カップルとの情報格差を無くし「四方良し」を叶えるための“透明化”とは|Wedding-UP DAY 2025【九州・沖縄編】

カップルとの情報格差を無くし「四方良し」を叶えるための“透明化”とは|Wedding-UP DAY 2025【九州・沖縄編】

2025年1〜2月に全国5エリアを対象にオンラインで開催した「Wedding-UP DAY 2025」。時代と共に移りゆくカップルのニーズとウエディングの本質的価値を捉え、社会が必要としているウエディングのあり方を式場各社と共創していきたいという思いのもとに開催されました。

第1部ではマーケティングトレンド勉強会を、第2部では各地の式場各社と共に特別クロストークセッションを実施し、業界全体が社会視点で課題を捉え、カップルだけでなく働き手も幸せになる「四方良し」の未来を考え、共に語り合いました。

今回は、1月30日に開催された九州・沖縄編の第2部で株式会社テイクアンドギヴ・ニーズ 運営総括本部 営業統括部 グループマネージャーの尋木渉氏を迎えた、特別クロストークセッションの模様をお届けします。

■登壇者プロフィール
スピーカー:
株式会社テイクアンドギヴ・ニーズ 運営総括本部 営業統括部グループマネージャー 尋木渉氏
株式会社ウエディングパーク 松尾 美緒

ファシリテーター:
株式会社ウエディングパーク 金 小熙

カップルと事業者との情報格差の是正へ、キーワードは“透明化”

現在の結婚式について、尋木氏は「結婚式のスタイルは大きく多様化し、コロナ禍以降、挙式をしない選択をするカップルも増えている」と指摘します。その背景には、Z世代特有の価値観の変化や、結婚式にかける費用の優先順位の変動に加え、結婚式自体に馴染みのない人が増えていることも要因として挙げられました。

「結婚式は本来ポジティブなイベントであるにも関わらず、ネット上ではネガティブな意見が目立つのが現状です。『ブライダルフェアでの営業がすごかった』とか『当日契約を迫られた』だとか、『数百万円単位でお金が必要なものなのに不透明で怖い』だとか。そんな評価があることは事実として、受け止めないといけません。結婚式をする意味や価値を今、事業者側が伝えることができていないのは、課題だと思います」(尋木氏)。

カップルと事業者側の間に情報の格差があるという声に対して、尋木氏は特に「結婚式の費用に関する情報格差は大きな課題」と語ります。

「ブライダルフェアで見積りをお渡ししてから、当日までに想像以上に金額が上がったと驚かれたり、クレームにつながったりすることもあります。初期見積りから最終見積りにかけて金額が上がることに対して、事業者側が慣れてしまっている。そんな習慣みたいなものが、業界全体にあるのも事実です」(尋木氏)。

テイクアンドギヴ・ニーズ社では段階ごとにユーザーにアンケートを実施しているそうですが、「成約直後や最終的な結婚式当日の満足度は高くても、打ち合わせ段階ではスコアが下がることもある」と言います。

「やりたいことが増えれば予算は当然ふくらんでいくので不安感がスコアに現れていると感じますし、結婚式は楽しみな気持ちがある一方で、予算へのネガティブな感情も混在する。これがスタッフとカップルのギャップだと思います」と尋木氏は分析します。

「今まで私たちがやってきたことを否定するつもりは全くありませんが、業界の未来を考えたときに、もっと顧客ファースト、事業者目線ではなくお客様の視点に立っていかないといけない」と考えを述べます。

見積から透明性を上げていくことが求められている

こういったカップルと事業者側の間の情報格差などの是正に向けて、ウエディングパークでは費用のリアルなシミュレーションができる新サービス「mieruupark」をリリースしました。

結婚式費用の超リアルなシミュレーションができるサービス「mieruupark(ミエルーパーク)」

ウエディングパークの松尾は「結婚式のクチコミをみているなかで、もともと費用の透明化に課題感がありました。お客様と事業者の情報格差が費用のギャップや想定外につながっているのではと考えました」とリリースの背景を語ります。

「サービス開発時にとったアンケートで印象的だったのは、お客様の不安が『友人から見積より費用があがると聞いた』『ネットのまとめ記事を見た』といった漠然としたものだったこと。一方で、お客様がフェア参加の順番などすごく戦略的に練っているなど、知識が深い面もあることに驚きました」と松尾は述懐します。

一方、式場スタッフからは「金額はお客様によって、どれだけ何を選ぶかによって変わるので『人によって違います』としか答えられないという意見があった」ことを示したうえで、「衣装や料理のランクによって金額は大きくあがるという、現場にとっては当たり前のことでも、カップルが知らないことは意外とたくさんある」とし、「カップルは情報がないわけではなく、知っているものと求めている内容がまだバラバラなんです」と情報格差の現状を語ります。

それに対して、尋木氏は「それは現場あるある」としたうえで、「ブライダルフェアに来館いただいた数時間ではどうしても全部の演出や装飾などを紹介しきれないのは事実。打ち合わせが始まってからお客様に合わせた提案や案内はある」と現場の実態を語ります。そのうえで「『金額が上がります』という言い方が正しいのか、それとも『お客様のやりたいことがシンプルに増えていく』と伝えるべきなのか。そこはとらえ方しだい」と言います。

結婚式の費用の透明性は急務といえる課題のひとつですが、「業界にどんな変化が必要か」という問いに対して「透明性を含めて見積からもう一段階、あげることができたらいい」と尋木氏は答えます。「どんなビジネスでも当然ですが、売り手側は高く売りたいし買い手側は安く買いたい。たとえば競合会場の見積持参で割引交渉をされて、割引合戦になってしまう“言ったもん勝ち”のような経験も正直あります。業界としてはそれによる値崩れが起きているのも課題」と言います。

また、式場が販売しているのは日程で、持っているハコをどう稼働させるかというビジネスであり、「その空き枠のコントロールも必要」と尋木氏は主張します。「『大安の枠は100名様で売りたい』『この枠は10名様で売りたい』などの判断は事業者目線なら当たり前。でも、ユーザーの希望人数によっては、たとえ枠が空いていても『ご案内ができない』と伝えないといけない部分ももしかしたらでてくるかもしれない。この部分は、顧客目線ではグレーにみえているようにも思う」と指摘します。

一方で、ホテルや航空業界など他業界では価格の変動が明確に示されていることを例に挙げ、「業界全体で売っている日程をもっとオープンにして、大安のこの日はいくら、仏滅のこの日はいくら、と“定価”を示して顧客が選択するための見える化ができていれば、透明性は上がってくるのではないか」と尋木氏は提案します。

「もっと細かい視点だと、来館特典や当日特典などの訴求も同じ。やや不透明だと思うし、世間がイメージするものと現場でやっていることにズレがあるときもある。このあたりは1社だけでしても意味ないことだと思っているので、将来的には業界全体で変えていく必要があるかもしれません」(尋木氏)

「見える化」は事業者にも業界にもメリットがある

こういった状況において、ウエディング業界は今後どのような課題や変化に向き合うべきなのでしょうか。その問いに対して、松尾は「透明性はテーマになる」と断言。「ウエディングだけでなくどの業界でもキーワードとして挙げられており、特に若い世代へのインタビューでは、『企業の考え方やスタンスに共感をして商品を選ぶ』という志向をよく聞くようになった」と社会の変化にも触れます。

そのなかで、ウエディングの透明性とは何かというと、「金額もそうだし、選択肢、イメージと、働くひとたちへの透明性もある」と松尾。「昨今は共働きが大半で、式場に来館する人も忙しくて、時間短縮の要望も増えたと聞きます。フェアに足を運ばないとわからないことと、行かなくても把握し理解できる情報はもっとあると思いますし、社会のニーズも強くなっていると感じます」と言います。

一方で「働く側、特にプランナーにとっても透明化はメリットがあると思う」と尋木氏も指摘。「顧客ファーストになることによって、グレーな運用がなくなり、企業としても信頼が上がる。何よりもスタッフが誇りをもってお客様に向き合えることが大事だと感じます」と言います。

実際に、テイクアンドギヴ・ニーズ社で「mieruupark」を導入した後の現場からの声を挙げ、「お金よりも会場やサービスの魅力を今まで以上に訴求できるようになった」と尋木氏は語ります。その理由について「自社ではなく第三者の運営だからこそ説得力が増し、お客様の納得感にもつながっているのでしょう」と語りました。

さらに未来の話として、尋木氏は「離職率の低下にもつながったらいい」と期待します。

「ウエディング業界に入社してもギャップを感じて退職してしまう人もいますが、透明化することによって、仕事に自信を持てて、長い間働いてくれる未来につながったらいいですね」と尋木氏は期待を込めます。

ただ、費用などを事前にカップルに提示することは、現場からのメリットがある一方で、「怖さもあった」と尋木氏は吐露します。「mieruupark」を導入して金額を先に開示することによって、来館前キャンセルのリスクなどを想定していたものの、実際に運用してみたところ「来館率や成約率に大きな変化はない」と言います。エリアや店舗によって若干波はありますが、逆に来館率や売り上げが上がった例もあるそうです。

「ほかの会場が費用の開示を忌避するところを、逆にうちの式場がオープンにして、ユーザーの信頼を勝ち取る。一見マイナスになりそうなところをいかにポジティブに変換してお客様に伝えていくか」と尋木氏は語ります。

同じウエディング事業者に向けて「結婚式に対するネガティブな体験や意見は、今後もSNSを含めてどんどん蓄積されていきます。そういった影響を受けて結婚式離れが進む背景には、事業者側の責任もあると思います」と尋木氏は言及します。

そのうえで、「今私たちはどう見られているのか、しっかりと業界全体で向かい合っていかないといけません。時代の変化にあわせて透明性を今以上にあげていくことが、成長の第一歩になるのではないか。業界全体でそんな取り組みができたら、未来のお客様に結婚式の良さや価値、魅力を最大化させることができるんじゃないかと思います」と、業界へのメッセージを伝え、セッションを締めくくりました。

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