
ビジネス
2025.08.07
ウエディング業界の「カルチャー変革」の鍵を考える【「日本の結婚式を変えよう」カンファレンスレポート】
2025年3月6日、ベルサール御成門タワーにて「日本の結婚式を変えよう」カンファレンス(後援:港区)が開催されました。

ウエディング業界では、社会全体や生活者の価値観の変化の対応に遅れ、産業全体の停滞感が課題視されています。それは、ウエディング業界に限らず日本の産業全体に共通する「透明性」「働き方」「生産性」のような課題の早期解決が求められています。
今回の「日本の結婚式を変えよう」カンファレンスでは、業界の内外で変革を起こしてきた有識者の方をお招きし、社会的視点から業界課題に向き合い、議論をすることで、未来に向けた可能性や解決策を見出していくことを目的とし、開催。
SESSION 3は「従業員の本音はどこに?実は企業に求めているもの、求めていないもの ウエディング業界『カルチャー変革』の鍵」です。パナソニック コネクト株式会社の人事部門で責任者を務め、風土改革を進めてきた新家氏をお迎えし、従業員やカルチャーについて語り合いました。その模様をレポートします。
パネリスト
パナソニック コネクト株式会社 執行役員 ヴァイス・プレジデント CHRO 兼 人事総務本部 マネージングダイレクター、最高健康責任者/新家 伸浩 氏
株式会社八芳園 取締役 総支配人 関本 敬祐 氏
ファシリテーター
株式会社ウエディングパーク 執行役員 コーポレートデザイン本部 本部長 兼 カルチャー推進室 室長/戸田 朱美
徹底的にカルチャー&マインド改革を進める

向かって左から、株式会社ウエディングパーク 戸田、パナソニック コネクト株式会社 新家氏、株式会社八芳園 取締役 関本氏
パナソニック コネクト株式会社は、2017年に事業部門が社内分社して設立されました。会社化されると、新社長のもとで、3階層で企業改革をしていくことを決めたと言います。
3階:事業立地改革
2階:ビジネス改革
1階:風土改革
「全ての改革の基本として、風土改革、すなわちカルチャー&マインド改革が重要であり、組織文化が変わらなければ、組織能力や戦略を活かせないと考えました。軍隊のような縦割りで重たいカルチャーから、ピラミッドを横に倒して、トップやメンバー、また中間管理職も、みんながお客様やパートナーと触れ合い、フラットで俊敏なカルチャーへと変える必要がありました。そして、全員がワクワクして仕事をし、個人も成長できる会社を目指してきました」(新家氏)

改革と言えば、事業立地やビジネス戦略を考えがちです。しかしパナソニック コネクトでは、どれだけ良い戦略を立てても、カルチャー&マインドが土台になければ歯車がうまく回っていかないと考えます。
「最初は『カルチャー&マインド改革はやっているけど、ビジネス戦略は打っていないよね』と話になるほど、愚直にカルチャー&マインド改革をし続けていました。8年間経ってみると、気づけば本当の意味での戦略を打ち、絵に描いた餅ではなく、実行ができる組織になっているのを肌身で感じます。
創業者の松下幸之助が『自由闊達!下意上達!』と話していましたので、当社は原点回帰していると言えます」(新家氏)
「最初にカルチャー改革をしていなければ、今ここで登壇していないかもしれないです。それぐらい、風土は大事」と笑顔で語ります。
従業員が手を挙げる文化を作るには
フラットで俊敏なカルチャーに変えるため、同社ではフォーマリティの排除に向けて、数多くの施策を実行してきました。東京に本社機能を移す、服装をカジュアルに変える、オフィスはフリーアドレスに、社長室をなくして誰でも社長と話せるようにする、などです。
「2017年から毎年手を緩めることなく、カルチャー改革の施策を連打してきました。カルチャーというのは、少しでも放っておくと元に戻ってしまいます。私たちは、元に戻らないように、施策を連打してきています。
D&I浸透のため、現場に『チャンプ』という役割を置き、現場に最適な仕組みを作っていこうと、考えを巡らせてもらいました。はじめは各事業所の経営企画部長が担うことが多かったのですが、現在は若手の入社2年目の社員が手を挙げて、事業所を代表して社内で発言することもあります」(新家氏)
お話を受けて、株式会社八芳園で取締役総支配人を務める関本氏は「手を挙げる文化」について反応します。
「手を挙げる文化は大事だと感じながらお話を伺っていました。ただ、若手スタッフに手を挙げてチャレンジしてもらいたいと思いながらも、『とは言っても実務上難しいな』となるケースが発生してきます。これはどの業界でも同じだと思いますが、割り切って任せているのでしょうか?」(関本氏)

「手を挙げたときに、今のそのメンバーから3段も4段も上の仕事にチャレンジしたいと言っても、それはなかなかチャレンジさせられないですよね。ただ、ちょっと背伸びをするような仕事であれば、やはりやらせてみることが大事だと思っています。もしその人が失敗しても、周りのメンバーでフォローできる体制を作ることがポイントだと思います」(新家氏)
「反省することが多いですね。我々はカスタマーが目の前にいる状況なので、慎重になったり臆病になったりする部分が多いです。ですが、カスタマーと直接触れ合う部分だけが仕事ではないので、ウエディング業界の中でもチャレンジするシーンはもっと作れるのではないかと思いました。私自身も、手を挙げる文化を醸成していけるようにチャレンジしてみようと思います」(関本氏)
カルチャーの変化に適応していく
カルチャーについて、関本氏はウエディング業界には独特の難しさがあるとの考えを示します。
「ウエディング業界は、カルチャーの塊みたいな業界ですよね。結婚式特有の、歴史的に積み重ねられてきたしきたりが数多く存在します。例えば、結婚するおふたりはトレンドを見ているけれども、親御さんは伝統的なしきたりを重視する。おふたりが『これがいい』と思っていても、親御さんからNGが出るのは、我々が日常的に目にしているシーンです。関わる年代ごとにカルチャーの捉え方が異なり、この相違が難しい業界だと思います」(関本氏)
新家氏は、ウエディング業界が環境変化に適応していくためのヒントを提示します。
「大きく変わってきている周囲の環境に対して、会社としてどれだけ真剣に対応する能力を身につけるか。例えば、親御さんの考え方そのものが、時代に応じて変化していっている部分もあると思います。そういう意識変化に対して適応していけた会社が、最後に勝利できるのではないでしょうか」(新家氏)

関本氏は共感を示し、コロナ禍以降で顕著になってきた意識変化について語ります。
「コロナ禍以降で大きな変化が現れているのは、引き出物ですね。親御様からすると『やっぱり3点ないといけないよ』とか、地域によっては『5点』『7点』といったところもあります。それは、古くからある手土産の文化です。
しかし最近では、『当日ゲストに来ていただいて荷物を増やすのは申し訳ない』と考える方も増えていると感じます。そうした背景があり、カードやカタログギフトも増えています。
どこを残して、どこを変えていくのか。今いろんな角度で価値観が変わってきているなかで、我々は考えていかなければならないと思います」(関本氏)
さまざまな話題で議論が展開され、有意義なセッションとなりました。最後に新家氏がウエディング業界へのエールを送ってくださいました。
「私は何十年も前に結婚しましたが、今日お話を伺って、結婚式の姿は大きく変わっていると思いますし、そこに適応し続けてきているのは素晴らしいと思います。さらに変化に適応し、進化していくポテンシャルを感じました」(新家氏)