Wedding-UP DX
2022.10.03
業界のCXを高める。サーベイで顧客のニーズを見える化する新サービスリリースの舞台裏【Wedding-UP DX ~デジタルの可能性を探る~ #survox編】
昨今、耳にする機会が増えているキーワード「DX(デジタルトランスフォーメーション)」。経済産業省は「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義しています。
新型コロナがきっかけで社会のDXが急速に進み、ウエディング業界も変革を迫られている今。結婚あした研究所ではDXに注力している企業を取材し、なぜDXが必要なのかを考える企画「Wedding-UP DX ~デジタルの可能性を探る~」を始めました。
今回は、株式会社ウエディングパークが新たにリリースしたサービス「survox(サーヴォックス)」に着目します。
業界のDXを目指し、2021年10月から「デザイン経営」を取り入れたウエディングパーク。特にDX本部では前回の記事でご紹介したように、デザイン経営の手法をサービス開発に取り入れてきました。そうしたプロセスを経て2022年10月にリリースされたのが、業界初※のカップル向け満足度調査サーベイ「survox」です。※2022年8月ウエディングパーク調べ
見学から結婚式の後までさまざまな段階で顧客の声を集めることで、式場がその結果を顧客体験(CX)の向上につなげること、ひいてはウエディング業界全体の満足度を底上げすることを目指します。すでにベータ版を式場に導入し、顧客の声を施策改善に活かしてきました。
DX本部としてなぜsurvoxの開発を決めたのか。survoxが解決しようとしている課題は何なのか。構想からリリースまでの道のりを追いながら、DX本部 本部長の小笠真也さんと、株式会社テイクアンドギヴ・ニーズの「社外留職制度」を活用してDX本部に出向している髙橋邦臣さんに伺います。
■ プロフィール
株式会社ウエディングパーク 小笠 真也(おがさ しんや)
2013年、ウエディングパークに新卒入社。入社後、アカウントプランナーとしてクライアントのインターネット集客を支援。2016年7月より新設されたアドテク本部(現 デジタルマーケティング本部)の営業責任者に着任。2021年よりDX本部 本部長に。公式サイト
株式会社テイクアンドギヴ・ニーズ 髙橋 邦臣(たかはし くにおみ)
2010年、テイクアンドギヴ・ニーズに新卒入社。入社後、ウエディングプランナーとして複数の式場で勤務。2021年10月より1年間、社内で導入された新たな人事制度「社外留職制度」を活用し、株式会社ウエディングパーク DX本部にディレクターとして出向中。 公式サイト
顧客の不安をリアルタイムで解消できる複数回のアンケート
── まずはリリースされたばかりの「survox(サーヴォックス)」について教えてください。
小笠:「survox」とは、新たなニーズを見える化し、多角的な視点から解決を支援するウエディング業界特化型のサーベイです。「survox」という名前は「Survey(調査)」、「Voice(顧客の声)」、「DX」の掛け合わせから生まれました。
式場が顧客満足度の向上を目指す過程で、survoxを通じて、サービス品質における基準を提供し、ウエディング業界のサービス改善、品質向上に貢献していくことを目指しています。
── なぜsurvoxの構想に至ったのでしょうか?
小笠:背景には、業界課題として「CX(顧客体験)」がありました。
顧客の消費行動が多様化したことで、式場は対応に追われています。加えて、結婚式はもともと商品やサービスによる差別化が難しく、リピーターを獲得しにくいことも課題です。これらを踏まえると、式場は顧客の多様なニーズにスピード感を持って応えながら、CXの向上を目指す必要がある。一方で、CXを検討する上で必要となる指標がありません。
さらに、結婚式の後にアンケートに答えてもらう式場は多数あっても、その前の準備期間の声を聞けていないこと、結果を他社と比較ができないこと、そして回答データをしっかり活用できていないことも、CX向上を目指す障壁になっていたんです。
── それらの課題に対して、survoxによってどのような解決が可能になるのでしょうか。
小笠:survoxのポイントは「複数回」と「業界平均」の2つです。
使い方としては、式場にsurvoxを導入していただき、カップルにアンケートに回答していただきます。式の直後だけでなく、打ち合わせのたびにアンケートの内容を変えて、複数回にわたって実施する仕組みです。これにより、式場がお客様の不安や不満を打ち合わせの段階で解消し、より良い結婚式に向かっていく後押しをします。
さらにアンケートの内容を業界で統一しているので、自社の数値と業界平均やエリア平均を比較でき、サービスのクオリティを考える基準にすることが可能です。結果の振り返りから改善アクションにつなげるプロセスには当社がサポートに入り、一緒にCX向上を目指していきたいと考えています。
ダッシュボードで、業界平均やエリア平均と自社の結果を簡単に比較できる
減点を少なくするだけでなく加点を目指す、「CX」の向上
── ここまで式場の課題を伺ってきましたが、ウエディングパークとしてはsurvoxを開発した背景にどんなきっかけがありましたか?
小笠:survoxは2021年末に開催された「10X会議」で生まれたアイデアなんです。「顧客の多様な幸せを叶えること」をテーマに掲げて、式場は外部環境やトレンドの変化に対応するための情報を得られているのだろうか、と議論したところからsurvoxの原案が生まれました。この場でアイデアの実行が決まってDX本部が持ち帰り、翌週には体制を検討しています。
── アイデアの段階ではどのような議論が交わされたのでしょうか。
髙橋:survoxの前提となる、業界の変化について話しました。顧客のニーズが多様化している背景の1つとして、顧客と式場の情報格差が埋まってきている点が挙げられます。
前提として、結婚式はお客様にとって初めてのことばかり。ですから自分が受けているサービスが適切なものなのかを測る物差しがありません。しかしSNSやクチコミサイトが広まったことで、顧客がインターネットで情報を集められるようになってきた。そうなるとお客様のリクエストの幅が広がりますし、式場はサービスの向上を求められるようになります。
このような顧客の変化に対して、式場としてもこれまでどおりの画一的なサービスではいけないと理解していても、方法が分からなくて手が打てない現状があったんです。
── 新しい取り組みにチャレンジするにはハードルがあったんですね。
髙橋:意外に思われるかもしれませんが、これまでのウエディング業界は、どちらかといえばクレームを出さないことを重視する傾向にあったんです。しかし顧客に企業のファンになっていただき、LTV(Life Time Value / 顧客生涯価値)を高めていくには、今後は減点を減らすだけでなく加点を目指す必要があります。
そのために「CX」に着目し、どうすれば顧客に企業のファンになっていただけるのかを議論しました。これまでは式場とお客様、プランナーとお客様の関係に限られていましたが、今後は式場を運営する企業が顧客とどのような関係を構築していくのかが問われていると思います。
── 正直なところ、運営企業と顧客の「関係構築」についてなかなかイメージできないのですが、なぜ企業と顧客の関係構築が重要なのでしょうか?
髙橋:企業の立場で言えば先ほどのLTVの話も挙げられますが、お客様から見て決定的になったのはコロナ禍だと思います。企業によってコロナへの対応、例えば式の日程変更料やキャンセル料が異なっていたからです。このとき初めて、お客様が「企業」の存在を気にされたのではないでしょうか。
── なるほど。顧客から企業への信頼が問われたタイミングだったのですね。
現場で活かせる設問と、回答しやすい画面にこだわり
── 社内会議を経てアイデアが決まり、DX本部に持ち帰ってからはどのような議論をされたのでしょうか。
小笠:顧客のニーズを把握する方法としてどのような方法が良いのか、そして誰に対して調査するのか、この2点を主に議論しています。
社内会議で掲げていたテーマである「顧客の多様な幸せを叶えること」をどう実現するかは模索しましたが、その根底にある業界課題や目指すべき姿については特に迷いはありませんでしたね。
── 議論の結果、顧客向けのサーベイを選んだ背景にはどのような理由がありますか?
髙橋:私は現在ウエディングパークに出向していて、出向前は株式会社テイクアンドギヴ・ニーズの式場にいたので、現場の視点としてお客様の声を聞ける重要性を小笠さんに共有しました。
クレームが発生するときって、お客様の我慢の限界を超えたときなんですよね。その前にお客様の声を聞けていたら、クレームを出さなくて済んだだけでなく、100%の結婚式を120%にできたかもしれません。感動をお届けするためには、プランナーのスキルに依らない形で、打ち合わせの後に声を聞ける仕組みがあるとすごくいいなと思いました。
加えて、私が在籍している式場では、すでに打ち合わせの段階から独自のサーベイを導入しています。以前は結婚式の後にしかアンケートを実施していなかったので、打ち合わせ期間のアンケートで初めて知ることも多くあり、お客様に提案できる幅が広がると思いました。
小笠:このようなテイクアンドギヴ・ニーズの取り組みを聞いて、これを業界に転用できたらより価値の高い取り組みになりそうだと感じたので、まずは顧客向けに複数回のアンケートを実施できるサービスとして実現することを決めました。
── その後サービスの形にしていく段階で、特に力を入れたポイントはありますか?
小笠:アンケートの設問の設計です。現場の支配人ならどんな結果が来たらどうアクションにつなげられるかを髙橋さんに聞かせてもらい、その回答を得るにはどのような設問が必要なのかを検討していきました。
一方で、カップルとしては設問数が多ければ多いほど負担なので、いかに少ない設問で得たい回答を得るのかも難しいところでしたね。答えやすいように設問を減らして、画面のデザインにもこだわっています。回答しやすさや触り心地をデザイナーと一緒に考えながら、文字のサイズや選択肢の並べ方について検討を重ねました。
髙橋:私はせっかく式場から出向しているので、現場の視点で思ったことを遠慮せずに伝えていました。
例えば1つのアンケートにしても、お客様が打ち合わせ後にアンケートに答える工程を想像しながら、プランナーやお客様の気持ちをできるだけ解像度高く考えて伝えてみる。そうすると、チームの皆さんがサービスでの表現に活かしてくれるので、安心感がありましたね。
── チームの雰囲気の良さが伝わってきます。
小笠:2021年の年末にアイデアの実現が決定してからリリースまで慌ただしく進んできましたが、チームのそれぞれがより良いものを社会に出したい一点に向かえていたことが、すごくよかったと思います。
おそらく「デザイン経営」の導入が会社として宣言されたことが大きかったです。社会に目を向けようとするタイミングで新規事業を立ち上げできたので、もともと優秀なメンバーが1つの方向に向かえたのかなと考えています。
survoxを活用して式場とウエディングパークの「共創」を
── ついに2022年10月にsurvoxがリリースされました。survoxを式場の方々にどう使ってもらうイメージをお持ちですか?
小笠:リリース前、数社にテスト導入していただきました。その結果、プランナーさんの個人名を挙げてお礼を書かれていたり、ここを気にされるんだと発見があるご指摘があったりと、アンケートがなければ集められなかった声が可視化されていました。
選択肢があるなかで業界や式場が選ばれるためには、結婚式の体験価値を上げていく必要があります。そのためにsurvoxでお客様の本当の声を可視化するので、そこからお客様に寄り添えるサービスを実現していくプロセスは、式場の方々とウエディングパークとで共創していきたいですね。
── これからは式場とウエディングパークの「共創」が動き出すんですね。
小笠:私個人でいうと営業職の時期が長くて、クライアントである式場のメリットを考えることが仕事でした。しかしsurvoxでは顧客の顧客であるカップルに価値を提供したいので、より良い業界をつくっていくことを目指して、式場の方々にとって良きパートナーになれたらと思っています。
── 髙橋さんはsurvoxのリリースについて、どんな思いを込められていますか?
髙橋:1件の結婚式には関わるスタッフが多く、現場では複数社の専門スタッフが分業しています。日々忙しいなかで1組のお客様の情報をどう共有するか、この課題意識は現場で強く持っていました。
でもサーベイがあれば、前回の打ち合わせの不安がどこにあったのかを共有して、プランナー以外のスタッフもサポートできるので、お客様の満足度向上につながります。サーベイを通じて、お客様と接する一回一回は「点」であってもお客様が受けているサービスは「線」であることを、スタッフが常に実感できたら理想ですね。
── 最後に、survoxでこれからどのような未来を描いていきたいですか?
小笠:survoxは、「ものさし」でしかありません。向かう先はよりよい業界づくりのためであり、業界の競争力を上げるためであり、ひいては業界にいる人たちの価値を高めるためだと思っています。
ですから式場やスタッフの方々の市場価値と競争力を高めるために、これからsurvoxを使い倒していただきたいですし、そこに対してご意見をいただけたらと思っています。survoxの価値をこれから皆さまとどうつくっていけるのか、非常に楽しみにしています。
( 文:菊池百合子 / 写真:土田凌 / 取材・企画編集:ウエディングパーク)
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