結婚式・結婚式場
2020.07.29
各社の取り組みを共有し、業界全体で感染拡大を防ぎたい。業界の専門紙「ブライダル産業新聞」が担う役割とは?【#ミライケッコンシキ Vol.7】
新型コロナウイルス感染拡大により、世の中が大きく変わりつつあります。個人の価値観が変化し、それに伴ってさまざまなサービスがアップデートされるなか、これからウエディング業界にも変化が生まれていくことは想像に難くありません。
では、未来の結婚式はどうなっていくのでしょうか。シリーズ「#ミライケッコンシキ」では、「ミライの結婚式のために、イマ私たちができること」をテーマに、ウエディング業界に携わる方々にオンラインで取材しています。ミライの結婚式、一緒に考えてみませんか?
今回取り上げるのは、ウエディング業界のビジネス専門紙として網羅的に情報発信してきた「ブライダル産業新聞」です。
新型コロナウイルス感染症の影響が見られ始めた3月以降、「ウエディング業界から感染者を出さないように」との思いで、普段よりもさらにスピーディーな情報発信に注力しています。
このブライダル産業新聞で5年間デスクを続けてきた権藤咲さんに、状況が変わり続ける緊急事態宣言の前後でどのように情報を発信してきたのか、お話をうかがいました。
(※ このインタビューは、2020年6月16日にオンラインにて実施しています)
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■ プロフィール
ブライダル産業新聞
1987年に創刊された、ブライダル業界のビジネス専門紙。株式会社ブライダル産業新聞社が発行している。結婚式場やその関連会社を常に取材し、結婚式に関係する情報を網羅的に掲載してきた。
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オンラインツールの導入が、業務効率化のきっかけに
── 「ブライダル産業新聞」とは、どのような媒体なのでしょうか。
今年で創刊から33年を迎える、ブライダル業界向けの情報新聞です。月に3回、毎号12,000部発行しています。結婚式場やレストランの他に、関連会社や業界を志す専門学校生など、さまざまな方にご愛読いただいてきました。
ブライダル産業新聞の特徴は、経営に関わる情報から音楽著作権に関する課題まで、多種多様な情報を取り上げていること、できるだけ取材をベースに記事を書いていることです。プレスリリースのリライトにならないよう、取材で聞けた現場の声を大切にしています。
── 取材の多いお仕事だと思うのですが、緊急事態宣言の前後で働き方は変わりましたか?
緊急事態宣言中は他社にうかがえないので、取材はオンラインツールや電話に切り替えました。それに伴って当社でも在宅ワークを増やし、緊急事態宣言の期間が終わった後も、電話対応ができるように社員の半分ずつ出勤する体制です(取材時点)。
── オンライン取材を導入する上で、苦戦したことはありましたか?
私自身インターネットに詳しくないので、初めてZoomを使うときはハードルが高いと感じました。でも回を重ねればすぐに慣れましたし、取材を受けてくださる方々もオンラインツールにどんどん慣れてきていらっしゃるように感じます。
当社も含めて業界全体がオンラインツールを導入せざるを得なくなったことで、業務効率化をどう図れるのか、自分たちの仕事を見直すきっかけになっていると思います。
どこよりもいち早く、有益な情報をお届けする
── 新型コロナウイルス感染症の影響が生じてきた春から、常に状況が変化して報道する難しさもあったかと思います。媒体として意識していたことはありますか?
重視しているのは、情報を出すまでのスピードです。2月3月と今とでは、正しいとされる情報が違いますよね。私たちは毎号を一週間で制作している「新聞」なので、フレッシュな情報をお届けできることが強みであり、役割だと考えています。
刻一刻と状況が変化していることを痛感したので、3月からはいつも以上にアンテナを高め、新しい動きがあればすぐにお電話して取材していました。新聞が発行されるのを待つだけでなく、Facebookでは、毎日最新情報をお届けしています。
(ブライダル産業新聞 Facebookページより)
── ブライダル産業新聞は3月には新型コロナウイルスに関する緊急特集を一面で取り上げていて、媒体の使命感が伝わってきました。
緊急事態宣言が発令されて、式場は一気に苦しい状況に追い込まれました。挙式がストップするので、売り上げが落ち込むのも当然です。この現実を受け入れた上で、式場でもう一度お客様をお迎えするためにどのような対策をできるのか、状況に合わせた判断が求められています。
しかしウエディング業界では、新型コロナウイルスの感染拡大に対して他社がどのような対策をしているのか、情報に触れる機会のない方が多くいらっしゃいました。これでは業界としての対応が遅くなってしまいますから、有益な情報をお届けできるように動いています。
── 発行体制を変更したタイミングはあったのでしょうか。
5月はゴールデンウィークと緊急事態宣言によって取材をスムーズに進められない可能性が高かったので、毎月3回の発行部数を1回に絞りました。これまでは毎号16ページだったので、情報量が変わらないように5月は合併号として48ページに変更したんです。
その5月号で特集を組んだ、大手式場のトップへのインタビューは特に印象に残っています。5月の時点でどう動いているのか、今後どのように動いていくのか、数社の社長にうかがいました。
この頃にはほとんどの式が延期になっていたのですが、「何百万の買い物をします」と待ってくださるお客様との約束を守るために、自分たちが何をすべきなのかを一つひとつ考えていらっしゃる姿が印象的で。リーダーとして前に進んでいく意識を強く感じましたね。
今こそ問われている「結婚式を挙げる意味」
── 5年間デスクを続けてこられた権藤さんから見て、今回の新型コロナウイルスがウエディング業界にどのような影響を及ぼしていると考えていらっしゃいますか?
一気にオンライン化が進んだからこそ、式場がお客様に本当に伝えたいことは何なのかを明確にする必要があると考えています。
たとえば緊急事態宣言の発令によって、挙式を検討している新郎新婦のご見学対応をオンライン化する式場が一気に増えました。ただし現実として、これまでは会場に行ってプランナーに案内され、試食していた見学の全てをオンラインで実現できるわけではありません。
会場での見学と同じように何時間も拘束されたら、画面越しでは疲れてしまいます。オンラインだと情報をお届けできる手段が限られるので、式場のメッセージが定まっていなければ、お客様の心に何も響かないですよね。
限られた時間とツールを通じてお客様に伝えたいことは何なのか、Webを見れば取得できる情報もご案内するのか、今こそもう一度見つめ直すべきだと思います。オンライン化によって自分たちが伝えたいメッセージを届けられているのかどうか、確認する必要があるはずです。
── 結婚式そのものについても、一部の式場では「オンライン結婚式」がスタートしましたね。
そうですね、今後も時代に合わせた新しい方法が登場してくるでしょう。さまざまなニーズと事情がありますから、新しい仕組みを使って早く挙式したいと考える方がいる一方で、実際に顔を合わせる結婚式の良さに気づいた方もいらっしゃるはずです。
人が集まりにくくなった今、それでも結婚式を挙げる意味はどこにあるのか。それぞれの式場があらためて結婚式の本質と向き合えなければ、業界の未来が先細りしてしまうように思います。
── 権藤さんご自身は、式場がどのような点に注力したほうが良いと考えていらっしゃいますか?
個人的には、挙式に注目しています。「新しい生活様式」に合わせてカラオケの演出やお酌を控えると、披露宴をコンパクトにせざるを得ない可能性がある。それなら、一生に一度の誓いの場である挙式にもっとフォーカスを合わせられないかな、と考えています。
あるとき友人の結婚式に出席したら、挙式が20分で終わったんです。一生の誓いを参列者に見せる意味の重みに対して、「あれ、もう終わり?」と少し物足りないように感じました。
そのとき人前式で「水合わせの儀」をしていたのですが、友人に後から聞いたら「水合わせの儀の意味を分かっていなかった」と言っていて。たとえば儀式の意味について事前に少し説明を聞いているだけで、新郎新婦がどれだけ「結婚式を挙げてよかった」と思えるかが変わってくると思うんです。
ですから式場がオンライン化と業務効率化を進めた今こそ、余裕が出た時間を活用して挙式にもっと注力する余地があるのではないか、と考えています。
業界全体のために、メディアとして担っていく役割
── 新型コロナウイルス感染症の感染状況が日々変わっていくなかで、ブライダル産業新聞として今後どのような役割を担っていきたいですか?
もしも一つの式場から集団感染が確認されたら、すぐさま影響が業界全体に波及しかねない今、結婚式において重要なのは感染者を出さないという取り組みと、仮に出てしまったとしてもその後の早急な対応を取ることだと考えています。
お客様からの信頼を獲得するために何ができるのか、安心・安全をどう提供していくのか。感染の発生を防ぐためには、「A社がこういう対策をした結果、お客様が安心して来館している」といった他社の取り組みを知っておく必要があります。
6月からは各社が考えてきた次の一手が動き始め、余ったドリンクを幼稚園に提供したり新たなフォトプランを発表したりと、ようやく明るいニュースも増えてきました。私たちのようなメディアが少しでも業界の力になれる情報発信を心がけ、会社の枠組みを越えた連携を促進していきたいと考えています。
(取材・文:菊池百合子 / 写真:伊藤メイ子 / 企画編集:ウエディングパーク)