ミライケッコンシキ
2021.06.30
結婚式はもっともっと多様でいい。ファッションデザイナー・桂由美さんがコロナ禍の今考える、結婚式のあり方【#ミライケッコンシキ2021 Vol.1】
新型コロナウイルス流行をきっかけに、世の中は大きく変わりつつあります。個人の価値観が変化し、それに伴ってさまざまなサービスがアップデートされるなか、これからウエディング業界にも変化が生まれていくことは想像に難くありません。
2020年からスタートしたシリーズ「#ミライケッコンシキ」では、「ミライの結婚式のために、イマ私たちができること」をテーマに、ウエディング業界に携わる方々に取材を重ねてきました。
継続的な取材を通して、2020年と2021年では、ウエディング業界の雰囲気が少し変わってきたと感じます。明日を暗中模索する段階を経て、未来へと力強く歩み始めたような印象を受けるようになりました。
そんな今だからこそ、「#ミライケッコンシキ2021」をスタートします。
結婚式はこれからどうなっていくのか、まだまだ先行きが読みにくい今だからこそ、ミライの結婚式について、一緒に考えてみませんか?
今回お話をうかがうのは、ファッションデザイナーの桂由美さん。日本で初めてのブライダルファッションデザイナーとして、「デザイナー」の域を超えて日本のブライダル文化を築いてきた第一人者です。
桂さんは、結婚式が置かれている状況が一気に変わったコロナ禍でも、ブライダル文化を守って発展させるために尽力されてきました。そのひとつが、2021年4月23日に発令された緊急事態宣言下で結婚式場の休業要請を回避した、政府への要請です。
緊急事態宣言の発表直前、桂さんは業界代表者と共に総理官邸を訪れて、感染対策を行えば結婚式の開催を認めるように内閣官房長官に伝えました。これにより結婚式場の休業が免れて、数多くのカップルが結婚式を挙げられたのです。
日本初のブライダル専門店をオープンしてから50年以上、ブライダル文化を築いてきた桂さんは、コロナ禍によってその文化にどのような変化を感じ、未来に何を見据えているのでしょうか。
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■ プロフィール
桂 由美(かつら ゆみ)
ブライダルファッションデザイナー。東京生まれ。共立女子大学被服科卒業後、ファッションを学ぶためにパリへ留学。帰国後、1965年に日本初のブライダル専門店を赤坂にオープン。1975年「桂由美ブライダルハウス」を乃木坂に設立。ブライダルショーの開催にも注力し、海外でも「ユミカツラ」の名が知られている。常に新しいブライダルファッションを提案しながら、ブライダルにとどまらない創作を続ける。公式サイト
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多様化が進まなかった日本の結婚式が、変化した瞬間
── 1965年にブライダル専門店をオープンされて以来、50年以上にわたって業界をリードされてきた桂さんから見て、ウエディングのあり方はどのように変化してきたと感じていますか?
私は1965年に日本で初めてブライダルファッション専門のデザイナーになる前、海外20カ国の婚礼を視察しました。そのときに海外と比較して最も強く感じたことは、日本は海外と比べて新郎新婦の独自性が式に反映されていないことでした。
海外では新郎新婦によって式のあり方がさまざまなのに、日本はいつもワンパターン。結婚式は自分で選ぶ形式によって変わりますが、本来は自由なはずの披露宴でも、ワンパターンでした。私のお店にドレスを買いに来るお客様も、だいたい新郎新婦の親御さんから「よそ様はどうなさっていますか?」と聞かれてきました。よそと同じような式にすれば、恥ずかしくないと考えていたのでしょうね。
ですから私は、ブライダルのデザイナーになってから50年以上、一貫して「もっと多様でいい」と伝えています。例えば私が初めてブライダルのファッションショーを開いたとき、個性が際立った7人のモデルさんにお願いして、テーマを「7つの個性をデザインする」というものにしました。大輪のバラのようなドレスから1965年当時珍しかったミニのドレスまで、それぞれのキャラクターに合わせたドレスを制作したんですよ。
そうやって「こんなやり方もありますよ」とファッションショーや著書で伝え続けてきたんですけれど、なかなか多様化していかなかった。それが、コロナ禍で一気に多様化が進みました。50年以上努力してきても多様化しなかったのに、たったひとつの出来事で潮流が変わるんだな、と実感しています。それでももっと、さまざまな選択肢があっていいと思いますけどね。
── 少しずつ多様化が実現しつつありますが、桂さんはもっと多様にできるとお考えなのですね。
まず結婚式とは2人の「誓い」のための式ですから、私はどのような誓いのあり方でもいいと思います。しかし儀式は厳粛に、披露宴は楽しくというのが私のモットーです。挙式する場合は結婚式のあり方を決めると型も決まりますが、披露宴は本来もっと自由であるはずです。
最近は披露宴の堅苦しさが変化してきましたが、まだまだ画一的で、個性が反映されていません。自分たちの披露宴を自分たちでプランニングするイメージを持てばもっと選択肢をつくれるでしょうし、そうやって準備された世界にひとつだけの披露宴になると考えています。
誰よりもカップルを不安にしないための、政府への要請
── 2021年4月、緊急事態宣言下でも結婚式を挙げられるよう、桂さんをはじめ結婚式場関係者が政府に要請されたというニュースがありました。どのような背景で提言されたのでしょうか。
参議院議員の三原じゅん子さんから電話がかかってきて、今回の緊急事態宣言で結婚式場に休業要請が出てしまうかもしれない、と聞きました。それで、テイクアンドギヴ・ニーズの会長である野尻佳孝さんやBIA(公益社団法人日本ブライダル文化振興協会)のみなさんと一緒に、官房長官にお話しに行くことになったんです。
なぜならウエディング業界では感染対策を徹底するために、業界一丸となって努力されてきました。それに、ウエディング業界も心配があるでしょうけれど、これから結婚しようとしていたり結婚を決めたばかりだったりする人にとってはもっと不安でしょう。そんなカップルたちを安心させられるように、休業宣言だけはしないでください、とお伝えしに行きました。
── そのニュースが取り上げられたとき、桂さんはコメントで「ささやかなセレモニーでもさまざまなやり方がありますから。このときをみんなで乗り切りたいと思っています」とおっしゃっていましたね。
ええ。先ほどお話したように私は50年以上にわたってウエディングの個性化・多様化を促してきましたから、コロナ禍で必然的に結婚式や披露宴のあり方が見直され、さまざまな選択肢が検討されるのはいいことだと思っています。フォトウエディングと挙式だけして、披露宴を後から開いてもいいですし、2回挙式してもいいと思います。コロナ対策を鑑みて、屋外での結婚式が増えたのもいいことですよね。
私たちユミカツラでも、コロナ禍を経てフォトウエディングを始めました。今までは他のフォトウエディングをご紹介していたのですが、「ユミカツラのサロンで撮影したい」という声が多かったので、お応えすることにしました。
── そうやって結婚式の多様化が進むなかで、選ばれるドレスはどのように変化しているのでしょうか?
以前よりも、ツーウェイやスリーウェイのドレスが選ばれるようになってきました。今ではお客様の約7割がツーウェイかスリーウェイです。私たちはコロナの前からこれらのドレスを出してきましたが、コロナ後の披露宴では時間短縮のために、お色直しで中座せずにドレスの見た目を変えられるタイプが人気になりましたね。
本当の「結婚式」は、もっと多様でいい
── コロナ禍で結婚の意味が問い直されている今、桂さんは結婚しようとしているカップルに何を伝えたいですか?
コロナ禍という全く予測できなかった状態になりましたが、こういうときほど、結婚に至るまでに何度も検討を重ねたカップルの結びつきは固くなると思います。これから結婚しようとしているカップルにとっては、望むような式を挙げられるか不安があるかもしれませんが、どんな形でも2人の誓いはできますし、誰かに祝ってもらうことも可能です。
コロナ禍より前に、ユミカツラのドレスを着て海外で挙式された方に「海外で式を挙げて、何がいちばんよかったですか?」と聞いたことがあります。そしたら、挙式している自分たちをたまたま見かけた現地の人が、言葉や車のクラクションで「おめでとう」を伝えてくれたことだ、と言うんです。海外の挙式で参列者をほとんど招待していなくても、お祝いの気持ちを伝えてもらえたことが、何よりも記憶に残っていると話してくれました。
ですから本当は、海外に行かなくても2人の誓いのセレモニーはできるし、お祝いしてもらうこともできるんですよね。今、全日本ブライダル協会において毎年コンテストで表彰している「ふるさとウエディング」は市民参加型のウエディングです。マンション生活の多くなった今は、花嫁衣装で家から近所の人に見送られて出発するのは難しくなったかもしれませんが、オープンカーで式場まで行くとか、式場で支度をしてから公園や名所など大勢の人が集まるところで写真を撮るとか、カップルの幸せ一杯のハイライトシーンを多くの市民に見てもらい祝福してもらうということが、婚姻人口が最盛期の1/2まで減少している今だからこそ必要なことだと思っています。
パターン化された結婚式のあり方が見直されている今こそ、「誓い」と「祝福」という挙式・披露宴の原点に立ち返る機会だと思います。
(文:菊池百合子 / 写真:伊藤メイ子 / 取材・企画編集:ウエディングパーク)