
Wedding AI Creators
2025.09.29
生成AIは式場探しの“提案者”ではなく“支援者”。Wedding Parkが「偶発的な出会い」で目指す、四方良しの未来【Wedding AI Creators #2】
世界中で急速に進化するAI技術は、私たちの暮らしや働き方はもちろん、結婚・結婚式というかけがえのない体験にも、新たな可能性をもたらしています。結婚式のパーソナライズ、プランニングの最適化、魅力の伝え方、そして結婚式場とカップルとの新しい出会い方──。今、ウエディング業界はテクノロジーによる革新が求められる新時代へと歩みを進めています。
ウエディングパークは「結婚を、もっと幸せにしよう。」を経営理念に掲げ、「21世紀を代表するブライダル会社を創る」というビジョンのもと、創業から20年以上にわたり、インターネットやデジタル技術を活用した事業で業界変革を牽引してきました。
新連載 「Wedding AI Creators」 は、ウエディングの既存価値を単にAIで置き換えるのではなく、AIの力と人の想い・クリエイティブを融合させることで、ウエディングという体験を再定義し、新しい価値を創り出そうとしている挑戦者たちを紹介していきます。

結婚準備クチコミ情報サイト「Wedding Park」では、現在大規模バージョンアップの開発真っ只中。今回は新機能として第一弾がリリースされた「AIアシスタント」に関して、企画・開発を担当した菅沼幸子さんと、高田涼平さんにインタビューを実施し、どのような過程で機能リリースまで至ったのか、その背景と込められた想いを聞きました。
「AIはユーザー体験を劇的に変える」という確信から始まった企画会議

ーWedding Parkでは、9度目となる大規模バージョンアップの最中だと伺いました。この企画が立ち上がった当時のことを教えてください。
菅沼:このバージョンアッププロジェクトを「ウエクリ11.0(イレブン)」と呼ぶのですが、プロジェクトが本格的に始動したのは約1年前でした。
当初は企画メンバーがすでに企画の大枠は考えてくれていて、「生成AIを活用して新しい価値を提供する」という大きな目標がありました。しかし、具体的な機能については何も決まっておらずでのスタートでした。
ただ、チームには当初から「生成AIの技術は、ユーザーの会場探しの体験を劇的に変えるポテンシャルがある」という共通の確信がありました。その可能性を信じて、まずは世の中のトレンドをインプットしながら、我々がユーザーのために何ができるのかを模索するところから始めました。
ー具体的にどんなことから始めていったのでしょうか。企画のプロセスを教えてください。
高田:大きく4つのステップにわけて企画を進めていきましたね。
①ユーザー課題の洗い出し
まず、ユーザーインタビューを実施し、サイトの利用における課題を深掘りしました。その中で、「複数の会場を比較するためにページを行き来するのが大変」「情報が多すぎて、自分に合うものが分からない」といったインサイトがわかりました。
②ターゲットの明確化と方針決定
続いて、ターゲットの明確化を行いました。開発の早い段階で、今回のAI導入においては「クライアント(結婚式場)向け」ではなく「サイト利用者(ユーザー)向け」の機能開発に集中することを決めました。この考え方は、ユーザー体験を向上させてサイト内での回遊を促すことが、メディアとしての価値を高め、最終的にクライアントにも貢献できるという考えに基づいています。
③アイデアの具体化
洗い出したユーザー課題と、当初から決まっていた「生成AIの活用」を掛け合わせ、合宿などで集中的にアイディアを出し合いました。開発メンバー自身の「電化製品のスペック比較が難しい」といった実体験から着想を得るなど、身近な不便を解決する視点でアイデアを出し合いました。
④データに基づいた仮説検証
そして、仮説検証を行うためにサイトの利用データを分析したところ、「ユーザーは想定しているほどサイト内を回遊していない」ということが明らかになりました。このことから、情報収集の煩わしさがユーザーの離脱に繋がっているという仮説を立て、それを解消するための「アシスタント」という機能コンセプトが固まっていきました。
ーなるほど、そのような背景があったんですね。チームで一番議論したことや、苦労したポイントはどんなところでしたか?
菅沼:AIの「スタンス」をどうするか、という点はチームで最も議論を重ねたポイントです。
具体的なことで言いますと、AIが「あなたへのおすすめはここです」と答えを提示する”提案者”であるべきか、それともユーザーの意思決定を支える”支援者”であるべきか。今回私たちは後者を選びました。
特定の結婚式場をおすすめする形は、情報量が多い会場に結果が偏る可能性があり、メディアとしての公平性を保つのが難しいと判断したからです。あくまで「最後に選ぶのはユーザー自身」という考えを大切に、AIは最適な判断をしてもらうための材料を揃える「アシスタント」の役割に徹するべきだと方針を固めました。

高田:開発で特に苦労したのは、AIアシスタントのひとつである「クチコミ要約」における機能のバランス調整です。現在開発の真っ只中なのですが、ユーザーの役に立つようクチコミで投稿されたネガティブな情報も正直に伝えたい、でも必要以上に過度なネガティブ表現のアウトプットになってしまうことも避けたい…。この絶妙なバランスを実現するAIの言葉選びには本当に頭を悩ませ、チームとして何度も検証を重ねました。
新機能『会場比較』リリース。開発者が語る、新機能のこだわり

ー9/29に第一弾となる「会場比較」がリリースされましたが、この機能でのこだわったポイントは何ですか?
高田:私がこだわったのは、仕様と開発の両面から、ユーザーと結婚式場の偶発的な出会いを「最大化」することです。
仕様面では、単に条件が似た会場を提示するのではなく、「ユーザーの視野を広げるような選択肢の提案」にこだわりました。具体的には、複数の会場を同時に比較できるようにすることで、情報を多角的に届けて選択肢を広げ、結果的には会場とユーザーの新たな出会いを創出できるようになるという考えです。これは、私たちがメディアとして蓄積してきたデータと、日々結婚式場と接している営業担当者の知見を掛け合わせたものです。多角的な情報をお届けすることで、ユーザー自身も気づいていなかった理想の会場との出会いを創出したいと考えています。
開発面では、その価値を確実なものにするため、「スピーディーなプロトタイプ開発」を徹底しました。生成AIは万能な反面、具体的にどんな価値を生み出せるかイメージが湧きにくい課題がありました。そこで、Difyなどのツールで素早く形にし、早い段階から営業や結婚式場の皆様にご確認いただくことで、解像度の高いご意見をいただきながらブラッシュアップを重ねました。
全員でプロダクトへの期待感を高めながら開発を進められたプロセスそのものが、こだわりと言えます。

菅沼:私の視点では、「リリースしてからが本当のスタートである」という点を最も重視しています。
カップルの皆様がどんな観点で結婚式場を選ぶか、という価値観は、トレンドや時代によって常に変化し続けるものだと思います。そのため、最初から完璧な機能を追求するのではなく、まずはスピーディーにリリースし、実際のユーザーの反応を見ながら機能を育てていくことが何よりも大切だと考えています。
今回の会場比較機能も、まずは第一弾としてリリースをし、実際にカップルに使っていただき反響を見ながら、柔軟に追加・カスタマイズしていく予定です。プロダクトを固定的に考えるのではなく、ユーザーの皆様と一緒に、常により良いものへと変化させていきたいですね。
結婚式場探しを“心ときめく体験”へ。バージョンアップが描く「四方良し」の未来
ー今回の機能アップデートで叶えたい未来図があれば教えてください
菅沼:私たちが目指しているのは、「結婚式場探しが、もっと自由で、心ときめく体験になる未来」です。
情報収集のわずらわしさを解消することで、ユーザーがこれまで出会えなかったかもしれない会場とめぐり会う機会を最大化したいと思っています。ユーザーの皆様が、楽しみながらサイトを回遊し、心から納得のいく選択をできるようになることが、私たちの何よりの願いです。
高田:ユーザーの満足度が高まれば、『Wedding Park』というメディアの価値も向上します。そしてその価値は、最終的にクライアントである結婚式場の皆様への貢献にも繋がっていきます。ユーザー、結婚式場、そしてメディア(私たち)、その先の社会。関わる全員にとって良い循環が生まれる「四方良し」の状態を、今回のアップデートを機にさらに加速させていきたいですね。

※取材対象者の所属、役職および掲載記事の内容は取材当時のものです
写真:伊藤メイ子
取材ライティング/企画編集:ウエディングパーク