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「幸せ」になれるの?結婚を科学的に考える。

「“幸せな結婚”に憧れる」。今も昔もそう口にする女性は少なくありません。しかし「楽しいことばかりではない」「結婚したからこその苦労もある」という既婚者の声があるのも事実。離婚率の増加、夫婦別姓、シニア婚……、結婚の形が多様化する現代において、どうすれば“幸せな結婚”が手に入るのか、そして結婚が男女にもたらすものとは。予防医学・行動科学研究者の石川善樹さんに、科学の見地から考える「結婚の幸せ」について伺いました。


■脳は結婚を「恐怖」と考えている

ーー「結婚と幸せ」についてはさまざまなメディアでも話題が取り上げられ、特に女性の中では「結婚は幸せになるためにするもの」というイメージがあるようにも感じられます。そもそも「結婚」と「幸せ」とは深い関係があるのでしょうか?

未婚・既婚の違いや子どもの有無が幸せに影響を及ぼすかどうか、という研究があるのですが、結論から言うと「結婚」や「子どもの有無」は人の幸福度にはあまり関係がないかもしれない、と言われています。
違うのは幸福度ではなく充実度で、あとから人生を振り返ったときに「結婚している」「子どもがいる」人のほうが人生に意味を感じられる傾向が高い、とは言えます。

幸福の“振り幅”という観点で見ると、独身よりも既婚者や子どもがいる人の方が幸福度のアップダウンが激しいんです。結婚式に向けて幸福度が急上昇し、結婚後はガクッと下がる。妊娠中と出産後にも同じ傾向が見られます。

ーー結婚すると幸福度のアップダウンが生まれるのはなぜなのでしょう。

人間の脳にとって「変化」というのは、たとえポジティブな変化だとしても、基本的に「恐怖」の対象なんです。
他人と初めて暮らし、初めて子どもを育てる「結婚」という経験は変化の連続ですし、抱いていた期待を裏切られることだってある。だからストレスが生まれるのは当然なんです。
また、人間の脳はハッピーな状態でないと先のことを考えられない、という特徴もあります。結婚により生活が変わって毎日変化にさらされると、目の前のことを処理するのに集中する。そうすると、どうしてもネガティブな感情に陥りやすくなるんです。

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■しゃべる女と黙る男。そのメカニズムとは?

ーーなるほど。結婚という生活の変化を、脳は「恐怖」と判断し、ネガティブ感情が生まれやすくなる。つまり恋人時代よりも結婚後のほうが、男女がぶつかるきっかけが生まれやすい、とも考えられますね。

変化というストレスにさらされたとき、男女は異なるストレス反応を示します。男性の行動原理はシンプルで、「戦うか、逃げるか」しかないんです。この違いが顕著に表れるのが男女のケンカで、女性は相手に共感して欲しいのに、男性は問題解決という戦いをするか、あるいは黙って逃げてしまうケースが多い。
結婚して一緒に暮らし始めると女はしゃべりたくなり、男は黙りたくなるのは、双方にストレスの影響があり、その対処法のすれ違いがあるからなんです。

ーー「結婚してから夫が前より話をしてくれなくなった」「私に興味がなくなったのかも」という女性の声はよく聞かれます。それも変化によるストレスの影響ということですか?

男性は恋愛が始まったころのほうがよくしゃべる傾向があり、それは「俺の方を振り向け」という一種の「攻撃」なんです。

それを女性は「彼がたくさんしゃべってくれた」という良いイメージで受け取るから、ストレスが減り口数が少なくなる。それを見た男性は「聞いてくれてる」と理解する。お互いに幻想を抱くんですよね。
でも結婚がスタートしてストレスがかかりだすと、女の口数が増えて男が黙りだす(笑)。すべてストレス状況下における男女の振る舞いの違いによるものです。

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男性は「戦うか、逃げるか」しかない、と言いましたが、現代社会において「戦う」とは問題解決を指すんです。仕事の現場ではそれでよいですが、女性との会話において問題解決をしようとすると、彼女たちは会話でつながりを作りたいだけなので怒られる。つまり、戦う武器を奪われた状態になるので、黙ってしまうんです。

もうひとつ、男性は無言のコミュニケーションを重んじる傾向があるんですね。よく男同士なにも話さず黙々と酒を飲んでいるような場面がありますが、彼らはそういう何かの作業を共にすることでつながりを深めてゆく。
女性は言葉を通じてコミュニケーションをするので、共通のグチや悩みが話せる人とつながっていく傾向があります。結婚する前はお互い未婚同士で境遇も似ていますし、結婚式に向かって式場をどうしようとか抱えている悩みも共通しているし、共同作業もある。コミュニケーションの手段が違っても接点が多いのですが、結婚後はそれがなくなりますからね。

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昔は結婚して子どもを持って、郊外に庭付きの一軒家を建てる……のようなロールモデルがありました。男性はローンを背負い、女性は今より子どもの数も多かったですし、日々のことをこなしているだけで時間も過ぎていったんです。
でも今は、ローンを背負うリスクに多くの人が気づいてきていますし、寿命が伸びたことで夫と妻の時間軸にズレが起こっています。男性の定年は60~65歳であるのに対し、女性が子育てを終えるのは50代半ば。男性が「これから妻孝行を」と思う頃、10年早く子育てを終えた妻はすでに友人を増やし、自分の世界を構築している。

日本は明治以降、一夫一婦制を選んで「生涯ひとりの人と添い遂げるべき」という価値観を育んできましたが、「幸せな結婚」を考えるなら、もしかしたら生涯2~3回結婚した方がよい、ということになるかもしれません。結婚そのものが多様化の時代を迎えている、と言ってもよいのではないでしょうか。

■「結婚=ふたりで作り上げていく」という考えから、一旦離れてみる

ーーお話を伺っていると「幸せな結婚」というのが、とても難しいものであるように思えてきました。結婚して幸せになるというのは幻想なのでしょうか。

幸せな結婚が幻想とは思いませんが、「自分にとって何が幸せな状態なのか」という点を考えることなく、結婚に逃げ込んで幸せになるのは無理がありますね。
先にお話しした男女の違いを理解するのも大切な一方で、「だから言ってもしょうがない」と見放す気持ちでいては当然幸せにはなれません。また、事前に「本当に幸せになれるのか」と考えすぎると結婚なんてできません。未知の領域に踏み出すにはある種の勢いも必要ですから。

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“Wish for the best.Plan for the worst”という言葉がありますが、まさにその通りで、結婚生活に夢は持ちつつ、計画は悲観的にしておくべき、というのが僕の考え方です。


というのも、シャワーを浴びようとして水しか出なければ、そのとき初めてお湯が出るありがたみや幸せを感じますよね。それと同じでウィッシュだけを持って結婚に臨むと、理想と現実のギャップが辛くなる。あらかじめ「旦那が仕事で忙しくて全然家にいない。でもそういう時における私の幸せってなんだろう」と考えておく。
最悪を想定しておけば、「旦那がちゃんと電話に出てくれるなんてありがたい」とか日常生活のさまざまなことがプラスに感じられるんです。

ーー「幸せな結婚」という想像のどこかに「相手に幸せにしてもらいたい」と、未来を委ねてしまっている面があるのも問題なのかもしれませんね。

一人ひとり性格は違うので一概には言えませんが、僕自身は「あの人がこうしてくれたら嬉しい」とか、自分の感情という大切なものを他人の行動に委ねることは不自由であると考えています。

というのも、他人を意のままにコントロールすることは永遠にできませんから、相手に期待をすればするほど、自分自身の感情に振り回されるし、相手の反応に一喜一憂して過ごすことになる。そういう日常は苦しいのではないかなと。

ーー「結婚=ふたりで作り上げていく」という思いが裏目に出ている可能性も考えられますか。

ふたりでどう幸せになるか、と考える前に「自分はどうなれば嬉しいか、幸せなのか」ということを自分自身が分かっているかですよね。「相手がこうだったら私は幸せなのに」と考えるのは自由ですが、最終的に幸せかどうかは自分自身が決めることです。

他人を理想に合わせて意のままに動かすことを考えるより、結婚生活とはある種の異常事態なんだ、男女にとってストレスなんだなと理解して、大変な毎日のなかにあるありがたみを見つける。その方が結果的に「幸せ」になりやすい、と言えるのではないでしょうか。

(文・木内アキ、企画編集協力・FIREBUG)



《プロフィール》
石川善樹(いしかわ・よしき)

予防医学研究者・医学博士。1981年、広島県生まれ。東京大学医学部を経て、米国ハーバード大学公衆衛生大学院修了。専門分野は、予防医学、行動科学、計算創造学など。ビジネスパーソンへの講演や、雑誌、テレビへの出演も多数NHK「NewsWEB」第3期ネットナビゲーター。著書に『最後のダイエット』『友だちの数で寿命はきまる』(共にマガジンハウス)、『疲れない脳をつくる生活習慣』『仕事はうかつに始めるな』(共にプレジデント社)などがある。

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