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「こうあるべき」を持たずにフェアでありたい。多様性×漫画メディア パレットーク編集長・AYAさんが考える「パートナーシップ」とは

多様性についてさまざまな角度から発信している漫画メディア「パレットーク」。2018年5月に「Palette」としてスタートし、現在ではTwitterでのインプレッションは1000万を記録することも。

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ウエディングパーク「#ふたりのカタチ」by パレットーク(全編はこちら

編集長を務めるのは、AYAさん。性自認(Gender Identity)は女性で、生物学的性に関係なくパートナーをもつことができるAYAさんは、恋愛感情を持たないパートナーとお付き合いされています(2019年9月現在)。「パレットーク」の発信においてもパートナーシップにおいても、AYAさんが大切にしているのは「当たり前」をつくらないことだと言います。

セクシュアルマイノリティだけでなく多くの人に「パレットーク」の発信が支持される理由は、AYAさんの体験にもとづく「こうあるべき」からの解放にありました。

※ 「LGBTQ+」とは、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーに「クエスチョニング」「クィア」の頭文字「Q」を加えたもの。LGBT以外にも多様な性のあり方が存在することから、あらゆるセクシュアルマイノリティも含めたこの言葉が使われている。

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▼プロフィール
AYA
多様性×漫画メディア「パレットーク」編集長。1992年生まれ。新卒でIT企業に入社し、ゲーム事業部に所属。その後転職を経て2018年5月に「Palette」を立ち上げ、2019年9月にフォロワー3万人を記念して「パレットーク」としてリニューアル。株式会社アラン・プロダクツで「人の性のあり方・多様性への考え方を変える」事業部の事業責任者を務めた後、株式会社TIEWA代表取締役CEOに。
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どうして「自分らしく」が通用しないんだろう

── AYAさんはいつから性別に関係なくパートナーシップを築くことができると思ったのでしょうか。

小学校から高校まで女子校に通っていて、女子校にいる間は自分のセクシュアリティやジェンダーを定義する必要がなかったんです。「女だからこうしなきゃ」じゃなくて、「得意な人がやればいいんじゃない?」って。

私は『ドラゴンボール』と運動が大好きでしたし、お相手が生物学上どんな性なのか関係なく、素敵だなと思った方とお付き合いしたいという気持ちを、小さい頃から持っていましたね。「人」として見ていただけ。だから自分の「性」について悩みを持つことは少なかったです。

── その後、ご自分の「性」について悩んだ時期はありましたか。

共学の大学に入ってから、初めて自分の性を見つめなくてはいけない状況に置かれたように思います。大学一年生の女性は「一女(いちじょ)」としてもてはやされるとか、女の子にランキングがつけられているだとか。「あれ、女性は消費物なのかな」「男性をサポートする存在なの?」って違和感を覚えて。そのとき初めて強く、女性ともお付き合いする自分のセクシュアリティを隠さなければいけないのかもしれない、と思ったんです。

今までは自分らしく過ごしていただけなのに、「男性」「女性」に振り分けられる世界ではその生き方が通用しないんだと気づかされて。「女」でいなきゃいけないこの世界には、どうやら「権利」がないのかもしれない。「女性としての優劣」を他人に判断されることが苦しかったので、性別や年次に関わらず、手を挙げた人が活躍しやすい企業を見つけて就職しました。

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「こうあるべき」に悩んできた全ての人が当事者

── それから今のお仕事に変えられた背景には、ご自身の意識の変化があったのでしょうか。

そうですね。忙しく働いていたら、幸運なことに「男性」「女性」のレッテル貼りや優劣をつけてくる人がまわりから次第にいなくなってきて、私も自分のセクシュアリティやジェンダーを認めた上でどう生きていこうか、と考えるようになりました。その頃LGBTの就労支援をしている会社を立ち上げた友人の紹介で、この仕事に飛び込むことにしたんです。

── 複数ある事業の中で、「パレットーク」はどのような意図を持って活動されているんでしょうか。

「パレットーク」(元「Palette」)は「ゲイやレズビアンに会ったこともない」と思っている人たちに向けて、「あなたの隣にいるかもしれないよ」「他人事じゃなくてあなたにも関係するよ」と話しかけたくて始めました。性のあり方ってグラデーションであってマジョリティもマイノリティもないと思っているので、「自分と性のあり方なんて関係ないと思っている人」を巻き込むために情報発信しています。

── 2018年にスタートした「パレットーク」のTwitter、今では3万人のフォロワーがいらして、それだけ支持されているんだなと思いました。

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Palette基礎知識①〜『性のグラデーションって?』〜(全編はこちら

すべての発信において言いたいことは、「人を人として見ようね」ということ。私は女子校で育ちましたが、共学の小学校で先生が男の子に生徒会長をやるように声をかける話を聞きました。そういう教育で育つと、リーダーは男の子が担うものだとか、女の子が手を挙げると出しゃばりって思われそうだとか、もやっとした「普通」があるような気がしてしまう。フォロワーさんを見ていると、「普通」「こうあるべき」に多くの人が悩んできたことを実感しますし、誰もが当事者なんですよね。

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「当たり前」をつくらないパートナーシップ

── AYAさんの日常のどんなところに「普通」「こうあるべき」に関する気づきがありますか?

気づかされる場面がたくさんあるのですが、特にパートナーにたくさんのことを教えてもらっています。パートナーは生物学的女性なのですが、その人は「こっちを見てほしい」「独占したい」というような「恋愛感情」を持たないんです。そういう人がいることは知っていましたが、いざ関わってみると驚くことがたくさんあって。

「きっと『女の子』はこういうふうにしたら喜ぶんじゃないか」「こう言ったら頼ってくれるはずだ」と思っていたことが覆されましたね。その人は恋愛感情を持たないから、そういう「恋愛マニュアル通り」なことをされても「なにそれ?」という感じ。

そのときに、自分の中にこんなにも「当たり前」が存在していたんだなって気づかされました。「人と人が向き合うって、そういうことじゃない」と教えてくれたのは、パートナーでしたね。

── 「当たり前」をつくらないために実践されていることはあるでしょうか。

月に一度の「更新日」を設けることですね。「付き合っているイコールこうしなきゃいけない」「付き合っていたら絶対裏切らないだろう」なんて「当たり前」は存在しなくて、付き合っているから明日も隣にいるとは限らないことがお互いの前提です。その上で、現時点では来月一ヶ月はあなたと一緒にいる人生を選択したいかどうかを考えましょう、と自分の気持ちと向き合うための日を「更新日」と呼んでいます。

相手にとっては交際や恋愛がよくわからないので、パートナーシップにおけるお互いの「当たり前」をいったん均して、齟齬が出たり疑問が生まれたりしたときに引き返せるように導入しました。毎月おいしいものを食べながら「来月も延長でOK?」「いいっすか?」って話しています。

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── 「更新日」の考え方を聞いたことがなかったです。

交際って多くの時間を共有することなので、向かっている方角が違うと一緒にいられなくなると思います。これって仕事でも同じで、ビジョンが合わなくなると心をすり減らし、結果的に退職することになる。

目指したい方向が変わる可能性はいくらでもあるので、一番怖いのは「同じつもり」で走り続けること。ちょっと違うかも、って思った頃にはもう修復不可能かもしれないけれど、月に一度すり合わせをしておけば、歩幅を合わせられる可能性が高まるじゃないですか。

私たち二人はチームなので、お互いにヒアリングしてしなやかに方向性を変えていきますし、目指したい方向が大きく変わったらきちんと応援しあいたい。「更新日」ってドライに聞こえるかもしれませんが、関係を破綻させないための裏技だと思っています。

── 「当たり前」をつくらないこと以外に、大切にされていることはありますか?

「フェア」であることですね。感覚的な負担分が同じであること。何が負担になるかは人それぞれ違うと思うんです。料理が得意で全く負担に感じないけれど、後片付けが若干苦手な人もいれば、逆の人もいる。そのとき仕事で疲れきっているかどうかでも変わりますよね。

感覚的な部分は話さなければわからないので、お互いに自分の弱みを話すようにしています。「こう思われていないと嫌われる」と思ったまま言いたいことを言えないでいると、心理的安全性が担保されない。パートナーとの関係でも会社においても同じことで、これが苦手、これは負担に感じる、と腹を割って伝え合えたほうが、自分の強みや得意なことをより輝かせることができると思うんです。

パートナーシップにおいても結婚の形においても、私にとって理想の関係は心理的安全性の面でフェアであること。ただそもそも私たちは結婚を選べないので、「結婚とは?」と聞かれたら、選択肢にあればいいなと思うもの、憧れるもの、予想もつかないものだと答えますね。

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手を取り合うことから、未来が変わっていく

── AYAさんは「パレットーク」においてもパートナーシップにおいても、「仲間づくり」を大切にされているように感じます。

「パレットーク」のチームにおいても私とパートナーとの関係においても、セクシュアリティや得意分野がバラバラ。その人がどんな属性であろうが、どんなバックグラウンドを持っていようが、全然違う人どうしが同じテーマで「いいよね」って語り合えて、仲間として一緒に働ける。「二人で一緒にいたい」と同じ未来を目指せる。そこにすごく幸せを感じます。

重要なのはそういう「連帯」だと思うんです。自分だけが手を挙げる、自分だけが理不尽に対抗するのは心もとないけれど、エンパワーメントしあえる仲間がいたら悩んだときに話せるし、「これって社会が変わっていかなければいけない問題だよね」ってアクションに移せる。私の場合、支え合える関係を職場でもパートナーとも築けたから、発信に力を入れられるんだと思います。

「私だけじゃなかった」「私が悪いわけじゃない」「これはもっと良くできるかもしれない」──そうやって連帯できる場所に行ったりつくったりすることで、心をポキっと折らずに済む瞬間があるはずです。一人ずつ手を取り合って「連帯」を表明していくこと。そのアクションが、いつか誰もがのびのびと自分の好きな相手と一緒に過ごせて、誰もが結婚を選択肢の一つとして選べる世の中につながっていくと信じています。

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(取材・文:菊池百合子 / 写真:伊藤メイ子 / 企画編集:ウエディングパーク


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