ミライケッコンシキ
2021.08.04
思いを伝えることで、人生を前に進めるお手伝いをする。日本バウリニューアル協会の原点【#ミライケッコンシキ2021 Vol.3】
新型コロナウイルス流行をきっかけに、世の中は大きく変わりつつあります。個人の価値観が変化し、それに伴ってさまざまなサービスがアップデートされるなか、これからウエディング業界にも変化が生まれていくことは想像に難くありません。
2020年からスタートしたシリーズ「#ミライケッコンシキ」では、「ミライの結婚式のために、イマ私たちができること」をテーマに、ウエディング業界に携わる方々に取材を重ねてきました。
継続的な取材を通して、2020年と2021年では、ウエディング業界の雰囲気が少し変わってきたと感じます。明日を暗中模索する段階を経て、未来へと力強く歩み始めたような印象を受けるようになりました。
そんな今だからこそ、「#ミライケッコンシキ2021」をスタートします。
結婚式はこれからどうなっていくのか。まだまだ先行きが読みにくい今だからこそ、ミライの結婚式について、一緒に考えてみませんか?
今回お話をうかがうのは、日本バウリニューアル協会の代表理事・木原亜沙子さんです。
「バウリニューアル(Vow Renewal)」とは、すでに結婚しているおふたりが、おふたりや家族の節目を祝い、お互いへの愛を誓うセレモニーのこと。欧米発祥の文化といわれ、最近では日本でも少しずつ知られてきています。
8年前からバウリニューアルを広める活動を続けてきた木原さんは、挙式自体が危ぶまれたコロナ禍で、結婚式場に求められる役割が変化していると感じてきました。さらに式場と、結婚するおふたりとの新たな関係性についても発見があったそうです。
コロナ禍だからこそ、「記念日」の意味を考えてみませんか?
TAKAMI BRIDAL(南青山ル・アンジェ教会)、株式会社デリ・アートとの3社合同でおこなったバウリニューアルセレモニーのあと、セレモニーの余韻が残る教会の中で、木原さんにお話をうかがいました。
■ プロフィール
日本バウリニューアル協会
2013年より、東京都内の企業の一事業としてバウリニューアルの普及に7年携わったのち、バウリニューアルを広める啓発団体として、2020年1月に立ち上げられた一般社団法人。記念日制定の普及推進や、記念日を通じたイベント企画、セミナー運営など、バウリニューアルに関する幅広い活動を続けている。代表理事は木原亜沙子さん。公式サイト
家族とあらためて向き合う「バウリニューアル」
── 木原さんはどんなきっかけでバウリニューアルを知ったのでしょうか?
以前ハワイでウエディングプランナーをしていたときに、オプションのひとつとして用意されていたんです。挙式後に結婚するおふたりのご両親に対してサプライズで実施するもので、セレモニーの時間としては10分程度。その短さでも、ご両親が向かい合って手を合わせると涙されるご家族が多くて。
その様子を見たときに、すごくいいセレモニーだな、でも日本で全然知られていないのでは?と思ったんです。それで帰国してから、バウリニューアルを広める活動を始めました。
── 日本バウリニューアル協会(以下、協会)では、どのような活動をしていますか?
協会では会員制度を敷いて、業界でお仕事されている方々と一緒に、バウリニューアルを広める活動をしてきました。結婚記念日に限らず、七五三やご両親の還暦のお祝いなど、多様な記念日のあり方をお伝えしています。
── バウリニューアルを広める活動を8年間続けてきて、手応えは感じていらっしゃいますか?
そうですね。8年前ですと業界関係者の方々からも「聞いたことがない」という反応ばかりでしたが、継続的な啓蒙活動のおかげで「加入したいです」というご連絡が増えてきました。とはいえ一般のお客様にはまだまだ浸透していないので、発信を続けていきます。
プランナーと結婚するおふたりの思いをつなぐ「架け橋」に
── 結婚式の延期やキャンセルが相次いたコロナ禍は、ウエディング業界に非常に大きな影響がありました。木原さんはコロナ禍の影響をどのように感じていらっしゃいましたか?
会員の方々から「お客様に対して何かして差し上げたいけれど、その思いをなかなか形にできない」というお話を聞くことが多くありました。結婚式の中止や延期を迫られたお客様の状況や心情に寄り添うためには、どのようなご提案をできるのか、悩んでいる方が多かったように思います。
── 協会では具体的にどのようなアプローチを検討されたのでしょうか。
私たちに今できることを考えた結果、2020年8月に「GIFT ANNIVERSARY 2020」をスタートしました。コロナ禍で結婚式を延期・キャンセルされたおふたりに、記念日を贈ろうという趣旨のプロジェクトです。
協会ではコロナ禍に限らず、個人の大切な日を正式な記念日にできる「記念日制定証明書」を発行しています。「GIFT ANNIVERSARY 2020」は、結婚式を延期・キャンセルされたおふたりに対して、この証明書を式場から送っていただく取り組みです。プロジェクトを通じて、プロポーズの日やお付き合いされた日など、合計230件の記念日を制定しました。
── 230件の記念日ひとつひとつに物語がありそうですね。反響はいかがでしたか?
式場の方々から「お客様からお礼のメッセージをいただきました」というご報告をたくさんいただきました。挙式が挙げられるか不安を抱えていたお客様にとって、証明書が届いたことで式への気持ちをもう一度前向きに持てたようで、「延期になってもこの式場で結婚式を挙げます」というお声をたくさんいただいた、と聞いています。
コロナ禍でお客様に何ができるのか悩んでいたプランナーの方々にとっても、「ご結婚をお祝いできる日を私たちも楽しみにしています」というお客様への思いを形にする機会になったようです。
このようなプロジェクトを通じて、お客様に気持ちを注いでいるプランナーさんと、お客様との「架け橋」になれたらと思っています。
それぞれの家族の形で、記念日の思い出を増やしていく
── これまでは結婚式の日に集約されていた式場と結婚するおふたりの関係性が、コロナ禍によるさまざまな影響を機に変化してきているのでしょうか。
そうですね。結婚式の日だけでなく、挙式される前後にも焦点を当て、お客様に寄り添える方法を本気で考える企業が増えていると感じます。ですから今後は「式場」「プロデュース会社」といったカテゴリーではなく、「人生の節目をお祝いできる場所」として、式場の役割が変わっていくのではないでしょうか。
お客様にとって結婚式を挙げた場所は、夫婦や家族のスタート地点です。結婚した後から始まる長い人生で、お子さんの誕生や七五三、ご両親の長寿など、さまざまな節目が続きます。それらの記念日を式場でお祝いできたら、式場だからこそ持てる感慨や思い出せるエピソードもあるでしょう。
おふたりはさまざまな選択肢から式場を選んでいるのですから、式場はお客様との関係性を長く続けていくことをもっと重視できると思います。お客様の大切な場所である式場と、結婚式の後も人生を歩んでいかれるお客様をつなぐ接点として、バウリニューアルを活用していただけたら嬉しいです。
── 結婚式場に求められる役割が変化している今、結婚式やバウリニューアルなどの人生の節目を迎えられたお客様のお祝いにおいて、式場はどんな役割を担えると思いますか?
お客様が普段どおりでいられることが、最も重要だと思っています。それぞれの家族の形がありますから、お祝いにおいて正解も間違いもありません。できる限りお客様らしく過ごせるようにサポートするのが、式場の役割だと考えます。バウリニューアルの場合も「とにかく楽しんでくださいね」とお伝えしていますね。
── 木原さんが「ご家族らしさ」を重視するようになった原体験はありますか?
ハワイで仕事をご一緒していた現地の牧師さんやアテンドの方から学んだように思います。ハワイのリハーサルは「こうやって腕を組んで、あとは楽しんでくれたらそれでOK」とアテンドの方がご家族に伝えて、それで終了。ベールの上げ方にも歩き出すときの足にも、決まりはないんです。
そういう雰囲気のなかで、最初は緊張していたおふたりも、ご家族も、よそゆきの姿ではなくありのままの家族の形で式に臨むことができるようになる姿を、何度も目にしました。
お客様に「決まりを守らなきゃ」「ミスしちゃったな」と思わせるようなつくり方だと、せっかくの記念日で余裕がなくなりますよね。それより、新婦が腕を組んだお父様の体温を感じたり、誓いの言葉を言う新郎の表情を目に焼きつけたりして、そのご家族らしい記念日を過ごせることが大切だなと思います。
大切な人に気持ちを伝えることが、人生を前に進めてくれる
── 木原さんがバウリニューアルを広めたい、と思うようになった原体験を教えてください。
個人的な話になりますが、私が19歳のときに父が癌で亡くなりました。反抗期であまり父と会話していなかった時期に癌が発覚して、父が入院してお見舞いに行くようになってから、ようやく父と話すようになったんです。でも父はそのまま亡くなり、私を大切にしてくれた人の愛情に応えられなかった自分に後悔しています。
その経験から、大切な家族に普段思っていることを伝える重要性を知りました。そして思いを伝える機会として、セレモニーのなかで手紙を読み合うバウリニューアルを活用していただけるのではないか、と思うようになったんです。
── これまでのご活動で、木原さんにとって特に印象に残っている出来事はありますか?
お父様の癌が発覚した娘さんから、「余命2ヶ月もない父と、病室でバウリニューアルをできないか」とお問い合わせをいただきました。それでお父様とお母様にサプライズで、病室でセレモニーのお手伝いをしたんです。
実はその3日後、お父様は亡くなられました。娘さんからお電話をいただいて、「今静かな気持ちでいられるのは、バウリニューアルで父に手紙を読んで、自分の思いを伝えられたからだと思います」とおっしゃったんです。記念日の思い出だけでなく、バウリニューアルを通じて自分の気持ちを伝えられたことが、きっとその後の人生の力にもなっていくんだな、と再認識しました。
── 結婚式もバウリニューアルも、大切な人に思いを伝える大切な機会なんですね。
そう思います。ですから挙式するか迷われている方々や、結婚式ができなかった方々には、これから長く続いていく人生のスタートの日として、結婚式やバウリニューアルを活用されることをおすすめしたいです。
(文:菊池百合子 / 写真:伊藤メイ子 / 撮影場所協力:南青山ル・アンジェ教会 /取材・企画編集:ウエディングパーク)