につなげる幸せの選択肢を増やしたい。そんな思いで、サステナビリティに取り組む業界の方々を取材する連載「Your SUSTAINABILITY 未来につなげる、はじめの一歩」を始めます。一歩目の踏み出し方を、共に学びませんか。

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今回取材したのは、これからの結婚式について大学生と一緒に考えた、産学連携のプロジェクトです。「Z世代と考える、ジェンダーバイアスとこれからの結婚式」と掲げて、八芳園と清泉女子大学、ウエディングパークで2022年に取り組みました。

学生が結婚式について考え、ジェンダーバイアスに向き合い、新たな結婚式のあり方を提案する──そんなプロジェクトを通じて、どのような一歩が踏み出されたのか。

プロジェクトを担当した清泉女子大学 教授の安斎徹教授、八芳園 プロデュース事業部・工藤彩乃さん、ウエディングパーク 次世代マーケティング研究室の松浦歩美さんにお話を伺いました。


■ プロフィール
安斎 徹(あんざい とおる)
清泉女子大学・文学部地球市民学科教授。日本で唯一の地球市民学科にある安斎ゼミでは「日本一ワクワクドキドキするゼミ」を目標に掲げ、企業や地域とのプロジェクトを推進している。著書『企業人の社会貢献意識はどう変わったのか』(ミネルヴァ書房)、『女性の未来に大学ができること』(樹村房)など。 公式サイト

八芳園 工藤彩乃(くどう あやの)
2016年新卒入社。ウェディングプランナーとしてお客様のお問い合わせから成約までを担当するアドバイザー業務や成約から挙式準備までを担当するコーディネーター業務を経験。現在は採用/教育担当も兼任している。 公式サイト

ウエディングパーク 次世代マーケティング研究室 松浦歩美(まつうら あゆみ)
2008年ウエディングパーク入社。式場の広告営業を経て、フォトウエディングのメディア開発、マーケティングを担当。社内制度「F1」で、次世代マーケティングの必要性を提案し、研究室を設立。Photorait本部 プロデューサー兼シニアアナリスト。

Z世代から聞こえてきた、結婚式のならわしへの「疑問」

── 本プロジェクトはなぜ発足することにしたのでしょうか。

ウエディングパーク・松浦:最初のきっかけは、2022年5月に実施したZ世代へのインタビューです。25歳前後の対象者に結婚式について聞いてみると、「バージンロードを歩くのはなぜ父親だけ?」「ファーストバイトの意味が時代錯誤では?」といった疑問が挙がりました。

それまでのインタビューではこのような疑問を聞いたことがなかったのですが、その背景には、男女の役割に対して固定的な考え方や偏見を持つこと、つまり「ジェンダーバイアス」への違和感を結婚式に対して持ち始めているのではないかと考えました。

そんなときに安斎先生から、「結婚式のジェンダー問題について学生が考えて、結婚式のあり方を提言するのはどうでしょうか?」とご提案いただいたんです。安斎ゼミとは2021年度にも授業をご一緒していたので、「ぜひ!」とお返事しました。

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ウエディングパーク 松浦歩美 

清泉女子大学・安斎:「ジェンダー」はゼミで取り上げたいテーマでしたが、単体で扱うのは難しい。でも「結婚式とジェンダー」であれば前年度の取り組みとつながりますし、「結婚式」のテーマに対して学生が喜んで取り組む姿を見ていたので、今年も何かできたらと思ってご連絡したんです。

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清泉女子大学 安斎徹 

── ここに八芳園も合流されました。式場として参加する意義はどのようにお考えですか?

八芳園・工藤:結婚式を挙げないカップルも、結婚をしないカップルも増えています。次の世代である学生さんたちに、結婚式や八芳園に興味を持っていただくきっかけを少しでもつくれるのであれば、八芳園として取り組む意義があると考えました。

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八芳園 工藤彩乃 

── 三者それぞれが参加する意義があるからこそ、プロジェクトが成立したんですね。このプロジェクトのゴールを教えてください。

松浦:「時代にマッチした結婚式サービスのアップデート成功事例をつくる」ことです。プロセスとしては、ジェンダーバイアスについて学んだ学生に「多様性を尊重するジェンダーフリーな結婚式」を提案してもらい、その提案を実際の式場でどのように取り入れられるか、八芳園とウエディングパークで検討することにしました。

大学での学びを社会とつなげるために、提案までのプロセスに「デザイン思考」を取り入れて、提案の実現までプロジェクトに含めることを重視しています。

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▲ プロジェクトのタイムライン。学生は全3回の授業でインプットからアウトプットまでを実践。

式場見学と座学を経て、学生が八芳園に提案したこと

── 全3回の授業で、どのようなインプットをしたのでしょうか。 

松浦:結婚式に参列したことがない学生が多かったので、1回目は結婚式の基礎知識を学ぶオリエンテーションからスタートしました。八芳園に終日お邪魔して、式場見学の時間もたっぷり設けています。

工藤:学生さんのほとんどが、結婚式のことを知らないところからのスタートだったので、すごくやりがいがありました。

松浦:式場を見学する前は、結婚式をやりたいと思わない学生もいました。でも見学を終えたら「結婚式をやりたくなりました」と言ってくれて、結婚式の意味を知り、結婚式を挙げる方の気持ちに触れることでこんなに意識が変わるんだ、と気づきになりました。

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── 2回目の授業についても教えてください。

松浦:2回目は、ジェンダーバイアスへの理解を深める座学です。自分や身の回りのバイアスに気づくための講義を受けた後、新しい結婚式のあり方を考えるディスカッションをしてもらいました。

ディスカッションには、八芳園の男性スタッフの方々にも参加していただいたんです。女子大学の授業ですが、結婚式は女性だけのものではありません。テーマに「ジェンダーバイアス」を掲げている以上、ジェンダーに関わらず様々な視点から提案を考えてほしかったからです。学生からも「視点の違う意見が聞けて、考えが深まった」と好評でした。 

── ディスカッションに参加されたスタッフの方々からは、ご感想はあったでしょうか。

工藤:社内でスタッフと話していると、無意識のうちに、結婚式に対して肯定的な前提の上で議論しがちです。でも学生さんは、慣習やルールに縛られずに「その意味は理解できないです」「これは必要ないのでは?」とはっきり言ってくれて興味深かった、と話していました。

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── 最後の授業が発表会だったんですよね。学生はどのような発表をしたのでしょうか。 

松浦:3チームに分かれて、ジェンダーフリーな結婚式の提案をプレゼンテーションしてもらいました。結婚式に使う「言葉」に注目した提案、カップルが二人とも主役になれる衣装や演出のアイデア、ジェンダーの視点で式の準備から改善する案と、三者三様でしたね。

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── 学生の発表を聞いた感想を教えてください。

工藤:想像していたよりも現実的なご提案が多かった印象です。結婚式におけるバージンロードやベールなどの見た目に関するご提案が多く、視覚的な部分を変更していく意味を感じました。

安斎:今回のプロジェクトは、学生にとって難易度が高いものでした。問題点を挙げるだけならもう少し簡単ですが、提言するのは難しい。さらに実現化される可能性もあったので、八芳園やウエディングパークの皆さんに納得していただく必要がありました。

それでも私は提案内容には関与せず、学生に任せていました。結果、式場見学や座学で学んだ内容を踏まえて実現できそうなことを提案していて、工夫しているなと思いました。

── 学生からの感想も伺いたいです。

松浦:従来の挙式や披露宴の良さを活かしながら「提案」まで練り上げるのが難しかった、との声が多かったです。それでも「イメージすら持っていなかった結婚式を、自分ごととして考えられるようになった」「ジェンダーバイアスについてもっと理解を深めたい」といった前向きな声が聞けて、授業ができてよかったなと思いました。

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10年先を見据えたときに、今やったほうがいいか

── 学生の提案を式場で取り入れるために、八芳園とウエディングパークでどのような議論を重ねたのでしょうか。

松浦:前提として、ジェンダーのテーマは人によって受け取り方が大きく異なるテーマであり、なおかつジェンダーバイアスを気にするニーズが顕在化されにくい傾向にあります。ジェンダーバイアスに配慮した結婚式のあり方を用意しても、その提案をカップルにどのようにお伝えするのかを悩みました。

工藤:「バージンロードってお父さんと歩くものですか?」と発言される方には、ジェンダーバイアスを気にしている方だけでなく、バージンロードの慣習をご存知ない方も、お母様と歩きたい方もいます。プランナーがどこまで踏み込んでヒアリングするのか、判断が難しいと感じました。

── 変えることは簡単ではないのですね。

工藤:そうですね。結婚式はお二人だけのものではないので、何かを変えようとする場合、プランナーは親御さまやゲストさまへの影響も考えるべきです。さらに1組の結婚式だけでなく、広い視野で考える必要もあります。

例えば言葉にしても、「バージンロード」を「ウエディングロード」に変えること自体はすぐにできるんです。でも八芳園だけが変更しても他の式場が変えていなければ、八芳園の取り組みをお客様に受け入れていただけないのではないか、と葛藤しました。

安斎:工藤さんのお話を伺いながら、結婚式のステークホルダーってたくさんいるんだと実感しました。「社会のなかにある結婚式を、二人の意向で変えてしまっていいいのか」と考える視点も確かに必要ですよね。

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── 難しくてもなんとか形にしようと思えたのは、なぜだったのでしょうか。

松浦:お客様への提案方法を悩んでいるときに、安斎先生が「10年単位で考えれば、今アクションしたほうがいいテーマですよね」と言ってくださって。どんなに難しくても一歩を踏み出せる提案をしよう、と心に決めました。

安斎:このプロジェクトで何かを変えようとそうでなかろうと、ジェンダーフリーを目指す取り組みは、10年単位で見たらやったほうがいいことですよね。それなら、後から振り返ったときに未来が変わるきっかけを、今つくれたらと思いました。

── 葛藤を経てたどりついたのが、ジェンダーフリーのウエディングをご提案する資料の用意だったんですね。

工藤:はい。ジェンダーフリーの結婚式についてご提案できることを資料にまとめ、積極的にご提案するというよりも、ご要望があったときにいつでもお見せできるように準備しておくことになりました。

プロジェクトだけで終わらせず、未来につながるきっかけに

── プロジェクトの成果について、どのような意義を感じていますか?

松浦:今回の資料を25〜27歳のカップルにお見せする機会がありました。その結果、9組のうち3組が「結婚式のジェンダーバイアスに違和感がある」「この資料で説明されたら、違うやり方を選んでいたかもしれない」と回答されました。まさに、10年先を見据えて「今」を変えていく意義と必要性を感じました。

工藤:資料にまとめたことで、全てのお客様にお見せするわけではなくても、ご提案できるように準備できている状態をつくれました。一つだけ残念なのは、私はまだお客様に資料をお見せできていなくて、それが悔しいですね。プロジェクトが結びになっても、いつでも使えるように持っておきたいですし、アップデートもしたいです。

安斎:今回のプロジェクトをまとめて「SDGs探究AWARDS」に応募したところ、2022年度の審査員特別賞を受賞しました。結婚式でのジェンダーバイアスという多くの人々にとって意識されにくい問題に注目し、新たな結婚式の形態を検討し、企業に提案したことを評価され、嬉しかったですね。

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── プロジェクトを経て、今後取り組みたいことを教えてください。

安斎:このプロジェクトを短いワークショップにして、いつか授業にも取り入れてみたいです。プロジェクトを通じて私自身の結婚式に対する考え方が変化してきたので、この体験をより多くの学生に届けられればと思っています。

工藤:資料を継続的にアップデートしたり、プランナーの知識習得を進めたりすることで、どのようなご希望をお持ちのお客様がいらしても対応できる状態をつくりたいです。八芳園は伝統的なイメージを持たれやすいですが、「八芳園でできない結婚式なんて何もないんだ」と思っていただける事例をつくっていけたらと思います。

松浦:このプロジェクトにすごく手応えを感じているので、今後もジェンダーバイアスのテーマに限らず、これからの結婚式のあり方を業界の皆さまと一緒に考えていきたいです。

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▲ 安斎ゼミの学生が提案した「新しいファーストバイト」のアイデアを、Z世代のアーティスト・ヨシフクホノカさんがイラスト化し(左)、未来の結婚式を考えるイベント「Wedding Park 2100」にて展示した。

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