「『逃げ恥』にみる結婚の経済学」から読み解く、理想の結婚に必要な“夫婦協働”とは

「『逃げ恥』にみる結婚の経済学」から読み解く、理想の結婚に必要な“夫婦協働”とは

誰でも一度は「結婚生活」をイメージした経験があるのではないでしょうか。かつては97%の日本人が結婚していた皆結婚時代がありましたが、今は晩婚化・未婚化が年々進んでいて、男性の2割、女性の1割が50才で未婚。したい人も受け身のままでは結婚できない時代に突入しました。「結婚しない自由」も浸透しはじめた現在、女性はどういう行動をすれば理想の結婚にたどり着くのでしょうか?

少子化ジャーナリスト・作家・相模女子大学客員教授であり、婚活ブームの火付け役にもなった白河桃子さんに、著書「『逃げ恥』にみる結婚の経済学」の内容を踏まえながら、理想の結婚生活を築くための具体的なプロセスや考え方について伺います。

『逃げ恥』は現代女性が抱えるモヤモヤを可視化したからヒットした


——著書「『逃げ恥』にみる結婚の経済学」では、なぜ逃げ恥を題材にされたのでしょうか?

これからの結婚に必要な「男女の協働」を語るのに最適な題材だったからです。結婚をテーマにしながら、無償労働である「家事」の経済価値を分析し、そこから話し合いを重ねてオリジナルの結婚像を描いていくストーリーなので、現代の結婚に必要なプロセスがうまく表現できていました。

また、ドラマを見なくなった若い人にも人気だったことも理由のひとつです。『逃げ恥』のドラマ最終回の翌日に女子大生800人に講義する機会があり、「『逃げ恥』見てる?」と聞いたら3分の2の手が挙がり、リアルタイムで最終回を見た人も多くいました。テレビ離れが進んでいる今、これだけ若い人が見ているドラマはそうそうありません。

現代女性が抱えている「愛しているなら尽くして当然ってどうなの?」というモヤモヤを可視化できていたことは、若者を惹きつけた要因の一つのだと思います。

——無償労働に対する問題提起が今の時代に合っていたのですね。

女性の無償労働は世界的な課題です。アフリカの水道がない地域では「水汲みは女性がやるもの」だとされていて、水汲みするだけで1日が終わってしまう女性もいます。当然、女性は勉強する時間もありませんから、社会進出ができない、収入もあがらない。

これは人権問題であると同時に、貧困問題にもつながります。お母さんが勉強すれば収入が得やすくなり、子どもの生存率も上がるわけです。無償労働の価値を軽視する国は、少子化が進む傾向があります。

こうした無償労働問題を解決するためには、無償労働のシェアが必要不可欠。パートナーなど家族の中でシェアしてもいいし、保育園やベビーシッターなどの外部サービスを利用して社会でシェアすることも必要。もう男性ひとりで家庭を支えきれる時代ではありませんから、「家事・育児は女性が行うもの」という昭和の価値観から脱却して、夫婦協働を目指すべきです。

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主婦の労働はブラック企業レベル?育児と家事は月37万円の重労働


——夫婦協働を目指すためには、どう考え、行動していけば良いでしょうか?

家事や育児などの無償労働を見える化して、経済的価値を認識することです。『逃げ恥』では主婦の給料を月給19.4万円と算出していましたが、男女ともに「高すぎるのでは」といった反応がありました。主婦の方は自己肯定感が低い傾向があり、「私なんて何もできない」と言う方が多いのですが、決してそんなことはありません。無償労働には経済的な価値があります。

統計によれば、子どものいない主婦世帯(35歳未満)の1週間の家事時間は平均32.7時間ですが、子どもが生まれると育児の時間も加わって週61.7時間になります。週40時間労働を基準にすると、残業時間は週21.7時間。月に80時間以上残業していることになり、会社であれば完全にブラック企業です。この残業代も含めた対価は37万円にものぼり、この金額を支払う場合、夫の年収は目安として1250万円以上必要になります。これだけの重労働を無償で行うことは、『逃げ恥』で主人公みくりが言ったとおり「好きの搾取」なんです。

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結婚への道を阻むのは、選良意識と固定観念


——今の時代、女性と男性はそれぞれどんな結婚観を持っているのでしょうか?

女性は「ハズレは引きたくない」と、結婚相手に対する選良意識が強くなっています。女性の社会進出も進んでいますから、生存を危うくするような結婚にはもう価値が見出せないんですね。

良い条件の男性を選ぼうとしすぎていて、理想はどんどん高くなる一方。実際にその理想に一致する人はほとんどいないので、女性自身が結婚への道を狭めています。「理想の人なんて実在しない」と思った方がいいくらいです(笑)。

一方で、女性ほど突き詰めて考えている男性は少ないものの、「結婚はコスパが悪い」と考える男性はいますね。でも、それもやり方次第です。ビジネスの現場で、経営規模が大きくなればそれだけ生産性や経済効率が上がることを「スケールメリット」と呼びますが、結婚生活でスケールメリットを活かせればコスパは良くなります。

 ——どうやったらスケールメリットを活かせるのでしょうか?

「家事と育児は女性がやるもの」「男性は大黒柱」といった固定観念にとらわれず、夫婦協働を実現することです。よく男性が「育休を取得したら出世できなくなる」と言いますが、大卒女性が2人の子どもを生み、育休を取りながら働き続けていれば、生涯所得は2憶5737万円になります。男性が出世したとして、はたして今より2憶円以上稼げるのでしょうか。

出産を機に仕事を辞める女性は多くいますが、働き続けた場合の生涯所得を考慮するとかなりのマイナスになります。たとえ途中からパートで再就職できたとしても、このマイナスは取り返せません。保育所に払うお金で女性の給料が0円になってしまうとしても、長期的に見ると女性が働き続けた方が家計はプラスになるんです。

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幸せな結婚を築くカギは「話し合い」と「積極性」


——結婚が当たり前ではなくなった今、結婚にはどのようなメリット・デメリットがありますか?

一概に結婚をメリット・デメリットで分けることはできません。というのも、結婚生活をどう送るかで結婚はメリットにもなり、デメリットにもなるからです。先ほど話したように、夫婦協働でスケールメリットを活かせれば結婚はメリットになりますが、女性だけのワンオペ育児をすれば、女性にとってはマイナスになり、デメリットにもなるでしょう。

大切なのは、夫婦でお互いの幸せをデザインすることです。夫婦協働と言っても、50:50が正しいとは限りません。理想の形は人によって違います。「家事を手伝ってもらいたいわけではなく、ただ話を聞いてほしいだけ」という人もいれば「もっと早く帰れる会社に転職してほしい」という人もいる。完璧な「正解」が用意されていない以上、お互いに話し合いながら理想の幸せに近づけていけばいいのです。

——白河さんは結婚する・しないの判断軸についてどうお考えですか?

「結婚しない」という選択肢も選べる現代において、結婚する・しないは眉間にシワを寄せて決めるようなことではありません。結婚に関するいろいろな情報を集めながら「自分はどうしたいか」を自己決定するしかないですね。そして、もし結婚がうまくいかなくても、関係修復なり離婚なりで自分なりの形に軌道修正できれば柔軟性が大事かと。

ただひとつ言えることは、結婚したいなら受け身ではダメ。今は男女ともに受け身で「待ち」の姿勢の人が多いので、結婚したいなら男性をリードするくらい積極的に行動すべきですね。


 《プロフィール》白河桃子(しらかわ・とうこ)

少子化ジャーナリスト・作家・相模女子大学客員教授
東京生まれ、私立雙葉学園、慶応義塾大学文学部社会学専攻卒。住友商事、リーマン・ブラザーズなどを 経てジャーナリスト、作家に。2008 年中央大学教授山田昌弘氏と「婚活時代」を上梓、婚活ブームの 火付け役に。仕事、出産、両立など女性のライフキャリア、少子化、働き方改革、女性活躍、ワークラ イフバランス、ダイバーシティなどがテーマ。大学生、高校生、若手社会人のために仕事、結婚、出産 の切れ目ないライフプランニングを提唱し、出張授業多数。講演、テレビ出演多数。

テレビ出演:「情熱大陸」「NHK 深読み」「バンキシャ!」「報道ライブ INsideOUT」「ten.」「朝まで生 テレビ」「そこまでいって委員会」など

著書:「婚活時代」「婚活症候群」「妊活バイブル」「女子と就活」「格付けしあう女たち」「後悔しない『産む』X『働く』」「専業主婦になりたい女たち」「専業主夫になりたい男たち」「御社の働き方改革、ここが間違ってます! 残業削減で伸びるすごい会社 」 「逃げ恥」にみる結婚の経済学」(2017 年 10 月 26 日発売)

取材・文:萩原かおり+YOSCA、企画編集:FIREBUG

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