文化をつなぐために、今すべきこと。サステナブルに特化したブランドを、ワールドサービスが立ち上げた理由【Your SUSTAINABILITY #6】

文化をつなぐために、今すべきこと。サステナブルに特化したブランドを、ワールドサービスが立ち上げた理由【Your SUSTAINABILITY #6】

新型コロナウイルスの流行は、当たり前に続いてきた日常に「問い」をもたらしました。例えば、ものを買うとき。購買前にじっくり検討する傾向が強まるなか、消費者に注目されているのが「サステナビリティ」(持続可能性)です。

当メディアを運営するウエディングパークは、「結婚を、もっと幸せにしよう。」を経営理念に掲げてきました。この理念を体現するために、誰もが自分の望む道を選び、幸せを目指せる世界を創っていくことが、私たちの使命です。そして、そのために今選びたい道こそが「サステナビリティ」だと考えました。

ウエディング業界から、未来につなげる幸せの選択肢を増やしたい。そんな思いで、サステナビリティに取り組む業界の方々を取材する連載「Your SUSTAINABILITY 未来につなげる、はじめの一歩」を続けています。一歩目の踏み出し方を、共に学びませんか。

今回取材したのは、株式会社ワールドサービスです。

ホテルや結婚式場でカラーのテーブルクロスを自由に選べる仕組みが整っていなかった時代に、カラーテーブルクロスのレンタルサービス「partycloth(パーティークロス)」を立ち上げて、レンタルサービスを広げてきました。

最近では新たな取組として、テーブルクロスのオリジナルブランド「eterble(エターブル)」をリリース。使用できなくなったテーブルクロスをリサイクルの糸、生地として生まれ変わらせて、新たなテーブルクロスを生み出しています。

これらのサービスに通底するミッションは、「未来から祝福される記念日」をつくること。サステナビリティに取り組む理由を、取締役社長の茶谷圭祐さんと、eterbleクリエイティブ・ディレクターの葉山泰子さんに伺いました。


■ プロフィール
株式会社ワールドサービス
結婚式といえば白いテーブルクロスが主流だった1993年に、カラーテーブルクロスのレンタルサービス「partycloth」を立ち上げ、現在では全国1000か所以上ののホテル・結婚式場にサービスを提供している。クロス以外にも各種レンタルサービスや、結婚式場・レストランなどの施設運営などを手がける。公式サイト

eterble
ワールドサービスが2022年にリリースした、テーブルウェアのオリジナルブランド。国内外でウエディングの企画・コーディネートを手がけてきた葉山泰子さんがクリエイティブディレクターを務め、テーブルウェアを通じて人々のライフスタイルを豊かにすることを目指す。 公式サイト

まだ使えるクロスやナプキンが、なぜ大量に捨てられるのか

── ワールドサービスはWebサイトにESGの項目を設置し、サステナビリティにつながる活動に意欲的に取り組んでいらっしゃいます。茶谷さんがサステナブルな活動に興味を持った原体験を教えてください。

取締役社長 茶谷:私がワールドサービスに入社したときに感じた疑問が、ずっと頭に残っているように思います。前職では金融業の営業をしていたので、ワールドサービスで初めて「ものを捨てる」場面に立ち合うことになりました。

入社してから、ある倉庫に足を運んだんです。そしたらテーブルクロスが床から天井まで山積みで、ナプキンも袋に入ってパンパンになっていて。「これはどうするんですか?」と聞いたら、「全て廃棄する商品です」と言われました。でも試しにナプキンを1枚取ってみたら、なぜ捨てなければいけないのか、わからなかったんです。

── それらはなぜ廃棄されるのでしょう?

茶谷:レンタル商品なので、何回か使用しているうちに、ナプキンの形が歪んだり、色味が変わったりするからです。テーブルクロスやナプキンは繊維なので、数回クリーニングを重ねるだけで縮んできてしまうんですね。もしくは、洗濯を重ねるうちに色味が薄くなってしまいます。

ナプキンを毎回洗ってアイロンをかけて、非常に手間がかかるわりに数回で使えなくなってしまうことが多いので、いっそ安いナプキンを仕入れて使い捨てにしよう、と考えた時期もあったようです。

── 日常生活では問題なく使える状態でも、結婚式場にレンタルする商品としては、廃棄するしかなくなってしまうんですね。

茶谷:1枚なら製品として成立しても、10枚並んだときに本来の目的が達成できない以上、廃棄するしかありません。それでも、まだ使えそうに見えるナプキンが大量に捨てられようとしている。これはどうにかできないのかな、と思うようになりました。

ワールドサービスWebサイトのESGページ

目の前から消えただけでは、結果に対して責任を取れない

── 違和感を持たれて、どのようなアクションを起こしたのでしょうか?

茶谷:まずは、まだ使えるクロスを廃棄せずにリユースできないかと考えました。でも、素人が思いつくアイデアはすでに実践しているんですよね。婚礼が難しいなら宴会で使うようにしたり、ダスターとして使ってもらったり。それでも処理しきれない量だから捨てられているのだ、と現実を知りました。

── それだけ廃棄量が多いのですね。

茶谷:年間でおよそ20トンの廃棄ですからね。リユースでは限界があり、次はリサイクルを検討しました。当社のクロスはポリエステル製なので、ポリエステルを買い取って素材としてリサイクルしている業者さんにお願いしてみたんです。

ただ、複数の課題がありました。まず、当社から廃棄する量が多いので、1社では全て買い取れません。それに当時は業者さんの数が非常に少なくて、当社がある大阪に関東から毎回来ていただく必要があり、燃料を使います。結局のところ廃棄がゼロになるわけでもなく、課題は残っている状態でした。

── 一部のクロスでリサイクルを実現できても、課題はあったと。

茶谷:何より、リサイクルした結果がどうなっているかが分からないと感じました。「よかった、捨てずに済んだ」とは思いますが、それって当社の中から消えているだけなんですよね。再生業者さんにお願いした後を実際に見ていないので、本当に環境にとって良いことになっているのか、結果に責任を持てません。

リユースは難しく、業者さんにリサイクルをお願いする形では限界がある、との結論に至るまでに5年ほどかかっています。結局、当時は打つ手が見つけられずにいました。

▲ ワールドサービス 取締役社長の茶谷圭祐さん

新ブランドに「ポリエステルの再生」を取り入れた理由

── 2022年に、テーブルクロスのブランド「eterble」を発表されています。立ち上げの背景を教えてください。

茶谷:これまでのお話とは違う背景が、eterble立ち上げのきっかけになっています。弊社はテーブルクロスのレンタルサービスを事業の一つとしておりますが、テーブルクロスの文化が日本から消えてしまうのではないか、という危機感を常に持っています。

日本では人口が減少して、結婚式を挙げる人の数も減っていますよね。このままではテーブルクロスを使う機会が少なくなり、テーブルクロスの文化が消えてしまうのではないか、と考えました。そこで、文化を未来につないでいくために、家庭向けのテーブルクロスブランドを立ち上げようと動き始めたんです。

eterbleのテーブルウェア

── テーブルクロスの文化そのものをサステナブルなものにしよう、と動き出したんですね。

茶谷:廃棄クロスを買い取っていただくリサイクルに課題を感じていたこともつながり、ブランドを設計する過程で、材料もサステナブルなものを選べないか、と考えるようになりました。

そこで、環境への負荷が小さい商品をつくりたいとパートナーに相談して、綿や麻などのさまざまな案を持ってきていただいたんです。そのなかで、ポリエステル100%のクロスをリサイクルして糸に戻す案があって。「これだ!」とすぐにテストしてみることにしました。

── 他にも候補があったなかで、ポリエステルの再生に決められたのはなぜですか?

茶谷:ブランドを生み出す上で、ワールドサービスが提供できる価値は何なのかをあらためて考えたんです。私たちの原点にあったのが、「ポリエステル」でした。

ポリエステルは石油を原料にしているので、環境負荷について議論があることは承知しています。それでもテーブルクロスとして使う場合、綿や麻ではシワになるので、時間や手間がかかって他の資源が失われてしまう面もあるんです。

ですから当社は、ポリエステル100%のクロスを提供することにこだわってきました。このワールドサービスらしさを強みにできる案だったので、新しいブランドにぴったりだと思いましたね。

新しい素材を使わない、完全な循環サイクルの実現へ

── ポリエステルの再生は、どのようなステップで進むのでしょうか。

クリエイティブディレクター 葉山:レンタルで使用できなくなったテーブルクロスを色ごとに分類して裁断し、新しい糸として生まれ変わらせます。その糸を使って、生地を織り、縫製し新たなテーブルクロスをつくる仕組みです。

テストを重ねてこの循環サイクルの実現が見えたときに、eterbleをサステナブルに振り切ったブランドにすることを決めました。サステナブルに特化することは製造の制約を自分たちで作ることになり、又、マーケットのシェアが狭くなるので、大きな決断でしたね。

▲ eterble クリエイティブディレクターの葉山泰子さん

── まだ方向性を絞っていなかったeterbleを、「サステナブルブランドにする」と決めたんですね。

葉山:この決定にあたってもう一つ、「クロスを廃棄しない」ことも茶谷社長に決めていただきました。それまでは、使えなくなったクロスが焼却炉に持って行かれていましたが、それらをもう廃棄しないことにしたんです。

── なぜその決断をされたのでしょうか?

茶谷:eterbleが思い描く理想は、新しい材料を一切使わずに、使えなくなったものを材料にして新しい製品に仕上げる、循環サイクルの実現なんです。

その未来をイメージしたら、クロスを捨てるほうがもったいないですよね。だって材料になるんですから。循環サイクルを実現できた未来を想像したときに、今取るべき行動は「捨てない」一択だと考えました。

▲ リサイクル糸で織られた布。ワールドサービスで廃棄するクロスの多くがポリエステル100%であったことと、色ごとに分類して保管されていたことで、リサイクルのスピーディーな実現につながった

── eterbleは2022年10月にリリースされています。どのような商品を展開されているのでしょうか。

葉山:ホテル・式場向けには、レンタルサービスのラインナップにサステナブルな商品を追加しました。例えば今後、企業がサステナビリティをテーマにしたパーティーを開くときに、テーブルクロスにもサステナブルな選択肢が必要になると考えたからです。

toC向けには、日本であまり馴染みのないテーブルウェアを、家庭にも取り入れやすいようにご提案する商品を展開してきました。

── ブランドを発表して、どのような手応えを感じていますか?

葉山:少しずつお問い合わせが増えており、商品のラインナップの選択肢を増やせていると感じています。先日、百貨店でポップアップに参加したところ、大きな反響がありました。食卓のシーンに馴染むような色や柄を展開しているので、ご自宅用のテーブルウェアだけでなく、ギフトにも選ばれています。

▲ eterbleの商品は、和にも洋にも合うようにデザインされている

いつ振り返っても、心から「よかった」と思える記念日を

── 今後ワールドサービスは、どのような未来を実現していきたいですか?

茶谷:当社が掲げている指針は、「未来から祝福される記念日をつくる」です。当社の事業は全て「記念日」に関わるものですから、どのような記念日を創造したいかを考えたときに、この言葉にたどりつきました。

── 「未来から祝福される」とは、どういう意味を込められているのでしょうか。

茶谷:まずは、後から思い返したときに「楽しかった」と思えることが欠かせません。いくらサステナビリティを大切にしていても、穴の空いているテーブルクロスは、楽しい思い出にふさわしくないでしょう。お客様の記憶に美しく楽しく残るものであることが、記念日の第一条件だと考えています。

その上で、未来のどの時点で思い返しても、「あの記念日、すごくよかったな」と思える上質さが重要ではないでしょうか。例えば過去の映像で、食べ物をたくさん残して捨てているシーンがあるとします。映像に写っている人は楽しそうに食事をしていて、食品廃棄のことを誰も気にしていないかもしれない。でも今という未来からその映像を見たときに、楽しさが伝わってくるより前に「見ていられないな」と感じてしまいます。

── 何度も思い出したくなる記念日のはずが、その記念日に対して後悔が残ったり後から恥ずかしく思ったりして、次の世代に誇れるものではなくなってしまうんですね。

茶谷:そうなんです。記念日は、きっと人生を終える間際にも思い出せるものですよね。そんな特別な存在である記念日を、未来から批判されるものにすべきではありません。

誰もに人生を彩る記念日の記憶がたくさんあり、その一つひとつが「楽しかった!」と振り返れるものであってほしい。それが「未来から祝福される記念日を増やす」ことであり、そのために「私たちが提供しているテーブルクロスが、未来から見たときに特別なものなのか」という問いに向き合い続けていきます。

── 記念日の一部である「結婚式」にも同じ発想が必要だと感じました。

茶谷:業界として、結婚式という文化のサステナビリティを考えるべきタイミングが来ているように思います。そうでないと、「資源を大量に使って、食べ物を廃棄しているけれど、結婚式って必要なの?」と言われる未来ですら、あり得るかもしれません。

どのような結婚式を、お客様にお届けしたいのか。この1点に集中して、何を選択するべきなのかを考える。業界全体でそうやって取り組めたら、結婚式の文化は必ず続いていくんだと思います。だって結婚式って、素晴らしい記念日ですから。

▲ ワールドサービスの「W」のポーズで

(取材・文:菊池百合子 / 写真:伊藤メイ子 / 企画編集:ウエディングパーク


「Your SUSTAINABILITY企画担当のひとこと」

「ワールドサービスがテーブルクロスのサステナビリティに本気!これは素晴らしい!」。尊敬するクリエイティブのお仕事をされている方とお話したときに、聞いたこの一言が今回の取材のきっかけでした。偶然にもその後、茶谷社長とお話する機会に恵まれることに。

お話の中で、ワールドサービスがサステナビリティを本質的に捉えながらも、実行することを当たり前と捉え、事業の延長線上にサステナビリティをおき、スピード感をもって決断していることに心動かされました。

今回の取材では、茶谷社長、そしてeterble クリエイティブディレクターの葉山さんに、ワールドサービスが取り組むサステナビリティの原点、そして目指す未来を伺うことでより一層立体的に、ワールドサービスのサステナビリティを皆さんにお伝えすることができたのでは、と思っています。

記念日は、きっと人生を終える間際にも思い出せるもの。だからこそ、未来からみたときに、特別なものかどうか。に徹底的に拘る。

この茶谷社長の言葉にすべてが詰まっているのではないでしょうか。

従来の当たり前を疑い、どうしてこうなっているのか、の本質に向き合い、それは、未来からみたときに、正しい選択なのかを常に問い続けているワールドサービス。キレイごとだけでは、何も進まない。けれど、理想的な未来を描きながら、情熱をもって取り組む姿は、きっと多くの人の心を動かし、大きく未来を変える力になると感じた取材でした。

「eterble」ですが、世界で最も影響力のある建築デザイン雑誌Dezeenが主催するアワード「dezeen award」サステナブル部門でのノミネートが決定したとのこと。今後も「eterble」から目が離せませんね。

(文:瀬川)

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