フォトウエディングで、地域の魅力に光を当てる。地域の看板商品を生み出したラヴィ・ファクトリーによる「三方よし」の実践【Your SUSTAINABILITY #7】

フォトウエディングで、地域の魅力に光を当てる。地域の看板商品を生み出したラヴィ・ファクトリーによる「三方よし」の実践【Your SUSTAINABILITY #7】

新型コロナウイルスの流行は、当たり前に続いてきた日常に「問い」をもたらしました。例えば、ものを買うとき。購買前にじっくり検討する傾向が強まるなか、消費者に注目されているのが「サステナビリティ」(持続可能性)です。

当メディアを運営するウエディングパークは、「結婚を、もっと幸せにしよう。」を経営理念に掲げてきました。この理念を体現するために、誰もが自分の望む道を選び、幸せを目指せる世界を創っていくことが、私たちの使命です。そして、そのために今選びたい道こそが「サステナビリティ」だと考えました。

ウエディング業界から、未来につなげる幸せの選択肢を増やしたい。そんな思いで、サステナビリティに取り組む業界の方々を取材する連載「Your SUSTAINABILITY 未来につなげる、はじめの一歩」を続けています。一歩目の踏み出し方を、共に学びませんか。

今回取材したのは、株式会社レックが運営するフォトウエディング事業「ラヴィ・ファクトリー」です。ラヴィ・ファクトリーは全国各地でロケーションフォトを展開し、たくさんのカップルを撮影してきました。

地域の資源を活かしたフォトウエディングは、地域で新たな価値を生み出すことができます。例えばラヴィ・ファクトリーが地域と連携してフォトウエディングのプランを新たに立ち上げたところ、全国から200組近いカップルがモニターに応募するほど注目が集まったのです。

地域とフォトウエディングを組み合わせれば、地域の資源を活かして、新たな看板商品をつくれる──。この可能性について、株式会社レック マーケティング&クリエイティブ Div. 部長の勝田誠之さんに伺いました。


■ プロフィール

ラヴィ・ファクトリー
株式会社レックのフォトウエディング事業として、1995年に神戸でスタート。ロケーションフォトをいち早く取り入れて、全国に店舗を展開してきた。現在の拠点は国内外に30を超える。 公式サイト

株式会社レック
冠婚葬祭を手がける会社として、1989年に設立。グローバルに事業を展開するKSGグループに属する。ウエディングフォト事業「ラヴィ・ファクトリー」の他に、低価格で多様な結婚式を提供する「小さな結婚式」などを手がける。 公式サイト

社内ですでに取り組んできたことを「発見」し、言語化する

── ラヴィ・ファクトリーでは、地域のロケーションをどのように増やしてきたのでしょうか?

勝田:ラヴィ・ファクトリーでご提供しているフォトウエディングのロケーションは、国内外で500ほどあります。それぞれの店舗で、ハートのある写真をより多くのお客様に届けるために、ロケ地を開拓してきた結果です。

── では、会社として地域の活性化に注目するようになったのは、どのような理由があったのでしょうか。

勝田:店舗で取り組んできたことを言語化することで、「フォトウエディングによって新たな価値を提供することが、地域の活性化につながっているのではないか」と考えるようになったからです。

例えば美術館でのフォトウエディングの場合、場所を提供してくださった美術館からは「芸術との新たな接点になる」と喜びのお声をいただけました。撮影のためにお支払いしている建物の利用料は、美術館を所有している市にとって新たな収入源にもなっています*1

▲ レトロさと荘厳さを併せ持つ「京都市京セラ美術館」

勝田:ロケーションの提供者だけでなく、地域の方々も喜んでくださっている話が耳に入るようになりました。カップルが衣装で街を歩いていると「おめでとう」「華やかな雰囲気で嬉しいわ」とお声がけいただくことが多く、地域にポジティブな影響を少しずつ届けられている手応えがあります。

── フォトウエディングをしているカップルがいると、地域にお祝いが生まれるんですね。

勝田:さらに経済的な側面で言えば、撮影のためにお客様が地域に足を運び、食事や宿泊をします。つまり、お客様は地域で過ごす時間を楽しみながら、地域の経済に貢献していると言えるのではないでしょうか。

フォトウエディングであれば、地域にすでにある場所が観光資源になるので、自然を破壊したりお金をかけて新たな建物を増やしたりすることはありません。今ある建物を活かすことで、美術館の例のように、新たな使われ方や注目が生まれる可能性もあります。

▲ 廃校になった小学校をロケーションに。普段は町の資料収蔵庫として使用されている

── フォトウエディングをとおして、感情と経済の両側面で、地域にポジティブな影響を広げられるんですね。

勝田:そうなんです。そこで、地域のロケーションを活かしたフォトウエディングによる効果を「三方よし」と定義しました。三方よしとは、売り手と買い手だけでなく、社会にとっても良いビジネスを目指す考え方です。

私たちはフォトウエディングによって、お客様と私たち、そしてロケーションを提供してくださる地域の三者で「三方よし」の関係を実現できるのではないか、と考えています。この状態を言語化したことで、会社として、地域におけるフォトウエディングの可能性を広げていくことが決まりました。

▲ フォトウエディングの効果について、勝田さんが言語化した「三方よし」

地域と連携し、地域の外から人を惹きつけるプランを創出

── 地域におけるフォトウエディングの可能性を広げるために、どのように動き始めたのでしょうか。

勝田:国内最大級のフォトウエディング・前撮りのクチコミ情報サイト「Photorait」を運営されているウエディングパークの皆さんから「熊本県人吉市の観光復興プロジェクトを一緒にやりませんか」と連絡をいただき、まずはこのプロジェクトに取り組むことにしました。

── プロジェクトの内容について教えてください。

勝田:熊本県人吉市は、2020年7月の豪雨災害によって被災しました。地域の復興が試みられるなかで、継続的に地域と関わりを持つ「関係人口」を増やす取り組みとして注目されたのが「フォトウエディング」です。そこで2022年に、看板商品となりうるフォトウエディングのプランを作成することになりました。*2

▲ 株式会社レック マーケティング&クリエイティブ Div. 部長の勝田誠之さん

プロジェクトを担当したウエディングパーク Photorait事業本部 本部長小林より
レックさんをプロジェクトにお誘いした理由は2点あります。
1点目は、Photoraitを立ち上げた当初から、当社の取り組みに共感を寄せていただいていたこと。
2点目は、フォトウエディングから地域の活性化につなげる取り組みをすでに実践されていたこと。
これらを理由に、ぜひ人吉のプロジェクトをご一緒したいと思いました。

── 人吉でのフォトウエディングには、どのような可能性を感じられていたのでしょうか。

勝田:実は人吉に行ったことがなく、どのような可能性があるのかを想像できずにいました。熊本のロケーションといえば阿蘇が有名ですから、関東や関西から行くと阿蘇よりも遠い人吉に、どれだけのお客様が足を運んでくださるのだろうか、と不安もあったんです。

でも初めて人吉に行ってみたら、豊かな自然と文化があり、日本の原風景が残されていると感じましたね。当社のフォトグラファーも「すごく魅力的なロケーションだ」と言っていて、プロの写真を使ってこの魅力を伝えたいと思うようになりました。

── 特にどこに可能性を感じましたか?

勝田:数多くのロケーションをプランに入れられたことです。美しい自然からレトロな建物まで、多様な写真を人吉だけで撮影できる。この点に、特に可能性を感じました。定番のフォトウエディングとはひと味違う写真を撮りたいお客様に、支持していただけるのではないか、と思いましたね。

▲ ロケーションの一つである「人吉機関庫」

勝田:たくさんのロケーションを用意できたのは、地域の方々による全面的なご協力があったからです。市役所の商工観光課が各所と連携してくださり、お着替えの場所として使わせていただく旅館や、建物を撮影させていただいた商店など、多くの方のおかげで充実したプランが実現しました。

── その後、フォトウエディングのモニターを募集したんですよね。どのようなリアクションがありましたか?

勝田:2022年9月にSNSや公式サイトを使用してモニターを募集したところ、200組近いカップルから応募がありました。人吉に魅力があっても、立地を考えると応募数はもっと少ないと思っていたんです。ですからこれだけ多くの方が応募してくださって、しかも九州の外からの応募が3割を占めていたことに驚きを感じるとともに、地域とフォトウエディングを組み合わせる可能性を強く感じました。

▲ 旅館でのモニター撮影の様子

人吉でフォトウエディングをしたモニターの声*3 リゾート地で撮った写真はよく見かけるので、他の人とは違う写真を撮りたいなと思って、人吉のプランに応募しました。いろいろなロケーションで撮れて、全ていい写真になっていて感動です!「こういうロケーションで撮っている写真、あまり見たことない!」と思う場所の撮影、おすすめします!

地域の持つ魅力に、「写真」で新たな角度から光を当てる

── その後モニター撮影を終えて、実際に商品化したのでしょうか?

勝田:はい。モニターにたくさんの応募があったので、人吉でのフォトウエディングを新たなプランとして発売したら、申し込みが集まると考えていたんです。しかし蓋を開けてみると、申し込みが全くなくて……。試行錯誤してもお客様からの反応がない状態が、1年ほど続きました。

── 状況は変化したのでしょうか?

勝田:2024年3月にラヴィ・ファクトリーの九州2号店として、熊本店を出店しました。それまで九州には福岡店があるのみで、人吉のプランも福岡店を中心にご案内していたんです。でも熊本店ができて、熊本で撮影したい方が来てくださるようになりました。

その結果、店舗のメンバーから「以前から人気の高い阿蘇に次いで、人吉にたくさんの申し込みが入っている」と知らせが入ったんです。熊本店が誕生したことで、結果的に人吉のプランを選ぶ方が増えていきました。

── 申し込みがない状態から、店舗で2番目に人気のプランになったんですね。なぜそのような変化が起きたと思いますか?

勝田:一つの理由として、写真の力があると思うんです。人吉のプランでは、自然に囲まれた線路の上で写真を撮れます。初めて人吉を訪れたときにフォトグラファーが「ここで写真を撮りたい」と言って、地域の方々のご協力をいただいて実現したロケーションです。

▲ 「くま川鉄道」の線路の上で撮影

勝田:正直に言うと、私は当初「こんなところで写真を撮るのか……?」と半信半疑でした(笑)。でも今ではこの写真が最も人気で、「ここで撮りたいです」と指名される方が多くいらっしゃいます。一枚の写真だけで、行ったことのない場所に「行ってみたい」と思わせることができる好例です。

── 一枚の写真にそれだけパワーがあるのですね。

勝田:そうですね。これはお客様だけでなく、地域の方々にも言えることだと思います。地域の方々にとって当たり前になっている場所でも、写真を見ることで初めて「こんなにいい景色だったんだ」と気づくことってあるじゃないですか。私はこれが、写真の力だと思っているんです。

地域でフォトウエディングを実施し、写真によって地域が持つ魅力に光を当てたい、と思ってこれまで動いてきました。人吉のプランについてお客様から支持をいただいたことで、私たちがやりたかったことが実現できているんだ、と手応えを感じましたね。

結婚式やフォトウエディングを増やし、喜びの輪を広げる

── 今後はどのような取り組みをしていきたいですか?

勝田:まずは人吉で、フォトウエディングをさらに増やしたいです。歴史ある街並みに、ドレスや和装姿のカップルが歩いている。そんな光景を増やして、地域の方々に見ていただけたら嬉しいなと思います。

▲ モニターからは「人吉の方とたくさんお話できたことが、一番の思い出です!」との声が上がった

勝田:そして今後は、全国で「三方よし」を広げていきたいです。お客様が撮影したいロケーション地でウエディングフォトを撮ることで、地域にも幸せを広げていく。そんな輪を増やすことで、フォトウエディングの可能性をより多くの方に知っていただきたいと考えています。

── 人吉での事例を経て、さらに地域での取り組みに力を入れていきたいんですね。

勝田:地域を活性化するきっかけとして、フォトウエディングはまだまだ認知されていません。でもフォトウエディングこそ、すでに地域にある価値を活かして、地域に人を呼ぶことができる強力なコンテンツだと思います。

式場が減少している今、チャペル等がなく挙式する場所がない地域で撮影できることも、フォトウエディングの意義として大きいと言えるでしょう。私たちは写真を撮ること、そして写真をとおして地域の魅力に光を当てることが強みなので、フォトウエディングに可能性を感じてくださる自治体があれば、積極的にご一緒していきたいです。

── フォトウエディングが実現する「三方よし」は、まさにサステナビリティの実践とも言えそうです。

勝田:全国の魅力ある地域があるから私たちは挙式やフォトウエディングを提供できるので、私たちが儲かるだけではビジネスとして継続できません。そう考えると、私たちができる「サステナビリティ」とは、結婚式やフォトウエディングを増やすことではないでしょうか。それらをもっと増やせたら、「三方よし」の輪を広げていけます。

結婚式やフォトウエディングを増やすために、業界としてもっとできることがあると思うので、業界や地域の方々と一緒に取り組んでいきたいです。

── 結婚式やフォトウエディングそのものが、「三方よし」の原点になりうるのですね。

勝田:そうなんです。結婚式やフォトウエディングをすることは、カップルだけでなく、地域や社会をも幸せにしていると言えます。しかし残念ながら、このことがまだまだ伝わっていません。

私たちの仕事が、お客様だけでなく社会の幸せにもつながっている。このメッセージを業界として発信することで、結婚式やフォトウエディングに協力してくださる方が増えていくでしょう。それが、ウエディング業界で働いている人の誇りにつながり、業界のサステナビリティになるのだと考えています。

*1:京都新聞「京都の近代建築でフォトウエディングが熱い レトロだけじゃない、新郎新婦の心つかむワケは」より

*2:熊本県人吉市のプロジェクトに関わった三者の視点は、「地域との共創プロジェクトを通して語る、これからの結婚写真|「Wedding-UP DAY 2022」session5」に掲載しています。

*3:モニターインタビュー「旅するように巡るフォトウエディング【熊本県人吉市編】vol.1」より

(取材・文:菊池百合子 / 写真:伊藤メイ子 / 企画編集:ウエディングパーク


「Your SUSTAINABILITY企画担当のひとこと」

勝田さんと初めてお会いしたのは、今年3月にウラハラで開催されたWedding Park 2100「まちを、もっと幸せにしよう。」のウラハラチャペル。そこでは、株式会社レック(ラヴィ・ファクトリー)・株式会社デコルテの協力のもと、プロのフォトグラファーによる無料撮影体験が開催されており、カップルや家族連れでとてもにぎわっていました。照れながらも笑顔をカメラに向けるカップル、ふたりをとても愛おしく嬉しそうに眺めながら撮影するフォトグラファー。

「結婚・結婚式でまちをもっと幸せにしていくとは、まさにこういうことなんだ」。

と実感したワンシーンでした。

そんな中、私自身も広報としてWedding Park 2100に携わっていたので勝田さんとご挨拶をさせていただくことに。ラヴィ・ファクトリーがなぜ「Wedding Park 2100」にここまで協力的でいてくださるのか、結婚・結婚式を通じて「まちを、もっと幸せにしよう。」というコンセプトに共感くださるのか。今回の取材でも「結婚式やフォトウエディングをすることは、カップルだけでなく、地域や社会をも幸せにしていると言えます。」とお話しくださり、Wedding Park 2100、そして今回の取材と一貫してラヴィ・ファクトリーそして勝田さんの想いは変わらないのだと想いの強さに感動しました。

いつの時代も世の中を動かすのは熱い想いを持ち、行動し続ける人。勝田さんの挑戦は続きます。

(文:瀬川)

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