タカラトミーの事業戦略に学ぶ、少子化時代のウエディング業界、次の一手【「日本の結婚式を変えよう」カンファレンスレポート】

タカラトミーの事業戦略に学ぶ、少子化時代のウエディング業界、次の一手【「日本の結婚式を変えよう」カンファレンスレポート】

2025年3月6日、ベルサール御成門タワーにて「日本の結婚式を変えよう」カンファレンス(後援:港区)が開催されました。

ウエディング業界では、社会全体や生活者の価値観の変化の対応に遅れ、産業全体の停滞感が課題視されています。それは、ウエディング業界に限らないかもしれません。日本の産業全体に共通して、「透明性」「働き方」「生産性」のような課題の早期解決が求められています。

今回の「日本の結婚式を変えよう」カンファレンスでは、業界の内外で変革を起こしてきた有識者の方をお招きし、社会的視点から業界課題に向き合い、議論をすることで、未来に向けた可能性や解決策を見出していくことを目的とし、開催。

SESSION 1は「少子化時代、ウエディング業界に求められる次の一手─圧倒的顧客視点で切り拓く、新たなビジネスチャネル戦略」です。ウエディング業界と同様に、少子高齢化の影響を受けるタカラトミーの事業戦略を聞き、ウエディング業界の未来を語り合いました。

パネリスト
株式会社タカラトミー 執行役員 デジタルビジネス本部長/黒木 健一 氏
株式会社ポジティブドリームパーソンズ ファウンダー/杉元 崇将 氏
ファシリテーター
株式会社ウエディングパーク メディアソリューション本部 本部長/金 小熙

「おもちゃ」から「アソビ」へ転換し、成長産業と捉える

向かって左から、株式会社ウエディングパーク 金、株式会社タカラトミー 黒木氏、株式会社ポジティブドリームパーソンズ 杉元氏

ウエディング業界とおもちゃ業界の共通の課題は、日本の少子高齢化が進んでいけば、縮小する可能性がある業界ということです。

事業環境が大きく変化していく中で、タカラトミーは、トミカ、プラレール、リカちゃんなどをはじめとする人気のブランド・IPを活かしながら、「おもちゃからアソビへ」と事業領域を拡げることで、事業成長を図ってきました。はじめに黒木氏から、タカラトミーの事業についてプレゼンテーションが行われます。

「創業100周年となった2024年に、新社長のもとでパーパスを『アソビへ懸ける品質は、世界を健やかに、賑やかにできる。』としました。環境をみると縮小産業と思われがちな玩具市場ですが、『アソビは成長産業』だと新社長が言い切っています。そこに私としてもグッときまして、全社員で変革を邁進したくなりました。

おもちゃと言うと、対象としてご想像いただくのは国内のお子様で、それでは少子化に伴い市場は縮小していく傾向にあります。しかしアソビとなると、年齢と地域がぐっと広がり、成長産業と捉えることができます。おもちゃからアソビに切り替えるには、大きくマインドチェンジしなければなりませんでした。アソビ心を持つ全ての人々にどうお伝えしていくかがテーマになっています」(黒木氏)

近年では、キッズ(kid)とアダルト(adult)を組み合わせた「キダルト(Kidults)」という消費キーワードも現れてきています。大人がアソビに対して消費をしているのです。「こうしたトレンドとかみ合わせて、事業を馴染ませていくことが必要だ」と黒木氏は語ります。

具体的な取り組みとして「リカちゃん」が挙げられました。1967年にスタートした着せ替え人形で、主にお子様が遊ぶおもちゃでしたが、近年では大人がリカちゃんのさまざまな写真を撮り、「#リカ活」としてSNSなどにアップするアソビが見られていたそうです。そこでタカラトミーは、2024年に「フォトジェニックリカ」をリリース。幅広い年齢層の人々のアソビに応えます。

「大人のお客様が、もともとリカちゃんを着せ替えしながらいろんなポーズにして、写真を撮ってアップされるというアソビをされていました。おもちゃからアソビへと目線が変わったことで、こうしたニーズにも積極的に応えていけます。

『フォトジェニックリカ』は、ぱっと見は通常のリカちゃんとの違いがわからないかもしれませんが、実は、大きくアソビが異なります。関節を繊細に動かすことができ、感情が伝わるようなポーズで写真を撮れるのです。これが大人のお客様からご好評で、価格は上がるのですが、人気の商品となっています」(黒木氏)

未知の領域へ冒険する

タカラトミーグループでは、企業が大切にする価値観としてValuesを定めています。「世界をのぞこう。」「志考しよう。」「冒険しよう。」「夢にあがこう。」の4つです。

「世界をのぞこう。」は、感性のアンテナを世界へ向ければアソビのヒントはきっと見つかるという思い、「志考しよう。」は、志を持ち、あらゆる角度から自分に問い続けることが大事だという思いが込められています。それらを体現した事例として、現代版のベーゴマ「ベイブレード」が挙げられます。古来のアソビから始まったゴルフが全世界のスポーツとなったように、「ベイブレード」もスポーツになるかもしれません。現在展開している「BEYBLADE X(ベイブレードエックス)シリーズ」は、「GEAR SPORTS(ギアスポーツ)」としてスポーツ化して、多くのお客様を魅了しています。

3つ目の「冒険しよう。」では、「DUEL MASTERS(デュエル・マスターズ)」と「人生ゲーム」の事例が挙げられます。どちらも紙の製品ですが、デジタルゲーム化を実行。これによって直接会わなくても遊ぶことができ、今までリーチしていなかった方々もこれらのブランドに親しんでくれるようになりました。「おもちゃ会社がゲームを作るのは、まさに冒険でした」と黒木氏は話します。結果的に、アナログゲームも成長を遂げています。

4つ目の「夢にあがこう。」は、客観的に検証を重ね、考えをどこまでも掘り下げることで、夢に終わらせない“足掻き”に仲間が集まるという思いを込めています。この事例としては、タカラトミーがJAXA等と共同開発した、超小型の変形型月面ロボット「SORA-Q(ソラキュー)」があります。「SORA-Q」は、月に行きました。100 年受け継いできた“おもちゃ作り”の技術が、日本初の月面着陸ミッションに貢献することにつながりました。『夢にあがこう。』は、4つのなかで個人的に一番好きですね」と黒木氏は言います。

結婚式をプロデュースできる能力を横展開するには

黒木氏のお話に対し、杉元氏も共感を示します。杉元氏がファウンダーの株式会社ポジティブドリームパーソンズでは、「感動で満ちあふれる日本を創ってゆく。」をVISIONに掲げ、さまざまな付加価値づくりにチャレンジしています。

「オーダーメイドのフラワーショップ『サンジョルディフラワーズ ザ・デコレーター』では、花を置かない花屋を展開しています。<「モノ」ではなく、「コト」><「花」ではなく、「花贈り」>を目指し、コンサルティングサービスに特化して、渡し方も含めてプロデュースさせていただくことで、付加価値を高めています」(杉元氏)

同社はほかにも、還暦パーティーやお子様の誕生日パーティーなどもプロデュースしています。結婚式の数は減っていくなかで、付加価値づくりや動機づけが重要だと指摘します。

「結婚式は、人口が増えている時期は、一話完結型のビジネスでした。しかし人口が減っている現在、一話で終わりではなく、生涯にわたって関われる仕組みを作っていきたい。結婚式をプロデュースできる能力をもっと横展開していくと、いろんなイベントでのビジネスチャンスはあると思います。当社はアプリを作り、結婚式以降もシーンごとに専門のプランナーをつけて、感動を提供していきたいと考えています」(杉元氏)

最後にセッションを振り返り、杉元氏はウエディング業界に向けたメッセージを送ります。

「少子化もあり、結婚の数が減っていくのは変わりません。ただ、逆に言えば、見通しが立っているとも言えます。

他業界を見渡せば、デジカメが出てきた翌年から売上のほとんどを失った使い切りカメラ、スマートフォンが出てきて売上を失ったデジカメ……というように、急激な変化にさらされてきた業界もあります。一方で、私たちは『この先10年でこのぐらい減る』と予測を立てられます。だからこそ、手が打てる。

タカラトミー様が、少子化の環境のなかでも事業戦略を変えて成長されているのを参考に、我々も立ち向かっていければと思います」(杉元氏)

ご自身の娘さんが結婚式を控えているという黒木氏は「娘の結婚式がますます楽しみになりました。ありがとうございました」と締めくくりました。

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