結婚式・結婚式場
2019.10.10
“夢中になれる仕事”を見つけた。ハワイウェディングを手がける経営者の「仕事と家庭との向き合い方」
ハワイウェディングの常識を覆したい。
この思いを胸に日本の新郎新婦に向けたハワイウェディングを手がける、チアーズウェディングの経営者・岸下こころさん。ハワイのローカルウェディング会社のM&Aから始まったブランドを育てあげ、今では年間1,500組近くのフォトツアーと約300組の結婚式をフルプロデュースしています。
これまでハワイウェディングといえば憧れを持つ人が多い一方で、下見に行けない、プランナーとの意思疎通が難しい、パッケージになっているプランばかりで細かなリクエストを言いづらい……といった声が数多く存在していました。
そんななかチアーズウェディングは、フルプロデュースで、式場やドレス、ヘアメイクなどの要素を一つひとつ選べて、タイムスケジュールをゼロから設計。新郎新婦の夢を叶えやすいスタイルが支持を集めています。
このチアーズウェディングで、仕事でもプライベートでも自分らしくいられる道を見つけ、「仕事に夢中になれている」と語る岸下さん。やりたいことに力を注ぎながら、自分らしく輝き続ける秘訣をうかがいました。
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■ プロフィール
岸下 こころ(きしした こころ)
ハワイウェディングのフォトツアーとウエディングプロデュースの事業を手がけるチアーズウェディング経営者。リゾート開発会社で勤務した後、転職してウェディングプランナーに。空間設計やブランディングが得意で、現在は株式会社DDホールディングスに所属している為、グループ内のウェディングコンサル業務や他社のウェディングドレスやアクセサリー、式場のプロデュースも手がけている。公式サイト
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その仕事のことを、心の底から好きなのか
── 現在はどんなお仕事をされていますか?
経営者を務めながら、主にブランディングに関わっています。コンセプトを設計してパンフレットを制作したり、新しい会場の内装デザインを手がけたり。現在はウェディングプランナーからほとんど離れているのですが、今でも年に2回ほどお客さまと直接関われるときはすごく楽しいですね。
── いつからブライダル業界でお仕事されているのでしょうか。
二社目に転職してから今まで、もうすぐ20年です。もともと新卒ではリゾート開発の会社に入社して、「夢中になれる仕事をしよう」と考えたことがきっかけで転職を決めました。
一社目の頃にお会いした方から「今やっている仕事のことを、本当に好きなのか?」と聞かれて、当時は即答できなかったんです。どんな仕事をしていても、忙しくてしんどくなるときや思うようにいかなくて辞めたくなる瞬間もあるじゃないですか。それなら私は「心の底から好きだ」と自信を持って言えることを仕事にしよう、と心に決めた瞬間でしたね。
── それがブライダルのお仕事だったんですか?
いえ、偶然配属先がブライダルだったんです。もともと、「食」のテーマと食事をよりおいしく感じられる空間設計や特別感の演出に興味があって、レストランやホテルを手がけている会社に転職しました。
てっきりレストランの配属になると思っていたら、「岸下さんが得意なことや将来的にやりたいことは、ブライダルでいかせると思うよ」と言われて。当時は興味を持っていなかったのですが、言われるがままにウェディングプランナーに挑戦してみたら楽しくなって、今に至ります。
本気でぶつかった仕事が「やりたいこと」になっていった
── 岸下さんは、ウェディングプランナーのお仕事のどこにおもしろさを見出したのでしょうか。
お客さまのリクエストを、式場の空間を使って自分なりに表現できることです。「結婚式」という箱はあれど、箱の中ではクロスやお花、演出などさまざまな表現が可能ですよね。
もともと家族が着付けの先生をやっていて色合わせに興味があったり、生け花やお茶を習っていたりしたので、空間をつくりあげることが好きなんです。特にハワイウェディングの場合は、参列者の数が少ないので新郎新婦のご両親やゲストのことを考えながらプランニングしていて。お二人のストーリーや実現したいことをうかがって、お二人が大切にされている方々に想いを寄せながら、私が手がける空間でお二人らしさをどう表現していくのかを考えることがすごく楽しいです。
そうやってお客さまとじっくり関係を築けることもプランナーの仕事における魅力の一つで、挙式されて何年経ってもお客さまと連絡を取り合ったり食事に行ったりしています。未だに「どんな仕事をやってもいいよ」と言われたらウェディングプランナーをやりたいですね。
── お仕事をすごく楽しんでいらっしゃることが伝わってくるのですが、ウェディングプランナーをそこまで楽しめるようになる前は辛い時期もありましたか?
転職して初めてウェディング業界に入ってみて、すごく楽しかった一方で最初の三年は苦しい時期でした。同じ式場をご案内していても、先輩たちはお客さまにご成約いただけるのに私はできなくて。結婚式場は目に見えない当日の空間や雰囲気をご提供するので、目に見えるものを販売するときよりも信頼していただけないと売れません。私が努力だと思っていたことはただの空回りなんだと気づいたときに、心が折れそうになりました。
── お客さまの反応がストレートに数字に表れるんですね。
そうなんです。始めの一年間は挫折ばかりで、両親に心配をかけていました。でも仕事をもっと好きになりたくて転職しているので、まずはやれるだけやってみようと思って。
あとは、プランナーの仕事って数ヶ月後の結婚式に向けてお客さまと準備を進めているので、その場で退職すると契約してくださっているお客さまに迷惑がかかってしまうんです。だから「このお客さまの結婚式が終わったら退職しよう」と決めて、その一件に対して必死になっているうちにまた次の契約をいただいて、と繰り返していた時期もありました。
でもそうやって常に目の前の結婚式に全力を注げたから、プランナーの仕事を好きになっていけたのかなって思いますね。
── 楽しさだけでなく挫折も経験されながら、今でも岸下さんがブライダルのお仕事を続けていらっしゃるということは、結果的にこのお仕事が岸下さんの本当に好きなことに変化していったのでしょうか?
そうですね。楽しい瞬間がたくさんあって、一方で心の底から思っていないとはいえ「もう辞めたい!」って放り投げそうになるときもあります。まだまだ現状に満足できなくて、あきらめたくないことがたくさんあるから。
でもそれって、どうでもいいと思っていたらきっと何も感じないですよね。本気で力を注ぎたいことだからこそ、こんなに感情を動かされるんじゃないかな。困難にぶつかっているときほど「辞めたい」とは思わなくて、どうにかしたい、どうにかしよう、って勝手に動き出しているんです。
例え私が退職しようと、ブランドはなくならないし会社がつぶれることもありません。私に限らずそのポジションの人が抜けたら困る瞬間はあると思いますが、それって一瞬です。自分の替えが効かない場所って家族しかないと思っているので、仕事は嫌だったら辞めればいい。そう分かっていて私が辞めないでいるのは、この仕事のことを心から好きだと思っているからなのかなと思います。
お互いにやりたいことをサポートするパートナーシップ
── どんなときに「もう辞めたい!」と思われるんですか?
家庭と仕事のバランスに悩むときが多いですね。パートナーが仕事に関して何も言わずに見守ってくれるのですが、パートナーを放っておいている罪悪感があったり、家族にとって大切な日に仕事を終えられなくて葛藤したり。
結婚してからは「家族なんだからちゃんと大切にするべきだ」と感じるようになりました。これは結婚した以上、受け入れるべき義務なんだろうなって。
── ご家族とお仕事の話をされることはあるんでしょうか。
しないですね。意識して決めたことではないのですが、お互いの仕事についてあまり把握していません。お財布事情も明かしていなくて、家族のことは折半するけれど、あとは個別で好きなように管理しています。
まれに私が限界を超えて発狂しそうなときに「私が今どれだけ大変か」を彼にぶちまけることがあるのですが(笑)、年に一回あるかどうか。しかも彼は一通り聞いた後、何事もなかったように「とりあえずお腹すいたから、ご飯食べに行こうよ」って言ってくれるんです。反論も提案もせずにネガティブな話を終わらせてくれるところがすごいなと思っています。
出張でハワイに長期滞在することが多いのですが、一ヶ月以上家に帰れないことにストレスを彼にぶつけてしまったときも、飼っている愛犬の写真が届いてそれで終了。その返し方が私には正解なんだと思っています。私が仕事に打ち込めるのは、彼に支えられているからですね。
── お二人のパートナーシップにおいて大切にされていることはありますか?
二人の間に特にルールはないのですが、彼が彼の趣味である山登りや旅の時間を確保できるようにサポートしようと思っています。私は趣味イコール仕事で、私が仕事に没頭できるように彼が家事をほとんどやって精神的にも支えてくれているので、私も彼が趣味に注力することを応援できたらなって。
「自分」のままで挑戦していく
── お話をうかがっていると、お仕事もパートナーシップも岸下さんがご自分自身で楽しんでいらっしゃることが伝わってきます。今後チャレンジしたいことはありますか?
まずは弊社が所属しているホールディングスの中で主要事業の「飲食」に並ぶくらいに、「ウェディング」の地位を押し上げていきたいですね。これを実現できたら私の仕事は終わりでいいと思っているので、経営者をやりたい後輩にバトンタッチして、私は次の「夢中になれる仕事」を探していこうと思っています。
次はこの会社に所属したまま、エリア開発に関わってみたいんです。支えてくれる家族がいて、一緒に夢を描いてくれる会社にいる今の自分だから挑戦できることがあると思うので、「自分」のままでこれからも仕事に力を注いでいきたいですね。
(取材・文:菊池百合子 / 写真:中西須瑞化 / 企画編集:ウエディングパーク)